栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【勝負の際を制される】J2 第18節 栃木SC vs ロアッソ熊本

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 19位

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 前節は愛媛と対戦し0-0でドロー。終始ペースを握り、前体制下から続いていた連敗を6でストップした。ホーム連戦となる今節はスタメンを3人変更。藤谷、矢野がメンバーを外れ、右CBには福島、トップには宮崎が先発入り。ベンチには黒﨑が今季初、揚石が開幕戦以来のメンバー入りとなった。

 

ロアッソ熊本 3-4-2-1 17位

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 第9節からしばらく白星から遠ざかったが、第16節徳島戦でようやく勝利。前節は惜敗したとはいえ、一時期の不調は脱したといえるだろう。3-4-1-2から3-4-2-1に前線の構成を変えてからはかえって守備が安定しており、次は攻撃に転化させたいところか。先発は前節から2人変更。古巣対戦の松岡は4試合連続でメンバーを外れた。

 

 

マッチレビュー

■再三の右サイド攻勢から先手を奪う

 19位の栃木にとって17位熊本、20位群馬と対戦するホーム連戦は前半戦最大の正念場。小林体制になってから掴みつつある手応えを数字に昇華させるべく、まずは勝ち点4差で上位につける熊本をホームに迎える。

 立ち上がりから主導権を握ったのはホームの栃木。小林体制でお馴染みとなったWBが敵陣へスライドする強気のプレッシングで熊本のボールホルダーから時間とスペースを奪っていく。

 3-4-2-1どうしのミラーゲームでは大枠として対面の相手を捕まえればよいが、ピッチを幅広く使う相手に対してマンツーマンを強めてしまうと、全体の距離感が間延びしてしまう。とりわけ熊本はボランチが低い位置でピックするため、横幅だけではなく縦幅も広い。よって、栃木は2ボランチが縦関係になって前後のバランスをとるのが基本路線だった。

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 奥田の脇で受ける相手には左右CBが厳しく迎撃。ここで遅らせることでプレスバックした味方と挟み込む。ハイプレスを剥がされたとしてもすぐさま戻ればよいというスタンスは徹底されていた。開始10分間でショートカウンターに繋げたシーンは数えただけでも5回。ビルドアップに長ける熊本に対して準備してきた守備を発揮できた立ち上がりだった。

 

 入りで圧倒された熊本だったが、ボランチを下ろした4枚回しとシャドーの間受けを組み合わせられるようになってからはプレスを牽制できるように。ギャップに顔を出す藤井と右足で内側を覗ける岩下でプレスを掻い潜れるため、左サイドの方が上手く前進できていたといえるだろう。神戸に対して藤井・豊田で数的優位を作り、そこから右サイドに広げる流れはよく見られた形だった。

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 熊本の攻撃は左でズレを作り、右に広げながら前進し、そこから栃木のブロック崩しに移行するパターンがメイン。左の作りを省略する場合は、前線が背後に動き出して右サイドの奥を取る。いずれにしても崩しのサイドは右サイドといったイメージだった。平松が負傷交代を余儀なくされたクロスやハーフスペースをぽっかりと抜け出されたシーンもこのサイドからだった。

 

 熊本が栃木のプレスに慣れてからは試合は五分五分の展開で推移していく。ショートカウンターが減ったことで栃木は自陣からの繋ぎ出しに苦労していた印象だった。左右CBが持った時の中盤・前線の関わりが少なく、長いボールを蹴らされる場面が増加。セカンドボール回収や自陣からのカウンターが成功してようやくハーフラインを跨げるといった状況だった。

 ただ、敵陣に入った際の右サイド攻撃は非常に効果的に繰り出すことができていた。縦への推進力を押し出す森と大外から駆け上がる福島の連携は良好で、さらに南野が加わることで厚みのある攻撃を敢行していく。宮崎の先制点に繋がった右サイド攻撃は、福島の上がりが三度目にしてようやく実ったシーンだった。

 こうした右サイド攻撃は先制まではセカンドボール回収やカウンター局面によって見られたものだったが、39分には自分たちの繋ぎから繰り出すことに成功。奥田が低い位置でボールに関わることで熊本のプレス基準をぼかすと、福島から南野へ楔のパスを供給。森が高い位置を取れたことも含めて、ミラーゲームを崩しながら主体的にズレを作ることが出来たシーンだった。前線にターゲットがいることをフリにした地上戦をもう少し交えられれば、ボールを保持して落ち着ける時間をより作ることができたように思う。

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 熊本は失点してからロングボールの比重を増やしたが、栃木も高嶋の集中した守備対応とラファエルの弾き返しで対抗。これといったチャンスを作らせず、1-0でハーフタイムを迎えた。

 

■気の抜けた立ち上がりでリードを手放す

 集中した守備で危なげなく対応することができていた前半を考えれば、後半の立ち上がりは気の抜けたプレーの連続だったと言っても過言ではないだろう。

 1失点目に繋がるCK献上までの過程を振り返ると、どっちつかずの局面で3~4回デュエル負けが続き、あれよあれよと自陣にボールを運ばれてしまっている。CKの二次攻撃への対応もラファエルがバイタルエリアにボールを弾いてしまうクリアミス。ボレーを枠に収めた三島のシュートは確かに上手かったが、そこに至るまでに塞き止めるチャンスは何度もあった。

 続く2失点目もほぼほぼ同じようなシチュエーションである。敵陣でボールロストしたタイミングで素早く相手を囲い込むまでは良かったが、そこを突破されたことで一瞬で4枚が置き去りにされた。守備の人数が足りない栃木は熊本のカウンターを遅らせることができず、逆サイドの大森の戻りも間に合わなかった。リードして折り返した前半から10分間で逆転される痛恨の立ち上がりだった。

