栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【強気のなかに一瞬顔を覗かせた脆さ】J2 第22節 栃木SC vs ベガルタ仙台

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 19位

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 前節千葉戦は大島と平松の得点で逆転勝利を収めた栃木。前回対戦で大敗したリベンジを果たし、今季2度目の連勝を飾った。今節は3連勝と降格圏脱出をかけてアウェイゲームに臨む。スタメンの変更は1人。出場停止のラファエルに代わって左CBには藤谷が5試合ぶりに先発。井出、揚石がベンチから外れ、青島、大森、高嶋がメンバー入りとなった。

 

ベガルタ仙台 4-4-2 5位

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 PO圏内をキープしているものの、ここ3試合は追い付かれてのドローが続いている仙台。特に前々節長崎戦は後半ATに勝ち越した後に同点に追い付かれており、勝ち点2を落とす試合が続いている。前節からのスタメンの変更は1人。左SB内田は今季初先発。ベンチの高田は今季初めて先発を外れた。

 

 

マッチレビュー

■判断ミスに端を発した3失点

 前回対戦は約1ヶ月前の5月19日。就任してわずか4日で迎えた小林監督の初陣だったが、リードしてからの試合運びで受けに回ってしまい、逆転負けを喫した試合だった。それから1ヶ月を経て現在は2連勝中。右肩上がりの真っ只中にあるチームにとって前回対戦からの成長を測るには打ってつけの試合となった。

 立ち上がりのペースを握ったのはホームの仙台。攻守において高い位置を取る栃木のWBの背後を突くように右SHオナイウの快速を生かして栃木陣内へ侵入していく。7分にはプレスに対してオートマチックに人とボールを動かして右サイドを攻略。福島がゴールライン上でクリアを強いられるなど、栃木にとってはホームの圧力に押される立ち上がりとなった。

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 しかし、展開とは裏腹に先制点を挙げたのは栃木。敵陣中央からの南野のFKを平松がヘディングで折り返すと、これがそのままゴール方向へ。平松は2試合連続ゴール。運も味方につけ、ここからようやく落ち着いて試合を進められるようになった。

 栃木のボール保持は3CB+2ボランチが基本軸。仙台が2トップということもあり、奥田が最終ラインに下りる形はほとんど見られず。2トップ脇から福島が斜めにパスを差し込み、受け手の宮崎をサポートするように周りの選手が立ち位置を調整していく。仙台は平松と2ボランチへのプレス意識は高かったが、左右CBへのSHのプレスはやや控えめ。どちらかといえばWBを挟み込むことを意識しており、栃木の左右CBには比較的時間が与えられていた。

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 このとき気になったのがCBの左右で立ち位置が微妙に異なっていたこと。オープンに保持できるときは左CB藤谷がサイドに離れていくのに対して、右CB福島は中央にステイ。おそらく福島の配球の選択肢を増やすためだろう。サイドに寄り過ぎないことで受け手との距離感を保ちつつ、やや斜めに立ち位置を取ることでパスを通しやすくする。福島の配球力を生かした微調整だった。

 ただ、このビルドアップで問題なのは相手の二度追いプレスにさらされやすいこと。平松に寄せた流れで近場の福島はプレスを受けやすくなる。27分には平松→福島→神戸と圧力を受けながらパスを繋ぐと、神戸のトラップが乱れたところを奪われてショートカウンターから失点を喫した。

 重心が低く、仙台が次々に前から寄せてきている状況を考えれば神戸につけるパスはリスキーだったし、そもそも福島がサイドに広がりながら平松からのパスを引き出せればプレスを牽制できたシーンだったように思う。自分たちが保持したターンでのミスは前節同様であり、非常に悔やまれる失点だった。

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 こうした判断ミスによる失点に至ったのも、直前に猛攻を仕掛けられた影響があったのは間違いないだろう。両サイドからCKとロングスローを連続されるなか、栃木はボールを落ち着かせるチャンスを全て逸してしまった。具体的には、24:35にクロス対応をGKに任せずにDFが蹴り出したクリア、24:42に川名がロストしたコントロールミス、25:28に奪ったボールを平松がパスミスしたシーンである。これでチーム全体がバタついてしまい、ようやく落ち着くことができてすぐの時間に上記のビルドアップからミスが生じてしまった。

