栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【リスペクトのし過ぎには注意】J2 第3節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

f:id:y_tochi19:20220307010358p:plain

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20220307010405p:plain

栃木SC [3-4-2-1] 11位

 8年振りに開幕戦勝利を飾ったが前節はヴェルディに3失点で敗戦。ホームに戻った今節は仕切り直しを図る一戦となる。スタメンの変更は2人。左WB谷内田、右WB大島はともに今季初先発となり、小堀と森は前節とは異なるポジションでの起用となった。山本は初のベンチ入り。

 

ファジアーノ岡山 [4-3-3]

 大型補強で今オフの主役になった岡山。チアゴアウベス、ヨルディバイスら実力者に加え、昨季栃木で主将を務めた柳も補強。木山新監督のもとチームは大きく生まれ変わり、開幕から2試合負けなしと好スタートを切った。前節徳島戦と同じスタメンで今季最初のアウェイゲームに臨む。

 

 

過度な慎重さ

 ヴェルディ戦の立ち上がりに背後を突かれて失点したこと。岡山がデュークやチアゴアウベスなど強力なFW陣を擁していたこと。栃木の前への積極性がほとんど見られなかった要因としてこれらは大きく影響していたように思う。相手をリスペクトし過ぎるあまり自分たちの良さを発揮できず、かなり慎重な試合運びとなってしまった。

 それが顕著に表れたのがプレスの場面。トップの小堀が岡山のアンカー本山をケアするのはそれほど問題ではない。一発でアンカーに入ってしまえば簡単に左右への展開を許してしまうため、そこからCBへ寄せるタイミングも慎重になる。よって、前へのアグレッシブさを担保するためにCBに寄せるのはシャドーの役割になるのだが、この時後ろからWBが連動できず岡山のSBがフリーになるシーンがしばしばあった。

f:id:y_tochi19:20220308011732p:plain

 2分のシーンでは、大島が岡山のWGチアゴアウベスにピン留めされており、前に出ることができていない。よって、栃木は多くの選手を後ろに残した状態になっている。マークの噛み合わせを考えればここはCB鈴木に任せるべきだっただろう。森の二度追いは間に合わず、フリーの徳元がアンカーの本山へボールを預けると本山は右サイドへ展開。ピッチを横断されてから最後はクロスを許してしまう形は本来避けたい攻撃ルートだった。

 

 また、この試合ではバイスが積極的にフィードを供給し、デュークのポストプレーからセカンドボールを拾って前進する場面が多かったが、これもWBが前へ出られなかったことが影響している。

 バイスが森のプレスを受け、隣でフリーの徳元に預けてから再びリターンをもらうとこの時点でバイスはフリーになる。森も相当なハードワーカーだが、ここで三度追いするよりはもう構えようと判断するのはやむを得ないだろう。そうしてフリーになったバイスは高精度のフィードをデュークに送り届け、そのセカンドを栃木よりも多い3枚の中盤で回収することで岡山は攻撃の時間を増やしていった。

f:id:y_tochi19:20220308011737p:plain

 

 裏に抜け出されたり、前を向くと仕掛けてくるチアゴアウベスと対峙する大島はかなり難しい対応を強いられた。インテンシティの高い栃木のスタイルに慣れ親しんでいるはずの大島が対応に手を焼き、ほとんどプレスに参戦できなかったことがそれを物語っている。

 一方左サイドは右サイドに比べればよくプレスをかけられていたように思う。トカチの出足が良かったためだと思うが、追随する谷内田も本職ではなくタフな仕事を求められるポジションながら上手く大森と守備を分担できていた。

 しかしながら、栃木がハイプレスでボールを回収できたのは数える限り。25分、ショートカウンターから西谷がシュートを放ったシーンはプレッシングが功を奏したというよりは単なる相手のエラーだろう。それ以降岡山があまり繋がずにフィードを多用するようになったことから、栃木がプレッシングで奪い切るシーンは見られなくなった。

 

 

人選による色付け

 前からのプレッシャーが上手くいかなくても今年の栃木に希望が持てるのは自陣からのビルドアップに着手しているから。ここまで時崎監督はベースとなるビルドアップの型を用意しつつ、人選で試合ごとに色付けしているような印象である。

