栃木SCのことをより考えるブログ

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【前への姿勢を貫いた金星】天皇杯3回戦 栃木SC vs サンフレッチェ広島

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] J2 20位

 リーグ戦を含む5連戦の4戦目を迎える栃木。仙台戦からは中2日と厳しい日程だが、連続してホームで戦える地の利を生かしたいところ。その仙台戦からはスタメンを大幅に変更。黒崎を除く10人を入れ替え、普段は出番が限られている選手が先発に名を連ねた。

 

サンフレッチェ広島 [3-4-2-1] J1 7位

 2回戦は地域リーグに所属するFC徳島に5-0で快勝。準優勝に終わった前回大会のリベンジを果たすべく幸先良いスタートを切ったが、現在チームは体調不良者が続出するアクシデントに見舞われている。その影響もあってか直近のリーグ戦と全く同じ11人が先発に。ベンチには代表常連の佐々木が戻ってきた。

 

 

攻守をはっきりと行う

 公式戦では初の顔合わせとなった両チーム。栃木にとっては3年連続のJ1勢との対決であり、力のある相手に対して自分たちのスタイルがどこまで通用するか図る絶好の機会である。マリノスに金星を挙げた昨季の再現を狙う試合となった。

 両チームともベースにあるのはハイプレスからのショートカウンター。互いに[3-4-2-1]を採用したことからミラーゲームの構図となり、立ち上がりから中盤での球際バトルが頻発していく。ボールロスト後の守備への切り替えも素早く、インテンシティの高い展開で試合は進んでいった。

 そのなかで序盤のペースを握ったのはホームの栃木。自陣からのビルドアップではベンカリファのポストプレーやシャドーの間受けを多用する広島に対して、栃木は最終ラインの選手が強めの迎撃で対応していく。広島は栃木の最終ラインの背後を狙う機会が少なく、ライン間での起点作りに比重を置いていたため、栃木は前向きの守備がしやすい状況だった。

 奪ったボールは素早く最終ラインの背後へ供給。この日最前線に入った大島は背後を執拗に狙うことで広島の重心を押し下げることに貢献。中盤の選手が前向きにボールを持ったタイミングで背後へのアクションを起こすため、パサーも出しやすかったように思う。7分には植田、12分には安田のスルーパスに抜け出してチャンスを演出。いつものようにポストプレーヤーはいない栃木だったが、久々に前線起用された大島が違った良さを見せることができていた。

 栃木の迎撃に手を焼いた広島だが、前線に当てた後のサポートを早めに用意することで徐々にビルドアップが安定。ボランチの東やシャドーの森島ら中盤の選手が前向きでボールを持つことで攻撃ターンを確保すると、そこからはシンプルなサイド攻撃を繰り出していく。

 森島に比べればアタッカー気質の高いエゼキエウが入った左サイドの方が栃木にとっては厄介だっただろう。WB柏との関係性から何度か突破を許したが、対面の黒崎と福島が粘り強く対応することができていた。ペナルティエリア内では高嶋もベンカリファに明確な優位性を取られることはなかった。

 時間の経過とともに広島がボール支配を強めていったが、トータルで見れば前向きの守備を機能させ、大島の裏抜けを軸に敵陣でのプレータイムを確保したことで、やや栃木ペースだったと言えるだろう。前進に苦戦していた広島に対して、栃木は一発背後から重心を押し上げられたことが大きかった。

 サイドでの閉じ込めを打開するサイドチェンジも良好。安田や神戸はこの辺りがスムーズで、前が厳しければ逆サイドへ展開していく。42分には右サイドで広島のプレスを剥がして左サイドへ展開。大森がスペースを持ち運びアーリークロスを供給すると、これがファーに流れてGK大迫がファンブル。森の折り返しを最後は安田が狙ったが惜しくもDFのブロックに阻まれた。

 前半ATには終始やり合っていたベンカリファが高嶋を押し倒してイエロー。イライラを募らせていた辺りは、栃木が試合を上手く進められていた証だろう。スコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

