栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【歴然とした差に思うこと】J2 第12節 栃木SC vs いわきFC

スターティングメンバー

栃木SC 3-5-2 16位

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 前節は鹿児島との下位直接対決に1-2で敗戦。ボールを握りながらもゴール前の迫力を欠き、逆に勝負どころで失点を重ねた試合だった。これで5試合勝ちなし。順位は16位まで降下した。前節からのスタメンの変更はなし。土肥がベンチから外れ、森俊貴が5試合ぶりにメンバー入りとなった。

 

いわきFC 3-5-2 8位

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 前節はアウェイで大分に完封勝ち。序盤から主導権を握ると折り返した後半に2得点を重ね、大分の反撃をゼロに抑えた。これで4試合連続の複数得点となり、攻守に好調さを示す試合となった。前節からの変更は加瀬→大森理生のみ。普段は左CBに入る大森だがこの日は右CBで起用され、栃木に所属する兄 大森渚生と同サイドでのプレーとなった。

 

 

マッチレビュー

■焦点はロングボールの先

 戦術や技術の高さよりもプレス強度や球際などフィジカル的な要素に重きを置く両チーム。そうした姿勢が開幕から結果に表れているのはアウェイチームの方であり、90分を通して両者の勢いの差をそのまま反映したような試合展開となった。

 栃木にとってここ2試合と大きく異なっていたのが最終ラインが受けるプレッシャーの強度。水戸や鹿児島はある程度栃木の最終ラインに持たせることを許容していたが、いわきはそれとは真逆。2トップが積極的に前からプレスをかけていき、栃木の最終ラインにボールを握る時間を与えないスタンスだった。

 栃木は盤面上は2トップに対して3バックのため数的優位を作れるのだが、いわきのプレッシャーを前にほとんど繋ぐことができなかった。いわきはプレスのメリハリと方向付けが非常に的確で、2トップが協力して数的不利を解消していた。ここ2試合は構える相手に対してボールを握れた栃木だったが、この日のいわきのプレスはキャパオーバーな印象だった。

 よって栃木は最終ラインから素早くリリースすることを試みるが、栃木の中盤に対していわきは中盤をベースの逆三角形から正三角形に変化させることでマークを明確化。WBもマッチアップしており、栃木としては宮崎への放り込み以外の攻め手がないような状況だった。

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 攻め手が狭まればいわきも守備の狙いを定めやすい。宮崎への長いボールに対して3バックの1人が必ず先に身体を当て、残りの2人はこぼれ球にスタンバイ。中盤3枚もセカンドボールに目を光らせる。最終ラインからどうにか引き出そうと模索する栃木はこぼれ球への準備が不十分なまま苦し紛れに放り込むため、セカンドボールの回収率では雲泥の差があった。

 

 一方いわきは栃木とは対照的にロングボールから次々と起点を作っていく。ターゲットとなったのは有馬。藤谷とのマッチアップはほぼほぼ完勝したといってもいいだろう。下りながらのポスト受けやスペースへのランニングで起点を作ると、サポートの味方とともに分厚い攻撃を繰り出していく。失ってからの切り替えも速く、栃木は中途半端に繋ごうとすれば受け手が狙われ、長いボールも前述したとおり収めることができなかった。

 栃木のプレスの仕組みもいわきにとっては好都合だっただろう。栃木はいわきとは異なり、2トップが縦関係になり、左右CBにはIHがアプローチをかける。このとき中盤3枚に対しては大西を奥田、山口を神戸、西川を大谷が見るようにしており、2トップに対しては2CBが同数で対応する状況だった。

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 いわきにとって2トップが相手最終ラインと同数でマッチアップしている状態なら長いボールを入れても勝算はある。栃木の2CBよりも先に立ち位置を取ってしまえば、起点を作る難易度はそれほど高くはない。栃木としては最終ラインが大きく弾き返せれば決して問題ある守備対応ではなかったが、同数を受け入れられるほど説得力のあるパフォーマンスとは言えなかった。

 失点はロングスローからの二次攻撃だったが、深い位置でのスローイン獲得の起点となったのも有馬だった。大谷が前に出た背後のスペースに動き出すことで最終ラインの照山からロングパスを引き出すと、サイド攻撃からスローインを獲得。いわきにとっては自分たちの強みと栃木のプレスのウィークを上手く重ねることができたシーンだった。

 長いボールを封じられた栃木が前半起点を作れたのは右CB大森の脇を突けたシーンくらい。これも目立ったチャンスに繋げられたとはいえず、クロスまで時間がかかれば相手のプレスバックに襲われてしまう。サイドからのマイナスのパスから放ったシュートを1本でも枠内に飛ばせれば印象も変わったが、いわき守備陣のシュートブロックに遭い、逆に勢いに乗らせてしまったような印象だった。

 

■交代選手を起点にクロスを量産するも

 後半立ち上がりに南野がバイタルエリアからシュートを放つなどアグレッシブに入った栃木だったが、ロングボールに対して宮崎が起点を作れずにいると、次第にペースはいわきの元へ。宮崎は前半の課題から競り方を工夫しているようだったが、腕の使い方が悪くファールを重ね、また戻りオフサイドでロングボールを不意する場面が目立った。

