栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【貴重な実戦経験の場なだけに】YBCルヴァンカップ 栃木SC vs いわてグルージャ盛岡

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] J2 17位

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 勝利した直近のリーグ戦からは平松を除く10人を変更。最終ラインの朴、中盤の青島、揚石、右ワイドの川名はプロ初出場となり、その他の選手も軒並み今季初出場となった。ベンチには栃木のアカデミー出身で立正大学在学中の吉野が名を連ねた。

 

▼いわてグルージャ盛岡 [3-4-2-1] J3 11位

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 開幕からの2試合はともに1-1のドロー。アウェイ連戦をひとまず無敗で乗り切り、リーグ戦を前にホーム開幕戦を迎える。先発メンバーは概ねリーグ戦に出場している選手が中心。栃木県真岡市出身の中三川監督のもと、上位カテゴリーへのジャイアントキリングを狙う。

 

 

マッチレビュー

■異なる保持のスタンス

 Jリーグ全60クラブが参加する大会として大きくリニューアルしたルヴァンカップ。カテゴリーが異なるチームどうしの対戦カードが多く組まれるなか、栃木はJ3岩手のホームに乗り込むこととなった。

 互いに繋ぎには拘らないチームどうしとあって立ち上がりはロングボールの応酬。素早く敵陣にボールを入れてリスクをかけずに選手を送り込んでいく。栃木は宮崎、岩手はオタボーが受け手となり、さらに彼らを追い越す選手につけることで縦に速い攻撃を生み出していく。立ち上がりのリスク回避の時間を終えてからも互いにロングボールには重きを置いていた。

 10分を過ぎて試合が落ち着くとボールを握ったのは岩手。西を中心にボールサイドに人数を集めることでコントロールしていく。これに対して栃木はなかなか守備がハマらなかった。とりわけ苦戦したのが西が最終ラインに下りたとき。栃木は2トップが縦関係になり、IHが相手の左右CBに寄せる仕組みだったが、岩手の立ち位置がズレたことで特に青島周辺は数的不利を強いられた。

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 これに対して栃木が全体を右にスライドすれば、今度は西や新里を経由して右CB大和から運ばれる。栃木は西を基準とする可変に対してマークが定まらず、中盤の脇から簡単に前進を許してしまった。

 もちろんこうした岩手の保持が全て成功した訳ではなく、栃木がカウンターに繋げたシーンはあった。27分、青島が鋭い出足で最終ラインの横パスをカットすると、自ら持ち込んで右足を強振。GKに阻まれたが、両チーム通じて最初の決定機となった。その他にもハイプレスから蹴らせて回収する場面は少なくなかったが、ただ、マイボールにしてからの最初のパス精度の低さは気になった。

 栃木の保持に目を向けると、開幕の岡山戦同様に3-4-2-1の相手に対して課題の残るビルドアップだった。おそらく狙いは相手のWBを引き出して、その背後=3CB脇にIHやFWが流れて起点を作ること。自分たちが主体的に動くことで相手を動かす狙いだが、相手のプレスを引き出すことが前段にあるため、受けたプレスにより精度を確保できない場面が多々あった。

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 WBの配球に対してボールサイドに人数をかけて前に持ち出せればチャンスになるのは間違いない。ただ、長いボールもそうだが、全てがそうした五分五分を制することを前提とした攻撃となると、常に球際勝負に身を投じなければならず、チームとしてボールを握る小休止の時間を作ることができない。土肥や揚石にはこうした場面でワンクッションになることを求めたいが、球際勝負が連発する展開をコントロールする難易度は高かった。

 それでも上記した青島の抜け出しや30分の朴→宮崎の対角フィードで全体の矢印が前を向いてからは、それなりに敵陣で過ごせるように。敵陣で良い立ち位置を取れれば2トップ2IHによる中央攻撃も効いてくるし、時間ができるサイドからは川名や森の突破も見られるようになる。ハーフタイムを迎えるまでは、栃木の生命線である際の強度や反応の部分で徐々に盛り返した展開となった。

 

■強度が物足りず押し切られる

 後半も基本的には前半と同じような展開。栃木は長いボールを宮崎に当てて、その落としを受けた選手が前を向いてボールを進めていく。おそらく前線の距離感はハーフタイムに修正を施しただろう。入れ替わるように落としを受けた揚石が左サイドからクロスを上げたり、こぼれ球に反応した南野が決定的なシュートを放つなど、前半よりも成功率は高かった。

 対する岩手もオタボーが前線で時間を作り、追い越した小松からチャンスを作っていく。このとき中央で待ち受けるのは逆サイドから入ってくる安達と宮市。オタボーが前線を離れてもゴール前の枚数は確保されており、特に長身で得点感覚のある宮市が構えているのは栃木にとって不気味であった。

 互いにシュート2本ずつで終わった前半とは一転、後半はゴール前の攻防が増えた印象だったが、よりゴールに迫ったのは栃木だっただろう。上記した53分の南野のシュートのほか、61分には素早いネガトラから三次攻撃まで敢行。土肥や川名らが絡む細かいパス交換からのポケット侵入は前半はなかった攻め手だった。

