栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【力強く送り出す】J2 第31節 栃木SC vs V・ファーレン長崎

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 18位

 前節は徳島との下位直接対決で2-2のドロー。数的不利の状況で一度は逆転したものの、後半ATにセットプレーから被弾。勝ち点2がスルりと抜けていく手痛い引き分けだった。

 前節からのスタメンの変更は3人。佐藤祥が出場停止となったボランチには神戸が11試合ぶり、最終ラインには岡崎が5試合ぶりにスタメンとなった。山田が不在となった前線には小堀が入った。

 

V・ファーレン長崎 [4-1-4-1] 6位

 前節水戸戦は打ち合いの末、3-3で引き分けた長崎。プレーオフ圏内はキープしているものの、ここ最近は不安定な戦いが続いており、終盤戦に向けて正念場を迎えている。

 今節は夏に加入した4選手が揃ってスタメン。古巣対戦となるカルロス グティエレスは2試合連続でスタメンとなり、2日前に加入が発表されたばかりのマテウス ジェズスも先発に名を連ねた。

 

 

長崎の狙い目に栃木のミスが重なる

 群馬戦、徳島戦とセットプレーから失点していることを受けて「いろいろなことを考えないといけないタイミングに来ている」と語った時崎監督。この日は最終ラインに福島ではなく岡崎が入り、山田の代役に小堀が起用されたことからもまずは高さ勝負で負けないことを念頭に置いたラインナップだっただろう。状況によってはラファエルが左CBに控える陣容であった。

 序盤のペースを握ったのは長崎。栃木のプレスに対して秋野やIHの位置から中村が下りることで中盤でボールを落ち着かせる。栃木のプレスの優先事項は相手の中盤を消すことだが、序盤は小堀とボランチ勢のところでプレスの連動が甘かった印象だった。

 相手ゴールキックを含むハイプレス時の小堀の役割はアンカー秋野の監視。トップ下を主戦場として寄せていくのだが、中村に2ボランチ気味にサポートに入られると中盤の加勢が間に合わないことがあった。マンツーマンの対応関係で見れば神戸が前に出ていくか、もしくは西谷が後ろから小堀を左に動かして小堀と西谷の2枚で合わせたいところ。ここのぎこちなさは山田と佐藤祥を欠いた影響を感じさせた。

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 サイドを気にして小堀が中盤左サイドに下がった際は、秋野に対して西谷が前に出るか、2トップがプレスのスタート位置を下げるかのどちらかが基本線。ただ、こちらもあまりスムーズにはいかず。10分には秋野にフリーで前を向かれ、マルコスの仕掛けから最後はマテウスに裏を取られるシーンがあった。プレスが連動しないために招いた被決定機だった。

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 それでもこのシーン以降プレス連動は改善。WBが相手SBに対して早めにアプローチすることで前向きのベクトルを押し出すと、チーム全体のプレス強度がアップ。小堀を中央に留まらせつつ、ボランチ勢も寄せる姿勢を見せると、中盤を消された長崎は長いボールを増やしていく。蹴らせてしまえば栃木のペース。左右CBの岡崎や大森が大きくスライドするほか、GK藤田も広範囲のカバーリングを見せて長崎の攻撃の芽を摘んでいった。

 ようやく前向きの守備が軌道に乗ってきた栃木だが、そのなかで少々手を焼いたのが長崎の左サイドからの攻撃。左SHのマルコスは自身に岡崎が食い付くのを確認するや、あえて立ち位置を下げることで岡崎-平松間の距離を遠ざける。ここにはフアンマが流れてきたり、同サイドの関係性でSB米田がスイッチして前に出ていくなど、このスペースを起点にしようという狙いが窺えた。

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 同様のシチュエーションは逆サイドでは見られなかったことから、長崎は栃木の右サイドに定めてこのスペースを使おうとしていただろう。栃木の左サイドは福森、大森に加えて状況によって小堀が中盤を埋めるが、右サイドは黒﨑と岡崎のみの対応になりやすい。マンツーマンで当ててきた背後を取る難易度は右サイドの方が低く、岡崎を動かした背後を虎視眈々と狙っていた。

 29分の失点シーンも大枠で言えば同じ仕組み。中盤で受けたマルコスに対して岡崎が寄せるも潰せずに前を向かれると、その背後で平松がフアンマと1vs1に。フアンマに巧みに入れ替わられると、そのまま冷静にゴール右隅に沈められた。長崎の狙い目に栃木のミスが重なった失点だった。

 

 1点のビハインドを負ってからは栃木がボールを握る時間を増やしていく。前節同様に見られたのがアンカーを最終ラインに下ろす4枚回しによるビルドアップ。大森と平松の間に神戸が下りて、西谷が中央でバランスを取る形だが、前節に比べればWBに入ってからのサイド攻略はスムーズになっていたように思う。西谷の間受けや小堀のスペースでのキープのほか、イスマイラを中央に残して根本がチャンスメイクに回ることもあった。

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 それでもサイド攻略の精度が高まったとはいえ、左右CBがWBに預ける以外の選択肢を取れなかった点は保持の課題と言えるだろう。[4-5-1]で構える長崎に対して左右CBはボールを運べるが、5枚を並べる中盤ラインの間を割る縦パスを入れることはできず。2トップが相手の最終ラインに張り付いていることが多く、下りてボールを引き出す動きが乏しかった。サイドをさらに生かすためにも中と外の使い分けは意識したいところである。

