栃木SCのことをより考えるブログ

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【反撃開始】J2 第22節 栃木SC vs 大分トリニータ

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節群馬戦からは2人変更。契約上出場不可の福森が務めていた左WBには森がスライドし、右シャドーには西谷が8試合ぶりに先発入り。ボランチには神戸に代わって5試合ぶりに佐藤祥が入った。3日前に湘南からの加入が発表された根本がさっそくベンチ入り。

 

大分トリニータ [3-4-2-1] 10位

 前半戦を7勝7分7敗のイーブンな成績で終えた大分。ルヴァン杯の敗退が決まり、リーグ戦一本となった後半戦は昇格圏内への滑り込みを目指す。敗れた前節新潟戦からは3人変更し、下田や松本、長沢ら力のあるベテラン勢が先発となった。

 

 

流れを大きく変えた修正策

 これまで谷内田の相方として機能していた神戸に代わってボランチに佐藤祥が入ったこと。いくつかある選択肢から先発では初めて西谷が右シャドーとして起用されたこと。両チームのスタイルや前回対戦を踏まえれば、栃木としてはある程度大分にボールを握られる時間が長くなることを前提に組んだ人選といえるだろう。非保持の守備強度をかなり意識したラインナップとなった。

 立ち上がりからボールを握る大分はビルドアップ時に必ずと言っていいほどボランチの下田がCBペレイラと三竿の間に下りることで[4-1-5]を形成するようにしていた。このとき左右CBの上夷と三竿はSB化し、WBを最前線に押し上げる。シャドーの野村や渡邉はそれに合わせてボランチの脇に下りてくるような配置になっていた。

 下田の動きがトリガーになっている分、大分は左サイドからの前進が多め。前からのプレッシングで勢いをもって試合に入りたい栃木はGK高木やペレイラに対して矢野が寄せれば、それに合わせて西谷が下田に対して寄せていくのだが、その後ろで三竿をフリーにしてしまいここから立ち上がりに何度かピンチを招いた。

 3分、持ち運んだ三竿のアーリークロスから長沢がつま先でシュート。5分のゴールライン上で西谷が何とか掻き出した場面も、元をたどれば、三竿の前進にボランチが釣り出されたことで手薄になった中盤を横断されたところから始まっている。ボランチ脇でボールを引き出すシャドーを規制することもできず、ゴール前まで運べばダイレクトやスルーを交えた多彩な攻撃を繰り出す大分に対して、序盤は完全に押し込まれてしまった。

 

 下田→三竿と西谷が二度追いしてもどうにも前進を遮れない栃木は、15分ごろからプレスのかけ方を修正。矢野が下田を見るようにし、西谷が三竿を監視。ペレイラのボール保持はある程度許容することとし、左シャドーの植田もなるべく谷内田との距離が開かないような立ち位置から上夷へ寄せていく。前が整理されたことで後ろも連動できるようになった。

 17分には、谷内田が相手GKにプレッシャーをかけてこぼれたボールを押し込んだがオフサイド判定。プレス連動がハマっていることで後ろに人を残す必要がなく、谷内田は羽田のマークを越えてGK高木まで二度追いすることができた。

 ボランチ脇でボールを引き出していたシャドーに対しても大谷、大森がガツンと迎撃することで前を向かせない。32分には野村がバックラインをサポートしなければならないほど追い込んでいき、最終的にはCBグティエレスが渡邉を倒してしまったシーンは相手ゴール前だった。依然ボールを握るのは大分だったが、プレスを修正してからは完全に栃木ペースで試合は進んでいった。

 攻撃面に目を向ければ、守備の時間が長くなるときに頼みの綱となるカウンター局面で矢野のパフォーマンスはハイレベルだった。ポストプレーはさることながらサイドに流れてボールを引き出すことで、味方を押し上げる起点を作った。サイドからの崩しには引き続き課題の余地はあるものの、守備がカチッとはまっている分攻撃の試行回数は多く、セットプレーを獲得できれば谷内田のプレースキックにも可能性を感じる精度だった。

 

 

