栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【新システムで掴んだ手応え】J2 第13節 栃木SC vs 清水エスパルス

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-1-2 16位

f:id:y_tochi19:20240503213021j:image

 前節はいわきFCと対戦し0-1で敗戦。強度を押し出す相手に思うように試合を運ぶことができず、スコア以上に差を見せつけられた試合だった。中4日で迎える今節はスタメンの変更なし。ベンチには水戸戦で負傷した矢野が3試合ぶりに復帰。平松と青島もベンチに戻ってきた。

 

清水エスパルス 4-4-2 1位

f:id:y_tochi19:20240503213048j:image

 前節は岡山との上位対決を制し、4連勝で首位を快走する清水。昨季は「戦術乾」とも言われたが、乾を負傷で欠くなか良い意味で依存から脱却できていると言えるだろう。前節からの変更は吉田→原のみ。3試合連続ゴールの北川、ここ3試合で2ゴールのルーカス ブラガは栃木にとって要注意の選手となる。

 

 

マッチレビュー

■ダブルボランチにした効果

 ここ6試合勝ちなしの栃木は今季初めてダブルボランチを採用。中盤1枚のアンカーシステムで露呈した中盤の空洞化とCBの負担増に対して手を打ち、守備を安定させる狙いで試合に臨んだ。

 しかし、立ち上がりに失点を重ねてしまうと、対強豪のセオリーであるロースコアに持ち込むプランは早々に崩れてしまう。5分には相手との接触でセルフジャッジした一瞬の隙から失点。続く8分には大森が1vs1を剥がされ、カバーリングする選手もいないままネットを揺らされてしまった。開始8分での2失点はあの千葉戦よりも悪い幕開けだった。

 2失点を喫してからは栃木がある程度ボールを握りながら試合を進めていくように。もっとも2点をリードした清水がリスクを追わないスタンスで戦っていたことを考慮する必要はあるが、それなりに狙いをもった攻守を展開できていたと言えるだろう。ダブルボランチを採用したメリットを随所に感じることができた。

 顕著だったのはロングボールからセカンド回収までの一連の流れ。宮崎と大島の2トップが中央からCB-SB間を抜けて背後へのボールを引き出すと、後ろ向きでの対応を余儀なくされる清水DF陣は大きく弾き返すことができない。このこぼれ球を中盤3枚がよく回収することができていた。

 これまでは2トップながら前線で要求するのは宮崎のみであり、ロングボールも宮崎自体を目掛けたものが主だったが、この日は2枚で背後を狙い続けたことが効いていた。序盤はむしろ大島がボールを引き出してそのセカンドを回収するシーンの方が多かった。中盤もダブルボランチにしたことで一人がポジションを離れてももう一人は残っており、前向きでチャレンジしやすい状況だった。

f:id:y_tochi19:20240505194608p:image

 自陣からのビルドアップにおいてもダブルボランチにしたメリットを見ることができた。これまではボールサイドのIHがサイドに抜けるタスクを担っていたため中盤1枚になり最終ラインからの繋ぎ出しに苦労したが、この日は神戸に加えて奥田もボールの受け手としてセット。最終ラインからの繋ぎ出しが安定するとWBも高い位置を取りやすくなり、特に前半は左サイドの大森の攻撃参加が目立った。

f:id:y_tochi19:20240505194617p:image

f:id:y_tochi19:20240505194628p:image

 栃木の得点はこの大森サイドから。中盤で石田→神戸と繋ぐと、神戸は背後に動き出す大島にロングパスを供給。大島がこれを収めて大森に預けると、大森のクロスにダイレクトボレーで南野が合わせた。中盤での保持から背後を取り、クロスで仕留める一連の流れは狙いどおりの攻撃だったと言えるだろう。

 

 守備面に目を向ければ、立ち上がりに2失点を喫したことから良い評価を付けにくいが、その後はプレスとブロックのメリハリがよく出来ていた。3-4-1-2にしたことで前からのプレスはかかりにくくなった一方で、自陣中央での守備は格段と良くなった印象だった。

