栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【見事なバウンスバック】J2 第6節 栃木SC vs 大分トリニータ

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] 15位

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 前節はアウェイ秋田での雪中決戦に敗れた栃木。中3日で迎える今節はホームに戻って立て直しを図る。前節からはラファエルと藤谷の左右を入れ替えたのみでスタメンの変更はなし。ベンチには大谷が今季初めてメンバー入りを果たした。

 

大分トリニータ [4-4-2] 7位

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 ここまで2勝2分1敗でまずまずのスタートを切った大分。前節は長沢の2ゴールを含む3得点で鹿児島に快勝し、調子を上げて栃木に乗り込む。スタメンの変更は野村→中川のみ。ここまで全試合に先発していた野村はコンディション不良で今季初めてメンバー外となった。

 

 

マッチレビュー

■ハイラインに活路を見出す

 前節は対照的な結果となった両チーム。ダメージの残る敗戦を喫した栃木がこの日対戦するのはここ8年間勝利できていない大分という苦しい日程である。予想どおり大分がボールを握り、栃木がカウンターを狙う構図で試合は進んでいった。

 序盤から主導権を握ったのは大分。栃木の最終ラインに対して枚数を合わせることで積極的にプレスをかけていく。栃木は前節の課題と向き合うように回収後のボールを丁寧に繋ごうとするが、不用意なロストからカウンターを招く場面が頻発。受け手に時間を与えられない繋ぎから神戸やWBが囲まれて失う場面が多かった。

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 早い時間から守備の時間が増えた栃木だったが、大分の保持に対する縦横のスライドは良好だった。相手CBから縦の選択肢を取り上げてサイドに誘導すると、誘導した先でボールホルダーを次々と捕まえていく。この辺りの練度はメンバーを固定している影響が大きいだろう。プレスをかけるなかで選手の立ち位置が入れ替わっても全体のバランスが崩れることは少なかった。

 しかし、肝心の取りどころを見極められないと、戦況は徐々に苦しくなっていく。大分に自陣でボールを回される時間が長くなり、少しずつ重心も下がってしまうように。後ろに人数を割いたことでクリアを前で収められず、次第に自分たちが入れたロングボールも相手に渡るようになっていった。

 

 潮目が変わったのは前半30分ごろ。背後に抜け出した大分FW渡邉がオフサイドにかかったシーンがあったが、これが流れが変わるターニングポイントになったように思う。

 このシーン、右からのハイプレスをひっくり返されて背後に走られるも、直前に最終ラインを押し上げたことで意図的にオフサイドトラップにかけている。この時間の主導権は依然大分にあり、ボールの取りどころが見つからず、何度か背後を取られていた状況であったが、前向きの守備を一つ成功したことでチームとして耐える一方ではないことを強く示せたシーンだったと思う。38分にも同様の形から鮮やかにオフサイドにかけたシーンがあった。

 もちろん最終ラインを上げたことでピンチを招くこともあった。この時間帯の大分は左SB香川が低めの立ち位置を取ることで栃木の右サイドを引き込み、意図して石田の裏を狙っていた。栃木が人に当てていくことを逆手に取って決定機を作られたシーンもあった。

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 しかし、総じて見れば、これの収支はプラスだったと言えるだろう。自陣に押し込まれる状況を解消できたことで全体のベクトルが前を向き、セカンドボールの回収率も上昇。矢野のスルーパスに抜け出した石田がゴール前で決定機を迎えたり、奥田が狭い局面で高い技術と広い視野を発揮したりと、敵陣でのプレーが多く見られるようになった。

 普段は前からのプレスでテンション高く試合に入り、相手に応じて少しずつマイルドにしていくのが栃木の試合運びだが、この日はその逆。自らのミスで出鼻をくじいたものの、勇気あるライン設定に活路を見出し、右肩上がりにペースを取り戻してハーフタイムを迎えた。

 

■献身的な守備が得点に結び付く

 後半も栃木は前半手応えを掴んだ高いライン設定から大分のボールホルダーにプレッシャーをかけていく。すると、55分に栃木が試合を動かすことに成功する。

 自陣での守備対応からカウンターを発動すると、混戦のなかで奥田の落としに右足を振り抜いたのは石田。これが相手に当たって方向が変わりゴール右隅に吸い込まれた。この攻撃のきっかけとなったのは背後へのボールに対する石田のインターセプトであり、混戦を招くラファエルのクロスを演出したのも石田の粘りから。そうした献身的なプレーが最終的に自身の得点に繋がった先制シーンだった。

 自分たちの流れから先制した栃木だったが、それ以降しばらくは大分の猛攻にさらされることに。後半の大分のテーマは中盤の厚みを増やすことだっただろう。序盤は右SH中川がポジションを離れて自由にボールに関わることで栃木の中盤守備を混乱させ、中川が交代してからはトップ下化した長沢がフィジカルの強さを生かして神戸の脇で起点を作っていく。