 この日の人選で特徴的だったのは谷内田の左WB起用。本来インサイドでプレーする谷内田は細かいボールタッチとテクニックで攻撃にアクセントをつけるのが武器の選手。比較的相手からの寄せの少ないエリアでボールに頻繁に関わることで大森の攻め上がりやトカチとの関係性からサイド攻略を図りたかったのだろう。ハーフスペースからの裏抜け要員を用意できれば人への守備意識の高い柳を外に釣り出すことができる。

f:id:y_tochi19:20220308011743p:plain

 ただ、谷内田をサイドに置いた効果が現れるところまでそもそも至らなかったのが実際のところである。ボランチやCBからのサイドへの配球は精度を欠き、ビルドアップのテンポが上がらず谷内田に渡っても後ろに下げざるを得ない状況がしばしば見られた。

 逆サイドのシャドーに森を置いた理由も少々見えなかった。ボールを貰ってからゴリゴリと運べる推進力が魅力だが、縦を切られたときのドリブル方向がどうしても横向きになってしまうのは気になるところ。大外の大島は孤立気味となり、鈴木との関係性も希薄に見えた。連携面の向上はこれからだろう。

 

 

4バックになってできたこと

 後半開始とともにロングボールから相手陣地に入っていく両チーム。ターゲットの力強さ、セカンドボールに構える中盤の枚数の差で岡山が栃木陣地に入る回数を増やしていくと、チアゴアウベスがゴール前で倒されFKを獲得。バイスのタイミングをズラしたキックは技ありだった。

 

 そこからの岡山はリスクを冒さない戦いを徹底。ビルドアップで栃木のプレスを引き出しながらも前線を目掛けたロングフィードが基本路線。本当はハーフスペース攻略などを混ぜ込みつつ敵陣でプレーする時間を増やしたいのだと思うが、理想と折り合いをつけながら相手の嫌がる攻撃を続けられる戦いはさすがJ2を知る木山監督といったところ。デュークのポストプレーを経由して素早く縦に攻める攻撃に対して、栃木は川田のビッグセーブがなければ早々に試合は決まっていた。

 

 58分、栃木は選手交代に併せてシステムを[4-2-3-1]に変更。今季初出場となる山本は前体制ではあまり見られなかったボランチでの起用となり、谷内田は本職の2列目へポジションを上げた。

 ビルドアップのスタート地点に関わる選手の数を減らしたことでプレスを受けたときの危うさは見られたものの、前線を1人増やした効果との収支はプラスだったといえるだろう。同じくシステム変更を行ったヴェルディ戦よりも4バックでの戦い方は様になっていた。

 4バックのビルドアップにおいても3バックのときと大枠は同じで、狙いは中央で一つ起点を作って相手の注意を引いてからサイドの選手にクロスをあげる時間的余裕を与えること。山本が最終ラインに下りて岡山の寄せを牽制しつつ、山本、鈴木、グティエレスの3人がライン間に構える選手にスパスパと縦パスを差し込んでいった。[4-5-1]もしくは[4-1-4-1]で構える岡山のブロックのなかでも瀬沼やトカチはボールを失わない高いキープ力を発揮できていた。

f:id:y_tochi19:20220308011806p:plain

 しかしながら、サイドに開くパスが乱れたりSBのパフォーマンスが奮わなかったりと、中央を噛ませたことでもたらされたサイドでの優位を有効活用することがほとんどできなかった。シュートも強引に振り抜いたトカチによるものくらいで、堅い岡山のディフェンスを前に見せ場を作れずタイムアップ。0-1で敗れた栃木は開幕勝利から一転、2連敗となった。

 

 

最後に

 時崎監督は試合後にリスクマネジメントの難しさを語ったが、選手間でバラついているコンディションを見極めつつ、さらに競争を促す選手起用を同時に模索しなくてはならない難しさは想像にかたくない。現状はトレーニングの遅れを実戦を通して落とし込んでいるところだが、岡山はそんな栃木の難しさのなかに付け入る隙を見出し最小得点差で勝利をもぎ取った。

 相手をリスペクトすることはもちろん重要だが、過度に意識して動きが重くなってしまっては収支はマイナスである。前節ヴェルディ戦で見せた積極性を考えれば、この試合は栃木にとって消化不良といえるだろう。もっとできるはずである。岡山と同じシステムを採用する大宮との対戦を直後に控えていることを挽回のチャンスと捉えるべきだろう。

 今週、小堀空と鈴木海音が世代別代表のトレーニングに追加招集されたというニュースがあった。試合に出続けただけでなくそこでのプレーが評価されての招集である。同世代のエリートから多くのものを吸収し、帰還後にはチームのムードを前向きにするような還元に期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 ファジアーノ岡山

得点 48分 ヨルディバイス(岡山)

主審 小屋幸栄

観客 2922人

会場 カンセキスタジアムとちぎ