栃木SCのことをより考えるブログ

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【チーム力の向上を映し出す】J2 第27節 栃木SC vs 清水エスパルス

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 20位

 前節は大宮との直接対決に引き分けた栃木。中盤の構成を調整しながら徐々に押し込む機会を増やしていったが、ゴールを脅かすことはできなかった。これで降格圏との勝ち点差はゼロ。何とか浮上のきっかけを掴みたいところだ。

 前節からは岡崎→福島の1枚のみを変更。そのほかの選手は変わらず、ここ最近の主要メンバーとなった。ベンチには今夏加入したイスマイラと前節ひと足先にデビューした石田が名を連ねた。

 

清水エスパルス [4-2-3-1] 6位

 記録的な観客数を集めた千葉との国立決戦は2-2のドロー。連勝は3でストップし、勝ち点差5で追いかける自動昇格圏に向けて仕切り直しを図る一戦となる。

 前節からのスタメンの変更は4人。前節得点を挙げたベンジャミンコロリや出場停止明けの白崎が先発に入った。エースのチアゴサンタナは引き続き不在。欧州帰りの原輝綺と鈴木唯人はさっそくベンチ入りとなった。

 

 

圧倒されるも最小失点で終えた前半

 前半は基本的に清水の思惑どおりに進んでいったと言えるだろう。栃木がプレスを緩めたり、これといった弱点を露呈したわけではなかったが、一つ一つのプレーレベルで清水の方が上回った印象だった。

 なかでも清水が立ち上がりから目をつけていたのが西谷の周辺のスペース。[3-5-2]を採用してからの栃木は西谷がサイドの守備に回ることも少なくなく、清水は西谷の守備範囲の広さを逆手に取るようなイメージだっただろう。序盤に権田→吉田のパスで西谷の動きを確認してからは、主に左サイドから攻撃を組み立てていった。

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 トップ下の乾が下りてきて中盤に数的優位を作ったり、コロリへの縦パスの落としをカルリーニョスジュニオが前向きで受けたりと、ここの使い方は様々。栃木も中盤3枚のスライドで何とか対抗していくが、斜め後ろにサポートを置きつつ、時には自陣で深みを取りながら繋ぐ清水のビルドアップをなかなか限定することができなかった。

 繋ぎを牽制しようと前がかりになれば、13分や16分のように最終ラインの背後を中山に抜け出されて、あわや被決定機といったシーンも。大谷や福森が絞りながら対応したことで事なきを得たが、飲水タイムを迎えるまでは特に苦しい展開を強いられることとなった。

 失点は飲水タイムが明けて少し経った時間帯だった。悔やまれるのはCKに至るまでの流れ。時間を巻き戻してみると、CK直前の展開で栃木はまさにカウンターを発動しようとしていたところだった。しかし出だしで躓くと、いち早く相手を置き去りにしていた福森が一転して穴を開ける格好に。中山の仕掛けからCKを与え、最後は変化をつけたCKから押し込まれた。

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 CKそのものの対応も決して良いものではなかった。1本目は大きく弾き返せすに再びCKを与えているし、仕留められた2本目では平松がマークを振り切られている。平松は仙台戦でも相手のパワーヘッダーであるCB菅田に後手を踏んだ。相手の最もストロングな選手に平松を当てていると思われるが、マンツーマンを敷く以上、ここへの対応のアラートさは一段階引き上げたいところである。

 

 苦しい時間の長かった栃木だが、一度前で起点を作れれば比較的クロスやシュートで終えることはできていた。とりわけWBは両サイドとも積極的にプレー。左右CBの攻撃参加を待つのではなく、自ら仕掛けてクロスを上げ切る場面が多かった。

 前半の栃木の決定機は36分。右サイドからの黒﨑のグラウンダーのクロスを山田がニアでスルーすると、その先で受けた小堀が振り向きざまに右足を強振。山田がニアで相手を釣ったことで小堀にシュートを打つ時間をもたらすことができたシーンだった。この日も積極的に足を振った小堀は両チーム通じて最多のシュート4本を記録。あと一歩で殻を破れそうな状況は今のチームとリンクするところも多いように思う。出場機会を掴んでいる間にどうにかチームを浮上させる一発が欲しいところだ。

 前半の終わり際にはセットプレーの競り合いで大谷が負傷。一度はプレーを続行したものの、ハーフタイムを待つことができず大森と交代。試合はこのまま0-1で前半を終了した。

