栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【攻守に支配し連敗ストップ】J2 第17節 栃木SC vs 愛媛FC

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 19位

f:id:y_tochi19:20240525191621j:image

 前節仙台戦は南野の得点で先制したものの、セットプレーから逆転されて1-2で敗戦。小林監督の初陣を飾ることができず、これで10試合勝ちなし、6連敗となった。前節からの先発の変更は3人。石田→森、朴→神戸、宮崎→小堀の入れ替えを行ったが、メンバーは前節と同じ18人となった。森と小堀は3試合ぶりの先発となる。

 

愛媛FC 4-2-3-1 12位

f:id:y_tochi19:20240525191629j:image

 昨季J3で優勝し、3季ぶりにJ2に帰ってきた愛媛。石丸清隆監督のもと昨季のシステム、選手がベースとなっており、優勝の勢いそのままにJ2でも躍進している印象である。前節は千葉に大敗したが、5試合負けなしのホーム戦で仕切り直しを図りたいところだろう。森下は2019年に過ごした古巣との対戦。同じく古巣対戦の浜下はベンチ外となった。

 

 

マッチレビュー

■強気のWBによって主導権を握る

 小林監督が就任してから2戦目を迎える栃木。一週間のトレーニングを経てどのようなシステムで臨むか注目されたが、蓋を開けてみれば前節同様に3-4-2-1を採用。栃木の選手が慣れているシステムをベースに、前節の手応えを生かそうというイメージで試合に臨んだ。

 立ち上がりは両チームとも激しい守備の応酬でスタート。栃木は前節仙台戦でも見せた「 前へ」のコンセプトを押し出した攻撃的なハイプレスを敢行。相手のSBに対してWBをぶつける前がかりな守備で早々にショートカウンターから南野のシュートに繋げていく。

 対する愛媛は右SHパクゴヌを一列下げた5バックが基本形。愛媛の試合を普段から見ている訳ではないので分からないが、前節7失点した守備を立て直そうと最終ラインの横幅を埋める意識は非常に高かった。パクゴヌが空けた右サイドにはトップ下の石浦がスライドし、5-4-1からミドルプレスをかけようというのが愛媛のスタンスだった。

f:id:y_tochi19:20240530195455p:image

 愛媛がシステムを噛み合わせてきたことで立ち上がりこそボランチ勢による厳しい寄せに手を焼いたが、徐々に自陣でボールを動かしてプレスを牽制することに成功。前線に長いボールを当て、その落としを神戸や奥田が前を向いて受けることで、愛媛のプレスを回避していく。

 16分はその後の流れも含めて一連の攻撃が上手くいったシーンといえるだろう。小堀が外に流れて中央が開けると、藤谷の縦パスを矢野がポスト受け。奥田への落としを神戸がさらに縦に差し込み再び矢野へボールを届けると、矢野は右サイドの森へ展開。高い位置を取った森から内側を追い越した南野へのパスは相手に対応されたが、複数の選手がボールに絡む連続性のある良い攻撃だった。

f:id:y_tochi19:20240530195503p:image

 後ろの5枚でボールを握り、1トップ2シャドーの動きによって中盤が前を向けるようになると、WBも高い位置へ進出する回数が増加。右サイドでは森の縦突破、左サイドでは大森に加えて奥田や藤谷が関わりローテーションしながらの崩しを試みるなど、サイド攻略には選手のキャラクターがよく表れていた。

 守備面に目を向ければ、一度愛媛に背後を突かれてGK丹野の飛び出しによってピンチを免れたシーンはあったが、それに動じずに攻撃的な守備をやり切ることが出来ていた点は印象的だった。

 左右CBは持ち前の機動力を生かして広い守備範囲をカバーし、WBを躊躇なく前へ押し出していく。愛媛は左SH藤原のスピードを生かそうとしていたが、出し手にプレッシャーをかけたことでロングパスの精度を下げさせることに成功。アグレッシブな攻守によって愛媛にハーフラインを跨がせず、本来強みとする敵陣でのテンポ良い繋ぎやコンビネーションを未然に防ぐことができていた。

 こうして栃木がボールを支配し主導権を握ると、前半30分台には決定機を量産する。33分には敵陣でのセカンドボール回収から森が仕掛けてCKを得ると、南野のキックに合わせた矢野のヘディングはバー直撃。35分には右サイドでの連携から森の左足シュート。36分にはまたしても森が右サイドから南野や矢野とのパス交換でゴール前に潜り込んだが、ラストパスは味方に通らなかった。

 愛媛は栃木のサイドからの圧力をひっくり返すことができても、単騎でのサイド突破は隅に追いやられて形にならず。前半は時間の経過とともに栃木が主導権を握っていくという展開でハーフタイムを迎えた。

 

■回収した先で優位に立つ

 ハーフタイムに修正してきたのはホームの愛媛。自陣に押し込まれた前半の反省から後半は守備のギアを一段階引き上げていく。システムは前半同様に5-4-1ながら対面の相手に次々と選手を当てていき、長いボールには最終ラインを押し上げて弾き返す。セカンドボールへの反応も速く、ハーフタイムに相当意識付けされた印象だった。

 ハイプレスを仕掛けたのは栃木も同様。前半から引き続きWBを高い位置に押し上げてボールホルダーに時間を与えない。56分には高い位置で森が相手SBからボールを取り上げると、逆サイドに動かしてからのクロスにファーで待ち受けた南野がボレーを強振。相手のブロックに阻まれたものの、前に人数をかけた分だけ高いリターンを得られた場面だった。

