栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【象徴的な幕切れ】J2 第15節 栃木SC vs 徳島ヴォルティス

スターティングメンバー

栃木SC 3-1-4-2 19位

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 前節は勝ち点で近い藤枝と対戦し0-1で敗戦。五分五分の展開で進むなか終盤与えたFKを直接沈められ、これで4連敗となった。9試合ぶりの勝利を目指す今節は先発を2人変更。ともに出場停止明けの石田と大森が両WBに入り、小堀と森はベンチスタートとなった。ここまで全試合に出場していた大島は今季初めてメンバーを外れた。

 

徳島ヴォルティス 3-4-2-1 15位

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 序盤戦は思うように勝ち点を積めず、また選手の引退や退団、監督交代などピッチ外での問題も多く抱えた徳島。しかし直近4試合は3勝1分と完全に復調傾向であり、降格圏からの脱出に成功。増田監督が指揮官として正式就任し、反転攻勢を図っている印象である。徳島も選手の変更は両WBの2人。前線には前節2ゴールの渡が入った。

 

 

マッチレビュー

■3-1-4-2に戻した狙いとは

 この日の西日本は台風並みの大荒れ。海に近いこのスタジアムも例に漏れず、強い雨と風に見舞われたなかで試合は進んでいった。

 3-1-4-2に戻したシステムもこの荒天と無関係ではなかっただろう。前線には前節お世辞にも上手くいったとは言えなかったイスマイラと矢野のセットを起用。南野と奥田をIHに据えて中央に厚みをもたせることで、ピッチコンディションに左右されにくいロングボール→セカンドボール回収からの二次攻撃、そして高さを生かしたクロス攻撃を徹底するイメージだっただろう。

 クロスを上げるためのサイド攻略はWBの立ち位置を下げることで調整。藤枝戦では3-4-1-2を採用してWBを高い位置に張らせたが、背後やポケットを取る動きが少なく、手詰まり状態になることが多かった。そのため前節同様にWB同士がマッチアップする今節はWBの立ち位置をあえて低めに設定。その分IHのサイドへの関わりを増やすことでサイド攻撃をスムーズにする狙いだっただろう。

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 ただ、前半を通して栃木がボールを握って上記の狙いを遂行できたシーンはごくわずか。やはり徳島が圧倒的なポゼッションでボールを支配する時間が長かった。

 ボール保持もただ長いだけであれば栃木としても怖くないのだが、簡単に中盤を通過させていた点は気になった。栃木は矢野が中央のコースを切ることでボールを右CBカイケのサイドに誘導し、そこに奥田を起点にプレス連動させていくのがこの日の守備の狙い。下りるチアゴアウベスへの迎撃もセットの誘導守備はそれなりに機能しており、藤谷の背後を狙う杉本への対応も決して悪くなかった。

 ただ、その一方でアンカー役の児玉を起点とする繋ぎには非常に手を焼いた。 前線の守備の方向付けによって奥田はカイケに引っ張られるため中盤は神戸1枚のみになるのだが、動きながらボールに関わる児玉に神戸が釣り出されると、背後で棚橋をフリーにしてしまうことが多かった。ここへのラファエルの迎撃も甘く、中盤の背後を取られると、ズルズルとラインを下げる場面が目立った。

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 栃木は30分ごろに2トップの左右を入れ替え。右サイドにおける矢野の守備範囲を広くすることで後方の南野に中盤のカバー役を任せるが、状況はあまり好転せず。ボールを握られ中盤を支配されるなか、前半41分にセットプレーから徳島に先制点を許した。

 CKの起点となったのは一時的にアンカー役を児玉とスイッチしていた杉本。中盤で神戸のプレスを巧みに剥がすと、右サイドにボールを送りCKを獲得。このCKに対してGK川田がパンチングの目測を誤り、ファーに抜けたボールを杉本に押し込まれた。またしても課題のセットプレーから喫した失点だった。

 栃木にとってはCKを与えるきっかけとなった神戸vs杉本の中盤の入れ替わりが痛恨だった。ただでさえ奥田が引き出されると中盤が薄くなるなかで神戸も入れ替わられてしまえば、最終ラインからの迎撃もイレギュラーな状況のため見込めない。相手の攻撃を一度はCKに追いやったものの、ミスも重なり失点を免れることができなかった。

 前節からの攻撃面でのテコ入れを発揮する間もなく、狙いの守備を外されたシチュエーションであえなく失点。1点ビハインドでハーフタイムを迎えた。

 

■追いかける展開で精細を欠く

 後半栃木は攻撃時のボールの動かし方を整理。3バックに対して前線3枚をそのまま当ててくる徳島に対して神戸に加えて奥田が間に顔を出すことで保持を安定化。そのほか1トップ渡のボランチへのプレスバックを利用して、WB→平松のバックパスで徳島のプレスを牽制していく。

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 後方でボールを持てるようになった栃木はWBが出し手となって配球する場面が増加。中央の2トップに向けて楔のパスを打ち込んだり、右サイドでは南野が背後に抜け出して石田からパスを引き出したりと中央とサイドを使い分けて前進する回数を増やしていく。60分、62分と南野が連続してシュートを放ったほか、64分には背後を取った南野の落としから石田がクロスを上げるなど反撃の雰囲気を漂わせることができていた。

