栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【良化を覆い隠す脆さ】J2 第11節 栃木SC vs 鹿児島ユナイテッドFC

スターティングメンバー

栃木SC 3-5-2 15位

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 前節は水戸との北関東ダービーで2-2のドロー。石田→南野のホットラインで一時逆転に成功するも、終盤は相手のPK失敗に命拾いした試合だった。前節からのスタメンの変更は2人。負傷した矢野に代わり前線には宮崎、最終ラインには平松に代わりラファエルが入った。ベンチの朴、井出はリーグ戦デビューの期待がかかる。

 

鹿児島ユナイテッドFC 4-2-3-1 16位

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 J3から昇格し、5年ぶりにJ2を戦う鹿児島。前々節まで5試合連続ノーゴールと得点力不足に悩まされたが、前節愛媛戦は退場者を出しながらも2点を追い付き、悪い流れを止めることができた。前節からの変更は4人。右サイドの西堂は初先発。藤本、井林のベテラン勢も久々の先発となった。ベンチには古巣対戦のGK大野哲煥が控える。

 

 

マッチレビュー

■反省を踏まえたアプローチ

 鹿児島にとって栃木はここ数年で最も因縁深い相手といえるだろう。両チームが前回対戦したのは2019シーズン。栃木21位、鹿児島20位で迎えた第33節残留争い直接対決で栃木が勝利をあげると、ここから驚異的な追い上げを開始。最終節でついに順位をひっくり返し、栃木が大逆転で残留を果たし、その裏で鹿児島は涙を飲むこととなった。両チームが相見えるのはそのシーズン以来となる。

 立ち上がりから主導権を握ったのは栃木。後ろからのビルドアップを軸に保持の時間を増やしていく。まずは鹿児島のブロックをしっかり引き出す狙いだっただろう。鹿児島がプレスに来なければ横への揺さぶりと左右CBの持ち運びでSHを誘き出す。そこからWBに預けてサイドの裏もしくは中央に楔を打ち込むプランだった。

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 後ろからのビルドアップは思った以上によく出来ていた。中央では奥田が浮いたポジションでボールを引き出し、宮崎は相手を背負って楔パスの壁になる。中央で起点を作れるため、IHに落として逆サイドに展開する流れはスムーズだった。最終ラインが保持した際のIHの立ち位置も適切で、CBも上手く内と外を使い分けて配球できていた。

 簡単に前にボールを蹴り出さなかったのはこうした保持の手順がしっかり準備されていたから。まずは後ろの数的優位をベースに相手を動かして空いたスペースを突いていく。若干慎重にも見える繋ぎだったが、 守備の時間が長かった前節の反省を踏まえて主体的にボールを握ろうとしていた印象だった。

 

 前節を踏まえたアプローチは守備面にも見ることができた。鹿児島のポゼッションはボランチの1枚が最終ラインに下りる3バック化が基本形。これに対して栃木はIHが列を上げてプレスをかけていく。水戸戦は3枚回しに対して2トップを維持したためプレスをかけきれなかったが、この日は対応が明確だった。蹴らせて回収することも多く、前記した攻撃面も含めて予想に反して栃木がボールを握る展開で試合は進んでいった。

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 栃木ペースで試合が進むなか、鹿児島が崩しの糸口にしていたのが内側に入るSB。栃木のプレスに対してIHの背中を取ったり、一度高い位置を取ってから下りることでCBを引き出そうという動きを見せていく。いずれも栃木のマンツーマンを逆手に取ろうとするもので、とりわけ大谷を釣り出した背後のスペースは有効活用されていた。スルーパスに抜け出した33分のシーンは鹿児島の狙いが顕著に現れたシーンといえるだろう。

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 それでも全体的には栃木が試合をコントロールしているように見えたが、先に均衡を破ったのはホームチームだった。中盤の球際勝負を制してCKを獲得すると、藤村のCKに頭で合わせたのはCB井林。団子状態が崩れたところで大谷がマークを剥がされてしまい、フリーでヘディングを許してしまった。

 早くも1点を追うこととなった栃木。先手を取られると慎重なポゼッションの意味合いも徐々に変わってくる。確かにボールを動かしてピッチを幅広く使えているのだが、肝心のゴール前での迫力がもの足りなかった。1タッチやスルーなどテンポを変えるプレーに欠け、鹿児島守備陣を慌てさせることができない。バイタルエリアに侵入できたのも序盤の奥田のシュートくらいで、サイドからのクロス以外に有効な攻め手を見つけることができなかった。もっとも時間とともに鹿児島も外からのクロスには慣れていった感があった。

 

■単調さが際立った後半

 後半栃木は南野と大島の左右を入れ替えてスタート。前半課題となった敵陣に入ってからの攻撃に修正を施すが、その効果が現れる前に2失点目を喫してしまう。50分、自陣でのビルドアップを狙われると、プレスを受けた藤谷がコントロールを誤り、ボールを奪われてそのまま失点。仕切り直しを図った立ち上がりという意味で非常に痛恨の失点だった。