 清水はシステムの噛み合わせからプレスを受けにくいサイドから攻撃を組み立てていた。変化が大きかったのは右サイド。ボランチの宮本が宮崎の脇に立ち位置を取ることでSB原を前に押し出し、ルーカス ブラガとともに内外を入れ替えながらサイド攻撃を繰り出していく。ボランチの相方である中村は栃木の2トップ間でバランスを取りつつ、左は矢島が内側に入り、山原が幅を取る左右非対称な陣形になっていた。

f:id:y_tochi19:20240505194646p:image

 栃木はより変化の大きい清水の右サイドを抑えるため、15分ごろから神戸と奥田の左右をチェンジ。神戸が左ボランチの位置から早めに規制をかけることでファーストDFを決めると、これに連動して大森、藤谷もボールサイドに寄せることができていた。

 左サイドが整理された一方で右サイドからは押し込まれたが、内側に刺してくるボールに対しては厳しく迎撃できていた。大谷もラファエルも相手FWにボールを収める余裕を与えず、サイドからのクロスは藤谷が跳ね返す。いずれにしてもボランチを含めた前5人で中央を締めつつ、サイドからの攻撃には最終ラインが集中した守備で押し返すことで、2失点以降はそれほど危険な場面は作らせなかった。

 試合は栃木が狙いの攻守から盛り返して前半終了。1-2の1点ビハインドでハーフタイムを迎えた。

 

■決定力の差に押し切られる

 後半栃木は課題となった右サイドの守備を修正。清水の左SB山原に対して石田が早めにアプローチをかけていき、中盤の矢島には大谷が前へ潰しに出ていく。大谷の背後に流れる北川にはラファエルが大きくスライドすることで、ここでも時間を与えない。

 よって、山原サイドにフタをされた清水は右サイドから攻撃を増やしていくのだが、栃木の左サイドの守備が整理されていたのは前半の項で記したとおり。栃木も前進こそ許したものの、サイドに閉じ込めてボールを絡め取ることで危険を未然に抑えることができていた。

 攻撃に移行した局面で存在感を示したのが途中からピッチに同時投入された矢野とイスマイラ。ダブルターゲットとして前線で起点となるだけでなく、ボールを失えば素早く切り替えてボールを取り返すべく献身性を発揮していく。

 64分にはプレス連動でボールを奪い、藤谷のパスを受けたイスマイラのミドルシュートがわずかに枠の左へ。65分にはイスマイラのプレスバックでボールを奪い、右サイドの石田から矢野へのラストパスはオフサイドの判定。67分にはロングボールのこぼれ球に反応したイスマイラが相手DFを弾き飛ばしてマイボールにすると、右からのパスに南野、大森が立て続けにシュートを放った。いずれも得点の可能性は十分あっただけに、この時間に追い付けなかったことが後に響くことになった。

 清水は流れを引き戻すべくドウグラス タンキと松崎を投入し、続けてルーカス ブラガを下げて吉田を投入。前線の個のタレントを入れ替えつつ、最終ラインを5枚にして逃げ切りも視野に入れていく。

 決定的な3点目が生まれたのはこの直後だった。70分過ぎから神戸のミスが目立つようになると、ミスを突いたドウグラス タンキが強引なドリブル突破を開始。栃木も一度は凌いだものの、カウンターに出ようとした青島の横パスをかっさらわれると、そのままゴール前へ持ち込まれてあっさり失点。いわゆるカウンター返しのため守備が整っておらず、またしてもミスから一瞬の隙を突かれてしまった。

 終盤栃木は前線に小堀を投入し、長身3人によるパワープレーを敢行するが、5バック化した清水のゴールを脅かすことはできず。どちらかといえば前線守備が機能しなくなり、簡単にボールを運ばれるようになると、87分にはダメ押し点を献上。これで万事休すとなった。

