栃木SCのことをより考えるブログ

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【結果にこだわり、掴んだ初の連勝】J2 第34節 栃木SC vs FC町田ゼルビア

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 13位

 前節は藤枝に2-0で快勝し、今季9勝目を挙げた栃木。イスマイラが前半の飲水タイムまでに2得点を挙げる活躍を見せ、守備では5試合ぶりにクリーンシートを達成した。今季初の連勝を目指し、9回目のチャレンジとなる。

 前節からはスタメン、サブともに変更なし。前回対戦で得点した宮崎が前線に入り、神戸は3試合連続の先発となった。GK藤田はこの試合の後から代表活動のため離脱となる。

 

FC町田ゼルビア [4-2-3-1] 1位

 独走状態をキープし、悲願のJ1昇格が少しずつ見えてきた町田。代表ウィークで迎える今節は世代別代表で藤尾と平河が、豪州代表でミッチェル デュークがチームを離れており、負傷中のエリキも含めて、前線のやり繰りに注目が集まる。

 そのなかで最前線を張ったのは4日前に加入が発表されたばかりのアデミウソン横浜FMG大阪でプレーした実績十分のブラジル人FWがいかに穴を埋められるか。町田にとっては正念場の試合となる。

 

 

焦点は最終ラインの表と裏

 試合前のアライバルインタビューでは、町田のアタッカー陣の不在を踏まえた上で「自分たち次第」という言葉を強調した時崎監督。相手どうこうではなく自分たちに矢印を向けて、やるべきことをどれだけ徹底できるか。ここ最近の出来を首位相手に測る意味合いの強い試合となった。

 立ち上がりの主導権を握ったのはホームの町田。まずは得意のロングボールとロングスローから敵陣でのプレータイムを増やしていく。町田は栃木の3バックの脇に長いボールを入れることが多く、サイドアタッカーの特徴から特に右サイドのバスケスバイロンが大森の背後を狙うことが多かった。

 自陣からの繋ぎも同様。栃木のプレスを引き出しつつ最終的には背後へのボールを第一の選択肢とする。後ろに多くの選手を割くことで栃木のプレスを剥がしつつ、中盤のスペースに顔を出した高橋がバスケスバイロンにスルーパスを出した6分のシーンのように、町田は徹底してサイドの背後を狙っていた。

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 このシーンでは福島のスライドによってアデミウソンを封じることができたため大事には至らなかったが、後方が数的同数であり割と危険なシーンではあった。もっともハイプレスの代償と考えれば仕方ない現象ではあったが、それ以上に栃木にとって悩ましかったのはプレスのスタート位置を下げても町田の背後狙いを牽制することができなかったことだった。

 ミドルゾーンで構えるときの栃木は相手CBのボール保持は許容しつつも、縦に入れてきたボールに対しては厳しくアプローチするのが基本路線。縦を切ることで下げさせたボールにプレスを連動させるのが狙いだったが、町田の4バック+2ボランチを中心とする人数をかけた繋ぎに的を絞れず、フリーな選手を作られて前進を許すことが多かった。

 町田は3列目から松井が飛び出してくるなどチーム全体で背後への意識が高く、それを意識して最終ラインが迎撃を躊躇えば今度はボランチ脇を使われてしまう。最終ラインの表と裏の守備対応で後手を踏み、序盤はあまり良くない守備のリズムに陥っていた印象だった。

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 前で制限をかけられない栃木は[5-2-3]ないしは[5-4-1]でブロックを構える時間が増えていく。ボール奪取位置が低くなったことでショートカウンターに移行できたシーンはほとんどなかったが、それでもロングボールからそれなりにチャンスを作ることができた点はここ最近の強みを最大限に発揮できたといえるだろう。

 町田の屈強なCBを相手にしてもターゲットのイスマイラと宮崎は存在感を示すことができていた。彼らに加えて大島を含めた3トップは距離感が良く、前節よりも3人の関係性からフィニッシュに持ち込むシーンは増加。プレスのスタート位置を低めに設定しているのも、この3人ならロングボールでもある程度やり切れてしまうという計算が立っているからだろう。

 飲水タイム以降は監督からの指示もあってか最終ラインの前向きの守備が復活。ボランチ脇で起点を作ろうとする高橋や安井、下りて縦パスの受け手になろうとするアデミウソンに対して最終ラインから迎撃守備をぶつけていく。それを見た町田はさらに背後への狙いを強めていくが、栃木は左右CBのパフォーマンスが良く、ライン間と背後への対応を両立することができていた。

 守備が安定したことで攻撃への移行もスムーズにできるように。左サイドへの展開は技術的なミスから何度か不意にしてしまったものの、押し込むことができれば福森と大森による左サイドは高いパフォーマンスを安定して発揮することができていた。前半終わり際にそれぞれ大島と西谷が合わせたシーンはともに左サイドのクロスから。イスマイラ、宮崎にマークが集中したことで訪れたチャンスシーンだった。

