栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【入念な準備に強度を上乗せした勝利】J2 第3節 栃木SC vs ヴァンフォーレ甲府

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] 20位

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 前節山形戦は新加入の奥田にゴールが生まれたが、前半のうちに失点を重ねて逆転負け。開幕戦に続き3失点を喫し、守備面の改善は急務である。前節からは福島と佐藤に代わってラファエルと神戸が初先発を飾り、高嶋と青島は初のメンバー入り。土肥は昨季前半に所属した古巣との対戦となった。

 

ヴァンフォーレ甲府 [4-2-3-1] 1位

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 開幕からのアウェイ2連戦を連勝し、首位でホーム開幕を迎える甲府。前節からスタメンを2人変更し、FC東京から新加入のアダイウトン佐藤和弘が初先発を飾った。 最終ラインのエドゥアルド マンシャはDFながら開幕から連続でゴールを記録している。

 

 

マッチレビュー

■前への勢いを生み出した仕組み

 今季初勝利を目指す栃木が対戦するのは開幕連勝で絶好のスタートを切った甲府。この時期の順位表にはあまり意味はないが、形の上では最下位vs首位のカードとなった。

 立ち上がりから良い入りを見せたのは栃木。積極的に甲府の最終ラインの背後に長いボールを入れ、そこへ矢野を頂点に多くの選手が絡んでいく。マイボールにできなくても素早く守備に切り替えることで、なるべく敵陣でプレータイムを増やしたい意図が窺えた。試合前のコイントスで風上を選択したのもそうした前への勢いを出しやすくするためだろう。ホームの勢いに飲まれる前に強烈なプレッシャーをかける、言わば奇襲的な立ち上がりだった。

 これが早い時間に功を奏する。10分、大森からのロングボールのセカンドボールを回収すると、左サイドに流れた奥田が対峙した相手を上手くかわして右足でクロスを供給。風に乗ったボールは甲府DF陣の頭を越え、大島が見事なバックヘッドでゴールに流し込んだ。

 このシーン、マイボールのきっかけとなったのは相手SBに対する小堀のプレスであり、ラファエル・藤谷の出足の良い迎撃守備である。得点シーン以外にもチーム全体でハイプレスがしっかりと整備されており、とりわけボールサイドと逆のCBの立ち位置はトレーニングで仕込んできたことが窺えるものだった。

 多くの場面で見られたが、例えば14分のシーンは顕著。栃木の左サイド、甲府の右サイドで攻防が繰り広げられるなか、右CBのラファエルは一列前に立ち位置を上げている。この時のラファエルの役割は甲府の2列目を高い位置で潰すこととセカンドボール争いにより絡むこと。そして一番の狙いは神戸をアンカーから解放し、前へプレスに行かせることだった。左CB藤谷も同様で、神戸に後ろを気にさせず前へ押し出す守備構造になっていた。

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 甲府はこれに苦戦。足元で繋ぐ余裕がなく、苦し紛れの長いボールで回避する場面が増えていく。出し手を見定めて待ち受けられる栃木のDF陣はこれを大きく弾き返し、ルーズボールには神戸を中心に目を光らせることで厳しく対応することができていた。これぞ求めていた強度の高い守備だった。

 甲府が息ができたのは後ろからの長いボールをアダイウトンが独力で収めた時くらいだったが、そこからの攻撃はどれも迫力があった。重戦車のように自らドリブル突破するだけでなく、クロスへの力強い合わせやシュート力はJ2では規格外。個のクオリティで流れを引き戻しにかかったが、そこに何度も立ちはだかったのはGK丹野。ビッグセーブを連発し甲府の決定機を次々と封じていった。

 ただ、セットプレーを中心に甲府の猛攻に曝され続けると、CKのセカンドプレーからPKを献上。神戸が死角から飛び込む選手を倒してしまうアンラッキーなPK献上だった。これをアダイウトンが決めて、甲府が前半のうちに試合を振り出しに戻すことに成功した。

 栃木にとってはここまでハイプレスから蹴らせて回収する好循環を生み出せていたが、失点に繋がるCKの場面では相手SBに簡単に前進を許してしまった。2トップのみが守備に走り、全体の繋がりが希薄だった。失点後は再びスイッチを入れ直し、アダイウトンにも厳しく対応することで決定機を作られることはなかったが、まさに少しの隙が命取りとなった失点といえるだろう。

 

■隙を突き、隙を与えない

 後半、風上の甲府はボールの動かし方を工夫。SHがやや低めの立ち位置を取ることで栃木のWBを引き出し、そのスペースにFWが流れたり、スイッチしたSBが入り込むことで前向きの選手を作っていく。足元の繋ぎをことごとく引っかけられた反省から少ないタッチ数でテンポ良く前進することが多かった。

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 対する栃木はプレスの開始位置をミドルゾーンに下げてじっくり中央を消すことで応戦。サイドに追い込み後ろに下げたところにプレスを連動させていく。決して後ろに重いわけではなかったが、神戸はなるべく持ち場を離れず、前半よく見られたボールサイドと逆のCBが中盤化するほどの前傾姿勢はあまり見られなかった。

