はじめに
前節栃木はアウェイで東京ヴェルディと対戦。結果はスコアレスドローに終わったが、ボールを支配するヴェルディに対してハイプレスとカウンターから互角以上に渡り合うことができた。今節ホームに迎えるのはFC琉球。ヴェルディ同様足元での繋ぎを大事にする相手なだけに、前節の良い感触をぶつけたいところだ。
スターティングメンバー
栃木SC [4-4-2] 13位
ホームの栃木は前節から1人変更。西谷優希が出場停止になったボランチには岩間が入り、最前線には榊と明本が引き続きコンビを組んだ。第10節山口戦(〇1-0)以来ベンチ入りした平岡は出場すれば今季初出場となる。
FC琉球 [4-2-3-1] 18位
アウェイの琉球は前節から5人変更。怪我人が多く、前回対戦2ゴールの上原慎也や田中、富所、小野あたりがメンバー外となっている。ベンチ入りした人見は地元凱旋での試合となる。
相手を飲み込むほどの圧力
前半の飲水タイムに紹介されたボール支配率は50%-50%のイーブン。両チームとも攻撃ターンになったらある程度ボールを持って押し込んで───────────、とはならなかったのがこの試合の最も面白いところである。ボールの支配で対極にあるチームどうしの対戦は、ボール非保持に強みのある栃木がボールを持ちたい琉球にその余裕を一切与えない展開で進んでいった。
栃木は試合開始とともにフルスロットルでプレスをかけていく。プレッシングの急先鋒になるのはツートップとSHから成る前線4枚。そこにボランチやSBがどんどん連動していくことで琉球のボールホルダーに自由を与えない。ハイプレス時に縦関係になるツートップは明本が最前線から追い回すのがお馴染みになっているが、コンビを組む榊も守備の貢献度は高かった。榊がGKまでプレスをかけることでスイッチが入るシーンもあり、琉球のバックスは息付く暇すらなかった印象である。
栃木のプレス強度、後ろの連動があってこそだが、相手ボランチへのコースをしっかり消せていたことも大きかったと思う。とりわけボールサイドとは逆サイドのSHが中央へ絞る意識が高かった。ボランチを経由できない琉球はブロックの外を回るパスに終始したことでテンポが上がらず、逆にボールの行く先を定めやすい栃木は敵陣で次々と狙いうちに成功。ほぼハーフコートゲームを実現できていた。
これだけ前から行く姿勢を貫けたのも前半5分にあげた先制点の大きさゆえである。5試合連続ノーゴールと重い空気感が漂うなかでも決まるときはこうあっさり決まるものなのかという感想である。CKから榊がニアで逸らしたボールがそのままゴールネットに吸い込まれ、栃木が早々と先制に成功した。
栃木のハイプレスをまともに受ける琉球はどうしてもロングボールを蹴らざるを得ない場面が頻出。ただ、回避のためのロングボールとなると精度が伴わず、さすがの阿部でも栃木の屈強なCBには勝利できない。ボランチの岩間もセカンドボールへの出足が冴えており、黒子的な役割でチームに安定をもたらすことができていた。
中央を巡る攻防
栃木は前半半ばまで琉球を圧倒するハーフコートゲームを展開していくが、潮目が変わったのが前半22分からだった。
これまで栃木のCBに激しく対応されていた阿部が最前線から下りて後ろからのビルドアップの出口になると、味方がクロスをあげるシーンを演出。加えて、右SHの小泉が中央に入ってきたり、ボランチの風間宏希が最終ラインをサポートしたりと、中央に人数をかけることでそれまで制限されていた中央起点の攻撃が徐々に増えていった。
落ち着きを取り戻した琉球は前半29分にCKから同点に追い付く。CK獲得の起点になったのは自陣からのビルドアップから。最終ラインで右から左にボールを動かすと、中央のケアを優先していた大島を尻目にフリーとなった沼田から河合へ縦パスを供給。ここで得たCKに沼田が合わせて同点弾を決めた。
CKの守備のシーン、どうしても大外を担当する大島がフィーチャーされやすいが、ゾーンディフェンスである以上ある程度仕方ない側面もある。栃木にとっては、ホーム松本戦で乾に決められたものと似たような失点になってしまった。
