スターティングメンバー
▼栃木SC [3-5-2] 8位
前節大分戦は奥田の2得点に絡む活躍もあり、2-1で勝利した栃木。星を3勝3敗の五分に戻し、再び始まる三連戦の初戦に臨む。前節からのスタメンの変更は1人。南野が開幕戦以来の先発となり、代わって奥田はベンチスタートとなった。奥田は2022年に在籍した古巣との対戦となる。
▼V・ファーレン長崎 [4-3-3] 5位
清水、山口、愛媛に3連勝し、順位を一気に5位まで上げた長崎。前節は甲府と引き分け、2試合ぶりの勝利を目指してアウェイ栃木に乗り込む。前節からの変更は飯尾→モヨ、エジガル→フアンマの2枚。モヨはプロ初先発。フアンマは3試合連続ゴールを狙う。
マッチレビュー
■特殊なマンツーマン戦術
互いに就任1年目の指揮官対決となったこのカード。ともにここまで6試合で3勝を収めており、新体制のもとやりたいサッカーが少しずつ結果に現れてきているところだろうか。試合は長崎がボールを握り、栃木が迎え撃つという構図で進んでいった。
この日の栃木で目を引いたのは特殊なマンツーマン戦術。長崎の中盤マテウスに対してラファエルが張り付くと、マテウスの移動に合わせてどこまでも着いていく。ラファエルには決まったポジションがなく、ピッチ上はさながら4-4-2といった並びだった。
このときフアンマには平松と藤谷の2枚で対応。その分長崎の2CBとアンカーの3枚に対しては2トップで数的不利を受け入れることになるが、そのほかの選手は対面の相手をマンツーマンで見るという盤面になっていた。
おそらく狙いはファーストDFを素早く決めることだっただろう。5-3-2で構えれば長崎の3MFと2CBに対面の選手を当てることは可能だが、そうするとSBをフリーにしてしまう。これまではWBの縦ズレやIHの横ズレで対応してきたが、この日はマークを頻繁に受け渡すよりも、あらかじめマッチアップを明確にした方が、個の能力に優れる相手にはベターと見たのだろう。
第2節山形戦では相手の4-3-3に対して中盤ダイヤモンドの4-4-2を採用していたが、この辺りは最適解を探しつつ試合に応じて使い分けている印象である。いずれにしても中央のコースを消し、サイドで素早く圧力をかけたいという意図が窺えた。
栃木の守備を確認してからの長崎はラファエルが開けたスペースからの侵入を敢行。マテウスと入れ替わるようにSB米田やSH笠柳が内側に入り込んだり、神戸の脇にフアンマが顔を出したりと、マンツーマンを逆手に取るように人とボールを動かしていく。
最もクリティカルだったのが30分のシーン。右IH加藤が右に下りて神戸を引き出すと、フアンマも中盤に下がって平松を誘導。これにより栃木のセンターラインを動かすと、中央のスペースを入り込んだ増山へCBから鋭い縦パスを供給。マッチアップする大森が絞って対応したため栃木としては事なきを得たが、一本のパスで2ラインを越えられた危険なシーンだった。
それ以外にも個の守備力が求められるなかで特に右SBモヨの対応には手を焼いた。両SBが積極的に攻撃参加する長崎に対して栃木は南野と小堀も低い位置での守備に追われ、いざマイボールにしてもそこから攻撃を繰り出すには難易度が高い状況だった。
そうして自陣に押し込まれるなか、43分に遂に失点。マンツーマンの隙を突くように長崎がクイックリスタートすると、左サイドからのクロスに合わせたのはマテウス。徹底マークしていたラファエルはこのシーンでは完全に振り切られてしまい、わずかに与えたスペースからゴールネットを許された。
前半栃木が放ったシュートは序盤の大島の1本のみ。攻守において大きく課題を残してハーフタイムを迎えた。
■右IHの立ち位置でプレスを調整
後半栃木は守備の立ち位置を修正。右IH小堀を少し前に出して相手CBとSBのどちらにも行けるようにすると、ここから徐々に栃木に流れが傾き始める。
前半との大きな違いは相手の左SB米田の立ち位置を下げさせられたこと。米田はCBからのパスコースを確保するには低い位置を取らざるを得ず、これにより栃木は右サイドから押し込まれる機会を減らすことに成功。徐々に右サイドで前向きの守備を行えるようになっていった。
これが功を奏したのが56分、PK獲得のシーンである。右サイドで石田の守備からボールを回収すると、神戸のスルーパスに上手く抜け出したのは南野。GKを巧みに誘うボールタッチでPK獲得に成功し、さあ同点へ!というところだったが、南野のPKは相手GKに阻まれてしまう。セーブした長崎はここから巻き返すように猛攻を仕掛けていった。
60分には右サイドの連携からモヨが抜け出してGK-DF間に鋭いクロス。62分には再び右サイドから増山がクロスを入れると、これで得たCKから田中のヘディングはポスト直撃。75分には細かい連携で中央を崩してGK丹野をゴールマウスから引き出すなど、ゴールまであと一歩に迫る場面を次々と作っていった。
