栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【切らさないための勝ち点1】J2 第21節 栃木SC vs ザスパクサツ群馬

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 2試合連続で終盤の失点で勝ち点を落としている栃木。内容面では積み上げが見られるだけに何とか結果に繋げたいところだ。前節からの変更は2人。最終ラインには三國に代わって大森、前線には瀬沼に代わって森が入った。ベンチには古巣対戦となる佐藤祥が控える。

 

ザスパクサツ群馬 [4-4-2] 18位

 リーグ序盤は上位につけた群馬だが、ここ10試合は1勝2分7敗で目下4連敗中と大苦戦。ここで踏ん張りきれるか、残留争いに巻き込まれてしまうか、大槻監督にとっては正念場となる。終盤の逆転弾で敗れた前節山口戦からはスタメン3人を入れ替えて臨む。

 

 

相手にとっての脅威は何か

 前半戦ラストゲーム北関東ダービー。下位に沈む両チームにとって後半戦の反撃ののろしを上げるには絶好の試合である。勝ち点と順位で近接し、連敗脱出も懸かっているとなればモチベーションはなおさら上がる。試合は互いにゴール前の局面では譲らない堅い展開で進んでいく。

 中継映像から見ても分かるとおりこの日の正田醤油スタジアムは強風のコンディション。前半風下に立った群馬のロングボールは上空で押し戻されてしまい、栃木の高い最終ラインの背後まで飛ばすことができない。栃木も栃木で風に乗ったボールに精度を伴わせることができず、次第に風の影響を受けにくい地上戦による攻防に変化していった。

 地上戦による攻防において興味深かったのが群馬のビルドアップの方法。左SBの山中は最終ラインに残って3バックを形成する一方で、右SB小島はサイド高い位置に張って福森とマッチアップする。その分左サイドはSHの山根が幅を取り、ハーフスペースにはそれぞれ右SH田中とトップの加藤がファジーな位置を取る下図のようなバランスとなっていた。

 群馬が狙いとしていたのがハーフスペースの彼らが良い状態でボールを受けられるように丁寧なビルドアップからパスを届けること。彼らが前を向ければ群馬の攻撃はスピードアップする。そのための手段として群馬はあえて後ろの形を[3-2]にして、栃木のプレッシングを引き出しているように見えた。自陣深くでのビルドアップで栃木の前5枚を釣り出すことができれば中盤のプレーエリアが増えるからである。

 群馬のビルドアップに対して概ね問題なく対応できていた栃木だが、一つ手を焼いたのが山根のところ。左サイドのタッチライン際を主戦場とする山根に対して栃木の右サイドは苦戦。対面の黒崎はまだしも、加藤に引き出された黒崎の背後で大谷とのマッチアップを仕掛けられるとかなり危険な匂いはしていた。

 

 マッチアップを突き付けられると少々受け身になってしまう栃木だったが、後ろに傾いた重心を押し上げる作業はそれほど難しくはなかった。群馬がミドルゾーンでのブロック形成を優先していたことは考慮しなければならないが、システムのミスマッチを活用しながらロングボールに頼らずに上手く前進することができていた。

 とりわけ効いていたのがCBグティエレスと谷内田・神戸の両ボランチ。センターラインを構成する彼らは多少の寄せではプレー精度が落ちることはなく、シャドーの植田や森に鋭いパスを差し込むことができる。サイドに振るだけの安牌なプレーに終始しないため群馬は中央をおろそかにすることができず、その分大谷と大森は2トップの脇からボールを持ち運ぶことができた。

 

 前半の半ば以降は、山根には黒崎が、下りる加藤には大谷が付いていくように修正したことで序盤ほどマッチアップで後手に回る機会は減少。これによりマイボールの時間をさらに増やしていくのだが、課題となったのがボール保持のクオリティ。各駅停車のパス回しでは群馬のブロックを破ることはできず、サイドで行き詰まってしまう場面もしばしば。SHも最終ラインに加わるほど人数をかけて守る群馬に対して効果的なアタックを仕掛けることはなかなかできなかった。