 試合は1-4で清水が勝利。栃木は今季初の3連敗を喫し、これで7試合勝ちなし。順位は降格圏の18位に転落することとなった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
全体的にまずまずのパフォーマンスだが、これだけ失点が重なると丹野の立ち位置も安泰ではない。
DF 5 大谷 尚輝
中盤で受けようとするカルリーニョスジュニオに厳しく迎撃。後半は右サイドのプレスが修正されたことで矢島に厳しく寄せた。
DF 17 藤谷 匠
左サイドは状況に応じてプレスの相手が変わるがよく対応できていた。弾き返す強度もまずまず。ただ、左サイドに釣り出された際に強引に入れ替わられてスペースを突破された。
DF 33 ラファエル
相手FWに入れてくるボールに対して、地上戦空中戦問わず厳しく迎撃することができていた。
MF 6 大森 渚生
南野の得点をアシストした以外にも際どいクロスを入れ続けた。背後に落として相手を押し下げるボールも効いていた。
MF 7 石田 凌太郎
前半は後ろに重かったが、後半前からプレスに行けるようになったことでクロスの本数も増えた。
MF 19 大島 康樹
相手の背後へのランニングでボールを引き出して前線で起点を作った。大島はやはりトップの選手。
MF 24 神戸 康輔
攻撃時はアンカー、守備時は右SB原へのプレス役という特殊な役割を担った。70分過ぎからミスが目立ち始め、3失点目のきっかけを与えてしまった。
MF 42 南野 遥海
左からのクロスに身体を折りたたんでボレーで合わせてみせた。コンスタントにゴールを重ね、これでチーム最多の今季4点目。
FW 15 奥田 晃也
今季初めてボランチ起用され、こぼれ球回収から攻撃時の+1まで積極的にボールサイドに顔を出した。セカンドボールの予測が良いためボランチでも十分計算できる。
FW 32 宮崎 鴻
大島とともに裏への動き出しで最終ラインを押し下げた。33分の大森のクロスは絶好機だっただけにミートさせたかった。
FW 29 矢野 貴章
前線から献身的にプレスをかけ続けた。
FW 9 イスマイラ
ロングボールのターゲットになるだけではなく、ロングレンジのシュートやプレスバックで存在感を示した。
MF 10 森 俊貴
対面の原に押し込まれ、前節のように単独でクロスを上げるシーンはなかった。
MF 22 青島 太一
横パスを奪われて試合を決定付ける3点目を献上した。自陣での横パスは危険ということを身をもって感じただろう。
FW 38 小堀 空
前線の一角に入ったが、5バックで固める相手に起点を作れなかった。

 

 

最後に

 前節いわき戦はスコア以上の完敗だったが、この日はそれなりに手応えを掴むことができたように思う。

 なんと言ってもダブルボランチにしたことで守備が安定した点は大きい。4失点して何が安定だと言われるかもしれないが、試合を通して選手同士の距離感は良く、これまでのように組織として崩される場面はほとんどなかった。中盤2枚が最終ラインの手前でフィルターになることでセカンドボールワークも含めて中央に堅さをもたらすことが出来ていたし、攻撃面でも前線の強さと武器とするクロスからゴールを脅かすことができた。良い守備から良い攻撃を体現できた試合だった。

 栃木としてはこの感触を忘れずに次の試合にぶつけなければならない。もちろん個人のミスや際の強度不足から重ねた失点をなくすのは大前提。その上でこの日見せたチームとして狙いとする攻守を表現できれば簡単に敗れることはないだろう。次節は開幕から支えてきた石田大森の両翼が不在となるが、チームとして全員が繋がりをもって戦うことができれば望む結果を得られるに違いない。この正念場を総力戦で乗り越えたい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.5.3 14:00K.O.
栃木SC 1-4 清水エスパルス
得点   5分 矢島 慎也(清水)
     8分 ルーカス ブラガ(清水)
   24分 南野 遥海(栃木)
   79分 山原 怜音(清水)
   87分 松崎 快(清水)
主審 野堀 桂佑
観客 17400人
会場 IAIスタジアム日本平