栃木は劣勢の時間帯を何とか耐え切ると、75分にはプレスのラインをもう一段階前へシフト。右IH青島がSBを越えてCBへ寄せる機会を増やし、石田はその背後全てをカバー。宮崎と奥田の2トップはそれぞれCB新井とアンカーを担当し、大谷がマテウス番を引き継ぐことで攻撃的な守備をさらに強めると、最後の最後にドラマは待っていた。
90分、青島が高い位置からのプレスで米田に蹴らせると、大谷がマテウスを迎撃してボールを回収。これを神戸が石田に広げると、石田のクロスのこぼれ球に反応したのは南野だった。絶妙なトラップで蹴りやすい位置にボールを置くと、得意の左足でゴール左隅に一閃。PK失敗を帳消しにする値千金の同点弾だった。
試合はこのまま1-1のドローで終了。栃木が最終盤に試合を動かし、土壇場で勝ち点1を拾うことに成功した。
選手寸評
GK 27 丹野 研太
試合ごとに安定感が増している。シュートストップはもちろん、ゴールマウスを引きずり出されたシーンも安易に飛び込まず、逆に裏抜けされた場面では素早い出足で対応した。失点シーンはGKノーチャンス。
DF 2 平松 航
空中戦でも足元でもフアンマへの迎撃を徹底。前回対戦でフアンマに入れ替わられて失点した苦い記憶を振り払う良い守備対応だった。
DF 17 藤谷 匠
平松とともにフアンマ、エジガルを押さえ込んだ。徐々に攻撃的にシフトしていくなかで、個の守備対応も安定していた。
DF 33 ラファエル
マテウスにどこまでも着いていく特殊な役割を与えられたが、唯一失点シーンではマークを剥がされてしまった。入れ替わられてからの戻りが鈍い点は気になった。
MF 6 大森 渚生
対面の増山と攻守ともにバチバチのマッチアップを繰り広げた。自らの突破でCKを得た後に交代を告げられた際、悔しそうな顔をしていたのは印象的だった。
MF 7 石田 凌太郎
高い位置からの守備でも撤退守備でも強度十分の守備力を披露。気迫のディフェンスで笠柳→松澤という仕掛けられる選手を押さえ込んだ。最後の最後まで上下動を繰り返し、最後の最後に同点弾を演出した。
MF 24 神戸 康輔
自分のマーク対象に着いていけば最終ライン手前をがら空きにするバランスの難しい守備対応を求められたが、ここで抜かれたらマズイという場面は確実に押さえた。南野のPK獲得を演出する鮮やかなロブパスは神戸の真骨頂だろう。
MF 38 小堀 空
前半は高い位置を取る左SB米田に後ろ髪を引かれるように重心を下げたが、後半守備の立ち位置を修正してからはチームに前向きの矢印をもたらした。
MF 42 南野 遥海
良い意味でも悪い意味でも南野のゲームだったと言えるだろう。PK失敗は痛恨だったが、その後も焦れずに献身的な守備を続けた結果、最後の最後に自身のもとにボールが流れてきた。モヨに何度も突破されてクロスを許した点は今後の課題。
FW 19 大島 康樹
今季初のFW起用。矢野の落としや背後へのランニングから前線で起点を作ったが、全体的に守備に追われた。
FW 29 矢野 貴章
献身的なプレスでサイドを限定しようとしたが、特に前半は味方の加勢が乏しかった。守備に走らされる時間が長く、後半早々に交代した。
FW 32 宮崎 鴻
空中戦の強さは相変わらず。背後に抜け出したシーンを決め切れれば鬼に金棒。そろそろ先発で見てみたい。
FW 15 奥田 晃也
得点シーンはクロスに対してニアに入り込んだことで南野の足元にボールがこぼれた。間接的なアシストと言えるだろう。
MF 22 青島 太一
前からの守備を強めていくなかでプレスの急先鋒となった。最後の局面に顔を出せているので、もう少しシュートに精度とパワーを伴わせたい。
DF 5 大谷 尚輝
ラファエルからマテウス番を引き継ぎ、厳しいマンツーマンを続行。同点弾のきっかけとなった。
MF 10 森 俊貴
縦への突破とカットインからのシュートがそれぞれ1本ずつ。少ない時間で出来ることはした。
最後に
劣勢のまま先制点を奪われ、後半流れが傾きつつあるなか得たPKのチャンスも失敗。その後は再び劣勢に陥り、これまでならばズルズルといきかねない試合展開だったが、何とか粘り強く凌ぐことで劇的な最後に繋ぐことが出来た。ベンチワークも含めたスタッフ陣による采配と最後のところで踏ん張った選手の粘り強さがあったからこそ1点差を維持することができたと言えるだろう。
これが勝ち点0で終わるか1で終わるかで試合の捉え方は大きく変わってくる。長いシーズンを戦ううえでチームの経験値となる貴重な成功体験を積めた試合になったと言えるだろう。
試合結果・ハイライト
2024.3.30 18:00K.O.
栃木SC 1-1 V・ファーレン長崎
得点 43分 マテウス ジェズス(長崎)
90分 南野 遥海(栃木)
主審 大橋 侑祐
観客 3904人
会場 カンセキスタジアムとちぎ