 しかし、先に得点にたどり着いたのはホームチームだった。70分、自陣から繋いで栃木のプレスを剥がすと小松が前を向いて中央突破。宮市にボールを預けると、3人目の動きで抜け出したオタボーがGK川田との1vs1を決めきった。

 栃木にとってこのシーンは守備強度が緩く、不甲斐ない失点だったと言わざるを得ないだろう。前からのプレスには強度が足りないため前進を遅らせることができず、加勢した選手にも簡単に入れ替わられてしまっている。その結果、最終ラインがズルズルと下がり、中央を縦断されて失点するまで一度もボールに触れることができなかった。チーム全体の守備が緩慢でコンパクトさを欠いたシーンだった。

 失点してからは再び長いボールを入れて、セカンドボール回収から活路を見出そうとするが、目立ったチャンスを作ることができない。周囲との連携という意味でイスマイラは宮崎と比べると若干物足りず、そこがリーグ戦のベンチ入りに影響を与えているのだろうか。対する岩手は前線に都倉を投入し、オタボーとともにロングボールの預けどころとしてセーフティーに時計の針を進めていく。

 追加タイムも危なげなくやり切った岩手がこのまま1-0で勝利。上位カテゴリーの栃木を退け、J1セレッソ大阪の待つ2回戦に駒を進めた。

 

 

選手寸評

GK 1 川田 修平
ハイボール処理や足元でのプレス回避で危うさを感じる場面はなかった。

DF 2 平松 航
プレーエリアの広いオタボーをマークできない場面もあったが、捉えた時の勝率は高かった。45分間のプレーはおそらく予定どおり。

DF 40 高嶋 修也
勢いよく前に出たときの迎撃は良いが、失点シーンのようにズルズルとラインを下げてしまう場面が何度かあった。

DF 41 朴 勇志
プロ入り後初の出場となったが、宮崎への鮮やかな対角フィードや身体の強さなど良さを見せた。パススピードやボールの持ち出し方、つける位置の判断はさすが本職ボランチの選手。

MF 10 森 俊貴
システムがマッチアップし、対面の相手がいたことから持ち味の推進力を発揮できなかった。左足のクロス精度をもう少し上げたい。

MF 14 土肥 航大
チームとしてアンカーを下ろさない方針なのか、本来強みとする配球や鋭い縦パスは見られなかった。右サイドの細かい崩しに絡んだ後半を見ると、もう一列前が適正のように見える。

MF 18 川名 連介
一瞬のキレや初速の速さは光るものを感じさせた。右サイドでの切り裂くドリブルは膠着した試合でのギアチェンジに活きそう。

MF 22 青島 太一
豊富な運動量で攻守において広範囲にプレーした。鋭い出足や強気のプレス、シュートに持ち込む積極性は西谷を彷彿とさせるものがある。

MF 44 揚石 琉生
プロ入り後初の先発出場。ミスパスやファールが多くあまり良さは見せられなかったが、何かやってやろうという気概を感じさせた。

FW 32 宮崎 鴻
圧倒的な空中戦の強さで味方に良い落としを提供し続けた。朴のフィードに抜け出したシーンは腕の置き所でファールを取られたが調子は良さそう。

FW 42 南野 遥海
宮崎と良い距離感でプレーし、53分にはこれまでで最もゴールの匂いが漂うシュートを放った。毎試合足を振ることができている。

DF 33 ラファエル
平松に代わって45分間プレー。空中戦は相変わらず強く、安定感のある堅実なプレーを見せた。

FW 38 小堀 空
中盤から前に持ち出す推進力やプレーの安定感は普段レギュラー組に入っている理由を感じさせた。

FW 9 イスマイラ
投入後すぐにヘディングシュートを放ったが、昨季加入直後に見せたような理不尽さはまだ見られない。

DF 3 黒﨑 隼人
川名と右WBの二番手を争う現状を踏まえれば、プレータイムのエクスキューズはあるが、川名の方がアピールに成功したといえる。

MF 20 井出 真太郎
スペースのある大外の方がプレーしやすそうだが、IHの位置からでもスキルを発揮して相手を剥がす場面があった。

 

 

最後に

 初勝利を上げた直近のリーグ戦では攻守において強度を押し出し、やるべきことを徹底した結果、なんとか鼻先で勝利を収めることができた。リーグ戦で白星を重ねるにはこの水準を最低限行わなければならないし、それはこの日出場した選手たちも同様である。サブ組の突き上げがなければチームの総合力は上がってこない。

 そうした選手たちにとって実戦経験を積めるのがルヴァンカップであり、チームとしてもそう位置付けていたことを踏まえれば、この貴重な場が1試合で終わってしまうのは残念、というのが正直な感想である。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.3.13 18:00K.O.
栃木SC 0-1 いわてグルージャ盛岡
得点 70分 オタボー ケネス(岩手)
主審 岡部 拓人
観客 757人
会場 いわぎんスタジアム