栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【手堅さの欠けた痛み分け】J2 第15節 栃木SC vs 水戸ホーリーホック

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 16位

 前節はアウェイで秋田に1-2で敗れた栃木。途中出場の大谷がセットプレーから反撃の狼煙を上げたが、それまでのミスによる2失点が重くのしかかる結果となった。今節はアウェイ初勝利をかけて北関東ダービーに臨む。

 前節からのスタメンの変更は2人。GK藤田は第7節群馬戦以来、8試合ぶりに先発。前節復帰したCB岡崎は第9節山形戦以来の先発となった。離脱者の続いたCBを埋めていた平松はメンバー外となった。

 

水戸ホーリーホック [4-4-2] 15位

 3年間の秋葉監督体制が終了し、今季からヘッドコーチから昇格した濱崎監督体制となった水戸。前節は仙台に1-0で勝利し、今季ホーム初勝利を飾った。栃木、群馬と続くダービー連戦で順位浮上を狙っているだろう。

 前節先発を張ったGK春名とDF松田がU-20日本代表に選出され、代わってGKには中山、左SBには黒石が入った。昨季第41節の栃木戦で2得点をあげた唐山はメンバー外となった。

 

 

押し込む土台を作る

 立ち上がりの主導権を握ったのは栃木。前からプレスをかけてくる水戸に対してロングボールを最終ラインの背後に落とすことで敵陣で試合を進めていく。

 水戸は前線2トップにSHを加えた3枚で寄せてきたため、栃木の3バックには時間の与えられない状況になっていたが、早めにリリースすることでプレスを回避。栃木の繋ぎは左から右に動かすことが多く、列を上げて寄せてくる水戸の左サイドの背後で矢野や森がボールを収めることができていた。大森→岡崎のパスの時点で水戸の左SH小原は福島へ寄せる様子を見せていたが、岡崎は一つ飛ばして森やフィードを矢野に入れることで水戸の前向きの矢印を折ることができていた。

 栃木は試合を通してGKやボランチが最終ラインに入る機会はあまり多くなく、3バックの各選手が距離を取ることで水戸の寄せから上手くボールを逃がすことができていた。前節秋田戦の失点シーンで生じた川田のミスは全体の距離感の悪さから相手の二度追いを招いたもので、早急に改善したことが窺える位置取りだった。

 前に起点を作ってからは複数の選手が関わりながらサイド攻略を図っていく。大外でタメを作れれば大森や福島が積極的に攻撃参加することで厚みを確保。先制点となるPK獲得シーンも、福森から外側を駆け上がる大森へのパスを警戒した鵜木が外側に重心を傾けたことで福森→根本のパスコースが開通したものだった。CBの攻撃参加が間接的なアシストとなる得点だったと言えるだろう。

 

 縦へ素早くボールを入れる栃木はボールを失っても深いエリアでのロストになることが多く、そのまま前へベクトルを向けたまま守備に切り替えることができていた。

 とりわけ矢野と西谷の貢献度はいつものごとく非常に高かった。GK中山やボランチの杉浦を最終ラインに加えてビルドアップを落ち着かせたい水戸に対して、二度追い三度追いを敢行することで、その狙いを帳消しにしていく。 彼らのプレスのおかげで周りの選手はプレスの標的を定めやすく、判断早く次々と寄せることができた。

 プレスのハマっていた具合を見れば、もう少し奪ってからのショートカウンターを繰り出したかったのは正直なところ。29分に根本が相手CBを引っかけて単騎カウンターを発動したシーンはあったが、最低限水戸もボールをリリースすることでカウンターリスクは抑えていた印象だった。

 

 

水戸の二段構えの保持

 思うように前進できない水戸は20分頃に両SBの左右をチェンジ。本職のポジションに戻すことで両サイドともに利き足のSBを配置する。

 これがどの程度影響したかは分からないが、少しずつ水戸が落ち着いてボールを保持する時間が増えてくるように。単に栃木が立ち上がりから継続していたハイプレスをペース配分的に落としたとも言えるだろう。ボランチの杉浦が最終ラインに加わりながら少しずつゲームメイクするようになっていく。

 ボールを握れるようになった水戸がまず行ってきたのが栃木のボランチ脇のスペースを使うこと。特に左SH小原はボールを引き出してからのターンで前を向くのが巧みだった。

 栃木にとってボランチ脇のスペースは以前から泣きどころではあるが、ここ最近は守備時に矢野を高めに残すことで相手ボランチを消し、西谷の守備範囲の広さと福島の迎撃を生かす形でウィークが見えないようにしていた。しかし、この日は立ち上がりの早い時間帯に福島が迎撃から注意を受けていたことや水戸の2トップに対して数的優位を保つために3バックを維持したことから福島が前に出られず、西谷がカバーできないシーンが見られるように。西谷が小原に釣られれば草野へ縦パスを通されるなど、徐々に栃木は非保持で苦しくなっていった。

 栃木は自陣で押し込まれた際は両シャドーを下げて[5-4-1]を形成するが、これに対して水戸は両ボランチを根本の周りに配置することでここからボールを捌いていく。栃木はここを制限しようにも根本だけでは追い切れず、西谷や佐藤は背中に水戸の2列目の選手が密集していることから加勢しにくい。両シャドーが内側に絞ると今度は空いたサイドからSBに前進されるため、セットしたことによる盤石感はあまりなかった。

