栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【スコアには表れない部分】J2 第2節 栃木SC vs 東京ヴェルディ

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スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 3位

 秋田との開幕戦を制し8年振りの白星発進となった栃木。11年振りの開幕連勝を目指して今節はアウェイ味の素スタジアムに乗り込む。スタメンの変更は1人。福森に変わって森が左WBに入り、ベンチには青嶋、宮崎が初めて名を連ねた。大森にとっては長く下部組織を過ごした古巣との対戦となる。

 

東京ヴェルディ [4-3-3] 6位

 堀監督2年目となる今季もショートパスを多用するスタイルを継続。長崎と対戦した開幕戦はドローに終わったものの、優勝候補にもあげられる相手に優勢に進める時間を多く作ることができた。今節はスタメンを2人変更。前節途中出場の新井と大卒ルーキーの谷口が初先発となった。

 

 

左肩上がりな栃木

 3分、24分と前半半ばまでに立て続けに失点を許した栃木だったが、スコアとは裏腹、ボールに襲いかかるスピードや球際の強さ、奪い切ってからのカウンターではヴェルディに引けを取らない好パフォーマンスだった。

 特に序盤から出足の良さを発揮できていたのがトカチを筆頭とする左サイド。トカチはCBの馬場を正面から睨みつつ横パスが入るとプレスを開始。そこに次々と選手が連動することで2人目3人目のところでボールを回収することができていた。本来はアタッカーである森をWB起用していることもあり、SHさながらの前への勢いや奪ってからの推進力を発揮できた点も左サイドの積極性が目立った理由の一つだろう。

 左サイドのアグレッシブさが目立った一方で、右サイドはどちらかと言えば大人しめだった印象。トカチと対になる小堀がMFラインに吸収されることが多かったが、これは両チームの狙いがぶつかった結果がピッチ上の現象として現れたのだと思う。

 ヴェルディ側の仕掛けは左SB深澤の偽SB化である。あえて深澤にインサイドの立ち位置を取らせることで梶川を攻撃に専念させると同時に、小堀を中央に引き付けて杉本へのパスコースを確保する。ピッチを広く左右に揺さぶる経路を確保することで栃木の右サイドを押し込んでいった。

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 一方、栃木側としても試合前の段階から左肩上がりの守備隊形は準備していたと思う。瀬沼はCBに寄せつつも第一にアンカーの山本へのパスコースを隠すことを優先。よりフィードに自信のある馬場にはトカチがいち早く寄せることとしており、比較的相方の谷口には時間が与えられる格好となっていた。前節ヴェルディの左CBに入った平がビルドアップに苦戦していたことも栃木がこのような守備戦術を選択した背景にあるのかもしれない。

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 よってヴェルディは谷口からボールを前に進めたいところだが、ここの球出しを栃木は自由にやらせなかった。谷口への寄せが遅れたとしても、パスの受け手を厳しく監視。栃木の選手がほぼマンツーマンにつくことで受け手からプレー精度を奪っていき、ヴェルディを自陣から簡単には出させなかった。ショートカウンターを連発できた10分代は栃木としては罠にはめ込んでいるような感覚だっただろう。

 しかし24分、ファールで流れが止まってからの最初のプレーで谷口が素晴らしい縦パスを通す。この場面、前に出た瀬沼に連動して西谷もプレスに向かったことで佐藤祥の周辺にスペースが生じていた。グティエレスは佐藤凌我のポストプレーを塞ぐことができず、カウンターのように一気に攻撃を加速されてしまい失点を許した。良い守備を繰り返せていた時間帯に生じた一瞬の綻びを突かれてしまった。

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 自身の縦パスから得点を生み出した谷口はそこから積極的に縦パスや裏に抜けるフィードを供給。慌てて瀬沼や小堀が寄せていっても梶川や深澤が捕まえられない位置で巧みにプレス回避されるためボールを取り上げることができない。そうすると栃木はトカチのサイドから何とか打開したいところだが、ヴェルディの右SB山越がトカチからも森からも寄せるには絶妙に遠いポジションを取り続けたことで、栃木の勢いは牽制されてしまった。

 それでも栃木は何度かカウンターに繋げていくシーンはあったものの、ヴェルディのボールを失ってからの切り替えが非常に早く、ゴール前までボールを運んでいくのも一苦労という状況だった。前節決勝点をお膳立てしたトカチも何人か剥がさないとシュートに持ち込めないほどマークが厳しく、瀬沼や小堀の高さを生かす攻撃もその前のクロス精度が伴わなかった。