 ギアを上げた大分に対して栃木は防戦一方だった。が、最後の局面で踏ん張った。60分、61分と連続してCKを合わせられたがそれぞれ大森と矢野がゴール前でブロック。63分にはカットインした渡邉のシュートがわずか枠の左へ。66分には弓場のヘディングをGK丹野が防ぐと、至近距離から続けて放たれたシュートにもGK丹野が反応。量産されたピンチをこれほどまでかいう全員守備で何とかやり過ごした。

 猛攻を切り抜け徐々に栃木がペースを取り戻していくなかで、交代選手の存在は非常に頼もしかった。宮崎は空中戦で強さを発揮し、不運なジャッジで取り消されたが力強いシュートでゴールネットを揺らした。IHに投入された南野と青島は深い時間帯に求められる役割を完璧にこなした。

 大分のボール保持に対して2トップが中央を閉じ、サイドに誘導したボールにはIHがハードワーク。縦パスを入れられれば左右CBが出足良く迎撃し、ルーズボールには神戸が目を光らせる。最後までこれを根気強くやり続けると、アディショナルタイム目前に相手選手が足を滑らせ、ボールを奪った奥田が冷静に追加点。考えうる理想的な試合運びだった。

 最終盤にはPK(これも疑問符が付くが)で1点を返されるも、栃木がリードを守って逃げ切りに成功。ホーム連勝を飾り、順位を今季最高の8位まで上げた。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
古巣相手に神がかり的なビッグセーブを連発した。丹野がいなければ複数失点は免れなかっただろう。

DF 2 平松 航
長沢に対して終始密着マークしたことで競り合いでも引けを取らなかった。最後のあれはPKではない。

DF 17 藤谷 匠
自らの背後をカバーしてしまう脅威の機動力を見せたほか、ゴール前では身体を投げ出して長沢の決定機を抑えた場面があった。

DF 33 ラファエル
スライド距離が長くてもなんのその。右CBの方がやりやすそう。相手の攻撃を凌ぎ、この日もガッツポーズを見せた。

MF 6 大森 渚生
右からボールを引き取って何度か高精度のクロスを入れた。クロスを入れる前の仕掛けや切り返しにレパートリーが増えてきた。

MF 7 石田 凌太郎
Jリーグ初ゴール。やはりシュートは振り切らなければ何も起こらない。チーム随一の献身性がようやく数字に繋がった。

MF 19 大島 康樹
相手に捕まらない絶妙な立ち位置を取り、素早くボレーシュートに繋げた場面が二度あった。

MF 24 神戸 康輔
セカンドボールへの反応も速く、最終ライン前を幅広くカバーする守備が板に付いてきた。

MF 38 小堀 空
GKキックのターゲットとしてタッチラインから内側に折り返す役割は小堀にしかできないタスク。得点直後のチャンスは狙い過ぎてシュートに力を乗せ切れなかった。

FW 15 奥田 晃也
この日も1ゴール1アシストの大活躍。根気強く最終ラインへのプレスをやり続けたことで、最後の最後で相手のミスを誘発し、決勝点をマークした。

FW 29 矢野 貴章
高さ勝負の勝率こそあまり伸びなかったが、セカンドボールの反応やゴール前でのシュートブロックでは存在感を示した。

FW 32 宮崎 鴻
誤審により幻のゴールとなったが、1vs1を間合いで外して放ったシュートはこれまで見なかった形だった。

MF 22 青島 太一
プレスの初速と加速にキレがあった。寄せ切ってしまいファールが多い点は気を付けたい。

FW 42 南野 遥海
献身的なプレスでチームとして攻撃回数を増やせれば自身の得点チャンスも見えてくる。

MF 10 森 俊貴
守備固めで左WBに入った。97分にはクリアがそのまま奥田を抜け出させる絶妙なパスとなった。

DF 5 大谷 尚輝
今季初出場。守備固めで右WBに入り、試合を締めた。

 

 

最後に

 水曜日の敗戦から見事に立て直した勝利だった。ゴール期待値からも明らかなように相手の決定力不足に助けられた部分は大きかったが、試合を通して最後の局面で身体を張れたからこそ、何とか持ち堪えることができた。前節からメンバーを入れ替えなかったことに不安を覚えたのを恥ずかしく思えるような会心の勝利だったといえるだろう。

 メンバーを固定化して連携を高めつつ、途中出場から他の選手を馴染ませていくチーム作りもここまでは順調。ベンチから登場した選手がそれぞれ自分の特徴やレギュラー奪取のために必要なプレーを発揮することができている。

 栃木はいま良い流れにあると言っていい。ここまでの結果を受けて栃木の伏兵としての不気味な存在感を他のJ2クラブも感じ始めているに違いない。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.3.24 14:00K.O.
栃木SC 2-1 大分トリニータ
得点 55分 石田 凌太郎(栃木)
   90分 奥田 晃也(栃木)
   90+6分 長沢 駿(大分)
主審 吉田 哲朗
観客 3944人
会場 カンセキスタジアムとちぎ