 そこから立て続けに3失点を喫することとなるが、判断ミスによる1失点目はやむを得ないにしても、球際の強度不足による2~3失点目は猛省しなければならない。2失点目は起点を作ろうした相良に対する森と神戸の対応が中途半端に。3失点目はCKのこぼれ球に対するボールホルダーへの寄せが弱く、最後までノープレッシャーだった。わずか6分間で3失点。あまりに脆い連続失点だった。

 それ以降は自陣ゴール前でのピンチは減ったものの、前への勢いを増してくる仙台に対して時限爆弾を渡し合うようなビルドアップに終始。まともに前進することができず、長いボールも精度を欠いた。唯一ペナルティエリアに入り込んだ終了間際のチャンスも大島は足を振ることができなかった。

 

 

■攻守に圧倒し、ゲームを支配

 後半に入って幸先よく得点を挙げたのは栃木。宮崎へのロングボールのセカンドボールを前向きで回収すると、ボランチ勢が中心となって前線の選手にボールを出し入れ。その流れで右サイドの森に預けると、森の左足クロスに宮崎が頭で合わせた。第18節熊本戦でも見られた森→宮崎のホットラインから早々に1点差に縮めることに成功した。

 このシーンでも見られたように後半の栃木はシンプルに宮崎に長いボールを当てることが多かった。早めにリリースすることで仙台のプレスを回避しつつ、宮崎のポストプレーで中央を使いながら同時に空いたサイドからWBの仕掛けを増やしていく。平松からシャドーへの楔パスも効いており、シャドーとWBが気になる仙台のSHは前半よりも明らかに重心が下がった印象だった。

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 60分には福島のパスを受けた神戸がヘッドアップした瞬間に背後に抜け出した宮崎へ浮き球を供給。宮崎が内側に切り返して中央へラストパスを送ると、南野のシュートはブロックに入ったDFの腕に当たったように見えたがノーハンドの判定。クリアを拾った神戸のミドルシュートがポストを叩くなど、宮崎を起点にした攻撃から栃木が攻勢を強めていった。

 守備のフェーズになれば、後ろに人を余らせずに前から次々と相手を捕まえていく。仙台の2ボランチに対する栃木のボランチ勢のプレスも早く、回避しようとサイド奥に長いボールを入れられても左右CBがスライドして対応。相手を遅らせている間にプレスバックしたWBが平松との間を埋めるなど、リスク管理も徹底されていた。

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 69分に黒﨑、74分に小堀を投入してからは栃木がさらに猛攻を仕掛ける展開に。宮崎がサイドに流れて起点を作れば、代わって小堀がストライカーの位置に入り込む。押し込んでからはツインタワーとしてクロスに備える。82分にはCKから宮崎がネットを揺らしたが、これもノーゴールの判定。手前と奥、中央とサイドを使い分ける多彩な攻撃によって後半はほぼほぼハーフコートゲームだったと言ってもいいだろう。

 仙台目線で見れば、まさに防戦一方という展開だった。ハイプレスに対して両SHを走らせようにも栃木の左右CBにフタをされてしまい、後ろに下げれば、再び前からのプレスを受けてしまう。背後を突けたのは58分の左サイドからのクロスシーンくらいで、なかなかチーム全体として重心を押し上げることができなかった。

 ただ、決め切れない栃木に対して最終盤までチェイスの足が止まらない仙台の2トップの献身性は印象的だった。郷家はフルタイム、中島もほぼほぼフルタイム。守備に走り回る2トップは栃木にとって非常に厄介な存在だった。82分の幻の得点以降、効果的な配球が減ったのは彼らのプレスによって少なからず精度を削がれたからだろう。

