スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1] 17位
前節はアウェイで金沢に1-0で勝利。序盤に挙げた宮崎の得点を最後まで守り切り、今季初のアウェイ戦勝利を飾った。守備では2試合連続でクリーンシートを達成。交代策も含めて徐々に形が見えてきた印象だ。
スタメンの変更はなし。ベンチメンバーも変更なく、前節と同じ18人となった。最前線の宮崎はここ3試合で2ゴール。小堀も前節は二度ポストを叩くなど、好調の攻撃陣に期待が懸かる。
いわきFC [4-1-4-1] 21位
降格圏からの脱出を図るべく田村雄三監督をGMから昇格させたいわき。新監督就任後は負けなしを続けており、残留圏まであと一歩というところまで迫ってきた。
前節からのスタメンの変更は1人。左SHに永井が入り、谷村はベンチスタートとなった。前節秋田戦から中2日とタフな日程だが、こちらもここ最近の好調を維持するように最小限の変更に留めてきた。
対照的だった攻撃の迫力
いわきは前回対戦した4月と比べて大きく変貌していたように見えた。球際の強度や前への推進力は前体制下でも強みではあったが、後がない状況で緊急登板となったかつての指揮官のもと、それをより徹底的に行える集団になっていた。栃木はその気迫に気圧された印象だった。
それでも立ち上がりに関しては決して悪いものではなかった。前線が2トップ気味に並んで最終ラインに圧力をかけ、セカンドボールを回収すればサイドから再び2トップへボールを入れていく。吉田のクロスに対して宮崎がファーに膨らんで折り返し、小堀が中央に詰めるなど、2トップの関係性も良好だった。素早くボールを進めるいわきに対して、栃木も押し返す機会を一定数つくることはできていた。
それだけに栃木にとって痛恨だったのは早々の負傷で宮崎を欠くこととなったことである。攻守が目まぐるしく入れ替わる展開では、自分たちの攻撃ターンを確保するためにもボールを落ち着かせる存在が必要不可欠。後ろからの繋ぎに不安を残すこの日の後方のユニットを考えれば、前線で収められる宮崎は頼みの綱だった。
ここから栃木は前進に苦戦。途中から入った根本はポストプレーと裏への抜け出しに奮闘していたものの、小堀とのコンビネーションや全体の押し上げという点では今ひとつ。周りとの連携が乏しく攻撃が単発化していた印象である。
最前線でオフサイドラインと駆け引きし、味方に生かしてもらうのが本来得意とするプレーなのは間違いない。相手のミス絡みとはいえGKと1vs1を迎えたシーンではプルアウェイして背後へ抜ける動き出しは巧みだった。山田や高萩などパサーに生かされてナンボの選手である。いわきのハイプレスに遭い、後方からの組み立てに期待できない状況では根本への負担があまりに大きかった。弾き返されるロングボールのセカンドボールを回収しない限り、攻撃の形を作ることはできなかった。
一方、いわきは10分のロングカウンターにも見られたように、後ろの選手が次々とボールホルダーを追い越していくことで強烈な縦への推進力を見せていく。選手が近い距離間でボールに関わり、ペナルティエリア内に4人5人となだれ込む攻撃には迫力があった。前線に起点を作れず攻めあぐねる栃木とは対照的だった。
それに加えて、いわきは栃木のプレスの矢印を折るように前進するのが巧みだった。とりわけ、栃木のボランチの脇のスペースは多くの選手が様々な形で起点にしていた。多かったのはSBの内側への持ち運び。WBのハイプレスに対してSBが一つ内側に持ち出すことで中盤に数的優位を作り、ここから縦や逆サイドに展開していく。いわきの中盤3枚に対して栃木は前線のプレスバックや左右CBの迎撃で何とか枚数を合わせていたが、4人目の対応にはさすがに後手を踏んだ。
いわきの前進には手を焼いたがゴール前では身体を張った守備で対応。西谷はシュートコースに身を投げ出してゴールを守り、佐藤祥は激しく交錯しながらもセットプレーを凌いでいく。彼らの奮闘に応えるように小堀も自らドリブル突破し左足を強振。これはポストを直撃し、またしてもネットを揺らすことはできなかったが、前半終盤は栃木がペースを握り返してハーフタイムを迎えた。
ミスにミスの重なった失点
後半立ち上がりのペースを握ったのはホームのいわき。CB家泉が栃木の長いボールやルーズボールへの対応で強さを見せ、弾き返したボールに全体が反応することで、ゴールに向かう直線的な攻撃を繰り出していく。後半から投入された谷村は本職FWらしく身体の強さを生かして栃木のゴールを脅かしていった。
