栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【歴史を塗り替えた強敵撃破】天皇杯3回戦 栃木SC vs 横浜F・マリノス

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] J2 19位

 終了間際のトカチ弾で岡山を退け、2年連続で3回戦進出を決めた栃木。2011年、2013年と過去敗れているマリノス相手に三度目の正直を狙う。直近のリーグ戦からは黒崎以外10人を変更。負傷から復帰した山本が右IHに入り、本職FWの小堀はCB起用となった。

 

横浜F・マリノス [4-2-1-3] J1 1位

 2回戦は三重県代表でJFL所属の鈴鹿に快勝したマリノス。2013年以来の戴冠を目指してアウェイ栃木に乗り込む。直近のリーグ戦からは先発6人を変更。マルコスジュニオールら普段のレギュラー組のほか、元栃木のオビ、エドゥアルド、水沼、栃木県出身の小池など縁のある選手が先発に名を連ねた。

 

 

アタッキングスタイルに耐え凌ぐ

 一つ勝ち進んだことでJ1チームへの挑戦権を手に入れた栃木。高い強度や技術、スピード感など普段のリーグ戦にはないクオリティを体感できる絶好の機会である。連戦を考慮し控え組中心のメンバー構成となったがやることは変わらない。いつもの戦い方がマリノス相手にどこまで通用するか、チームの現在地を確かめる一戦となった。

 この日の栃木は[3-5-2]のシステムを採用。山本がSB小池をケアしていたのに対して、トカチはボランチを背中で隠しながら対面のCB角田を監視。トカチは前残りすることも多く、左右非対称のシャドーというよりはそもそもの配置がIHとFWで異なっていたといえるだろう。守備時はWBも下がって5バックで構えつつ、前線にはアタッカーを2枚配置するカウンターに特化した布陣を採用した。

 序盤はこの[3-5-2]から行うプレッシングがハマった。マリノスの中盤3枚に対して栃木の中盤3枚がピタリと張り付き、FWのプレスバックも含めてボールホルダーに時間を与えない。集中した守備で中盤で絡め取る回数は少なくなく、サイドを経由したカウンターから何度かマリノス陣地まで運ぶことができた。

 

 プレッシングから少々面食らった感のあるマリノスだったが、ここまでは様子見の範囲内だっただろう。マリノスの真骨頂はとにかくアグレッシブなアタッキングフットボールである。16分、栃木が押し込んだ流れから高いバックラインの背後をレオセアラが一発で抜け出す。完全に置き去りにされた栃木守備陣は為す術ない状態だったが、GK藤田の好セーブで間一髪失点は免れた。上手く試合を進めていた栃木に対して一瞬の隙も見逃さないマリノスだった。

 この一連の流れをきっかけに一気にペースはマリノスへ。不慣れなCBで起用された小堀が不安定なプレーを見せればここぞとばかりに栃木の右サイドを狙い撃ちしてくる。30分には小堀の処理ミスを奪ったレオセアラが至近距離からシュート。31分には樺山のドリブル突破からのクロスに合わせたレオセアラが再びシュート。右サイドの守備連携や樺山との1対1には後手を踏んだが、いずれもゴールマウスには藤田が立ちはだかった。

 マリノスは前線の選手が裏に抜ける動きと間に下りる動きを入れ代わり立ち代わり繰り返すのに加えて、SBのインナーラップやサイドで作った三角形に不規則に関わってくるマルコスジュニオールなどとにかく攻撃が多彩。掴みどころのない相手に栃木は寄せようもなく、次第にトカチを一列下ろして[5-4-1]で構えるようになった。カウンター要員としてトカチを前線に残しておく余裕すらない状況だった。

 42分、バックラインから持ち運ぼうとして小堀がコントロールミスしてしまった場面があったが、難しい状況を理解したなりに何とかしたいという想いだっただろう。瀬沼もなるべくロングボールをSBと競ろうとしていた。攻撃の時間を作れず終始ボールは支配されたものの、何とかハーフタイムまで漕ぎつけた栃木だった。

 

 

好機を逃さない

 二枚の交代を経て再開した栃木。連戦を考慮して退いた黒﨑に代わって大森が左WBに入り、大島が右WBにスライド。前線にはよりターゲットとしての強さが光る宮崎が瀬沼に代わって入った。

 後半マリノスは栃木が[5-2-3]で構えるときのボランチ脇をかなり意識していたように見えた。特に前への意識が強いトカチの裏にはスペースがあり、内側に潜ってきて配球するSB松原を捕まえられず、同サイドから水沼の突破やゴール手前でマルコスジュニオールのFKを許すことがあった。一度見つけた隙は徹底的に突いてくるマリノスである。

 それでも後半栃木が受けるだけの展開にならなかったのは1トップに入った宮崎がハイボールにことごとく競り勝てていたから。頭一つ相手を上回り近くに落とすことで味方もセカンドボールを回収できる。そうして攻撃の機会を確保すると、58分に栃木が均衡を破る。

 セットプレーの流れから敵陣に人数をかけると、セカンドボールを回収し二次攻撃に繋げていく。トカチ、大森とシュートを放ち、こぼれてきたボールに反応したのはボランチ神戸。右足で放ったシュートはドライブ回転しGKオビの左手をかすめてゴールネットに突き刺さった。

 まさかのビハインドを負ったマリノスは怒涛の3枚替え。アタッカーを入れ替えて攻撃のギアを上げていく。栃木は[5-4-1]で構える分ボランチ脇を使われる機会は減ったが、背後への抜け出しや横幅広く使われてからの1対1には何度も肝を冷やした。宮崎のポストプレーを起点に磯村がゴールポストぎりぎりのミドルシュート放つなど、一定のカウンター機会を確保できたことで適度に重心を押し上げられたのも防戦一方にならなかった要因の一つである。

 井出と磯村の負傷によるアクシデントもチーム全体で耐え凌ぎ、決定的なピンチにもGK藤田がゴールマウスに鍵をかける。終盤に差しかかる頃には「もしかしたら勝てるかもしれない」とスタジアムのボルテージが上がっていくのを感じられる雰囲気があった。そして、アディショナルタイムにそれが決定的になる。

 前線にポジションを移した小堀がコーナーフラッグ付近でボールをキープすると、こぼれ球を宮崎が繋いで最後はジュニーニョがプッシュ。2点差に突き放す決定打だった。

 最後まで無失点で耐え切り2-0で試合は終了。J1首位を破るアップセットを成し遂げた栃木が2008年以来となる4回戦へ駒を進めた。

 

 

最後に

 栃木ができる最大限の理想的な試合運びを体現できたといえるだろう。もちろん藤田の神がかり的な活躍がなければ勝つことはできなかったが、耐えるだけの展開にならなかったのは攻撃で存在感を示すことができたからである。リーグ戦でなかなか成し得なかった複数得点を強敵相手に達成したことに、この日スタンドから見守ったレギュラー組は良い危機感を覚えただろう。

 栃木にとってクラブ史上初となるJ1クラブからの勝利は大きな自信になるに違いない。次は史上初のベスト8をかけて京都を迎えることとなる。青年監督と若いチームがクラブの歴史を塗り替えて、さらにもう一歩前進することに期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-0 横浜F・マリノス

得点 58分 神戸康輔(栃木)

   90+1分 ジュニーニョ(栃木)

主審 笠原寛貴

観客 3923人

会場 カンセキスタジアムとちぎ