栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【タフに手にした勝ち点1】J2 第19節 栃木SC vs 藤枝MYFC

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 17位

 前節は岡山に2-1で競り勝ち、5試合ぶりに勝利を飾った栃木。相手のミスから得点を重ね、終盤には相手DFを退場に追い込むなど、それまでの消極的な姿勢を払拭する会心の勝利となった。

 前節からのスタメンの変更は1人。西谷に代わってボランチに神戸が入り、ベンチには矢野貴章が第15節水戸戦以来のメンバー入りを果たした。前節良いパフォーマンスを見せた小堀は2試合連続での先発となった。

 

藤枝MYFC [3-4-2-1] 13位

 昨季J3で2位に入り、初のJ2の舞台を戦っている藤枝。須藤監督のもと昨季J3で見せたスタイルは健在で、ここまで27得点はリーグ3位の数字を記録している。ここ2試合は無失点と課題の守備でも良い兆しを見せている。

 ドローとなった前節群馬戦からスタメンの変更はなし。10得点で得点ランクトップのFW渡邉を頂点に、栃木と同じ[3-4-2-1]のシステムで戦う。

 

 

自分たちの土俵で得点を呼び込む

 台風2号による記録的大雨の影響で試合前日のうちに静岡入りできず、当日入りをやむ無くされた栃木。予定されていた時間から3時間後ろ倒しの17時キックオフで試合は開催された。

 コンディションに不安を抱える栃木にとって藤枝のパスサッカーは相性が良くないかに思えたが、その不安は幸い的中しなかった。チーム全体でプレスに行くときと行かないときのメリハリが良く、良い守備から良い攻撃に移行するシーンを多く作ることができていた。前節岡山戦でも見せた、相手を引き込んでからのプレス連動はよく機能していたと言えるだろう。

 藤枝のビルドアップはGK上田もしくはボランチの横山を最終ラインに組み込む4枚回しが基本路線。低い位置では上田がCB化し、ハーフライン付近では横山が手厚くサポートすることで、栃木の1トップ2シャドーに対して数的優位を作る。ミラーゲームにズレを作り、保持からペースを握りたいという狙いは明らかだった。

 最終ラインに+1で入る選手がどちらであっても、栃木の守備において優先順位が高かったのは相手ボランチに前を向かせないことだった。横山、平尾に中盤で前を向かれると一気に局面を加速され、藤枝の攻撃的スタイルの思うツボになってしまう。最終ラインに規制をかけること以上に、ボランチへの警戒は高かったように見えた。

 よって栃木がプレスをかけるときは、ボランチへのコース切りが最優先。高い位置からのプレスでは根本がGK上田へ、山田がCB川島へまずは寄せることが多かった。そうすると、右CB小笠原を芋づる式にフリーにしてしまうが、ここには福森が早めの縦スライドで牽制。山田も本来の対面の相手である小笠原にはプレスバックの意識が強く、上手く絡め取ることができていた。

 ハーフライン付近を頂点に構える展開でも、ボランチに直接パスを入れてこようとすれば、1トップ2シャドーとボランチで形成する五角形で素早く囲い込む。佐藤祥が引っ掛けたり、回収したボールを山田が縦に運んだりするシーンは何度もあった。オープンな状態で運べる山田にはもう少し味方との呼吸を合わせた配球や縦への仕掛けを見せてほしかったが、これだけ多くのチャンスに顔を出せていた点は狙いの守備ができた証拠といえるだろう。

 

 一方、藤枝視点で見れば、ビルドアップの感触は決して悪くなかっただろう。中央を消されたとしても、右シャドーの岩渕が佐藤祥の脇に顔を出しながら、時には大谷の迎撃が届かない位置でビルドアップに関わることで上手くズレを作っていた印象である。縦パスを受けた岩渕の落としからボランチに前を向かせるなど、工夫しながら前進手段を探っていた。岩渕をアクセントにやり直すこともできるため、ボールを簡単に失うことはなかった。

 下りる岩渕で更なる+1を作られると栃木としてはプレスに行きにくい。構えた状態からスイッチが入らず、20分過ぎの時間帯は藤枝にボールを持たれてしまったが、それでも自陣での守備ではほぼほぼ危険なシーンは作らせなかった。藤枝の攻撃をブロックの外側に追いやり、コンビネーションプレーには人数で対処。強引に振ってきたミドルシュートもGK藤田の予測とポジショニングでほとんど正面でセーブすることができていた。前線ではロングボールのターゲットとして根本が孤軍奮闘。体を張ってクリアを収めることで、藤枝に傾きそうな流れを何とか繋ぎ止めることができていた。

 

 そうして藤枝が攻めあぐねる展開が続くと、ペースは徐々に栃木の方に。流れを変える決定打となったのは36分台の二つのプレーだった。

 35分から36分に差し掛かる時間、プレスを受けた岡崎が根本へロングボールを送ると、こぼれ球を拾った小堀が中央の山田へパス。山田はスペースに持ち運び、左サイドを上がってきた福森へ預けたが、パスが大きくなり福森はクロスを入れることができなかった。ペナルティエリア内では栃木の選手がニアに入ってきており、ダイレクトで折り返せれば得点も有り得るビッグチャンスだった。

