栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【勇敢で堂々たる戦い】J2 第11節 栃木SC vs 横浜FC

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 16位

 前節は熊本に引き分け連敗を2で止めた栃木。ホーム連戦となる今節はここまで無敗の首位撃破を狙う。前節から18人の登録メンバーに変更はなく、スタメンの入れ替えも山本→トカチのみに留まった。相手を圧倒する時間を作った前節後半の再現といきたいところだ。

 

横浜FC [3-4-2-1] 1位

 前節は仙台に逆転勝利し独走態勢に入りつつある横浜。開幕10試合10発の小川を筆頭に、昨季J1でも存在感を見せたサウロミネイロ、長く川崎でプレーした長谷川と豪華アタッカー陣が3トップを形成する。ベンチからは百戦錬磨の大ベテラン中村俊輔が出場機会をうかがう。

 

 

どこにズレを作るか

 今季ここまでの横浜の強さは、流れとは関係ないところからゴールを生み出せる前線の破壊力にある。仙台戦で巧みな動き出しから2得点を決めた小川然り、ベンチスタートながら4得点を記録している伊藤はロングボールやクロスにダイレクトで合わせる能力が非常に高い。栃木としては前節同様に前からプレスをかけていくことでボールの出し手から精度を奪っていくことが求められる。

 よって栃木は3トップを起点に積極的にプレッシングをかけていくのだが、形を変えて行う横浜のビルドアップに対して序盤はプレスが空転することが多かった。

 横浜のビルドアップはボランチの手塚が最終ラインに下りて左右のCBである中村拓海と武田がSB化する、いわゆる「ミシャ式」と呼ばれるもの。四方田監督が昨年まで札幌コーチ時代に師事したミハイロ・ペトロヴィッチ監督が愛用することで知られる可変式のビルドアップである。

 栃木にとってプレッシングが難しくなったのは、これにより谷内田が1人で手塚と武田を見なければならなくなったから。[3-4-2-1]どうしのマッチアップであればマークにつく相手を決定しやすいが、ビルドアップの立ち位置をズラされるとそうもいかなくなってくる。さらにはGKブローダーセンも繋ぎに参加してくることで栃木はプレスで奪うことがなかなかできなかった。

 前半黒﨑のポジションが低くなったのも横浜の可変による影響が大きい。目の前には幅を取る高木がいる。左SB化した武田に寄せるためには、本来黒﨑がマッチアップする高木のマークを誰かに受け渡しておく必要があったが、鈴木海音は中盤をフラフラする長谷川をケアしなければならないし、西谷も長谷川を見つつ同時に安永へのアプローチも頭に入れておかなければならない。

 よって、栃木は右サイドからプレスで牽制し切れなくなり20分過ぎから[5-4-1]で構える時間が増えていった。

 

 ただ、前半序盤とあって横浜のアプローチに対して運動量で十分カバーできていた栃木。どちらかといえば気にしなければいけないのは小川のポストプレーであり、サウロミネイロへのロングボールであったが、前者はグティエレスが、後者は大森が抑えることができていた。とりわけ大森は体格差も物怖じしない対人守備でサウロミネイロを完封。22分、マッチアップ勝利後に見せたガッツポーズと観客への煽りはこの試合への気合いを表したハイライトだった。

 

 横浜が可変ビルドアップに攻撃の糸口を見出そうとしていたのに対して、栃木が狙っていたのが右サイドに流れる矢野にボールを入れること。矢野はボールを貰いに谷内田が下りるタイミングに合わせて武田の裏に流れることが多かった。サイドに起点を作りつつ岩武を引きずり出すことができればクロスの効果も高められたが、鈴木海音や西谷からのロブパスに矢野がオフサイドを取られてしまうのはもったいなかった。

 栃木が徐々に[5-4-1]で構えるようになったのも、こうして自分たちの攻撃ターンで時間が作れなくなった頃からである。栃木の出方をうかがうようにじっくり繋ぐ横浜に対して睨み合う時間が増えていく。著しくボールを保持する機会が減少した時間ではあったが、それでも入ってくるボールに対して厳しく寄せてカウンターに移行することができていたため、あまり受けているという感じはなかった。