 宮崎とイスマイラがコンビを組んだ際の役割分担も上手くいっていたと言えるだろう。宮崎が高さと強さを発揮して相手の最終ラインを押し下げ、イスマイラはセカンドトップとして足元にパスを要求する。サイドから引き出したボールを逆サイドに広げたり、自らミドルシュートを放ったりと、ようやくイスマイラらしいダイナミックなプレーを見せることができていた。

 それだけに気になったのは後ろからの繋ぎ出しのフェーズで簡単なボールロストが頻発したこと。 ピッチコンディションの影響だろうが、相手の寄せが厳しくない場面でパスミスをしたり、ボールコントロールを誤ったりとトーンダウンさせるようなプレーが見られたのは残念だった。後半の徳島は自陣から緻密に繋いでいくというよりはこうした栃木のミスからカウンターを繰り出したり、栃木のプレスの綻びを突いて素早く攻め切るシーンが多かった。

 70分を過ぎるとペースは徐々に徳島のもとへ。2トップにIHを加えたプレスが前半以上に簡単に破られるようになると、棚橋からバトンを受け継いだ杉森に中盤で時間を与えてしまう。栃木は神戸に変えて青島を投入することで中盤の運動量を補強していくが、前線守備が機能せず、人数不足の中盤をカバーするのはさすがに無理があった。

 終盤栃木は小堀を前線に投入して長身3人を並べるパワープレーにシフトするが、精度を欠き決定機を作ることはできず。89分には宮崎のスルーパスに石田が右サイドを抜け出したシーンがあったが、相手のポケットを取ったところで足を滑らせてしまいクロスは上げられず。徳島のDFラインは崩れており、ファーでは小堀がフリーで待っていただけにもったいないシーンだった。これも荒天によるピッチコンディションの影響だろう。

 試合はこのまま0-1でタイムアップ。栃木はこれで5連敗、9試合勝ちなしとなった。

 

 

選手寸評

GK 1 川田 修平
失点シーンは前に飛び出したのであれば確実にパンチングしたい。

DF 2 平松 航
中盤の空いたスペースにボールを入れられた時こそラインを強気に保ちたい。1vs1の守備対応は安定していた。

DF 17 藤谷 匠
下りて受けるチアゴアウベスに対して厳しく迎撃した。ハーフタイムでの交代は怪我の影響か。

DF 33 ラファエル
下りて受ける棚橋に対する寄せが甘かった。

MF 6 大森 渚生
攻撃では奥田との連携が上手くいかず、守備でも田向に引っ張られて後追いになることが多かった。

MF 7 石田 凌太郎
3-1-4-2だと自ずとプレーエリアが低くなるため前半は控えめな印象だったが、後半は低い位置からの出し手として存在感を示した。

MF 15 奥田 晃也
ボランチとIHのハイブリッドのような起用法。相手の囲い込みが早く、攻撃面で良さを発揮できなかった。

MF 24 神戸 康輔
前節の反省を踏まえるようにミドルシュートを積極的に狙い、前線に縦パスを差し込むなど矢印を前に向けたプレーを見せた。

MF 42 南野 遥海
ライン間やポケットでボールを引き出し、前が開ければシュートをチョイス。相手にとって怖い存在であり続けた。

FW 9 イスマイラ
相手に捕まった状態ではハイボールを先に触ることはできても味方に落とすのは難しかった。相方が宮崎になってからはセカンドトップとして積極的にボールを引き出した。

FW 29 矢野 貴章
サイドに追い込む誘導守備はやはり巧みである。

DF 5 大谷 尚輝
アゴアウベス番として前半藤谷の担っていた迎撃タスクをそのまま引き継いだ。

MF 10 森 俊貴
森の強みは縦に突破してこそ。低い位置からのクロスでは相手も怖くない。

FW 32 宮崎 鴻
前線で高さと強さを発揮。守備面での方向付けが矢野と比べると物足りない。

MF 22 青島 太一
ピッチ中央を所狭しと動いてボールに積極的に関わった。

FW 38 小堀 空
終盤オープンな状況で前線に入り、ターゲットというよりはこぼれ球に備えた。

 

 

最後に

 田中栃木を象徴する試合だったと言えるだろう。前からプレスをかけるには難しいシステムを採用しているにも関わらず中盤から人を押し出した結果、中盤の守備が回らなくなり、さらにはイレギュラーな状況で最終ラインの迎撃も不十分になる。何とか流れからの失点は免れながらもセットプレーから均衡を破られると、反撃の得点を挙げることが出来ずに敗戦。

 セットプレーからの失点にフォーカスすれば、前節藤枝戦(直接FK)、清水戦(CKの二次攻撃)、いわき戦(ロングスローの二次攻撃)、鹿児島戦(CK)とここ最近だけを見ても歯止めが効いていない。得点もリーグ最小の1点に留まっており、長身選手を多く揃えている強みを全く生かせていない状況である。これは選手の能力はもちろん、組織として攻守を機能させられないスタッフ陣の問題が大きい。

 システムを変えたことで多少好転の兆しが見えたのは事実だが、結果に結び付かなければ継続するメリットは少ない。今季のリーグレギュレーション、周りのチームの状況を踏まえれば、田中監督と契約解除したクラブの判断はやむを得ないと言えるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.5.12 14:00K.O.
栃木SC 0-1 徳島ヴォルティス
得点 41分 杉本 太郎(徳島)
主審 清水 修平
観客 3880人
会場 鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアム