栃木SCのことをより考えるブログ

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【追加点に尽きる】J2 第40節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節はホームで大分と対戦し1-1のドロー。劣勢を強いられた前半に先制を許したものの、システム変更と選手交代で流れを引き寄せると、終盤に大島が値千金の同点弾を挙げた。連敗を4で止め、残留に向けて一歩前進した試合だった。

 アウェイに乗り込む今節はスタメンを4人変更。前節途中出場から良いプレーを見せた高嶋がプロ初先発を飾り、同じく存在感を示した高萩が11試合ぶりに先発となった。両WBを入れ替え、西谷は一列前での起用となった。

 

ファジアーノ岡山 [3-5-2] 10位

 前節山口戦は終了間際に直接FKを決められ、土壇場で勝利を逃した岡山。好調だった夏場から一転、ここ最近は勝ち切れない試合が続いている。2年連続でのプレーオフ進出に向けて後がない状況である。

 スタメンの変更は2人。前節得点を挙げた坂本がトップに入り、中盤には田部井が起用された。栃木との前回対戦で得点を記録した高橋はメンバーから外れた。

 

 

前節の手応えを表現する

 連敗を止めた前節大分戦は栃木にとって収穫の多い試合だった。

 相手の最終ラインに圧力をかけるため[5-3-2]に変更してからは、西谷が大島と同じ列に並んだことで後ろに傾いていた重心が改善。セカンドボールへの出足が速くなり、ロングボールによるシンプルな攻撃から押し込めるようになった。

 後方では途中出場の高嶋が落ち着いた守備対応と良質なロングボールで守備から攻撃への移行に貢献し、高萩はボールに頻繁に絡むことで繋ぎに安定感をもたらした。これらが機能した後半は主導権を掌握。ラスト3試合に向けて大事なポイントを再確認できた試合だった。

 そうした前節を踏まえれば、この日の人選や戦い方は前節を当然踏襲したものだった。システムはいつもどおりの[3-4-2-1]だったが、おそらくこれは岡山の3バックとの噛み合わせを考慮してのもの。高嶋がバックラインに入り、高萩が中盤でタクトを振る構図は前節と同じだった。

 6分には自陣で高萩から高嶋へサイドを変えると、寄せてくる相手を捉えながら高嶋が左足で前線にフィードを供給。相手のプレスを素早く回避するべく逆足を遜色なく使いこなせるのは高嶋の武器と言えるだろう。

 続く10分には平松→高萩→高嶋と繋いで岡山の前線守備を牽制。高嶋は自身に田部井が寄せてくるのを見るや、広がったアンカーとの間に顔を出した西谷にパスを通したことで、西谷は前を向いて相手CBを剥がすことができた。13分にも同様の形から西谷が前向きで前進。いずれのシーンも高嶋と高萩がいるからこそ生まれた精度のある攻撃だった。

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 前線で起用された西谷は攻撃では後ろと前のリンクマンとしての役割を担ったが、やはり存在感があったのは守備面だった。鋭いプレスで前線守備を牽引すると、岡山は堪らずロングボールで回避するシーンが増加。岡山は比較的ロングボールを上手く活用するチームだが、苦し紛れに蹴り出すボールでは前線に収められず。いざカウンターを発動されてもゴール前で身体を張った守備でピンチを未然に防ぐことができていた。

 

 岡山がボールを落ち着いて持てるようになったのは20分を過ぎた頃。栃木のプレスに対して簡単に蹴り出すのではなく、3バック+GK+アンカーで丁寧に繋ぐ姿勢を見せていく。

 後ろが安定すると、中盤のミスマッチを生かせるように。栃木の中盤2枚に対して3枚で形成する岡山は、右IH田中がサイドに流れたり、トップの坂本が下りてきて中盤に工夫を加えることでボール支配を強めると、高い位置に張り出したWBを活用するシーンが増加。23分にはCKからネットを揺らしたシーンはオフサイドとなったが、これも自陣からの繋ぎから得たCKだった。

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 前からのプレスで押し込んで長いボールを蹴らせれば栃木ペース、ミスマッチを生かして栃木のプレスを沈静化できれば岡山ペースという構図で進んだ序盤だったが、時間の経過とともに徐々に栃木のプレス連動が相手を上回る場面が増えていった。

 とりわけ、栃木はスイッチを入れたときの全員のプレス連動が非常に機能していた。岡山の3バックとWBにはシステムが対応するため前重心になってもプレスが空転することはなく、中盤のミスマッチに対しても最終ラインからの迎撃のほか、西谷のプレスバックや高萩のルーズボールへの予測が冴えていた。深い位置までプレスを連動させて無理に縦パスを入れさせれば、その落としにはイスマイラが反応するなど全員が連動できていた。

 38分には栃木にビッグチャンス。岡山が自陣からのビルドアップでCB柳が足を滑らせると、すぐさまイスマイラと大島が襲いかかり、奪ったボールを西谷へ。ゴール前で受けた西谷のシュートはわずかに枠の左に逸れていった。

 前半最大の決定機を逃した栃木だったが、強度の高いプレスに対して岡山がストレスを抱えていたのは明らかだった。前節の手応えをしっかりピッチ上に表現しながら、攻守に一体感をもって戦うことができた前半はトータルで見れば栃木ペースで進んだ45分間だった。