 対するいわきはサイド攻撃の比重をアップ。トップのポストプレーに合わせて中盤やWBがオーバーラップを仕掛けたり、細かい連携からポケットへの侵入を狙っていく。チャンスの質は前半よりもクリティカルなものが多く、サイドから頻繁に栃木ゴールを脅かしていった。

 こうした攻撃面の変化を踏まえた上で守備時の動きを見ると、後半いわきは3-5-2から3-4-2-1に変更していたと見ることができるだろう。中盤からシャドーに列を上げたのは西川。守備時も有馬、谷村とともに一列目を形成することで、アンカーを見ていた前半とは異なる役割が与えられていた。おそらくアンカーを放してもリスクが少ないこと、よりプレスをかけやすくすることを狙いとしていただろう。

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 両チーム交代カードを切っていくなかで栃木に流れが傾き始めたのは70分を過ぎた辺りから。途中出場の選手が起点となって反撃の口火を切ると、森や石田の両WBがようやく高い位置でクロスを上げられるように。とりわけ小堀が中盤で身体の強さとサイド展開を発揮した右サイドからは石田の攻撃参加が増えていった。

 両サイドを押し上げるという意味ではイスマイラと朴の途中投入も効いていた。イスマイラはハイボールのターゲットとして宮崎が苦しんだポストプレーを成功させ、朴も身体の強さと左右への振り分けで存在感を発揮。小堀も含めて中央で起点を作れるためサイド攻撃に効果をもたらすことが出来ていた。

 それだけに気になったのがペナルティエリア内での迫力の物足りなさ。70分以降に両サイドから供給されたクロスはそれなりの本数だったように思うが、相手ゴールを脅かしたシーンは記憶にない。前傾姿勢で人数をかけたにも関わらずである。いわきの集中した守備は評価できるにしても、クロスを武器とするには少々迫力不足が否めない印象が強く残った。

 試合はこのまま0-1で終了。栃木は2連敗となり、これで6試合勝ちなし。いわきはアウェイ連勝で5位に浮上した。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
失点シーンは相手のクロス精度も高かったが、DFラインとのコミュニケーションで何とかなったはず。
DF 5 大谷 尚輝
最終ラインでの跳ね返しと前に出て西川を潰す役割を兼務したが、どちらも不十分だった。65分のヘディングは枠に飛ばしたかった。
DF 17 藤谷 匠
ことごとく有馬に起点を作られ、失点シーンでは谷村に前に入られてシュートを許した。強度勝負でほとんど負けていた。
DF 33 ラファエル
大きく弾き返せた場面もあれば、強引にシュートまで持ち込まれた場面もあり。中央CBとして及第点のパフォーマンス。
MF 6 大森 渚生
内側に持ち出して相手のプレスの矢を折る場面が何度か。自陣で後ろ向きで守備することが多く、前に出ていく回数は少なかった。55分、58分と身体を投げ出して相手のシュートをブロックした。
MF 7 石田 凌太郎
序盤はマッチアップする大迫に押し込まれたが、後半は豊富な運動量でサイドを上下動し、良質なクロスを何本も供給した。
MF 19 大島 康樹
背後への抜け出し、中盤のセカンド争い、プレスに行くか行かないかの判断、など全てが中途半端。昨季後半のキレがない。
MF 24 神戸 康輔
セカンドボールへの反応と強度でいわきに圧倒された。ボールを握った時間の存在感も薄かった。
MF 42 南野 遥海
左サイドでボールを収めて何とか個で打開しようとした。後半序盤にミドルシュートを1本放った。
FW 15 奥田 晃也
前線で強さを発揮することも、中盤で上手さを見せることもできなかった。
FW 32 宮崎 鴻
ハイボールに対して先に身体を当てられてしまい、思うように競らせてもらえなかった。後半は競り合い時の腕の使い方が悪く、ファールを重ねた。
MF 10 森 俊貴
自らボールを縦に運びクロスを供給。復調を印象づけるパフォーマンスだった。
FW 38 小堀 空
中盤で当たり負けしない力強さと上手さを発揮。後半右サイドから攻勢をかける起点となった。74分には石田の決定的なクロスにわずかに届かなかった。
MF 41 朴 勇志
身体の強さはもちろん、朴の強みは味方がコントロールできる絶妙な強さ(速さ)のグラウンダーパスとフィードを供給できるところだと思う。
FW 9 イスマイラ
ロングボールのターゲットとしてほぼほぼ競り勝てていた。ラマダン期間を終えてコンディションが上がってきた印象。
MF 20 井出 真太郎
短い出場時間では見せ場を作れず。

 

 

最後に

 

 上にリンクしたポストは試合直後に思ったことをそのまま投稿したものだが、時間が経って改めて試合を振り返った今でも感想は変わらない。いわきのサッカーは栃木が目指してきたものを見事に体現していたし、チーム全体が繋がって、個々の能力を足し上げた以上の組織力を発揮していた。選手の入れ替わりの多いいわきがこれを体現できるのはクラブの哲学が十分に浸透しているからだろう。 こうした根幹に関わる部分の積み上げの差をスコア以上にまざまざと感じさせられた試合だった。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 いわきFC
得点 28分 谷村 海那(いわき)
主審 上原 直人
観客 6434人
会場 カンセキスタジアムとちぎ