 直後には、ゴールキックからの繋ぎを引っ掛けた佐藤がそのままゴール前に持ち込み、GKと至近距離でシュート。惜しくもGKセーブに阻まれたが、この二つのプレーによって流れは一気に栃木に傾いた。

 そしてペースを握ったまま迎えた41分、栃木が先制することに成功する。FKから根本の折り返しをGKがファンブルすると、ひと足早くボールに反応したのはCB福島。福島はチームトップに並ぶ今季3得点目となった。

 

 流れを盛り返して先制点までこぎ着けた栃木だが、この時間帯の藤枝は栃木の圧力に屈するようにミラーゲームにズレを作ることができていなかった。栃木のプレスを弱めるはずの横山や岩渕は列を下りる動きができず、対面の栃木の選手のプレスをまともに受けていた格好だった。

 栃木にとって得点自体はラッキーなものではあったが、そこに至る背景には、良い守備から良い攻撃に移行することでペースを握る基本に忠実な戦い方ができていたといえるだろう。

 

 

二度の2枚替えで流れを失う

 後半序盤も栃木は前半の良いイメージを継続。立ち位置を変えながらビルドアップを行う藤枝に対して、連動してプレッシャーをかけることでブロックの外側での繋ぎに終始させる。痺れを切らして最終ラインから渡邉を目掛けてロングボールを入れてくれば、3バックがチャレンジ&カバーを機能させ、難なく対応することができていた。

 しかし、57分に藤枝が2枚替えを行うと、ここから流れが一変。交代によってシャドーに移った横山がより高い位置でゲームメイクするようになったことで、周りの選手の押し上げを積極的に促すように。チーム全体のベクトルが前を向いたことで、栃木は劣勢を強いられることとなった。

 藤枝の繋ぎで上手かったのは、サイド攻略で栃木の注意を外側に引きつつ、機を見て勝負の縦パスを差すことで局面を一気に進めていたことだ。サイドの崩しの局面にはCB、WB、シャドーに加えてボランチの1枚も加わることで、分厚い攻撃を繰り出していく。

 栃木に置き換えれば西谷の攻撃参加に近いイメージだが、藤枝はそれをよりスピーディーに危険なエリアに入り込むことができていた。

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 栃木は佐藤祥と負傷した岡崎に変えて、西谷と大森を投入。藤枝の攻撃を何とか凌ぎながら、西谷のインターセプトからのカウンターや左サイドの連携から敵陣に入る回数を確保していく。しかし、前半と違って最後までやり切れないでいると、74分の藤枝のCB2枚替えによって流れを持っていかれてしまった。

 左右CBの両方を入れ替える奇策を打ってきた藤枝。左右CBの役割はさながらSBのようなもので、栃木の1列目の背後に立ち位置を取るこで、ここからボールを持ち出す起点となっていた。後方は2-1の関係性で3枚を残すのみにし、より攻撃的な布陣にシフトした格好だった。

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 藤枝は後ろを薄くしただけあって、栃木もカウンターを繰り出すことができれば一気にチャンス化できる可能性は十分あった。ただ、時間の経過とともにカウンターも精度が乏しくなってくる。セカンドボールを回収しても重心が低すぎて預けどころがなかったり、安易なパスミスからマイボールの時間を自ら削いでしまった。

 後半アディショナルタイムに追い付かれることとなったCK献上も、相手のクロスをゴールライン方向にクリアしたのが発端。そうした細部のプレー判断・精度を最後まで持たせられなければ、点差をつけない限り僅差を勝利するのは難しいだろう。

 試合は1-1で終了。またしてもアウェイ初勝利はお預けとなった。

 

 

最後に

 やはり課題となるのは終盤の試合運びである。チーム全体で前へのベクトルを強めたことで、以前は見られたマイボールを大事にする繋ぎが少しずつ希薄になっているように感じる。神戸をピッチに残したのはそういう狙いがあったからだと思うが、やはり組織として精度を高めなければ質を確保することは難しい。

 また、横から入れられるボールに対して人数が揃っているにも関わらず失点を喫することが多く、圧力をかけられると耐え切れないのが現状だ。セットプレーと流れからでは守備の仕方は違うが、大きく前へ弾き返せない点では共通の課題である。

 今季初のアウェイ勝利と連勝を再び逃した格好だが、負荷のかかる移動を経たなかで最後まで勝利の芽を残すことができた点はポジティブな要素である。何とか手にした勝ち点1に意味を持たせるためにも、次こそは勝利を掴み取りたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 藤枝MYFC

得点 41分 福島隼斗(栃木)

   90+4分 山田将之(藤枝)

主審 御厨貴文

観客 1511人

会場 藤枝総合運動公園サッカー場