栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【先制点の意味合い】J2 第29節 栃木SC vs ザスパクサツ群馬

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20230807100522p:image

栃木SC [3-5-2] 17位

 前節は上位につける甲府に3-0で快勝した栃木。出場停止の根本に代わってトップに入った大島が大車輪の活躍を見せたかと思えば、ミッドウィークの天皇杯福岡戦では根本も負けじと2得点を記録。課題だった得点力に明るい兆しが見えてきている。

 前節からのスタメンの変更は2人。出場停止の西谷に代わって中盤には高萩が入り、前線は好調の根本と大島が2トップを形成。小堀は7試合ぶりに先発を外れた。

 

ザスパクサツ群馬 [4-4-2] 8位

 プレーオフ圏内の6位と勝ち点4差につけている群馬。例年は残留争いの常連だが、2年目となり大槻体制の上積みが見られる今季は手堅いサッカーで着実に勝ち点を積み上げてきている。勝ち切る試合を増やすためにも長倉が移籍した攻撃陣の再構築が課題となる。

 スコアレスに終わった前節秋田戦からはスタメンを1人変更。東京ヴェルディから今夏加入した杉本が左SHで初先発を飾り、ベンチにはDF畑尾が戻ってきた。

 

 

異なる理由で外回り

 基本的に前半は栃木ペースで進んでいったと言えるだろう。ショートパスを多用する群馬に対して準備してきた守備プランがピタリとハマった印象だった。

 この日の栃木は前線をここ最近の2トップではなく1トップ2シャドーでセット。保持時に3バックに可変する群馬に対して前線の枚数を合わせることで対応関係をはっきりさせていく。普段であればここから強くプレスに出ていくのだが、この日の前線3枚の役割は中央のゲートをしっかり閉じること。正対した状態からプレスをかけることは少なく、相手ボランチのケアに軸足を置いた守備だった。

f:id:y_tochi19:20230810101540p:image

 中閉じのメリットは相手のボール保持を外回しにすることでプレスを限定しやすくすることである。前線からボールホルダーに次々と襲いかかっていくハイプレス戦術と比べて体力的な負荷が少なく、夏場でも長時間の運用を計算しやすい。不安視された西谷の不在による高萩起用の影響も少なく、外回しした先に狙いを定めることで群馬の攻撃をミドルゾーンに留めることができていた。

 サイドの守備対応も非常に連携が取れていたといえるだろう。杉本の突破には少々手を焼いたとはいえ、相手を捕まえるという観点では右サイドの守備はよく機能していた。群馬の左サイドは大外から仕掛ける杉本とボールを引き出す平松宗の割とはっきりとした分業制。栃木としては杉本に対応する黒﨑のカバーに福島が引っ張られることで平松への対応が遅れることは避けたかったが、ここの対応で後手を踏まなかったことは地味に大きかったと思う。むしろ平松に対しては低い位置で受けようとすれば黒﨑が前に出ていくなど、起点を作らせない意識は高かった。

f:id:y_tochi19:20230810101554p:image

 一方左サイドは前に出ていく役割を福森が担当。群馬は前述した中を閉じる守備への対抗策として15分過ぎあたりから右SB川上をボランチ化してきたものの、福森が出足よく寄せることで押し返すことができていた。後ろでは大森が幅を取る佐藤亮と1vs1になっていたが、長いボールへの対応も堅調だった。

f:id:y_tochi19:20230810104040p:image

 そうした守備の安定を軸にマイボールの時間を徐々に増やしていく栃木。群馬のプレスは2トップにSHが加勢する仕組みだったが、SBの連動はイマイチ。栃木は左右CBが寄せられてもその背中でWBがフリーになれたため、そこまで前進に窮することはなかった。

 9分には大森の持ち運びから高萩を経由してサイドを変えると、黒﨑のクロスに大島がヘディングシュート。11分には福島が運んで大島に楔のパスを差し込み、落としを受けた高萩がクロスを供給。ファーで福森が折り返し、山田が上手く収めると最後は佐藤祥がミドルシュートを放った。群馬の守備の隙を見つけて再現性のある攻撃を組み立てることができていた。

 しかし、これが上手くいったのも飲水タイムを迎えるまで。それ以降は前進に手こずる場面が増えていく。両チームに変化があったようには見えなかったが、強いて言えば栃木は中盤の選手のビルドアップへの関わりが希薄だったように思う。システムの上では群馬の2トップに対して3バックで優位を取れることから中盤3枚があまり列を下げず、それがかえってボールを引き出せずに前進が停滞する要因になっていた印象だった。