序盤のハーフコートゲームとは一転、盛り返す展開となった琉球。中央を使えれば自ずとサイドが空いてくるため、SBが高い位置でボールに関れるようになる。右SHの小泉が中央でゲームメイクし、河合・沼田がサイドの連携から攻めたことで、アタッキングサイドが78%とかなり左偏重な攻撃の組み立てとなっていた。
高い位置で奪い取る機会が減った栃木だったが、プレッシング後の帰陣は非常に早かった。監督も口々に話すように、チームとして相当意識されていることだと思う。前半42分には、ピッチ中央で起点を作ろうとする阿部を取り囲んで回収し、ショートカウンターを発動。大島がゴール前で倒されてFKを獲得するシーンがあった。
前半は互いに1点を取り合い、1-1で終了。
閉じ込めて突き放す
ハーフタイムを挟んで後半に入ると、栃木は再びハイプレスの強度を高めていく。GKにまでプレスをかけていき、ロングボールを蹴らせてしまえば栃木ペース。田代・柳が大きく弾き返す出番である。連動したプレッシングで琉球陣地にボールを閉じ込めると、後半7分、後半8分には連続して黒崎がクロスを供給。奪ったボールをサイドに開いて再度中央へ、の攻撃で徐々に押し込む展開となっていった。
押し込まれる琉球にとって痛恨だったのが、前半盛り返すきっかけになった阿部の下りる動きを完全に封じられてしまったことである。味方の押し上げも少なく前線で孤立気味になる阿部はなかなかボールを収められず。後方からのパス距離も長くなったことで、栃木のボランチがインターセプトする場面も目立った。
積極的な姿勢で主導権を握った栃木は勢いそのままに2点目、3点目を次々にマーク。ともに相手を押し込んでのスローインからであり、敵陣を取り続けたことが結果に繋がった。黒崎のシュートに合わせた(当たった)榊の得点はこれまでの生みの苦しみに対するご褒美にも思える。
そして極めつけは4点目である。カウンターから岩間のロングボールのセカンドを明本が拾うと、大島を経由して右サイドの黒崎へ。グラウンダーのクロスに森が合わせると、シュートはGKも反応しきれずにゴールに吸い込まれた。森は2ゴール目、黒崎は圧巻の3アシストである。
3枚替えを行った琉球も全く攻め手がないわけではなかった。ボランチの上里が最終ラインに下りてビルドアップを安定させてから2列目の選手がギャップで受けて大外に振るなど、ボールを保持しながらあの手この手で隙を窺っていく。ただ、テンポアップさせない栃木の守備対応を前に崩すには至らず。ブロックの外で持たされる展開になった結果、やむなく選択したミドルシュートや浅い位置からのクロスなどはゴールを脅かすには程遠かった。
選手交代を上手く使いながらプレス強度を維持した栃木は、危なげなく試合をクローズ。スコアは4-1。栃木は今季最多のゴールで6試合ぶりの勝利。琉球は連勝を飾ることはできなかった。
最後に
これまでの鬱憤を晴らすかのようなゴールショー。出し手と受け手のタイミングがぴったりと合ったことで4得点全てがワンタッチでのゴールとなった。この試合をもって得点力不足がすべて解消したとするつもりはないが、成功体験は重要である。とりわけ黒崎にとって、プロ初アシストから立て続けに3得点を演出したことは大きな自信に繋がっているはずである。
もちろん守備面の奮闘も際立っていた。攻撃力のある琉球にセットプレー以外でチャンスを与えることはなく、終盤まで落ちない運動量とプレス強度で相手を圧倒した。5連戦の4戦目、前節から中3日での試合ということを踏まえれば、その凄みがより伝わってくる。
これまで取り組んできたスタイルがまさに実ったといえる勝利。良い感触をもって試合に臨めている今大事なのは継続的に安定したプレーを表現することである。再び同系統の愛媛と対戦する次節もハイパフォーマンスに期待したい。
試合結果
得点 5分 榊翔太(栃木)
29分 沼田圭悟(琉球)
56分 榊翔太(栃木)
58分 森俊貴(栃木)
74分 森俊貴(栃木)
主審 先立圭吾
観客 1,382人
会場 栃木県グリーンスタジアム