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【全員戦力で示した水準】J2 第27節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 17位

 天皇杯京都戦から中3日で迎えた5連戦の最終戦。山形戦、千葉戦と勝利しリーグ戦ではアウェイ3連勝が懸かった大事な試合となる。スタメンの変更は4人。ボランチは谷内田と神戸がコンビを組み、左WBには出場停止の福森に代わり大森を起用。瀬沼は7試合ぶりの先発となり、新加入の髙萩はさっそくベンチ入りした。

 

ファジアーノ岡山 [4-2-3-1] 4位

 前節は大分と対戦し、二度追い付く粘りを見せた岡山。木山監督が6月の月間優秀監督に選ばれているようにチームは好調を維持しており、PO圏内を確固たるものにしている。外国籍選手を多く抱えていることから今節はステファンムークがメンバー外。ハンイグォンが左SHに入り、ここまで10ゴールのチアゴアウベスはベンチスタートとなった。

 

 

屈強なフィジカルへの対応

 累積警告による出場停止や新型コロナ陽性判定により複数の選手がメンバー外となっている栃木。怪我人が少しずつ戻ってきているとはいえ、5連戦の最終戦ということで疲労も考慮しなければならず、苦しい台所事情である。まさに全員戦力といった状況で中3日のアウェイ岡山に乗り込むこととなった。

 この日の栃木は立ち上がりから長いボールを使うことを選択していたが、1トップの根本にシンプルに勝負させるというよりはサイドの選手へ入れることが多かった。前線のターゲットの身体的な強さを生かすというよりは動き出しでの勝負を重視しているようで、スペースに送ることにより岡山のCB-SB間から抜け出すシャドーへ届ける形は何度も試行していた。

 狙いは岡山のCBを外に引きずり出すことだろう。岡山のCBバイスと柳はリーグでも屈指の守備力を誇るコンビ。栃木としては彼らをなるべく持ち場から離れさせてペナルティエリア内の強度を引き下げたい。真正面から勝負するのではなく、あらかじめ相手のバランスを歪めさせることを念頭に置いた攻撃に見えた。

 これが最も上手くいったのが44分のシーン。岡山の右SB河野の背後に山本が抜け出すと、ボールサイドにはCB柳がアプローチ。柳がそのままサイド対応に残ったことでペナルティエリア内は河野が一時的にポジションをカバー。左サイドを繋いでからの大森のクロスは相手ブロックに遭ったものの、堅い岡山の守備陣形を揺さぶるという意味では効果的なアプローチだっただろう。

 この形を3分、16分に右サイド、19分に左サイドで繰り出せた序盤のうちは上手く岡山を敵陣に押し込むことができていた。3バックとダブルボランチでゆったりと繋ぎつつ、WBが下がりながら岡山のSBを引きつけてからシャドーが背後を狙う。岡山がブロックを敷いてくればダブルボランチが良い距離感でパス交換しながらボールを前進させることで、能動的にホールを保持することができた。

 

 一方岡山は序盤はボール保持に苦戦。GKが最終ラインに加わってビルドアップを行うことからも分かるように、できるだけ支配率を高めて敵陣でのプレータイムを増やしたいのが本来のスタイルなのだろう。SHがタッチライン際に張ったり、トップ下の佐野がサイドに流れたりと前線での工夫は見せたが、味方のサポートを受ける前に栃木の守備の網に絡め取られるシーンが多かった。

 それでも岡山が攻撃ターンをしっかり確保できたのはデュークが健在だったから。身長186cmの現役オーストラリア代表は体に厚みがあり、ハイボールの競り方も巧み。グティエレスや大谷との競り合いも苦にせず、仮に触れなかったとしても栃木に大きく弾き返させなかった。