 寺沼のポストプレーが効き出したのもこの展開からである。フリーのボランチやSBから差し込まれたパスを足元で受けると、そのまま身体を入れてキープ。落としを受けた鵜木がシュートに持ち込むなど寺沼を起点としたプレーから栃木ゴールに迫っていった。

 栃木としては前半押された時間帯に押し返す流れをそれほど作ることができなかったのは課題。競り合いの場面で根本がファールやハンドを取られてしまったり、左右CBが駆け上がってのクロスは味方に届かなかったりで、攻撃が単発化していた。雨の影響もあったかもしれない。それでもゴール前の局面ではGK藤田の好守もあり、前半は1点リードで折り返すことができた。

 

 

劣勢時の打開策に課題

 後半立ち上がりは水戸ペース。栃木のWBのプレスに対してSBが逆足でロングボールを入れることで栃木陣地へ入っていく。

 立ち上がりこそ寺沼のポスト受けから草野に前を向かれることがあったが、3バックの対応自体は悪くなかった。主に寺沼には岡崎が競り、左右CBは草野に注意しながらカバーする関係性はまずまずだったと言えるだろう。どちらかといえば問題はその後のセカンドボール争いで水戸に上回られたことだった。

 49分には、左SB大崎からのロングボールを岡崎がクリアするもボールは草野の元へ。55分には矢野へのロングボールのセカンドボールを拾われ、小原にカウンターを許した。小原のカウンターは高い位置を取った森の背後を突いたもので、こうした展開から少しずつ流れを持っていかれたような印象だった。

 後半序盤の1失点目はそういった押し込まれた展開から喫したものだった。ブロックの隙間に差し込むパスを送った杉浦がフリーになっていた原因は前半の項で記したとおり。半身で引き出した小原の受け方とペナルティエリア内での仕掛けは見事だった。

 

 失点後の64分に栃木は2枚替えを敢行。ボランチに安田、左シャドーに小堀を投入し、山田を右シャドーにスライドさせる。

 交代の狙いは攻守における左右のバランスを整えることだっただろう。先発の矢野はシャドーというよりは最前線に張ってロングボールを受けるのが主な役割。矢野の落としを拾えなかった場合高い位置で防波堤になれるのは西谷しかおらず、後半はそこから小原を中心とした縦に早い攻撃を受けることが多かった。

 そこへのテコ入れとして栃木は右サイドに山田と安田を配置。ロングボールではなく近い距離感での地上戦にシフトすることで、むやみにスペースを開けずに攻撃精度を上げていく狙いがあったように思う。その分、左シャドーには小堀を配置して高さを補填。矢野と山田の左右を入れ替える手もあったと思うが、連戦渦中なこともあり小堀にプレータイムを与えた格好だった。

 栃木の勝ち越し点はその直後の67分。安田と山田で右サイドからボールを持ち出すと、最後は福森が右足一閃。水戸に傾きつつあった流れを栃木に引き寄せる豪快な一発だった。

 

 再びリードを奪った栃木だが、ここからの試合運びは力不足と言わざるを得ない内容だった。特に気になったのが、劣勢時にボールを簡単に手放してしまうことが多かった点。リード時にリスクを追わないことは大事だが、保持の時間を確保できなければ、それ以外の時間で厳しい非保持を強いられることとなる。後半立ち上がりにセカンドボール争いが増え、それを掌握されたのもここに通じるだろう。プレスが後追いになることでファールが増え、武田の高精度の左足FKに冷や汗をかかされるシーンが増えていく。2失点目となるPK献上はその波状攻撃からだった。

 福森の2枚目の警告による退場はこうした栃木の苦しんだ非保持の展開を写し出したもの。ボールを握って状況を打開するしかなかったように思うが、会場の雰囲気も相まって、ピッチレベルで選手の受ける圧は相当なものだっただろう。この退場をもって栃木はドローに軸足を置くこととなった。

 最後はCB岡崎を中心に水戸の猛攻を何とか耐え切り2-2で終了。北関東ダービーは勝ち点1ずつを分け合う結果となった。

 

 

最後に

 2度のリードを生かせずに勝ち点2を落としたと言うべきか、それとも退場者を出し劣勢を強いられたなか勝ち点1を死守したと言うべきか、人によって評価はそれぞれの試合になったように思う。

 あくまで試合運びに着目すれば打ち合いの様相を呈した段階で、栃木のゲームではなかっただろう。得点を取れていること自体はポジティブだが、手堅く試合を運べない点がアウェイ戦ここ3試合連続での複数失点に繋がっている。ホームではいわき戦の終盤のように主体的な保持から盛り返す流れを作れていたように、試合によって展開を制御する力に波が大きいのが現状だ。

 いずれにしてもこの勝ち点1を無駄にせずに、ここからの中盤戦に繋げていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-2 水戸ホーリーホック

得点 14分 矢野貴章(栃木)

   59分 小原基樹(水戸)

   67分 福森健太(栃木)

   81分 草野侑己(水戸)

主審 山本雄大

観客 3350人

会場 ケーズデンキスタジアム水戸