 

 

徐々に劣勢に傾いていった後半

 後半開始とともに岡山は選手交代。最終ラインにヨルディバイス、前線にはステファンムークを投入することで、一気にギアを上げる交代策を打ってきた。

 それでも先に試合を動かしたのは栃木だった。ロングボールのセカンドボール回収から左サイドを福森が仕掛けてCK獲得。そのまま福森がCKのキッカーになると、ニアへの鋭いボールが柳とGK堀田のエラーを生み、高嶋の折り返しに最後はイスマイラが上手く合わせた。高嶋にとっては記念すべきプロ初アシストとなった。

 

 ここから畳み掛けるように追加点を狙いたい栃木だったが、得点の前からも見られたように徐々に中盤でボールを奪えない場面が増えていった。

 特に栃木が手を焼いたのはハーフタイムから登場したムーク。ムークはそれまでの坂本とは違って中盤に頻繁に顔を出し、栃木のプレスからの脱出口になったり、セカンドボール争いに加わることで、中盤でのプラス1の存在になった。

 48分には右IHの田中がサイドに張って栃木の左サイドを引き出すと、大森がサイドのカバーに回ったことでライン間のムークがフリーに。柳の縦パスで一気に局面を進められ、右サイドの崩しから最後は柳の攻撃参加によりCKを与えた。

 56分には同様に栃木は左サイドが釣り出されると、今度は田中が出し手となってフリーのムークにパスを供給。遅れて出てきた平松を出し抜くように背後を取ったチアゴアウベスにスルーパスを送り、フィニッシュまで繋げた。中盤の数的優位から徐々に岡山が再現性の高い攻撃を繰り出していった。

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 岡山はルカオと木村が入ってからは彼らの強さとスピードを生かすようなダイレクトな攻撃を増やしていった。最終ラインからバイスが長く鋭いボールを供給し、手っ取り早く栃木の最終ラインを押し下げていく。

 この時間帯はオープンな展開ながら、両チームとも中盤での攻守の切り替えの速さと球際の強さが光った時間だった。67分には、中盤のスペースで前を向いた大島がイスマイラへスルーパス。イスマイラはフィジカルで柳を弾き飛ばしGKと1vs1になったが、ここはGKに上手く対応された。押されながらもカウンターを打てていただけに、この時間までに追加点を取り切れなかったことが結果に響いてしまった。

 

 オープンな展開からの守備局面が目立つなか、70分には西谷が高萩とポジションをチェンジ。時崎監督の「優希、ポジション変われ!」の指示は中継でも聞き取ることができ、事前に準備していた守備シフトだったのだろう。73分にはイスマイラと高萩を下げて宮崎と小堀を投入。前線にフレッシュな選手を入れて攻守にもう一度エネルギーを出したいところだったが、結果的にこの二手がペースを落とすきっかけになってしまった。

 前線に入った彼らは西谷が見せていたような鋭いプレスからチームの重心を押し上げるような働きを見せることはできなかった。相手の最終ラインに圧力をかけられずボールを持たれてしまうと、増えていく被ロングボールの局面でセカンドボール対応に追われる場面が頻発。[5-4-1]で構える時間が長くなり、カウンターに移行しても前線で宮崎が孤立した。

 そして81分にはPKからバイスに決められ同点に。高嶋にとっては厳しいPK判定となったが、この時間帯の劣勢ぶりを見る限り、失点は時間の問題だったと言わざるを得ないだろう。岡山が一方的に押し込む展開で前半から積極的な仕掛けを見せていた末吉にPKを与えてしまい、福島、ラファエルの投入による応急処置もわずかに間に合わなかった。

 最終盤は両チームにとってタフで厳しい時間帯だった。岡山が押し込む展開自体は変わらずも、アタッキングサードで精度を伴わせる余力はなく、栃木も自陣で塞き止めて時間が進むのを待つので精一杯だった。

 試合は1-1で終了。互いに勝ち点3を取り切れず、1ポイントを分け合う結果となった。

 

 

最後に

 今年の栃木が1得点で逃げ切れないことはデータにも表れている。ここまで記録したクリーンシートは9試合で、これはリーグワースト3位の成績。昨季の17試合(2位)、一昨季の13位(8位)と比べると明らかに今季は少ない。ウノゼロが今季わずか3勝のみということを考えれば、守り切るのではなく追加点を取らなければ勝利は遠いと言える。

 そうしたデータを踏まえれば、この試合はPKによる後味の悪さがどうしても残ってしまうものだが、やはり勝負どころで追加点を奪えなかったことが全てだったように思う。優勢に進めた前半やオープンな展開となった後半には試合を決め切れるチャンスはあった。決定力不足が露呈し、最後にそのツケを払わされる格好になってしまった。

 次節はイスマイラが出場停止となる上に、対戦相手は目下昇格争い中で堅守が売りの東京V。難しい試合になるに違いないが、ここ2試合で得た手応えはある。「終わり良ければ…」ではないが、良い形でシーズンを締めくくるためにも奮起する姿を見せてほしい。

 

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 ファジアーノ岡山

得点 55分 イスマイラ(栃木)

   82分 ヨルディ バイス(岡山)

主審 川俣秀

観客 10034人

会場 シティライトスタジアム