交代策で加速

 後半も栃木が大分のビルドアップを引っかけてはカウンターを量産していく。大分の繋ぎは足元に要求するものがほとんどで、長沢を裏抜けさせる機会も少なかったことから後ろの選手は迎撃しやすかったように思う。ボランチ脇で起点を作るはずのシャドーもかえって栃木に狙い撃ちされる状態となっていた。

 引き続き栃木がペースを握るなかで先に得点をあげたのは劣勢だったアウェイチーム。マーカーのグティエレスはボールと相手を同一視野に入れられず、どちらを防ぐにも曖昧な対応となってしまった。

 このシーンにもあるように、優秀なキッカーを揃える大分に対して自陣で多くのFKを与えてしまったことは修正したい点。ジャッジとの相性は難しかったかもしれないが、球際に遅れた場面や過度な力によるプレーには一貫して笛を吹いていただけにアジャストしたい部分ではあった。失点はそのうちの一つを沈められたものだった。

 

 ビハインドを負った栃木は67分に根本を投入。システムを[3-5-2]に変更し、ツインタワーを並べる布陣で前線にパワー感を補強していく。

 前線にターゲットが二枚並んだ栃木はここからシンプルなロングボールが増加。投入直後には根本が挨拶代わりのフリックから矢野の抜け出しをお膳立てするも、GKの飛び出しでシュートには至らず。動きながら落下地点に入り頭一つ上回る競り合いの強さや腰を落として相手を背負うポストプレーには存在感があり、加入間もないながら味方選手にも分かりやすい明確な武器で前線を牽引した。

 76分にトカチを左IHに投入してからはより前傾姿勢に。プレーの強引さが裏目に出ていたここ最近のトカチだが、この試合では前への推進力がそのまま栃木の勢いを加速。時間がかかりクロスのタイミングを逸することがあったサイド攻撃にもスピード感が生まれ、徐々にシュートに持ち込むシーンが増えていく。

 84分には相手CKを防いでのカウンターから矢野のラストパスを受けたトカチが左サイドを突破し、左足シュートを放つもGKセーブ。89分には森のロングボールを根本が胸で落とし、カットインして持ち込んだトカチのシュートはGKセーブ。トカチが収めるとチーム全体の攻撃スイッチが一気に入る雰囲気があった。

 それでもGK高木の好セーブを前にゴールネットを揺らすことができない。アディショナルタイムに入ってからの大島の切り返してのシュートも素早い反応で防がれてしまう。シュートコースの甘さは否めないが、これだけセーブされてしまうとGKが「当たっている」試合と言わざるを得ないだろう。

 いよいよ残り時間が限られてきた94分、ついに栃木の攻勢が実る。パワープレー気味に放り込んだグティエレスのロングボールを矢野が落とすと、セカンドボールに反応した根本が右足を一閃。ゴールまで約30メートルの距離を豪快に撃ち抜き、栃木が土壇場で追い付いた。

 試合はこのままドロー決着。ニューカマーの鮮烈デビュー弾で追い付いた栃木がなんとか勝ち点1を上積みすることに成功した。

 

 

最後に

 試合中に施した修正策と後半切った交代カードが奏功し、最終盤にドローに持ち込んだ栃木。降格圏が迫る4戦勝ちなしは確かに厳しい現実ではあるが、この試合を受けての感触は決して悪くないだろう。良い流れで進めても一つの失点を覆せずに敗れてしまったり、終盤凌ぎ切れずに勝ち点を失うことが多かった栃木にとって、この日の展開は今までと明らかに違うものである。新加入選手がそれを導いてくれたことも今後に向けて明るい材料である。

 ミッドウィークの天皇杯横浜・F・マリノス戦を挟んで週末には勝ち点差1で迫る岩手との下位直接対決が控える。何がなんでも結果に拘らなければならない試合だ。反撃ののろしを上げたチームが追いすがるライバルを振り払うような結果にぜひ期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 大分トリニータ

得点 57分 羽田健人 (大分)

   90+4分 根本凌(栃木)

主審 田中玲匡

観客 3658人

会場 栃木県グリーンスタジアム

 

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