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【あまりに大きな波】J2 第21節 栃木SC vs FC町田ゼルビア

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節は勝ち点で並ぶ徳島と対戦し、0-1で敗れた栃木。ボールを握って押し込む機会を多く作ったものの、前半に喫した1失点が重くのしかかった。天皇杯を含むアウェイ3連戦を終え、ホーム2連戦の初戦に臨む。

 前節からのスタメンの変更は5人。最終ラインには古巣対戦となる大谷が2試合ぶりにメンバー入り。左WBを主戦場とする福森は今季初めて右サイドでの起用となり、その位置には吉田が入った。最前線の宮崎とともに今季2回目の先発となる。前節先発の大森は今季初めてメンバーを外れた。

 

FC町田ゼルビア [4-4-2] 1位

 青森山田高校を日本有数の名門校に押し上げた黒田剛監督のもと、大型補強も功を奏し、ここまでは首位を独走している町田。前節は上位の長崎を4-1で破り、圧倒的な強さを見せつけた。今季3度目の3連勝をかけて、鬼門の栃木戦に挑む。

 前節からのスタメンの変更は1人。オーストラリア代表帰りのミッチェルデュークがベンチスタートとなり、代わって世代別代表の活動から2日前に戻ってきた藤尾がエリキとともに最前線に入った。ベンチには昨季まで栃木に所属したグティエレスが控える。

 

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盤面の優位を生かしてやり切る

 試合前のインタビューでは立ち上がりの重要性を話していた時崎監督。現状チームは後半の戦い方や交代選手の生かし方に課題を抱えており、90分全体で優位に戦うというよりは、あくまで試合の入りに最大出力を発揮し、その後は守り切ることを念頭に置いたゲームプランだっただろう。立ち上がりから相手を上回るには球際勝負の強度が不可欠であり、この日の先発からはそこを重視する意図が窺えた。

 この日の町田はデュークがベンチスタートとなったが、攻撃手段はいつもと変わらず。シンプルに最前線に長いボールを入れていき、同サイドに人数をかけて押し込んでいく。ハイプレスから主導権を握りたい栃木に対してWB背後にボールを落としていくことで、サイド深い位置での球際勝負が序盤から多く繰り広げられていった。

 頻発するセカンドボール争いには栃木も粘り強く対応。WB背後を突かれても左右CBが素早くスライドすることで攻撃を遅らせ、プレスバックしたWBやボランチと挟み込んで回収することができていた。サイドに流れるエリキの対応には手を焼いたが、CB中央の平松がリーダーシップを取って最終ラインを高く保つことで、それほど押し込まれることはなかった。

 ボールを失ってから素早くサイドに閉じ込めてくる町田のカウンタープレスへの回避も上々。逆サイドのシャドーが相手ボランチ脇に顔を出してボールを引き出し、そこから大外のWBへ広げていく。矢野は体の強さを生かし、山田は巧みに受けることで、町田のプレッシングの出口になっていた。

 このシーンもそうだが、町田にとってボランチ脇に顔を出すシャドーはシステム的に捕まえづらい存在である。このほかにも[3-4-2-1]と[4-4-2]の対戦ではピッチの至るところにミスマッチが発生する。最終ラインやサイドで優位を取れる栃木は、空いた選手を見つけながら有効にサイドを振り分けられていたため、盤面どおりに町田を押し込むことができた。

 これが功を奏したのが先制点のシーンである。ボランチを経由する繋ぎや左右CBの持ち運びから安定してボールを握ると、最終ラインの平松から右幅を取る福森へロングパス。サイドから町田を押し込むと、CB福島の攻撃参加によって一瞬の余裕ができた福森がカットインから左足クロスを供給。最後はペナルティエリア内の宮崎が町田のCB2枚に挟まれながらも頭一つ競り勝ち、ゴールにねじ込むことに成功した。

 

 先制してからもコンパクトな守備とアラートな背後のケアで町田の攻撃を未然に防いでいく栃木。ボールホルダーにはプレスをかけ続け、回収したボールをサイドに逃がしながらミスマッチを利用して押し込むことで、前半のほとんどの時間を栃木ペースで進めることができた。

 同じく主導権を握りながらもどこか停滞感を拭えなかったのが前節徳島戦だったが、この日はそれとは正反対。一つ一つの攻撃を最後までやり切るシーンが多かったため攻撃のテンポが良く、また変な失い方をしてカウンターを招くシーンもほとんどなかった。

 とりわけ良かったのがサイド攻略である。WBが町田のSHの斜め後ろに立ち位置を取ることでボールを引き出し、そこからあまり手数をかけずに早めにクロスを送り込むことが多かった。得点シーンの福森も相手を抜き去る前のアーリークロスでだった。最前線にはより強さを発揮できる宮崎と矢野が構えていたことも大きかった。

