栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【組織としての機能性】J2 第32節 栃木SC vs 水戸ホーリーホック

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 15位

 前節長崎戦は根本と大島に2試合連続ゴールが生まれ、鬼門攻略を達成した栃木。順位は15位まで浮上し、今季初の連勝を目指すホームゲームとなる。

 前節からのスタメンの変更は2人。右WBは黒﨑に代わって石田、左IHは小堀に代わって大島が入った。石田は加入後初先発。出場停止明けの佐藤祥はベンチスタートとなり、前節久々の出場となった神戸が継続してスタメンとなった。

 

水戸ホーリーホック [4-4-2] 16位

 第26節山形戦に勝利して以降、5試合連続でドローとなっている水戸。直近2試合は先行しながらも追い付かれる試合が続いており、終盤の試合運びに課題を抱えている印象である。

 今節は中盤の武田英寿が出場停止。栃木との前回対戦では左足のFKから存在感を見せたが、この日は前田が入ることに。その前回対戦で負傷離脱することとなった大崎は3ヵ月ぶりの戦列復帰となった。

 

 

守備の意思疎通のズレ

 長崎戦は相手に退場者が出たことで薄れがちだが、それまでの時間帯における課題は全体のプレス連動だった。

 前半は根本とイスマイラの2トップと左IH⇔トップ下を行き来する小堀の3人による前線守備がハマらず、彼らの背中で相手ボランチをフリーにする場面が散見。後半はイスマイラにボランチを監視させ、根本と小堀が横並びで相手CBを見るようにしたことで全体の強度が上がったが、相手が早々に退場したこともあり、機能性を十分に吟味することはできなかった。

 山田雄士がチームを去り、イスマイラをトップに据えるなかで、どのように前からの守備を機能させていくか。栃木にとっては一週間のトレーニングを経て再構築してきた守備を確認する意味合いの強い試合になったといえるだろう。ホームでのダービーマッチという舞台装置も整い、栃木は強気にプレッシャーをかけるスタンスで試合に入っていった。

 この日の栃木の守備プランは長崎戦の後半を踏襲したものだった。イスマイラが背中でボランチをケアしつつ、根本と大島が相手CBを見るのが基本路線。ボランチに対するイスマイラのプレスバックが目立ったのはこのためだろう。理想は13分のようにWB福森のプレスで縦を切り、中央へおびき寄せたところを狙い撃ちする。ボランチも前に出て相手を囲い込みショートカウンターに移行するイメージだった。

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 しかし、これが上手くいったのは数える程度だった。水戸は後方での繋ぎと前線への長いボールの使い分けが巧みで、栃木は守備の狙いどころを定めることができず。8分に根本の3試合連続となるゴールで先制してからも全体的に流れは良くなかった。

 そのなかでも手を焼いたのが前線を目掛けたロングボールである。水戸は2トップを中心に栃木の最終ラインの背後を狙うアクションが多く、とりわけ寺沼は体格的に勝算の高い大森とのマッチアップを狙って右サイドに流れることが多かった。最終ラインが大きく弾き返せれば少しは違かったと思うが、水戸の勢いに気圧されてしまい陣地回復に苦戦。重心を押し上げられずにいると、次第に根本と大島もポジションを下げて[5-2-3]で組む時間が増えていった。

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 それでも[5-2-3]を組んでからのブロックの機能性は悪くなかったように思う。根本のアクシデントにより矢野に代わってからは、守備で計算の立つ二人がシャドーに入ったことで簡単に中盤を使われる場面は減少。中央に入ってくるボールに対しては最終ラインが出足よく迎撃することができていた。

 地上戦を封じられた水戸は寺沼への長いボールに活路を見出そうとするが、栃木も集中した守備でシュートまではやらせない。水戸の鋭いプレスもあり攻撃への移行はそれほどできなかったものの、38分に西谷が腰を痛めてからは1点のリードでハーフタイムを迎えられれば御の字に思えた。

 それだけに失点シーンは軌道に乗ったかに思えたブロックが二度崩されたという点で悔やまれるものだった。

 まずはイスマイラのプレスが単騎プレスになってしまったこと。大島は初め中央圧縮するためにボランチをケアしているが、水戸の右SBにボールが渡ったタイミングで後方からは福森が連動できていない。これを受けて大島が立ち位置を下げると、今度は中央へのパスコースが開通し、最終的に水戸のボランチ前田が前を向ける状態になってしまった。そもそもイスマイラがプレスをかける必要があったのか、チーム全体の意思疎通が不十分だったと言わざるを得ないだろう。

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 次に[5-4-1]ブロックを組んだなかで中央を割られたこと。上記の流れで水戸のボランチ前田に前を向かれると、栃木は神戸がアプローチしているが、神戸が開けたスペースに入り込む鵜木に対して大島の絞りも最終ラインの迎撃も甘い。もちろん最後の局面で西谷が十分に寄せ切れなかったことも影響していると思うが、それ以上にライン間でプレーさせる余裕を与えた点は痛恨だった。