 栃木は長いボールのセカンドボールだったり、相手の繋ぎを最終ラインの手前で塞き止めてカウンターを発動したりと、ピッチ中央から縦に速くボールを進めていく。そこから石田に広げてのクロスや被ファールによるFKなど、ダイレクトに前へボールを届けていくことが多かった。

 いずれにしても縦に縦に攻めながら最後は空いたサイドを活用してゴールに迫っていた栃木だが、唯一その例外となったのが76分、追加点のシーンだった。中盤のルーズボール争いから神戸がスルスルと持ち出すと、中央での繋ぎから奥田が右の石田ではなく前の宮崎を選択。危険な場所にボールを送り込むことでゴールを引き寄せることに成功した。

 甲府は外国籍アタッカー3人に加えて鳥海が中央でアクセントを加えることでゴールへの迫力をアップ。しかし、ゴール前では栃木も粘りの守備で対抗。中盤では神戸のセカンドボールへの予測が冴え渡り、マイボールの時間をそれなりに確保できたことから防戦一方にならずに済んだ。

 それでも最終盤は甲府の猛攻に耐える展開を強いられたが、高い集中力でボールに先に触れるなど際の局面で上回ったことで目立った決定機は作られず。僅差で競り勝った栃木は今季初勝利を飾ることに成功した。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
甲府の決定的なシュートに対してビッグセーブを連発。まさに「当たっていた」試合だった。 

DF 2 平松 航
甲府の屈強なFW陣に対して怯むことなく厳しく対応した。16分のシュートブロックの場面ではカットインする相手に粘り強く着いていき、前節の3失点目の課題を払拭した。

DF 17 藤谷 匠
積極的な前向き守備が功を奏し、先制点の起点となった。25分には逆サイドから流れたボールに身を投げ出してシュートブロックした。

DF 33 ラファエル
初先発を感じさせない安定感で、相手の外国籍アタッカーに厳しく対応した。高いボールへの処理も冷静だった。

MF 6 大森 渚生
素早くリリースする戦術だったため、深い位置からクロスを上げる場面は少なかった。粘り強い守備で甲府の右サイドからは自由にクロスを上げさせなかった。

MF 7 石田 凌太郎
アダイウトンとのマッチアップは負荷が大きかったと思うが、後半は隙を突いた攻撃参加から何度かクロスを上げきった。シュートブロックに身を投げ出すなど守備貢献も大きかった。

MF 19 大島 康樹
絶妙な動き出しと巧みなバックヘッドで先制点をマークした。中央攻撃における奥田との関係性は試合ごとに向上しているように見える。

MF 24 神戸 康輔
前節同様に積極的な守備でチーム全体の矢印を前へ向けた。PK献上こそアンラッキーだったが、セカンドボールへの予測や寄せの強度は素晴らしく、保持の局面でも存在感を発揮。決勝点の起点にもなった。絶大なインパクトを残したバースデー勝利となった。

MF 38 小堀 空
決定機に多く顔を出し、チーム最多のシュート数を記録したが得点が遠かった。プレスの出足も良く、相手SBに蹴り出させる場面も多かった。

FW 15 奥田 晃也
前と後ろを繋ぐフリーマン的な役割で甲府の守備を混乱させた。この日の2得点をともにアシストするなど今や栃木の攻撃には不可欠な存在になっている。

FW 29 矢野 貴章
最前線から攻守に奮闘し、前へのベクトルを後ろの味方に示した。分の悪いルーズボールにも最後まで諦めずに寄せたことで相手の処理ミスを誘発したシーンもあった。

FW 32 宮崎 鴻
身体の強さを遺憾無く発揮。決勝点は相手をブロックしながら利き足ではない左足でねじ込んだ。

MF 10 森 俊貴
ここ2試合はIH起用。身体の無理が利き、推進力を兼ね備えていることを考えると、WBよりもIHの方が適任かもしれない。

MF 42 南野 遥海
リード後の投入だったため攻撃の場面は少なかったが、短い時間で最低限の守備貢献を見せた。

 

 

最後に

 山形戦の後半に得たヒントを余すことなく発揮できたと言えるだろう。前へ前へ圧力をかけ、セカンドボール、球際、1vs1、シュートブロック…、戦術では測れない全ての部分で甲府を上回り、押し込まれても高い集中力でボールを弾き続けた。これが求めていた守備のベースであり、最低限維持しなければならないラインである。

 一方、そうした守備を発揮できたのも準備してきた戦術による影響が大きい。前節は中盤ダイヤモンド型の4バック、今節はボールサイドと逆のCBを押し出す変則的な3⇔4バックを採用し、前へのベクトルを生み出しやすい形を整備した。

 スタッフ陣の入念な準備があり、そこにピッチ上の選手が際の強度を上乗せした。チーム全体で掴んだこの勝利は新生栃木の第一歩目として非常に価値あるものになったことに違いないだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.3.9 14:00K.O.
栃木SC 2-1 ヴァンフォーレ甲府
得点 11分 大島 康樹(栃木)
           40分 アダイウトン甲府
           76分 宮崎 鴻(栃木)
主審 野堀 桂佑
観客 9476人
会場 JITリサイクルインクスタジアム