栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【小さくないダメージを次への反骨心に】J2 第20節 栃木SC vs V・ファーレン長崎

スターティングメンバー

栃木SC [5-3-2] 19位

 前節は首位仙台に互角以上に渡り合うも1-2で敗れた栃木。ミッドウィークの天皇杯岡山戦では得意のウノゼロを達成しており、この勢いをリーグ戦にもたらしたいところだ。前節からの変更は1人。U-21代表に選出された鈴木海音に代わって右CBには三國が入った。

 

V・ファーレン長崎 [4-4-2] 12位

 オフの移籍市場の主役になったものの、ここまで思うように勝ち点を伸ばせていない長崎。こちらも天皇杯では鹿児島に勝利し、U-21代表に加藤聖が選出されるなど栃木と似た状況。古巣対戦となるクリスティアーノカンセキ初出場となる。

 

 

早くに頓挫した[5-3-2]

 まず始めに注目すべきは栃木がいつもと少し異なる陣形で試合に入ったこと。瀬沼が矢野と最前線に並んで相手2CBを監視するのは前節と同じだったが、左SB米田を中盤の谷内田がケアしていたこと、瀬沼と矢野の左右が入れ替わることがあったことを考えれば、普段の[5-4-1]というよりは[5-3-2]に近い陣形だった。

 [5-3-2]システムを採用する際にポイントとなるのが相手のSBのボール保持をどこまで許容するかである。システムの噛み合わせ上、長崎のSBはフリーになりやすく自然とボールを持つ機会が増える。

 栃木としてはSBを生かしたまま中央を固めるのか、あるいは寄せて時間を奪いにいくのかで試合へのスタンスを確認することができるが、谷内田の守備の動き出しにも見れるように栃木は後者を選択することが多かった。SBにもなるべく時間を与えず、中盤のスライドで相手をサイドに閉じ込めたいという狙いだろう。

 ただ、これを機能させるには3枚の中盤がピッチ横幅全てをカバーすることが必須条件となる。特に真ん中に入るアンカーはボールサイドの相手ボランチに寄せるためにボールの動きに合わせて左右に動き直さなくてはならない。当然ボールは人よりも速く動くため、相手ボランチ間の距離が広がればそれだけ追い付くのは難しくなる。

 ボールサイドのFWもボランチへのコースを切る意識は見せていたが、その分CBが空いてしまえば逆サイドへの展開が容易になってしまう。全体として栃木はボールサイドに相手を追い込むアプローチがいま一つで、逆サイドに逃げられてしまうことで特に米田には何度もオーバーラップを許してしまった。

 前線の守備が機能しない栃木は15分過ぎに瀬沼を右シャドーに下ろすいつもの[5-4-1]にセット。サイドの守備をテコ入れしたことでここからは落ち着いた展開で推移することとなる。

 

 

良い守備が肝心

 [5-4-1]に変更してからの栃木はミドルゾーンにブロックを形成。2トップで構えていたそれまでと比べて矢野一人では追い切れないため長崎が落ち着いてボールを持つ時間が増えていくが、目線を変えさせられるようなプレーが少なく栃木としては守りやすかったように見えた。

 長崎の攻撃が決して迫力不足だったわけではない。SHが内側に絞ることでゴール前に人数を増やし、そこへSBが斜めにパスを差し込んでくる。エジガルジュニオのボールキープや植中の裏への抜け出し、そこに基礎技術の高い両SHらがスルーやワンタッチを織り交ぜてくる攻撃に対して栃木は重心を押し上げられない場面もしばしば。それでもサイド深い位置からのクロスやドリブルによる仕掛けが少なかった分、落ち着いて弾き返すことができていた。

 次第に良い守備からカウンターを打てるような展開に傾いてくると、32分、栃木が最初のCKから先制点を奪う。ショートCKで相手の意識をニアに引き付けたこと、谷内田の高精度のクロス、グティエレスをフリーにさせる福森のスクリーン、そしてドンピシャのヘディングシュート。準備してきたこと全てが実ったような会心の先制点だった。