 6分間のアディショナルタイムもスコアは動くことなく、2-3で試合終了。栃木は4試合ぶりに黒星を喫し、3連勝ならず。降格圏から脱出は次節以降にお預けとなった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
3失点ともノーチャンス。30分には勇気ある飛び出しでゴールを防いだ。

DF 2 平松 航
前節のプロ初得点に続き、この日は先制点を記録。大外へのフィードやシャドーにつける楔パスのクオリティが試合ごとに高まってきている。

DF 17 藤谷 匠
苦しい場面でボールが回ってくることが多く、ビルドアップでのパスミスが目立った。

DF 23 福島 隼斗
福島からの楔パスは栃木のビルドアップの1つのパターンだが、そこで生じたミスが失点に繋がった。後半はチームの狙いもあってかロングボール中心の配球となった。

MF 10 森 俊貴
前半は縦を切られたが、後半高い位置を取れるようになると、左足からの絶妙なクロスで宮崎の得点をアシストした。

MF 15 奥田 晃也
神戸と段差をつけることでライン間で攻撃に絡む機会が多くなってきた。51分には自らのボール奪取でカウンターを発動したが、ゴール前で足を振り切れなかった。

MF 18 川名 連介
後半になってようやく高い位置でボールを受けられるようになったが、仕掛けた後のプレー精度を欠いた。

MF 24 神戸 康輔
バタついた展開をコントロールできず、特に2失点目は強度不足を露呈した。後半は正確な配球でタクトを振り、60分にはポスト直撃のミドルシュートを放った。

FW 19 大島 康樹
前半終了間際に宮崎のスルーパスから背後に抜け出した場面では倒れずにシュートを打ち切ってほしかった。

FW 32 宮崎 鴻
強靭なポストプレーで前線で起点を作り続けた。50分には右からのクロスに対して相手DFとの駆け引きを制してヘディング弾を記録。いまやFW陣で最も突き抜けた存在になっている。

FW 42 南野 遥海
宮崎に入った楔パスの落としや福島からの楔パスの受け手として絶妙なポジショニングで攻撃の潤滑油となった。60分にはゴール前でシュートを放つも、相手DFの疑惑のブロックに阻まれた。

DF 3 黒﨑 隼人
高い位置でボールを受けた際のプレー判断がスタメン組と比べるとややローテンポな印象。

FW 38 小堀 空
途中からピッチに入り、宮崎と立ち位置を入れ替えながらシャドーとストライカーを兼務した。

MF 22 青島 太一
投入直後に鋭いプレッシングで相手DFから奪いかけた。ああいうガムシャラさは続けていきたい。

MF 6 大森 渚生
約10分間の出場で惜しいクロスを2本、ミドルシュート1本、CKからの幻のアシスト1回とチームに勢いをもたらした。

 

 

最後に

 後半の試合運びを見ればあまりにもったいない前半45分だった。1失点目はトライしていることに根差した失点のため産みの苦しみという捉え方もできるが、続く2失点はいずれも強度不足によるもの。小林体制以前の姿が顔を覗かせた数分間だったといえるだろう。どれだけ攻撃が形になってきているチームでも3失点して勝ち点を得るのは難しい。立て直せずに失点を重ねてしまう一面も現状持ち合わせていることは心に留めておかなければならないだろう。

 後半は一転して相手を圧倒することができたが、少しの修正とメンタル的な切り替えでこれだけ立て直すことができたのはポジティブである。強気に戦えば良いゲームができるという感覚を前半とのコントラストで感じ取ることができた意味は大きいはずだ。

 悔しさの残る敗戦となったが、後味は決して悪くない。自分たちに矢印を向けて課題に取り組み、中断期間までの残り2試合も力強く戦ってほしい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.6.29 19:00K.O.
栃木SC 2-3 ベガルタ仙台
得点 12分 平松 航(栃木)
   27分 相良 竜之介(仙台)
   29分 相良 竜之介(仙台)
   33分 菅田 真啓(仙台)
   50分 宮崎 鴻(栃木)
主審 長峯 滉希
観客 13423人
会場 ユアテックスタジアム仙台