 カウンター局面でクオリティを発揮したのが右シャドーの谷内田。縦パスを受けるポジショニングが良く、寄せられても巧みなコントロールで簡単には失わない。39分には相手の重心の逆を取る仕掛けからクロスを供給するなど、生かす側にも生かされる側にもなれるのは相手にとって厄介だろうなと思った。

 

 

システム変更を逆手にとる

 後半横浜はビルドアップの形を修正。前半は4枚の最終ラインとGKで行うビルドアップから栃木の一列目を越えること自体はそれほど苦にしていなかったが、後ろに人数をかけるあまり縦パスを入れてから加速できなかったという感触があったのだろう。それまでのミシャ式[4-1-5]から基本システムである[3-4-2-1]に変更することで、後ろを削り中盤の枚数を確保する形にシフトする。

 これが上手くいったのが48分のシーン。岩武からボールを引き取った手塚が右サイドの中村に開くと、斜めに差し込むパスが小川のもとへ。その落としを長谷川が受けると左サイドを駆け上がってきた高木に開くことで素早くサイド奥まで進出することができた。前半であれば長谷川はもう少しボランチに近い位置まで下りていることが多かったが、栃木のボランチの表と裏に人数を配置したことで中盤でのボールの回りがよくなったシーンだった。

 

 ただ、このシステム変更は栃木の方により大きなメリットがあったと言えるだろう。[3-4-2-1]どうしのミラーゲームになったことから栃木の得意とするハイプレスを存分にかけやすくなったからである。

 後半開始からしばらくは栃木のプレッシングからのショートカウンターが躍動する。51分、小川に入る縦パスをグティエレスがカットしてカウンター開始。谷内田が運んで黒﨑に開くとリターンパスを受けた谷内田のシュートは相手のブロックに阻まれた。55分には、トカチがインターセプトしたボールを矢野が運んでクロス。61分、福森のシュートに反応した矢野がコースを変えたシーンはこの日最大の決定機だった。

 両チーム3人ずつの交代を経てからも流れは変わらず。枚数を合わせてのハイプレスからGKまで追い込み、蹴らせては最終ラインとボランチが強さを見せてセカンドボールを回収していく。70分、75分と立て続けに山本がシュートを打った場面では、幅を取る谷内田に合わせて福森が後ろからインナーラップで駆け上がってきたことから山本にシュートを打つ一瞬の間が生まれた。

 

 一方横浜も3人替えを敢行してからはボランチに入った和田や手塚が再び最終ラインに出入りすることで栃木のプレスを牽制していく。後ろに時間ができれば小川や伊藤へ縦パスを通し、彼らのポストプレーから広げた展開でクロスに飛び込んでいくシーンを作っていく。76分、あわやオウンゴールという攻撃をCKに逃れた直後に中村俊輔が登場してくるのはさすがにちょっと嫌な予感がした。

 終盤は黒﨑劇場。カウンターに転じるやWBの位置からストライカーポジションまで移動して裏を狙ったり、守備ではハイプレスから二度追いまで行うなど、豊富な運動量とスプリントで攻守に存在感を発揮。会場も中継のコメンタリーもあまりに凄まじい終盤の働きぶりには面食らっているようだった。

 アディショナルタイムの最後まで猛攻を続けた栃木。相手の3倍以上のシュートを放つなど内容では圧倒したがゴールを割れず。2試合連続のドロー決着となった。

 

 

最後に

 内容では相手を完全に圧倒することができたと言えるだろう。相手の変化に対応しながら自分たちのプレッシングからカウンターに繋げることができ、サイド攻略からあとはゴールを捕らえるだけという局面まで崩し切ることができた。スタッツの各項目も栃木が優勢だったことを示しているし、なにより終了後に会場内に沸き起こった万雷の拍手がチームの健闘を物語っている。

 ただ、どんなに素晴らしいパフォーマンスを披露できてもサッカーに判定勝ちという概念はない。目に見える結果を残せなければ順位表には現れてこない。試合直後のインタビューで時崎監督が眉間にしわを寄せてこう語っている。

いま首位を独走している横浜FCさんに対して勝って勝点を詰めることができなかった、という感覚を持たないとこの先の伸びシロはないと思います。

 チームはすでに前を向いている。首位相手に測ることのできた感覚を大事にして、このタフな連戦を乗り越えていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 横浜FC

得点 なし

主審 岡部拓人

観客 5104人

会場 カンセキスタジアムとちぎ

※監督コメントはJリーグ公式サイトから引用