 

 先制点を奪ってからも栃木が良い守備から良い攻撃を繰り出していく。失点の影響からか長崎は攻撃に確実性を求め過ぎていただろうか。後方ではCBのパス本数が増えていき、前線にボールを届けてもアタッカーは足元での崩しにこだわる場面が散見。栃木の2列目を引き出してからライン間を使いたいという狙いは窺えたが、中央を固く閉じる栃木にとっては絡めとってからのカウンターを発動しやすい状況であった。

 22%と極端に低い支配率ながら、出来うる理想的な展開で前半を終えた栃木。1点のリードでハーフタイムを迎える。

 

 

呼び水になった1失点目

 後半許した3失点はいずれも軽率だったと言わざるを得ないだろう。とりわけ早い時間の1失点目が大量失点の呼び水になったとも言える。

 頭上を越えるパスに反応した瀬沼のクリアが米田の手前に落ちたのはアンラッキーだったが、大きく弾くことができなければこういう事故的な失点は起こりうる。何気ないロブパスだったことを考えれば痛恨の失点になってしまった。後半の入りの時間帯ということを考えてももう少しアラートに対応したかったところである。

 栃木優勢で進めるなかで喫した2失点目も右サイドにボールを運ばれた際の対応がはっきりしなかった。澤田に対応する三國に続いて森と谷内田もサイドに加勢したならば人数をかけた分そこで止めきらなければならない。手薄になった中央に入り込まれ、ダイレクトとスルーを合わせられてしまえばDF陣はどうしようもない。

 

 60分を過ぎた時間帯はどちらかといえば栃木の時間帯であり、ここで勝ち越し点を奪えていれば試合の趨勢は大きく変わっていただろう。ライン間でボールを引き出す植田と大外を駆け上がる福森からチャンスを量産できていた時間である。63分の黒崎の思い切ったミドルシュート、66分のトカチのGKと1vs1の場面はどちらも左サイド起点の決定機だった。

 2失点目を喫してからの74分に再びCKからグティエレスのヘディング弾で追い付きはしたものの、やはり失点してからではなく良い時間帯には確実に先手を取りたい。良い流れを完全に手繰り寄せる決定打に乏しいのが現状である。

 

 内容もスコアも一進一退で進むなかで互いに勝ち切るためのカードを次々と切っていくと、アディショナルタイムに試合は動く。91分、栃木が前がかりに押し込んだところで横パスがズレるとこれがクリスティアーノのもとへ。止めにかかる神戸を振り払ってペナルティエリア右隅までボールを運ぶと右足一閃。クリスティアーノらしいゴラッソで最終盤に長崎が勝ち越しに成功した。栃木からすればパスミスの代償があまりにも大き過ぎた。

 

 再び1点を追うこととなった栃木は三國を最前線に上げてパワープレーに転じるも万事休す。最終スコアは2-3。栃木は今季4度目の2連敗。長崎は3試合ぶりの勝利を飾った。

 

 

最後に

 先制点と複数得点をあげることはできたが、3失点は第2節の東京V戦と並んで今季最多。失点の仕方と時間帯を考えればダメージの大きい敗戦となってしまった。これだけ終盤に勝ち点を落とす試合が頻発しているのはもったいないし、良い流れで進めていた試合も最終的な印象が悪くなってしまう。少なくともこの試合はボールを持たないチームにおける理想的な試合運びを行えている時間はあっただけに、勝ち点3を掴むチャンスはそれなりにあったと思う。悔やまれる敗戦にはなったが、これまで着実に積み上げてきたものは力のある仙台にも長崎にも十分発揮できている。ネジを締め直して因縁のダービーマッチ群馬戦に臨んでいきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-3 V・ファーレン長崎

得点 32分 カルロス グティエレス(栃木)

   48分 澤田崇(長崎)

   70分 植中朝日(長崎)

   75分 カルロス グティエレス(栃木)

   90+1分 クリスティアーノ(長崎)