 地上戦による攻撃に活路を見出せないなか前半終盤に何度かチャンスが訪れる。43分、矢野を壁にした谷内田のドリブル突破からCKを獲得すると、谷内田がCKから直接狙うもバーを直撃。続く44分には、矢野がロングボールを落とし、植田が右に開くと、GKとDFの間を通す黒崎のクロスに飛び込む選手はわずかに合わせられず。

 いずれにしてもチャンスに近づいたのは矢野のポストプレーを経由したアバウトな要素のある攻撃からだった。ピッチ上には遅攻もそれなりにできるメンバーが揃っていたが、何が相手にとって脅威なのか考えさせられる前半終盤だった。

 

 

気になる左サイド

 後半もしばらくは前半終盤と同じような展開に。ボール保持を強める栃木がやり切れなければ群馬がカウンターを仕掛けていく。群馬の攻撃の中心は引き続きハーフスペースを主戦場とする二人。55分には自陣からのカウンターで前を向いた田中が左足シュート、62分には大外の山根との関係性から加藤が前を向くなど、準備してきたボランチ脇を突くアプローチは後半も機能していた。

 ゴール前でのクオリティに助けられピンチに至ることはなかったが、それなりに群馬の素早い攻撃を受けてしまったのも上記したように栃木がやり切れないポゼッションに終始してしまったからである。前半以上にボールを保持した印象だが、イメージとしてはある程度左サイドで時間を作り、スペースを享受した右サイドからクロスを上げやすくする狙いはあっただろう。ただ、植田や神戸は逆サイドをうかがう素振りは見せたものの、少々同サイドで大事にし過ぎた感は否めなかった。

 その植田と神戸に代わって佐藤祥と西谷が登場してからは同サイド偏重が顕著に。特徴を踏まえれば何も彼らのパフォーマンスが悪かったとは思わないが、チームとして狙いと人選がミスマッチしているように見えた。それなりにボールを持つ時間があるなかで、前線から谷内田が下りてゲームメイクせざるを得ない状況は前線を削ってしまうという意味でももったいない。

 ある程度同サイド偏重になってしまうのであれば、もう少し大森の持ち運びから始まる変形を押し出してもよかっただろう。大森の左足や福森の右足は開幕期から認識している武器である。その強みを生かすには大森に大外を回り込んでオーバーラップしてもらう必要があり、そのためには福森や谷内田はルートを開けなければならないが、そこのスムーズさがいま一つだった。

 終盤は互いに攻撃的なカードを切っていきオープンな展開で進んでいくものの、互いに最後のところではやらせない堅守で対抗。川田がハイボールを後逸したラストプレーにはヒヤリとしたが、総じて見ればチャンスシーンはほとんどなかっただろう。互いに失点のかさんでいた直近の課題をクリーンシートで解決し試合終了。攻撃面の物足りなさは残りつつも連敗をストップすることとなった。

 

 

最後に

 負ける雰囲気も勝てる手応えもあったとはいえない、両チームにとって煮え切らない試合になったといえるだろう。

 この試合のターニングポイントはボランチをセットで入れ替えた采配。栃木がボールを握り群馬の守備ブロックを探っていた時間帯であり、狭いエリアでのプレースキルや展開力のある選手を下げてしまう交代策はペースダウンさせてしまった感が否めない。案の定ボールの回りは鈍くなり左サイド偏重の傾向は強くなってしまった。しかし、ボランチ脇のプロテクトは確実に補強された。

 あくまで邪推なのだが、時崎監督は最低限勝ち点を持ち帰るための采配を執ったのではないだろうか。ダービーでの勝利はチームに自信をもたらす格別なものであるに違いないが、一方で敗れたときのダメージはとてつもなく大きいものである。仙台、長崎と立て続けに負ってきた傷口をこれ以上開かせるわけにはいかない。そのための交代策であり、クリーンシートというノルマ達成のための采配だっただろう。

 連勝した徳島戦と町田戦は言わずもがな、敗れた仙台戦も長崎戦もポジティブな側面は大いにあった。チームにある決して悪くない流れを切らさないための先を見据えた采配だったといえるだろう。となると重要になるのは次の試合。久しぶりのグリスタ開催で力強く勝ち切るゲームに期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 ザスパクサツ群馬

得点 なし

主審 鶴岡将樹

観客 2950人