栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【全員が水準を高めなくてはいけない】J2 第16節 栃木SC vs 東京ヴェルディ

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 17位

 前節はアウェイで水戸に2-2で引き分けた栃木。矢野貴章のPKを皮切りに二度先行したものの、水戸の厚みある攻撃を前に逃げ切ることができなかった。退場者を出した終盤は耐える展開となった。

 前節からのスタメンの変更は3人。出場停止の福森に代わって左WBには初先発の吉田が入り、CBには大谷、前線には安田が起用された。矢野、高萩がメンバーを外れ、植田や大島らが久々にベンチ入りした。

 

東京ヴェルディ [3-4-2-1] 3位

 上位対決となった町田との東京クラシックを0-1で落としたヴェルディ。昇格圏内への再浮上を目指し、仕切り直しを図るアウェイゲームとなる。

 今節は攻撃のキーマンとなるバスケスバイロンが出場停止。[4-3-3]の右WGには誰が入るのか注目されたが、蓋を開けてみれば栃木と同じ[3-4-2-1]の採用となった。ベンチには古巣対戦となる阪野が控える。

 

 

不在者の影響を感じさせる

 この日の栃木にとって大きなトピックスとなったのは間違いなく矢野貴章の不在である。攻守において前向きの矢印を作り出す一番のキーマンであり、栃木にとっては不可欠な存在であるが、この試合ではベンチにすら入っていなかった。代わって同じポジションに入ったのはより中盤色の強い安田。2トップ気味にして高さを強調してきた栃木にとって、少なくとも攻撃においては普段と異なるアプローチを取ることが必要となる。

 立ち上がりこそロングボールを根本に集めてそのセカンドボール回収から前進を図っていくが、次第に保持の局面では地上戦に軸足をシフト。簡単に蹴り出さないことで、ボール保持に長けるヴェルディに対して、自分たちの時間をしっかり確保しようという狙いが窺えた。

 秋田戦、水戸戦ではあまり行わなかったボランチを最終ラインに下ろしての4枚回しはその一つだろう。佐藤祥がCB大谷の脇に下りることでヴェルディのプレスをぼかしつつ、左右CBの上がりを促す。西谷一人となる中盤にはシャドーが適宜サポートし、彼らがヴェルディボランチ脇でボールを引き出し攻撃を加速させるといった作りになっていた。

 一方ヴェルディも前進方法は概ね栃木と同じ。こちらは加藤弘堅が3バックをサポートしながら、ボランチ脇に立ち位置を取る北島や山田剛綺に縦パスを差し込んだところから前進を図る。

 この形から守備側の一列目の背後をより上手く取れていたのはアウェイチームの方だった。ヴェルディ加藤弘堅やGKマテウスのビルドアップへの関わり方が巧みで、森田もサイドに流れるなどして栃木のプレスに対して上手く出口を作っていった。後ろで繋ぎつつ両WBをサイドに張らせることで、栃木のWBをピン留めし、プレスの威力を半減させたのも非常効いていた。

 よって、栃木は守備時は両WBがベタっと最終ラインに押し込められた状態に。その状況を見てか1トップ2シャドーも高い位置からのプレスは控えめにしていた様子だったが、いざスイッチを入れたときの全体の連動はあまり合っていなかった。何とか3人で奪おうと献身性は見せるも、後ろに重いためボランチ勢が加勢し切れず、ヴェルディにやり直しを許すシーンが何度も見られた。

 ただ、自陣での守備はほとんど危なげないものだった。前半許したシュート数は3本。いずれも可能性は低いもので、ヴェルディが前半途中に佐川と山田剛騎の立ち位置を入れ替えてみるなど、剥がしたあとの攻撃に苦戦しているのは明らかだった。不慣れな[3-4-2-1]を敷いた影響は大きかっただろう。詳しい台所事情は分からないが、ヴェルディらしい前線の流動的な攻撃はほとんど見られなかった。

 

 栃木がプレスにテコ入れを施したのは前半20分過ぎごろ。可変ビルドアップによりスペースでボールを引き出すシャドーや森田に対して、最終ラインからWBを前に押し出すことで、ベタ引き状態にメスを入れていく。森や吉田が縦を切りながら迎撃することで牽制をかけていくと、徐々にカウンターを打てる機会が増えていった。

 ただ、ここの精度は不在選手の影響を色濃く感じさせるものだった。左WBの吉田は福森と違って左利きのため右利きよりも相手から遠い位置にボールを置けるのだが、その分縦に突破しようとして相手に引っかかってしまう。ボールを落ち着かせることで大森の上がりを効果的に生かす場面も少なかった。試合勘がまだまだ不足しているといったところか。