 

 後半の熊本はボール支配を強めるというよりは栃木のプレスを引き付けて背後へ、の攻撃がほとんどだった。よって栃木はそれなりにボールを握る時間を確保できるように。3-2のビルドアップでWBを押し上げ、前線に差し込んだところからライン間の侵入や広いサイドへの展開でボールを縦横に動かしていく。両翼を入れ替えてからは左の石田もパスの出し手となり、右の黒﨑はプレスの出口として仕掛けの比重を増やしていった。

 しかし、肝心のフィニッシュ精度をなかなか伴わせることができない。小林監督も言及したように濡れたピッチを滑らせるようにシュートを打てば事故的な得点も見込めるが、枠を逸れてしまえばその可能性はゼロになってしまう。攻撃回数、シュート本数に比して実際の期待値は低く、熊本のゴールを脅かした攻撃にほぼほぼなかった。

 そんな栃木を尻目に熊本は77分にダメ押しの3点目をゲット。栃木にとってはこれもデュエルで敗れたことに起因している。大崎のポスト受けを福島がつぶせず、背後を藤井に抜け出されると、最後は石田が滑らされてフリーでシュートを放たれた。アタッキングサードで攻めあぐねた栃木とは対照的な落ち着きと精度だった。

 終盤栃木は途中投入されたイスマイラや小堀に縦パスを当てて前進を試みるが、熊本も前線から選手を交代させることでプレスの強度を維持。焦る栃木の横パスをインターセプトして攻撃に移行する回数が何度か。栃木はラファエルを上げてパワープレーを狙うが、サイド深い位置まで侵入してクロスを上げる場面は少なかった。

 試合はこのまま1-3で終了。栃木はこれで12試合勝ちなし。降格圏からの浮上のきっかけを掴むことはできなかった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
2、3失点目はノーチャンス。1失点目は指先をかすめたか不明だが、枠外に押し出したかった。

DF 2 平松 航
クロス対応で相手と交錯し負傷交代。脳震盪の疑いと見られるが無事を祈りたい。

DF 23 福島 隼斗
第2節以来の先発。果敢なオーバーラップで前半は右サイドからチャンスを演出したが、後半は背後のスペースを狙われた。

DF 33 ラファエル
中盤で受けようとする相手に厳しく迎撃し、スペース勝負にも手堅く対応。全体的に堅調で気迫のこもったプレーの連続だった。

MF 6 大森 渚生
攻守において対面の大本とのマッチアップで後手を踏んだ。

MF 10 森 俊貴
自ら深い位置に切り込んでいき、クロスから初アシストを記録。これぞ森のプレー。

MF 15 奥田 晃也
最終ラインからボールを引き取って相手のプレスをいなす場面が何度か。39分のように枚数を合わせてくる相手にはもう少し低めに関わっても良いのでは。

MF 24 神戸 康輔
前線3枚に追随するプレスで序盤のショートカウンター量産に繋げた。前向きに守備できれば良いが、構える守備では強度不足が拭えない印象。

FW 19 大島 康樹
相手にとって嫌らしい動きを続けているが、昨季後半のようなゴール前での思い切りの良さがもの足りない。

FW 32 宮崎 鴻
打点の高いヘディングで今季2点目をマーク。守備では最前線からスプリントを繰り返し、最後は脚をつって交代した。

FW 42 南野 遥海
シュートが力み、枠を捉えることが出来なかった。中盤から相手の守備を剥がして強引に前進するなど、引き続き状態の良さを窺わせた。

DF 40 高嶋 修也
スクランブル投入で今季初出場。背後へのボールに対する危うさを見せつつも無難に対応した。

DF 3 黒﨑 隼人
今季初出場。右足を警戒されて本来の持ち味を発揮できなかった。

MF 7 石田 凌太郎
左サイドから内側を覗く楔のパスで前線と繋がった。3失点目は相手の切り返しに堪らず滑らされた。

FW 38 小堀 空
途中出場からシュート3本は攻撃によく絡めていた証拠。枠に収めたい。

FW 9 イスマイラ
パスを足元に要求することが多く、相手にとっては対応しやすかったように思う。

 

 

最後に

 試合全体を見れば決して悪いところばかりではなかったと思う。前からの積極的な守備でボール保持に長ける熊本を慌てさせることができたし、攻撃では指揮官の志向するサイド攻撃とエリア内での高さ・強さから得点を挙げることができた。前半は苦しい時間帯の耐え方も心得ていた。スコアほどの差がある展開ではなかったように思う。

 それでも試合は3失点で惨敗。後半立ち上がりの失点でバタバタっと崩れてしまい、まさに熊本が勝負の際を制したと言える内容だった。

 栃木にとって突き詰めなくてはならないのは攻撃時のリスク管理である。2、3失点目は福島の背後を突かれ、左WBの戻りで後手を踏んでいる。攻撃的CBとして福島を起用するメリットは数字に現れたが、この試合ではそれが諸刃の剣になってしまった印象である。左の上がりを抑えるのか、後ろに何枚残すのか、ファールも含めて守備陣は相手をどう遅らせるのか。この辺りはトレーニングを通じて自動化できるくらいには詰めていきたい。

 いずれにしてもこの試合は攻撃的に戦って敗れた試合であり、為す術なくやられた訳ではない。この試合で現れた課題を潰し、良い点をより磨いていくことで、次のダービーマッチに備えたい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.6.2 17:00K.O.
栃木SC 1-3 ロアッソ熊本
得点 36分 宮崎 鴻(栃木)
   47分 三島 頌平(熊本)
   55分 大本 祐槻(熊本)
   77分 阿部 海斗(熊本)
主審 俵 元希
観客 3417人
会場 カンセキスタジアムとちぎ