 福森がボールをなかなかリリースできなかった42分のプレーは象徴的なシーンだろう。中盤が組み立てに効果的に関われず、サイドで持てる福森にボールが集中してしまう。停滞した保持では大森の攻撃参加を生かせる場面も少なかった。

 中閉じ守備に苦戦した群馬と中盤が存在感を示せなかった栃木。互いに異なる理由で前進が上手くいかなかった前半は、時間の経過とともに膠着していき、スコアレスのままハーフタイムを迎えた。

 

 

攻守に有効策を打てず

 後半早々に試合を動かしたのはホームの群馬。栃木はファーストプレーで与えたフリーキックから早くも先制点を献上することとなった。

 セットプレーに関する考察は難しいところではあるが、ファーからの折り返しは両チームともこの試合では多用していた。前半の佐藤祥のミドルシュートのように栃木はクロスもファーから折り返すパターンが多く、同じ形のやり合いから先手を取られたのは痛恨だった。

 

 1点のビハインドを負うこととなった栃木はここからハイプレスを解禁。ベンチからの指示を受けた根本を筆頭に前からプレスをかけていく。しかし、これによって生じたのが中閉じ守備の機能性の低下。前線3枚の繋がりが弱くなったことで間を通されることが増え、ミドルゾーンを簡単に突破される機会が増えていく。

 中塩や風間の立ち位置も絶妙に中閉じ守備を牽制するものだった。彼らが少し外側に立つことで大島のポジションを右にズラすと、城和→天笠のパスコースが開通する。栃木がプレスに出ることとなった事情を差し引いても、前半の戦いを踏まえた群馬は対抗策を用意することができていた。

 それでも後ろがしっかり潰せれば問題なかったのだが、動きながらボールを引き出して収める川本や平松宗への対応に苦戦。前線がプレスで後手を踏み、後方は潰しが効かないとなれば劣勢を避けることはできない。飲水タイムを迎えるまでは非常に厳しい時間を過ごすこととなった。

 ビルドアップの課題は前半の項に書いたとおりだが、安田が中盤に入ってからはボールの回りは改善。主戦場はIHだったが、ボール保持時は佐藤祥との2ボランチのように積極的にボールに触れることで保持にアクセントを加えていく。

 しかし、このボール保持もゲームクローズに向けてシステムを変えてくる群馬を破るには至らない。飲水タイムを経てからの群馬は[5-3-2]で組んだため、サイドからボールを前進できるのは当然の話。3バックと3MFで組むセンターラインは非常に堅く、群馬の許容した範囲内でしか栃木はボールを握ることができなかった。

 ブロックの外側から何とか良質なボールを供給したい栃木はWBをフレッシュな選手に交代。吉田と石田は時折光る突破を見せる場面もあったが、群馬守備陣を慌てさせるには至らず。終盤には山田に代えてイスマイラを投入し、中盤での組み立てを省略して手っ取り早く前線にボールを集めていく攻撃にシフトする。

 長いボールを入れてセカンドボールを拾いつつ、二次攻撃、三次攻撃といきたい栃木にとって前線の競り合いでファールが頻発してしまうのはもったいなかった。畑尾を投入して[5-4-1]でセットした群馬の方が良い体勢でボールにチャレンジできており、シンプルな攻撃でも出し手と受け手の意思疎通が合わない栃木はまともにチャンスを作ることができなかった。

 試合はこのまま0-1で終了。栃木は史上初めて群馬にシーズンダブルを喫することとなった。

 

 

最後に

 試合の趨勢が決まる前に喫した失点が全てだろう。これによって栃木は前半手応えを得ていた守備プランの変更を余儀なくされ、課題のビルドアップに正面から向き合わなくてはならなくなった。

 大槻監督のコメントを見れば、前半は探りを入れながら情報収集しつつ、後半のヒントを得ていたと言うが、前半から得点チャンスを多く演出していたのは間違いなく栃木の方だった。そのうち一つを取り切れていれば群馬も出方を変えざるを得なかったはずだし、トータル3本のシュート数にも表れているように、後半も群馬はそれほど有効な打ち手は持っていなかったように思う。それだけに先制点の持つ意味合いを改めて痛感した試合だったといえるだろう。

 リーグ戦残り3分の1のスタートは手痛い敗戦となったが、前を向いてやっていくしかない。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 ザスパクサツ群馬

得点 47分 平松宗(群馬)

主審 窪田陽輔

観客 10823人

会場 正田醤油スタジアム群馬