 

 

奏功した右肩上がり

 後半先に手を打ってきたのはアウェイチーム。カルリーニョスジュニオを左WBとすることで守備時は最終ラインを5枚で形成。栃木の[3-4-2-1]と噛み合せるようにミラーゲームを敷いてきた。

 試合後のインタビューで秋葉監督が話していたように清水の課題は後半立ち上がり。25節大分戦では後半5分、26節千葉戦では後半2分に失点を喫しており、これがここ最近のチームの足枷となっていた。栃木にシステムを合わせることで守備基準を明確にし、この時間を乗り切ろうという狙いだった。

 ただ、栃木にとってはかえってそれが追い風となった。清水の[3-4-2-1]は急造感が否めず、特に本職ではない左WBに入ったカルリーニョスジュニオは守備の連携がいま一つ。周囲の味方と繋がりのある守備ができず、栃木は右サイドでボールを落ち着かせることができるようになった。

 これを受けて後半栃木が増やしたのが西谷を最終ラインに落として福島と黒﨑を一つずつ前にスライドさせる右肩上がりのビルドアップ。西谷が最終ラインをサポートすることで福島の持ち上がりを促し、ワイドの黒﨑をさらに高い位置へ押し出していく。清水が再び4バックに戻してからもこの可変による組み立ては効いていた。

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 そして、これが功を奏したのが67分の同点シーンである。西谷が右サイドに流れてボールを引き出すと、黒﨑とスペースを見つけて上がってきた福島がダイレクトでパスを繋ぎ前方の小堀へ。小堀が相手を引き付けながらボールをキープすると、最後は黒﨑の鋭いクロスに山田が頭で合わせてみせた。

 ダイレクトにボールを動かし、小堀に釣られた相手CBが外に引きずり出されたのを見るや、広がったCB間を見逃さずに飛び込んだ山田。瞬間的に空いた選手を見つけて手数をかけずにフィニッシュに至る一連の流れは、前回ホームゲームで黒﨑の決めたゴールを彷彿とさせる鮮やかなものだった。

 

 直後の飲水タイムが明けてからは両チームとも次々と選手交代を切っていく展開に。前半のうちに交代カードを一枚消化していた栃木にとっては、次の一手を打つ前に同点に追い付けたことは大きかっただろう。清水が原輝綺と鈴木唯人を投入すれば、栃木もすかさず吉田と石田を投入してサイドの運動量を確保していく。

 しかし、その後のコロリ→神谷の交代を機に清水が[3-5-2]にシフトするとやや押し込まれるように。3バックの右CBに入った原が最終ラインから攻撃参加してくるほか、IHの神谷や白崎が栃木のボランチ脇に顔を出すことで、栃木は両シャドーが前に出づらくなっていく。次第に[5-4-1]で構えるようになってからは押し込まれてからの打開の難易度は高くなっていった。

 そうした展開のなかで登場したのがイスマイラだったが、現状コンディションはまだまだな印象である。持ち前の身体能力の高さからボールを収める場面もあったが、スタートから起用するには難しいように思う。次節出場停止となる根本の枠には現状大島が最有力候補となるだろうか。

 最終盤も攻め合った両者だが、互いに勝ち越し点を奪うことはできず。試合は1-1で終了し、勝ち点1ずつを分け合う結果となった。

 

 

最後に

 清水のシステム変更や乾の途中交代など清水側の事情も考慮しなければならないが、それを割り引いても後半は互角以上の戦いができていたように思う。さずかに逆転までは漕ぎ着けそうになかったが、課題としていた後半に盛り返せたことは成功体験として自信になるはずだ。

 一時はベンチ外が続いていたところから数字で貢献できるようになってきた黒﨑や、ここにきてさらにコンディションを上げてきている山田・小堀など、厳しい夏場に好調を維持している選手が多いのはチームにとってポジティブな要素である。新加入選手が次々と加わり、天皇杯も勝ち進んでいることを考えれば、レギュラー組もうかうかしていられないだろう。この日の後半の盛り返しがこうしたチーム力の向上を映し出しているのだとすれば、それを一層高めるためにもさらなる起爆剤の登場に期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 清水エスパルス

得点 31分 鈴木義宜(清水)

   67分 山田雄士(栃木)

主審 川俣秀

観客 9283人

会場 カンセキスタジアムとちぎ