耐えるだけの展開にしない試合運び

 ハーフタイムに黒崎に代えて平松を投入した栃木。平松は3バックの中央に入り、高嶋が右CB、福島が右WBに一つずつスライドして後半を迎えた。

 前半の内容に手応えを得た栃木は選手を入れ替えても戦い方には変更なし。広島のボールホルダーに対して連動してプレスをかけていき、ベンカリファのポストプレーには平松と高嶋が受け渡しながら対応。回収したボールは最終ラインの背後へ送り込むことで、大島の裏抜けを生かそうという手立ても前半同様だった。

 前向きの圧力をかけるなかで、それが功を奏したのが54分。大島が対面のCB松本へ寄せると、相手の処理ミスを誘いPKを獲得。これを大島が冷静に決め切って栃木が先制に成功した。

 

 失点直後に広島は怒涛の4枚替え。佐々木や川村など普段リーグ戦に出場している主力選手を次々とピッチに投入していく。

 ここから広島は攻撃のギアが一段階上昇。3バックの手前で野津田がアンカー気味にボールを捌きつつ、ベンカリファのポストプレーやエゼキエウの個人技など左サイドに人数をかけて栃木を押し込んでいく。こちらのサイドからの攻撃が増えたのは左利きの野津田や川村、最終ラインに佐々木が登場したことも影響していただろう。左サイドからゴリゴリ押し込むこともあれば、広い右サイドに開いて右WB茶島がミドルシュートを狙う場面もあった。

 この時間帯の栃木は前線に起点を作ることができず。最終ラインの荒木や佐々木は高さと機動力に優れ、大島の裏抜けも有効策にはならなかった。そうしたなかで流れを引き戻すきっかけとなったのが根本の投入だった。

 最前線に入った根本はそれまで大島が担っていた裏抜けに加えてポストプレーでも貢献。ボールを隠す身体の使い方はJ1のCB相手にも十分通用しており、ここで時間を作れたことが非常に大きかった。チームとして根本を生かすアーリークロスも多く、広島DFが戻りながらの対応で自陣方向にクリアするためCKを得ることができていた。攻勢を強める広島に対して攻め込まれるだけの展開にならずに済んだのは、こうして適宜押し返す時間を作れていたからだった。

 それでも試合終盤は意地を見せる広島の猛攻にさらされる長かった。WBが最終ラインに吸収されて5バックになることも多く、とりわけ終始押されていた右WB福島は常時撤退しているような状態に。84分にはゴール前で与えた直接FKが壁に当たり、86分にはDF-GK間に鋭く通されたグラウンダーのクロスには冷や汗をかかされた。

 苦しい時間帯を全員で凌いだ栃木に歓喜の瞬間が訪れたのは後半AT。DFを上げてパワープレーする広島の攻撃をクリアすると、根本が身体を張ってボールをキープ。そこに続いて現れたのは広島のDFではなく、前半途中から出場していた西谷だった。根本のスルーパスで上手く入れ替わり、そのままGKもかわして無人ゴールマウスへ。勝利を手繰り寄せる決定打だった。

 

 最後まで広島の攻撃を無失点で凌いだ栃木が2-0で勝利。2年連続でJ1チームを破るアップセットを成し遂げ、福岡の待つ4回戦へ駒を進めた。

 

 

最後に

 後半立ち上がりの勢いで先手を取り、攻勢を強める相手に対して攻撃回数を確保しつつ、前がかりになった背後を突いて試合を決定づける。後半の試合運びに課題を抱える栃木にとって自信の付く内容だったと言えるだろう。今季でも指折りのベストゲームだった。

 もちろん広島のコンディション面は考慮しなければならない。日程面では1日のアドバンテージがあったとはいえ、長距離移動に加えてアクシデントによる先発11人継続となれば厳しいところはある。

 ただ、それを割り引いても、高温多湿な環境のなかで最後まで足を止めず、前向きの姿勢を貫いた選手たちは評価されるべきだと思う。最終的にはリーグ戦に絡む選手も多く出場したが、その姿勢は90分を通じて変わることはなかった。なかなか先発に定着できず、負傷者の兼ね合いで1トップ起用となった大島がその筆頭となって決定的な仕事をしてみせたこともチームに良い影響を与えるはずだ。この勢いを週末の大宮戦にぶつけていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-0 サンフレッチェ広島

得点 54分 大島康樹(栃木)

   90+4分 西谷優希(栃木)

主審 山本雄大

観客 2552人

会場 カンセキスタジアムとちぎ