栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【いま一度自分たちを見つめ直す時】J2 第36節 栃木SC vs ロアッソ熊本

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 13位

 前節千葉戦は数的優位ながら同点で迎えた終了間際に失点を許し、ダメージの残る敗戦を喫した栃木。アウェイ熊本に乗り込む今節は結果で仕切り直しを図りたい一戦となる。

 前節からのスタメンの変更は3人。代表活動でチームを離れている藤田に代わり、GKには川田が久々に先発。佐藤祥は6試合ぶり、前節PK獲得の活躍を見せた矢野は14試合ぶりに先発を飾り、西谷優希は出場停止以外では今季初めてメンバー外となった。

 

ロアッソ熊本 [3-3-1-3] 18位

 前節は大宮との直接対決を制し、14試合ぶりに勝利を飾った熊本。長いトンネルから抜け出し、次は降格圏との勝ち点差を広げるべく遠ざかっているホーム戦勝利を目指す。

 勝利した大宮戦からは1人を変更。ドリブルで存在感を見せていた島村がメンバーを外れ、右サイドには東山が入った。負傷離脱していた平川は当初の予定よりも早くベンチに復帰した。

 

 

失点によりリズムを崩す

 試合開始から積極的な入りを見せたのはアウェイの栃木。前線から連動してプレスをかけていき、次々と熊本のボールホルダーへ襲いかかっていく。前節千葉戦はイスマイラがアンカーを背中で消し、シャドーがCBに寄せる仕組みだったが、この日は1トップ2シャドーがそのまま熊本の3バックに寄せる形。システムが噛み合うことからプレスの出足は速く、イスマイラが自らスイッチを入れる場面も多かった。

 その分、1トップ2シャドーの背中でフリーになるアンカー上村に対しては神戸が列を上げて対応。上村が栃木の左サイドに寄らない限りは神戸がプレスをかけていたことから、佐藤祥との役割はきっちり分担されているようだった。

 立ち上がりの3分には、バックパスに対してイスマイラが果敢なプレッシングから相手GK田代の処理ミスを誘発。イスマイラや神戸が通常の守備位置からプレスのラインを一つ上げることで熊本は明らかに後ろでの繋ぎに手を焼いていた。前節も立ち上がりのプレスから序盤のペースを握ったが、この日はそれ以上だった。

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 守備の出来は攻撃にも上手く繋げることができていた。イスマイラや矢野のポストプレーを軸に長いボールを前線で収めると、サイドに開き、ペナルティエリア内に供給。序盤はこの一連の流れがよくできていた。特に右サイドからは福島の上がりを囮に使った石田が鋭いボールを入れるなど、厚みのあるサイド攻撃が目立っていた。

 17分には栃木に決定機。福島のロングボールを矢野が落とすと、イスマイラが長い脚を生かしてゴール前に侵入。至近距離からのシュートはGK田代のビッグセーブに遭うも、こぼれ球に反応した大島がシュート。しかしこれはクロスバーを直撃。絶好機を逃した栃木だったが、ここまでの試合展開からも先制点は時間の問題のようにも思えた。

 

 しかし、試合は意外な形で均衡が崩れることとなる。23分、何気ないCKでの守備対応の場面。矢野のクリアが平松の背中に当たると、跳ね返ったボールがそのままゴール方向へ。予想外のボールにGK川田は反応できず、アンラッキーな形から熊本に先手を許してしまった。

 熊本からすればここまでほとんど攻撃を組み立てることができず、シュートも0本だっただけに貴重な先制点だった。どんな形であれ先制点はチームの気持ちを楽にしてくれる。ここから熊本はボールの回りが良くなり、武器とする子気味良いパスワークから栃木のゴールに迫っていく。

 そのなかで栃木が手を焼いたのはトップ下の伊東だった。伊東は栃木の最終ラインの手前でファジーなポジションを取りつつ、トップの粟飯原が平松とマッチアップしていれば、2列目から一気に前線に飛び出していく。1失点目に繋がるCK獲得の起点となったのも伊東であり、栃木にとっては捕まえにくい存在となっていた。

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 それに加え、熊本は右サイドから東山、左サイドからは松岡や竹本が代わる代わる中央に潜り込んでいくことで、栃木のボランチの周辺に選手を多く配置。栃木は中央の受け手に対して処理が追い付かず、リアクションによる守備ではCBの潰しもあまり機能しなかった。WBは最終ラインに吸収されがちで、シャドーのカバーリングも中途半端だった。

 [5-2-3]で組む分、シャドーの埋め遅れはやむを得ないという考え方もできるが、ピッチ中央でこれだけ混乱に陥っていたことを考えれば、ここははっきり[5-4-1]で耐える時間と割り切る判断も必要だったように思う。

 2失点目に繋がるFK献上は、石田の迎撃が遅れたところから。このシーンでは福島のカバーリングで石田が右CBの位置に入っており、前へのアプローチが遅れたことからファールの判定となってしまった。粟飯原のFKはノーチャンスだったが、その起点となったのはまたしても伊東であった。