 

 

数的優位をきっちり勝利に繋げる

 後半立ち上がりは互いに決定機。46分にはクロスに対してフアンマの至近距離で合わせたヘディングが枠を外れると、続く48分にはセットプレーの流れから西谷のボレーがバーを直撃。真下にハウンドしたボールはゴールラインを完全には割っていないとの判断だった。

 試合のターニングポイントとなったのは52分。栃木が前からハイプレスをかけると、長崎が中盤のボール処理でもたついたところにいち早く神戸が反応。ここに遅れて入ってきた秋野のタックルが危険なファールとされ、レッドカードが提示された。

 このシーンで特筆すべきは全体のアプローチの速さである。退場の直前、黒﨑のプレスに対して長崎のSB米田は顔を上げることができず、苦し紛れに中盤にボールを逃がしている。前半栃木の右サイドはプレス連動を逆手に取られて背後のスペースを使われていたが、その隙さえ与えずに素早く寄せられたからこそ、結果的に相手を退場に追い込むことができたのだろう。栃木は自分たちの強気の守備から数的優位を得ることに成功した。

 ここからは1人多い栃木が一方的に攻め込む展開に。長崎は右SH澤田が福森を意識した立ち位置を取ったことから、栃木はその手前でフリーとなる大森から攻撃を組み立てることが多かった。大森の持ち運びを起点に福森と連携しながら自身も攻撃参加を繰り返す。これにより長崎のSHとSBを引き付けると、栃木は開いたCB-SB間を上手く活用することができていた。

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 64分には、このスペースに顔を出した根本がグティエレスを背負いながらフリックし、落としを受けた大島がシュート。続く65分には、後ろから飛び出してきた神戸がタメを作り、スイッチした福森がクロスを供給。栃木はこのサイドからチャンスを量産していく。

 ただ、得点は逆の右サイドから生まれることとなる。岡崎の持ち運びからイスマイラがボールを引き取ると、抜群のボールキープからクロスを供給。これに根本が競り勝ち、栃木が同点に追い付くことに成功した。

 

 栃木にとっては飲水タイムを迎える前に同点に追い付けたことは大きかっただろう。長崎が明確な修正や対抗策を打つ前に試合を動かすことができた。追い付かれてからの長崎が長いボールやロングカウンターから一定のチャンスを作り出していたことからも、ビハインドのままよりリスクを負って攻めなければならない展開を避けられたのは大きかっただろう。

 特に81分のシーンは非常に危険なシーンだった。栃木の左サイドでの繋ぎにミスが生じると、ボールを奪われ、長崎がロングカウンターを発動。そのままゴール前に侵入されると最後はシュートに持ち込まれた。猛然と自陣に戻ってシュートコースを制限した大島の献身的な守備がなければ、GK藤田のビッグセーブも生まれなかったかもしれない。

 そして、試合終了が近づくなか、歓喜はその大島に訪れることとなる。スローインを受けたイスマイラが敵陣までボールを運ぶと、一度はグティエレスに対応されたものの、クリアが短くなったところを大島が回収。大島は相手DFのマークを振り切って左足を振り抜くと、シュートは右ポストの内側を叩いてゴールに吸い込まれた。

 

 長いアディショナルタイムを耐えきった栃木はこのまま逆転勝利を達成。得点直後に失点を喫した前節の反省を生かすように最後まで集中した守備を見せ、長崎の反撃をシャットアウト。優位な展開を勝利に繋げた栃木が鬼門攻略に成功し、残留に向けて貴重な勝ち点3を獲得した。

 

 

最後に

 リードしているチームが退場者を出した試合は追いかける側にとって決まって難しいものになるのだが、数的優位をきっちり生かして勝利を掴むことができた。良い展開でも決め手に欠き、勝ち切れずに終わる試合が多かった栃木にとっては大きな意味のある勝利である。

 そのなかでもFW陣が勝負強さを維持できている点はポジティブな要素である。この日得点を挙げた二人は前節に続いて2試合連続ゴール。イスマイラもアシストを記録し、逆転弾にも大きく貢献した。彼らが数字でチームを牽引できているうちはレアンドロペレイラに回ってくる出番は限定的かもしれない。監督にとっては嬉しい悩みだろう。

 一方で、青天の霹靂となったのが、試合から2日後にリリースされた山田雄士の柏復帰である。栃木にとってはもちろん非常に痛い。3MFの一角として献身的な守備を見せていたし、攻撃面でも彼のセンスに助けられた場面は多かった。残留争いの渦中の柏が復帰を要請するのも頷けるハイパフォーマンスだった。

 この試合ではすでにメンバー外。しかし、彼が不在となったチームでもやれることは十分に示すことができた。同じポジションに入った小堀は特殊な守備タスクを引き継ぎ、途中出場の大島は決勝点を決めてみせた。何より勝利を収めることができた。少なくともこの試合では力強くJ1へ送り出すことができたと胸を張れる内容だったと言えるだろう。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-1 V・ファーレン長崎

得点 29分 フアンマ デルガド(長崎)

   68分 根本凌(栃木)

   89分 大島康樹(栃木)

主審 田中玲匡

観客 5722人

会場 トランスコスモススタジアム長崎