 球際の攻防でパワーを全面に押し出す岡山はセカンドボール回収でも先手を取っていく。栃木のディフェンスがファールを犯せば、手にしたセットプレーのターゲットにバイスと柳を加えてくるため、栃木はボールを弾き返せない展開がより顕著になっていく。苦し紛れにタッチラインに逃げてももれなく岡山のロングスロー攻勢に襲われることとなった。

 守備の時間が長くなるなかで、30分過ぎの岡山のCKとロングスロー猛攻には決死のディフェンスで対抗。デュークには鈴木、バイスにはグティエレス、柳には大谷がマンツーマンでピタリと張り付き、少なくともゴール方向にはヘディングさせなかった。34分、ミスから招いた佐野とGK川田の1対1も間一髪の対応で凌いだ。

 上図で示した44分のシーンは、前半半ば以降に相手ゴール前に迫れた唯一といっていいシーン。それだけ押し込まれる展開が続き、自陣から脱出することもできない苦しい内容だった。それでもスコアレスでハーフタイムを迎えられたのだから堅守栃木の底力は示せたといえるだろう。

 

 

総力戦で劣勢を耐え切る

 エンドが変わって後半も攻勢を仕掛けるのはホームチーム。デュークへのロングボールや球際勝負で得たFKから強烈なセットプレーを繰り返す。[4-4]で守るブロックに対してピッチを広く使いたい栃木だが、対角へのロングフィードがズレてしまったり、高い位置を取る黒﨑の背後のスペースからハンイグォンにカウンターを打たれたりと依然劣勢が続いた。

 61分に栃木は両シャドーを入れ替え。トカチに加えて新加入の髙萩を投入すると、劣勢だった栃木にも少しずつ流れが傾き始める。髙萩は投入と同時にピッチ上の選手に対して「落ち着け」と指示を出していたことが中継からも分かるように、彼らを投入した狙いは縦に急ぎがちだった攻撃を落ち着かせてコントロールすることだった。

 この意味で髙萩の存在感は絶大だった。投入直後の63分には右サイドでボールを引き取ってからライン間の谷内田へ楔を打つ鋭い縦パス。65分には左サイドの大森へのスルーパスから決定機を演出。タッチライン際に追いやられても巧みな足技で簡単にボールを失わない。髙萩が攻撃にアクセントをつけながらテンポを落ち着かせることで、明らかに攻撃回数と精度を確保できるようになった。試合から消えつつあった谷内田も髙萩にゲームメイクを任せて3列目から攻撃参加するなど連携もまずまずだった。

 時間が進むにつれて試合は総力戦の様相が色濃くなってくる。75分には岡山が齋藤と成瀬の2枚替えで勢いを盛り返してくれば、栃木は84分に宮崎と磯村を投入して攻守の強度をキープする。5連戦の最終戦かつ最終盤とあってさすがに栃木も動きが重く、全体的に受け身になっている感は否めなかった。それでも思うように攻撃に力を注げない苦しい状況ではあったが、守備の粘りは落ちなかった。

 試合はこのまま終了。堅守を誇る両チームの対戦は互いにゴールを許さずスコアレスドローに終わった。

 

 

最後に

 選手選考をやり繰りしながらアウェイで手にした勝ち点は単なる1ポイント以上の価値があるだろう。90分を通して守る時間が長く苦しい試合だったが、堅い守備が最後まで健在だった点はポジティブな要素である。3分の2を過ぎようとしているリーグ戦において誰が出ても一定のクオリティを出力できる地盤がようやく整ってきたように思う。

 同系統の植田や谷内田にとって髙萩の存在はまさにお手本にすべき教科書といえるだろう。彼らも技術や球際の強度はそれなりの水準に達していると思うが、髙萩が途中投入によりもたらした空気感は一味違うものがあった。トップディビジョンや海外を長く経験してきただけに試合を読む能力はやはり卓越している。右肩上がりの調子をより高めてくれる起爆剤となることを期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 ファジアーノ岡山

得点 なし

観客 7021人

会場 シティライトスタジアム

 

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