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課題を覆い隠したラスト

 後半に入ってからも基本的には前半同様の展開で進んでいくが、一つ改善が見られたのは栃木の繋ぎにおいてボランチが存在感を発揮できるようになったことである。

 神戸はアンカーとして顔を出しながら最終ラインからボールを引き出し、佐藤祥は強みの球際勝負からマイボールにする。彼らに加えて中央CB平松がボールを左右に散らすことで、石田の縦突破や福森のカットインなど前半少なかった形が見られるようになった。

 57分の一連の流れは栃木のやりたい形が詰まっていたといえるだろう。平松から石田へフィードを入れると、石田は上手くコントロールし中央へ侵入。イスマイラ→大島と経由し、今度は左サイドの福森までボールが渡ると、仕掛けからのクロスは相手DFに当たりCKとなった。ピッチ幅を広く使い、一気に進めた展開からピッチを横断してゴールに迫る、[4-4-2]攻略としては理想的な攻撃だった。

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 対する水戸も右SB村田が低い位置取りで栃木のプレスを引き伸ばし、長いボールで背後のスペースを取りにいく。得点シーンにもあったように、押し込んだ展開では中央に人数を集めたコンビネーションプレーからゴールに迫っていく。寺沼への対応はそれほど悪くなかったものの、ボールの引き出し方やターンの仕方、ボールを収める身体の使い方などで、安藤や小原には苦戦した。

 一進一退の展開で進みながらも、クロスやシュートの本数など、アタッキングサードに入ったときの迫力では水戸の方が上回っていたといえるだろう。栃木は攻撃をやり切るシーンが少なく、後半の飲水タイムを迎えるまではシュート本数で大きく差をつけられた。イスマイラと前半スクランブル投入された矢野の関係性はまだまだといった印象で、思うように攻撃を構築することができなかった。

 後半は時間の経過とともに水戸が主導権を握る展開になったといえるだろう。後半の栃木は長いボールをシンプルに前線に当てることが多く、立ち上がり見られたボランチを経由しての展開が減少。速く攻めればその分ボールも速く返ってくる。攻撃が単発化していくなかで徐々に水戸の攻撃に耐える時間が増えていった。水戸の逆転弾はそうした展開をコントロールできない時間に喫したものだった。

 勝ち越しを許した栃木はここでレアンドロペレイラが栃木デビューを飾る。ペレイラはイスマイラと横並びで2トップを組み、矢野がその下でサポート役に。ここから栃木はなりふり構わずロングボールを入れていく。

 この時間帯の水戸で言えば、リードしたこともあってか彼ららしくない慎重なプレーが多かったような印象である。もちろん栃木の3トップに押された影響はあると思うが、ボールホルダーへの圧力は少なく、交代選手も含めてカウンターに出ていく迫力は見られなかった。追い付かれてのドローが続いている現状もそうした姿勢を招いたといえるだろう。

 それもあってか、栃木はWBがあまり守備を気にすることなくどんどん前へ仕掛けることができた。次々にクロスを供給し、CKやロングスローなどセットプレーからゴールに迫っていく。積極的な仕掛けから自軍のサポーターを煽る石田によってスタジアムのテンションが上がっていくと、終了間際に大仕事を成し遂げたのはその石田だった。

 後半AT3分、パワープレーのこぼれ球を拾った石田がクロスを上げると、一度は相手DFに引っかかったが、素早い切り替えからボールを奪い縦突破。たまらず相手DFのファールを誘うと、これがPKの判定となった。このPKをレアンドロペレイラが豪快に沈め、試合はここでタイムアップとなった。

 

 

最後に

 根本と西谷にアクシデントがあったなかで勝ち点1を奪取できたことは間違いなくポジティブな要素だろう。敗色濃厚な状況をラストワンプレーでくつがえし、残留争いのライバルから勝ち点を削ぎ落としてみせた。夏加入の二人に結果が出たことも終盤に向けて明るいニュースである。

 ただ、試合を通して見れば課題が山積みなのは明らか。前からのプレスは機能せず、根本がピッチを去ってからは攻撃の起点作りに苦戦した。新しい顔触れにより増すこととなった大胆に押し切るパワー感はもちろん求めていたところだが、組織としての機能性は一時期より低下してしまった感は否めない。

 シーズンも終盤戦に差し掛かり、残された時間はそう多くない。チームの最大値を引き出すためにも、ここにどう折り合いをつけていくか試される終盤戦となるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-2 水戸ホーリーホック

得点 8分 根本凌(栃木)

   45+1分 小原基樹(水戸)

   76分 小原基樹(水戸)

   90+5分 レアンドロ ペレイラ(栃木)

主審 清水修平

観客 6037人

会場 カンセキスタジアムとちぎ