 出鼻をくじかれた栃木だったが、その後は2点リードした鹿児島が引いたこともあり、ハーフタイムにテコ入れした攻撃を繰り出していく。

 前半との大きな違いはハーフスペースの奥、いわゆるポケットを使うこと。大外にボールが入ったタイミングでIHがポケットに走り出し、より深い位置で攻撃の起点を作っていく。IHの左右を入れ替えたのも狭いポケットでのプレーのしやすさを考慮したものだろう。利き足サイドであれば内側からの寄せに対して逆足でボールを隠すことができるし、クロスもスムーズに入れることができる。

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 高い位置を取ったWBからIHのポケット侵入という形は後半何度も作ることができた。ただ、どれだけ鹿児島ゴールを脅かすことが出来ていたかという点では前半同様もの足りなかったと言わざるを得ない。

 鹿児島は2点差をキープする戦いに完全にシフトしていた。前線にはンドカや圓道など個でやり切れる選手を投入し、カウンターリスクの少ない攻撃に割り切っていく。よって栃木は敵陣でのプレータイムそのものは増やせていたのだが、 鹿児島ブロックの外を回す繋ぎとシンプルなクロスに終始し、単調な攻撃がより際立ってしまった印象だった。

 83分にようやく南野の個人技からイスマイラの得点で一矢報いることができたが、こうした危険なエリアに入り込むプレーをもっと増やす必要があった。ポケットを切り裂いたことで得点が生まれたことは栃木にとって非常に示唆的である。その意味で井出の投入は遅かったし、相手を掻き回せる南野はピッチに残した方が相手にとって嫌だったように思う。

 最終盤に井出のクロスからラファエルが頭で合わせるもGKにゴールライン上で防がれると、これで万事休す。1-2で終了のホイッスルを迎え、栃木は5試合勝利から遠ざかることとなった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
ニアを抜かれた2失点目は痛恨。それでも3失点目は許さず、何とか試合を僅差勝負に持ち込んだ。

DF 5 大谷 尚輝
1失点目は相手のパワーヘッダーである井林にマークを剥がされた。地上戦ではインサイドのSBに釣り出され、背後を突かれるシーンが目立った。

DF 17 藤谷 匠
前半は機動力を生かした背後のケアで何度もチームを救ったが、後半立ち上がりに痛恨のコントロールミスから決勝点を許した。

DF 33 ラファエル
立ち位置が定まらず背後を取られた際の淡白な対応が気になった。相手を捉えた際の対人守備は相変わらず強かった。

MF 6 大森 渚生
低い位置でボールを受けて配球するだけでなく、自らドリブル突破するなど左サイドで個のクオリティの高さを見せた。

MF 7 石田 凌太郎
ここ最近の出来と比べるとやや低調なパフォーマンスだった。守備では福田の対応に手を焼き、攻撃ではクロスを味方に合わせることができなかった。

MF 19 大島 康樹
サイド展開の潤滑油となったが、逆サイドの南野と比べると攻守両面で物足りなかった。

MF 24 神戸 康輔
一つ前の宮崎、奥田でタメを作れていたため普段より保持の存在感は薄かった。神戸にはライン間への縦パスやスルーパスなど保持のテンポを変えるプレーを求めたい。

MF 42 南野 遥海
身体にキレがあり、攻守両面でハードワークを厭わなかった。60分には敵陣でボールを奪い、自ら放ったシュートがポスト直撃。83分には巧みな突破からイスマイラの得点をアシストした。

FW 15 奥田 晃也
後方からのパスの受け方が抜群に上手い。前に持ち出す際のヌルヌルっとした推進力は独特のものがある。

FW 32 宮崎 鴻
体幹の強さを遺憾無く発揮した。中盤に下りてのポスト受けや長いボールへの競り合いで何度も起点を作った。

FW 9 イスマイラ
今季初得点を記録。相手GKのミスを逃さず、打点の高いヘディングで流し込んだ。

FW 38 小堀 空
ロングカウンターとパワープレーのこぼれからミドルシュートを計2本。枠に収めたい。

MF 41 朴 勇志
リーグ戦初出場。何とか局面を打開しようという気概を見せたが、相手の守備に阻まれ、背後を突かれてクロスを許した。

MF 20 井出 真太郎
リーグ戦初出場。正確なクロスをラファエルに合わせた。

 

 

最後に

 ボールを握る時間を意図的に増やしたことで敵陣でのもの足りなさが際立った試合だったが、アプローチ自体は決して悪くなかったように思う。ボールを握ればその分失点のリスクは少なくなるし、守備に走らされての体力消耗を抑えることができる。ボールを握って損することはないというのは個人的によく考えることである。

 それだけにこのトライを我慢強く続けるためにもこの日のような安い失点は避けたい。2失点目のようにトライに根差したものならある意味納得できなくはないが、主導権を握ったなか一つのセットプレーから喫した1失点目は失敗以外の何ものでもない。いくら攻撃面でのアプローチが上手くいったとしても、こうした脆さをはらんだままでは中位への再浮上は難しい。開幕から続く最大の課題である。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.4.21 14:00K.O.
栃木SC 1-2 鹿児島ユナイテッドFC
得点 27分 井林 章(鹿児島)
   50分 福田  望久斗(鹿児島)
   83分 イスマイラ(栃木)
主審 俵 元希
観客 4545人
会場 白波スタジアム