 試合全体の流れで言えば、愛媛が積極的にプレスをかけてきたことで栃木も長いボールで応戦するという構図がメインに。 球際の攻防が頻発する展開となったが、セカンドボールを回収した先の展開では栃木の方が有効打を打てていたため、主導権は引き続き栃木のもとにあったといえるだろう。

 64分には後方から長いボールを前線に当てて、落としを回収した奥田が中央を運ぶと、スルーパスを受けた南野が鋭い切り返しから左足でコントロールショット。シュートは惜しくもバーを叩いたが、前半の項にも触れたとおり相手のプレスに対して前線をクッションにして中盤が前を向く一連の流れから決定機を演出することができていた。

 前線に当てて起点を作るという意味では、ベンチから同時投入された宮崎と大島はパフォーマンスの明暗が分かれた印象。ターゲットとして存在感を示した宮崎と比べて大島はギャップに顔を出すタイミングが味方と合わず、周りと繋がるプレーが少なかった。時間の経過とともに南野も運動量が減り、宮崎の高さを頼りにする攻撃が増えていった。

 79分には大森に代えて石田を左サイドに投入。記憶する限り石田は昨季加入してから左サイドで起用されるのは初めてだと思うが、WBに高い位置を取らせる現体制下では面白いオプションのように思う。ただ、その際は左シャドーにボール保持に長ける選手をセット起用したいところ。最も適任なのは奥田だが、ボランチ起用せざるを得ない台所事情もあるのかもしれない。

 対する愛媛は途中投入の深澤が攻撃にアクセントをつけていくが、なかなかシュートに辿り着くことが出来ない。75分、83分とカウンターからエリア内にボールを送ったが、これもシュートとしての記録はなし。試合を通じて放ったシュートは4本に留まった。

 試合はスコアレスで終了。栃木は連敗を6でストップし、7試合ぶりに勝ち点をゲット。小林体制2試合目で初の勝ち点をアウェイから持ち帰ることに成功した。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
被シュート4本のため出番は少なかったが、背後に抜け出されたシーンや直接FKのシーンなどここぞのところで集中が切れなかった。

DF 2 平松 航
クロス対応で一つ危険な空振りがあったが、それ以外は空中戦も含めてベストなパフォーマンスだった。

DF 17 藤谷 匠
小林監督になってから流れのなかで奥田や大森を追い越して攻撃参加することが増えた。ここ2試合は途中交代していたが、この日はフルでやり切った。

DF 33 ラファエル
森を高い位置に押し出した際の背後のカバーリングを卒なくこなした。

MF 6 大森 渚生
高い位置での積極的な仕掛けから味方に合わせるクロスを何本も供給した。

MF 10 森 俊貴
縦に仕掛けられる分WBなら右サイドの方がやりやすそう。フィニッシャーになる場面が何度かあったが、枠を捉えることができなかった。

MF 15 奥田 晃也
セカンドボールへの予測と球際の強度がこれまでで最もハイレベルだった。上手い選手が強度を発揮する象徴的なパフォーマンスだった。

MF 24 神戸 康輔
左右に振り分けてからバイタルエリアに自ら潜り込むなど動きに連続性があった。

FW 29 矢野 貴章
背後への動き出しと足元への要求のバランスが良かった。33分にはCKに頭で合わせたが、打点が高すぎてバーを直撃した。

FW 38 小堀 空
縦パスを受けた際のトラップが乱れてしまい、相手にカウンターのきっかけを与えてしまった。

FW 42 南野 遥海
シュート数3本はチームトップ。後半には至近距離でのボレーと左足のコントロールショットを放ったが、惜しくもネットを揺らすことができなかった。

FW 19 大島 康樹
愛媛がプレスをかけてきた後半はロングボール主体となったため、ライン間でパスを受けるシーンは少なかった。

FW 32 宮崎 鴻
ロングボールに対して高さと強さを発揮して起点を作った。

MF 7 石田 凌太郎
今季初めて左WBでプレー。高い位置を取れればカットインを視野に入れた左サイド起用は面白いように思う。

MF 23 福島 隼斗
少ない出場時間では見せ場は作れず。

FW 9 イスマイラ
少ない出場時間では見せ場は作れず。

 

 

最後に

 愛媛が慎重な姿勢で試合に臨んだことは考慮する必要があるが、それを差し引いても攻守において今季最も相手を支配することができたといえるだろう。ここまで挙げている3勝よりも内容では満足のいくものだったように思う。シュート数やボール支配率を見る限りは勝ち点2を取りこぼしたと言えそうだが、 まずは連敗を止められたことを前向きに捉えたい。

 内容面の向上を結果に繋げるには数字を残すことは必須だが、小林体制になって攻撃面で明確な手応えを掴めていることはポジティブな要素である。後ろと前が繋がって前向きの選手を作ったり、後ろの繋ぎで両サイドを押し上げたりと、これまでの栃木では技術的・戦術的な面で示せなかったものを早くも色濃く表現することができている。

 こうした内容に自信を伴わせるためにもまずは一勝が欲しい。ここから順位の近い熊本、群馬と連戦となるホームゲームは今季最大のターニングポイントといえるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.5.25 14:00K.O.
栃木SC 0-0 愛媛FC
得点 なし
主審 石丸 秀平
観客 3253人
会場 ニンジニアスタジアム