いわきの勢いを受けた栃木がようやく息ができるようになったのは後半10分を過ぎた辺りから。根本や小堀がポストプレーから少しずつ起点を作れるようになり、サイドに広げてクロスという一連の流れがようやくできるように。CB家泉にイエローカードが出たのも多少影響していただろう。
サイドに広げてからはシンプルにクロスを上げることはできていたが、いわきもクロス対応は堅調だった。それならばと栃木もセットプレーからさらに攻勢をかけられれば良かったが、特にCKのプレー精度を欠いた。ファーからの折り返しを基本路線としていたようだが、上手く折り返せずにチャンス化できず。良い流れを増幅したいなかで得たCKを不意にしてしまうため、押し込む展開を作れなかった。
こうした一つの攻撃から押し込み続けるというのに長けていたのがホームチーム。途中出場の岩渕とIHにポジションを移した谷村で構成する左サイドを中心に栃木を攻め立てていく。いわきの得点に繋がるCK獲得もこのサイドからだった。
栃木にとって悔やまれるのがこのCKのきっかけとなるプレーも、失点に直結したプレーもミスから招いたという点。失点シーンから時間を巻き戻すと、セカンドボールを回収していざ前に持ち出そうとしたところで西谷と吉田がボールの処理にもたつき、相手に回収された上に、岩渕の待つ広いサイドに展開されている。悪い失い方から後手の対応を余儀なくされた典型的なシーンだった。
失点シーンはどちらかといえばコミュニケーションミスの部類に入るだろう。一度CKを防いでからのラインアップは悪くはないが、この瞬間、マンツーマンからゾーンに切り替えたところで岩渕を含む右サイドの数人を誰も見ることができていなかった。アシストした山下は一足先にそれを認知し、一度は縦パスを封じられたものの二度目は通し、岩渕のフィニッシュに繋げた。
【LOOK BACK】
— いわきFC (@IwakiFcOfficial) 2023年7月5日
明治安田生命J2リーグ 第24節
vs #栃木SC
Goal 71'
MF 19 #岩渕弘人#iwakifc #いわきFC #Jリーグ #RELENTLESS pic.twitter.com/OVXdA0J5RT
ビハインドを背負ってからの時間は、かえっていわきの特徴が顕著に見えたと言っていいだろう。高萩を投入してボールを落ち着かせたい栃木に対して次々とプレスの槍を突き刺していくことで繋ぐ余裕を与えない。
79分の一連の流れはそれを象徴するシーンだった。山田がスペースで受けて持ち運ぼうとするや逆サイドから岩渕が絡み付くように寄せていき、再び栃木が攻めようとすれば根本に対してCB遠藤が厳しく対応。遠藤はそのままの流れで最終ラインからゴール前まで入っていくなど、1点差にも関わらず果敢に攻撃参加を仕掛けていった。本来ならば負けているチームこそやらないといけないプレーであり、栃木はこうした姿勢で完全にいわきに上回られてしまった。
終盤は森、山田を投入し、同じく途中出場の岡崎を前線に上げてパワープレーを敢行するも打開策にはならず。後半は一度もいわきのゴールを脅かすことができず、大事な直接対決を0-1で落とすこととなった。
最後に
高い強度や前への推進力は栃木も強みとしているところだが、いわきのそれは栃木を凌駕するものだった。最後まで落ちないいわきの圧力に屈した試合だった。
栃木はこうした徹底をキーワードとするような相手に対しては、今季これまでの傾向として、あえて真っ向勝負を挑まない戦いを行ってきた。相手のギャップを突きつつ左右に揺さぶりながら、最後はサイドから前線の選手が点で合わせる。精度に難はあれ、時崎監督のもと積み上げてきたのは相手の出方を見て適切な判断ができる主体的なサッカーだった。
しかし、得点力不足に兆しが見えないなか、後半戦に入ってからは宮崎を前線に据えて長いボールを増やす現実的な方法に切り替えてきた。シンプルな攻め筋であっても宮崎の圧倒的な力強さと小堀の急成長で大抵の相手には対抗することができていたが、力と力のぶつかり合いを前提とする戦いはこの日に関してはいわきの土俵だったと言えるだろう。こうした状況で組み立てに窮するのは前半の項に書いたとおりだった。
ショッキングな敗戦になったことは間違いない。しかし、連戦で重要なのはすぐに切り替えて次の試合に引きずらないことである。この試合は第41節ではない。再び顔を上げて次のホームゲームに向かっていきたい。
試合結果・ハイライト
得点 71分 岩渕弘人(いわき)
主審 田中玲匡
観客 2888人
会場 いわきグリーンフィールド