 

 

一度中央を噛ませる工夫

 ハイプレスから掴んだ流れは後半も継続。前線3人とボランチヴェルディのビルドアップを制限しつつ、スペースが空きがちな中盤でボールを受けようとする佐藤凌我にはCBがピタリとついていく。ボールの受け手に余裕を与えない守備で上手くカウンターに繋げることができていた。

 そこに加えて、後半はより保持時のビルドアップを大事にしているように見えた。3CBとボランチ1枚が後ろを安定させる役割を担い、もう1枚のボランチが近い距離感でサイドへの展開を助けるのが基本の形。中央で一度起点を作ってからのサイド攻撃となるため相手を押し込む効果も高く、左右のCBである大森と鈴木がタイミングよく駆け上がることでサイド攻撃に厚みをもたらすことができていた。ボランチのプレー判断が早いのも攻撃時に進むルートがチーム全体に仕込まれているからだろう。

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 一度中央を噛ませるビルドアップは、開幕戦で露呈した左WBに右利き問題への対応策にもなったように思う。開幕戦で左WBに入った福森はすぐ後方の大森からパスをもらうことが多く、サイドに追い込まれてバックパスを選択せざるを得ない状況が頻発してしまっていた。しかしこの試合ではボランチを一度噛ませて相手の視線を中央に集めることでサイドの選手に時間を付与。推進力あるドリブルを武器とする森が入ったこともあり、左サイドの窮屈さはそれなりに解消していたように思う。

 一方ヴェルディはハイプレスに苦しみながらも、3トップで栃木の5枚の最終ラインを抑え込むよう微調整しつつ、残りの7人+GKでボールの支配を高めていく。栃木がプレスを仕掛けていってもヴェルディ陣地では少なくとも2人余るような格好となっており、プレスをひっくり返す前進もしばしば見られた。

 

 

システム変更が裏目

 谷内田が途中出場してからの栃木は前線のプレー精度が一段階向上。谷内田自身もチームとして決まりごとにしているハーフスペースに抜けていくランニングや、自身の強みであるボールに多く関わるプレーで前線を活性化。シャドーは谷内田にとって最も彼らしさを発揮できるポジションなのではないだろうか。

 ボールを持っているかを問わずヴェルディ陣地で試合を進める栃木はさらに攻勢を強めるべく植田を投入。トップ下に植田、左SHには森を一列上げることでシステムを[4-2-3-1]に変更。前への比重を高めていくが、これがかえってヴェルディの攻撃を招くことになってしまった。

 致命的だったのはバイタルエリアに栃木の選手が空っぽになってしまったこと、そして4人の最終ラインでは幅を取るヴェルディの攻撃を抑えられなくなったことである。どちらも3バックの時間帯には生じなかった出来事であり、[4-4-2]でプレスをかけるチームの泣きどころといえるだろう。勢いづかせたヴェルディにセットプレーから3点目を献上したところで勝負ありだった。

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 残り時間少ない栃木は矢野と大島を投入して運動量を補填していくが、細かく繋いでプレスをかわしつつ、ロスト後の守備への切り替えへも早いヴェルディの対応に苦戦。トカチのようにエリア外からでも強引にシュートを狙えるような選手もいなくなり、時間とともに攻撃はフェードアウトしていった。

 試合はこのまま0-3で終了。栃木は今季初黒星、ヴェルディはホーム開幕戦を勝利で飾った。

 

 

最後に

 試合の入りがあまりにアグレッシブだったので最後まで体力が持つか心配だったが、昨季さながらのハードワークが続いたのには少々驚いた。スコアは完敗だが、プレシーズンのアクシデントから少しずつ立ち直りつつあることを印象づけたといえるだろう。得点差で生じやすい「もうダメか」という雰囲気を一切感じさせなかった点はポジティブである。

 開幕戦はボールを持たない秋田が相手だったことから見せる機会のなかったハイプレスも、パスワーク自慢のヴェルディに効いたのは自信になるはずである。昨季までのベースに加えて、ビルドアップへの取り組みも前節を受けて修正を施し、それなりに効果を生んでいる。内容で得られた充実感を結果に繋げるには多くの時間を要すると思うが、その過程も楽しめそうなチームであることに今後の期待が高まるアウェイゲームだった。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-3 東京ヴェルディ

得点 3分 杉本竜士(東京V)

   24分 梶川諒太(東京V)

   76分 河村慶人(東京V)

主審 松本大

観客 4362人

会場 味の素スタジアム