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 2失点後も中盤の守備問題は健在。栃木のプレスに時間とともに慣れていった熊本がひらりとかわしながら繋いでいく。栃木はファールで止めれば、その都度後ろにセットして陣形を組み直さなければならないため、重心をなかなか前に上げられない。

 また、攻撃時も全体のコンパクトさを著しく欠いていた。後ろの選手は2点を追う展開では組み立てに確実性を求めたかったのだろう。36分のように繋いでサイドから前進しようとし、それが詰まって結局はロングボールに終わるシーンが目についた。こうした場面のロングボールは追い込まれて蹴らされるもののため、ボール自体の精度も受け手の準備も、セカンドボールへの備えも不十分になる。

 そうした状況を踏まえて40分を過ぎたあたりからは、全体をコンパクトにするようにGK川田が意識的にボールを捕球していたように見えた。ノーチャンスとはいえ、自身に回ってきた出番で早々に2失点。その悔しさを一旦落ち着かせてチームに冷静さを取り戻させようとしていた姿は印象的だった。

 

 

局面の強度不足

 後半は再び栃木がプレスをかける展開で開始。早々に熊本の左サイドからのクロスと見せかけたシュートに冷や汗をかかされたが、それ以降はプレッシャーをかけて長いボールを蹴らせたり、佐藤祥を中心にセカンドボールに目を光らせることで、前半終盤よりも前への意識を持って守備をすることができていた。

 それだけに気になったのが、守備の局面で時折見せた強度不足である。栃木がハイプレスをかける分、熊本は長いボールを増やしていくのだが、受け手となる粟飯原とのマッチアップで平松が苦戦。入ってくるボールを大きく弾き返すことができず、対応に時間をかけている間にサポートの選手が間に合ってしまい、その落としから許した前進が多かった。

 守備の強度不足という点では、3失点目も同様。右サイドでの守備で追い込めたかと思いきや、間を割られて突破されてしまい、最後は左サイドからほぼノープレッシャーでクロスを上げる余裕を与えている。守備の距離感は良くなったものの、個々の寄せの強度が足りず、全体として守備の緩さがペースを取り戻せない要因となっていた。

 

 後半の栃木は攻撃でもやり切れないシーンが多かった。サイドにボールが渡った展開でそこに関わる選手が少なく、受け手が常に相手を剥がさないといけないシーンが頻発。石田から斜めのパスを受けた大島が相手の迎撃によってロストしたシーンが代表例。大島は直後に交代によってピッチを退いているが、少し可哀想な采配だったようにも思う。

 56分には、石田と神戸がイスマイラへ立て続けにクロスを上げるも、どちらも熊本のCB江崎に手前でカットされてしまい、ボールを届けることができず。そのまま粟飯原にボールが渡ると、そこへ寄せた平松が堪らずファールで止めるシーンがあったが、その一連の流れは後半立ち上がりの攻守の課題を象徴するようなシーンだったと言えるだろう。

 

 3失点目を喫してからは宮崎を投入し、前線に長身選手を並べることで割り切ったロングボール戦術にシフト。こうした展開で気になるのはやはりターゲットが3枚になることで攻撃に迫力は出るが、そこまでどうやってボールを運ぶかという問題である。イスマイラが両サイドを中継してチャンスメイクすることも多く、その結果クロスに対するポジション取りが間に合わないのはもったいなかった。やはり前線と中盤、サイドを繋ぐ存在として大島や矢野の存在は必要なように思う。

 レアンドロペレイラを投入して以降の栃木は3トップのうち2枚ないしは3枚を前残りさせる攻撃的な姿勢を押し出していく。しかし、熊本も粘りの守備で対抗。栃木の長身選手に対して身体を寄せることで十分に競らせず、栃木のロングボール攻撃を次々と無力化していった。栃木は攻めている割にセットプレーを奪うこともできなかった点はパワープレーにおける今後の課題と言えるだろう。

 試合はこのまま0-3で終了。栃木は前節に続き得点を挙げられず痛恨の2連敗。熊本は連勝を飾り、降格圏との勝ち点差を広げることに成功した。

 

 

最後に

 今季指折りの不甲斐ない試合だったように思う。サッカーは得点の多く入らないスポーツだからこそ、一つ一つのプレーに対して細部まで拘らなければならないし、難しい状況に対してメンタルを強く保たなければならない。それを考えれば、失点以降に見せた姿勢はこれまで栃木が積み上げてきた全員が繋がりをもってプレーすることの正反対をいっていたように思うし、個人的には今季最多の3失点を喫したこと以上に残念であった。

 プレーオフ圏からも降格圏からも距離がある現状はどうしてもテンションを最大値に保つことは難しいだろう。ただ、そうした状況だからこそ自分たちがこれまで何を武器に戦ってきたのか、今季のフィニッシュに向けて、これからに向けて見つめ直す必要があるように思う。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-3 ロアッソ熊本

得点 23分 オウンゴール(熊本)

   33分 粟飯原尚平(熊本)

   59分 大本祐槻(熊本)

主審 松本大

観客 5491人

会場 えがお健康スタジアム