 また、山田・安田もミラーゲームの対面となる相手CBにスペースを上手く消されたり、彼らが裏に抜けるアクションを見せたときに後ろでの繋ぎが近場へのショートパスになってしまったりと、全体的に攻撃のテンポが上がらなかった。矢野がいれば背後への動きや身体の強さを生かして味方の上がりを促すこともできるのだが、前への推進力を欠いた印象だった。

 両者が持ち味とする守備の堅さで相手を抑え込んだというよりも、攻撃の物足りなさがシュート数の少なさに写し出されるような静かな展開でハーフタイムを迎えた。

 

 

ミラーゲームを破壊できない

 後半の戦いに強みを持つヴェルディ。実際に2点を挙げて試合を決めることとなるが、1点目が入るまでは攻撃の機会は両者に同じくらいあっただろう。栃木も入りはそれほど悪くなかった。

 51分、敵陣でのスローインから森がペナルティエリア内に浮いたボールを送ると、一度クリアされたものの、西谷がグラウンダーのシュート。わずかに左に逸れたが、上手くサイドを使いながら攻撃を繰り出すことができていた。CB福島も対面の北島を迎撃しつつ、前に持ち出せれば縦パスをつけることで攻撃の始点に。しかし、その先の展開でクロスが相手に引っかかってしまい、やり切れないシーンが多かった。

 一方ヴェルディは後半から河村を投入。足元での繋ぎが多かった展開を改善すべく、よりアグレッシブに動ける選手を前線に配置する。

 右サイドに入った河村がサイドを上下動することで栃木の左サイドを押し込むと、ヴェルディはCB宮原の攻撃参加を増やしていった。中盤の森田がやや左サイドに顔を出すことで安田の注意を引くと、順繰りにズレていったことで宮原がフリーに。こういった攻撃はヴェルディの長けているところではあるが、それでもペナルティエリア内での守備は栃木も堅かった。それだけに何気ない展開から与えたセットプレーから先制点を奪われたのは痛恨だった。

 

 ヴェルディとの力の差を感じたのはここからの試合運び。ビハインドになったことでより強く前に出る必要が生じた栃木だが、背後へのボールが少なく、かえってヴェルディの前向きの守備を助長させた印象である。

 足元の繋ぎに拘りを見せるのなら前半の序盤のようにビルドアップから相手とのズレを丁寧に作っていく必要があるだろう。相手のボランチ脇にシャドーが顔を出しつつ、左右のCBやボランチが前向きの落としを引き取って一つずつ前進していく。しかし、ピッチ上で見られたのは前線に張り付く宮崎と根本が相手の迎撃を受けてボールを失う光景。前線に起点を作れないため山田の存在感も後半は希薄だった。

 後ろで一つズレを作ったところで喫したミスはそれ以降のビルドアップに少なからず影響を与えていただろう。65分のシーン、最終ラインに西谷が下りて佐藤祥が1人中盤に残る可変を見せたが、佐藤祥にボールが入ったところでヴェルディの選手が一斉に囲い込み。後ろの優位性を生かすことができず、その後ボランチに植田を配置しても作りの部分に変化は見られなかった。

 逆にヴェルディはズレを作り出す繋ぎはもちろん、前線に投入した河村や阪野、深澤が栃木の最終ラインとの駆け引きを欠かさず行うことで、シンプルなロングボールからでも栃木に冷や汗をかかせることができていた。城福監督のチームは繋ぎに固執せず、複数ある攻め手から最良の一手を繰り出す非常にバランスの良いチームと言えるだろう。

 終盤にはプレスをいなされた栃木がミスから阪野に決定的な2点目を奪われ万事休す。2点を追う展開ながらヴェルディからボールを取り上げることができず、0-2で敗戦。ホームでの連勝は3でストップすることとなった。

 

 

最後に

 結果もさることながら内容面でも厳しい試合になってしまった。矢野、福森が出場を重ねた第2クール(第8節~第14節)は彼らが示した姿勢やクオリティがチーム全体の出来に大きく直結したが、その分彼らが不在となったこの試合はその影響を大きく感じさせるものだった。

 個人的に力不足を感じたのがミラーゲームを破壊するための手立てをほとんど発揮できなかったこと。すでに捕まっている味方に時限爆弾のようなパスを入れ、前線の選手に「あとは頼んだ!」では厳しいものがある。ロングボールも同様だ。残念ながら昨季から一貫して[3-4-2-1]に取り組んできた栃木よりも、ヴェルディの方が[3-4-2-1]の戦い方を心得ていたことを認めざるを得ない。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 東京ヴェルディ

得点 64分 稲見哲行(東京V)

   86分 阪野豊史(東京V)

主審 佐藤誠

観客 3389人

会場 カンセキスタジアムとちぎ