 

 

最後の局面で凌げればいい

 町田はハーフタイムに選手交代を敢行。半ばぶっつけ本番だったアデミウソンを下げて荒木を投入し後半を迎える。

 やはり調整不足だったアデミウソンに比べて荒木が投入された後半の方が町田のチームとしての機能性は高かったように思う。荒木は背後への動き出しやポジションの取り直しが的確で、栃木の最終ラインと積極的に駆け引きを繰り返していた。足元で受けたがるアデミウソンよりも栃木にとっては厄介な存在だった。

 そうした展開ながら先制点を手にしたのは栃木だった。右サイドから福島のクロスをペナルティエリア内で大島が落とすと、手前で受けた宮崎がドリブル開始。右サイドのポケットに侵入して折り返すと、これが相手DFに当たりゴールマウスに吸い込まれた。記録はオウンゴールとなったが、前半から狙いとしていた3トップの距離感の良さが結果に結びついたシーンだった。

 1点をリードした栃木はここから町田の攻撃に耐える時間が増えていく。町田は前半同様バスケスバイロンが背後へのアクションを積極的に見せつつ、広がったライン間にトップ下の高橋が流れることで右サイドから分厚い攻撃を敢行。54分にはバスケスバイロンのクロスから松井に至近距離で決定的なシュートを放たれたが、GK藤田の超反応で何とか乗り切った。

 栃木も宮崎や大島、時には西谷がプレスのスイッチを入れて前向きの守備から押し返そうとするが、一度下がった重心を押し上げる難易度は高く、連動性を欠いたプレスが目立つように。自陣低い位置からのクリアもイスマイラ単独では収め切れず、陣地を挽回する術のない栃木は苦しい時間を過ごすこととなった。

 

 後半の飲水タイムが明けると、町田は選手交代により立ち位置を変えて攻撃的な布陣にシフト。後ろの人数を減らし、WBにそれぞれバスケスバイロンと沼田駿也を配置する[3-1-4-2]に変更し、前線の枚数を増やしていく。

 町田のシステム変更は栃木の[5-2-3]を骨格から殴るようなものだった。IHに移った荒木と安井はそれぞれ栃木のボランチ脇を主戦場とし、栃木の3トップの背中でサイドに流れながらボールを引き出す。栃木は2ボランチのスライドでは横幅をカバーし切れず、また、高橋もボランチにスライドを躊躇させるような嫌らしい立ち位置で動きを牽制。中盤の守備にCBが加勢すればその背後を中島が狙うといった仕組みで栃木のブロックを攻略していった。

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 自陣に閉じ込められる栃木と一方的に攻め込む町田の構図で試合は終盤に入っていくが、栃木も最後の局面では身体を張った守備で対抗。両サイドから量産されたクロスもペナルティエリア内では栃木の選手が先に触り、バイタルエリアからのミドルシュートもシュートコースの正面に入ってGKまで届かせなかった。大島や福森が足を吊るなど体力的にタフな終盤だったが、最後まで足を止めずにゴールマウスに鍵をかけた。

 終盤は途中出場した矢野や吉田が中心となって敵陣でボールをキープすることでセーフティーに時計の針を進めていく。最終盤に入ってからの町田は本職CBの藤原を前線起用するなどなりふり構わない采配を見せたが、焦りからか肝心のクロス精度を低調だった。

 試合はオウンゴールによる1得点を守りきった栃木が勝利。苦手のアウェイゲームで首位町田を撃破し、34節にしてようやく今季初の連勝を達成した。

 

 

最後に

 町田はやはり主力が軒並み欠場した影響が大きかったように思う。普段ならデュークと藤尾の2トップで戦うところを1トップにせざるを得ず、下田や高橋の起用で保持からチャンスを窺ったが、最後の局面でフィニッシャーがいなかった。前線の個のクオリティの高さを強みにしてきたチームにとっては厳しい敗戦となった。

 そうした町田の事情は考慮しなければならないが、首位を相手に結果にこだわった戦いを貫き、遂行できたことは間違いなく今後の自信に繋がるだろう。藤田がビッグセーブしたシーン以外は決定機を作らせることなく、課題の試合終盤も危なげなく乗り切ることができた。前線の選手が守備に走り、後ろの選手は得点の起点となる。5試合負けなしのチームは好循環の最中にいると言っていいだろう。

 これで順位は12位に浮上。下位グループの先頭に立ち、降格圏よりもプレーオフ圏の方が勝ち点差で近い状況となった。次節対戦する千葉は後半戦で最も勢いがあるチームであり、栃木がさらに上に食い込めるか力を試すのには打って付けの相手と言えるだろう。この日見せた結果にこだわる姿勢を発揮し、昨季は達成できなかった3連勝といきたいところだ。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-0 FC町田ゼルビア

得点 54分 オウンゴール(栃木)

主審 吉田哲朗

観客 5577人

会場 町田GIONスタジアム