 WB背後を突かれたときはヒヤッとするシーンもあったが、最後の局面で身体を張ることでシュートまでは打たせず。町田の攻撃をシュート1本に抑える理想的な戦いを見せた栃木が1点をリードしてハーフタイムを迎えた。

 

 

失点の遠因は押し上げの減少

 後半開始とともに町田はデュークと平河を投入。ハーフタイムのアップが別メニューだったことから、黒田監督は前半のうちに交代カードを切る決心をしていたのだろう。

 攻撃の主軸2人が入った町田は前半とは違った攻撃を見せていく。前半は片方のサイドに選手を集めての同サイド突破がメインだったが、後半はピッチをより幅広く使う攻撃にシフト。右サイドに張った平河が吉田との1vs1から積極的に仕掛けることで、スローインも含めてセットプレーを量産していく。

 その平河と並んで栃木が手を焼いたのがボランチの高江のポジショニング。前半は下田と横並びの関係性だった高江だが、後半は右サイドに張った平河と中央のデュークとの間に立つことで、ハーフスペースから右サイド攻撃に+αをもたらしていた。栃木はここに左CB大谷が寄せるのかボランチの佐藤祥が寄せるのかはっきりせず、後半はこのサイドから攻め込まれることとなった。

 

 それでも町田のロングスローやCKに集中した守備で凌いでいくと、宮崎に代えて根本を投入することで流れを盛り返していく。

 根本は背後へのランニングを繰り返し行うことで町田の最終ラインを押し下げると、町田のクリアが不十分になったところをボランチ勢が回収。縦の意識を高めたことでセカンドボールへの出足も早くなり、町田のファールによって得たセットプレーからチャンスを作っていく。福森のバーを叩いた直接FKや、右からのFKに大谷がわずかに届かなかったシーンなど、次の得点のチャンスはホームチームにも漂っていた。

 そして、70分に差しかかるタイミングで左サイドに大島と森を投入。苦戦していた平河のサイドを補填することで、逃げ切りも視野に入れ始めた矢先だった。77分、押し込まれた展開から最後はエリキの個人技でゴールを破られた。

 

 映像を振り返って気になったのが、少し前の74分の非保持のシーンである。それまでも栃木は左サイドを何度か破られかけていたが、この場面では上手くサイドにフタをして、町田の保持を最終ラインまで押し返す。そのままバックパスに合わせて寄せていくことで一気に形成をひっくり返すのが狙いとする守備なのだが、このとき肝心となる最前線の根本はプレス連動できなかった。

 もちろん根本だけにその責任を押し付けることはできない。町田は下田が1アンカー気味にプレーしており、栃木のボランチは距離が遠くなったことであまりプレッシャーをかけられないでいた。よって、根本は後ろに重心のかかった守備を余儀なくされ、その結果町田の最終ラインをフリーにさせてしまった。

 失点シーンに繋がる展開を招いたのも、町田の最終ラインをあまりに自由にさせてしまったから。ロングボールのセカンドボールを拾われた瞬間にボールホルダーの翁長に対して一目散にプレスをかけるべきだった。フリーの翁長にそこから長いボールを入れられるとデュークに起点を作られ、ロングスローから押し込まれる展開に。そのまま重心を上げられずに失点を喫した。

 時間の経過とともにオープンな展開となっていった終盤戦。こうなると試合を優勢に進めるのは個のクオリティに秀でるアウェイチームである。ハーフライン付近で得たFKも問答無用にペナルティエリア内に送り込んでくることで逆転弾を狙ってくるが、栃木もエリア内での守備は堅調。最終ラインの押し上げやクリアボールに出ていく枚数は消極的だったが、何とか最後まで耐え切った。

 試合はこのまま1-1で終了。互いに勝ち点を1ずつ分け合うこととなった。

 

 

最後に

 前半の戦いは堂々たるものだった。町田の攻撃をほとんど危なげなく抑え、攻守において今季でも指折りのパフォーマンスだったと言ってもいいだろう。宮崎にも待望の得点が生まれ、町田とのこれまでの相性も踏まえれば、首位撃破の期待も高まる内容だった。

 しかし、フタを開けてみれば、またしても終盤に失点を許し、勝ち点3をスルりとこぼしてしまった。というよりは、どちらかといえば何とか勝ち点1を死守したとさえ言えるだろう。町田の攻撃に感じる圧力は確かに強かったと思うが、終盤の消極性には前半の姿を見る影もなかった。ある意味前半戦を象徴する内容と結果だった。

 前後半で見せる顔がこれほどまでに違うのは何が原因なのかは分からない。首位相手に勝ち点1を獲得したといえば聞こえはいいが、試合運びの観点では課題は山積みである。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 FC町田ゼルビア

得点 27分 宮崎鴻(栃木)

   78分 エリキ(町田)

主審 山下良美

観客 4737人

会場 カンセキスタジアムとちぎ