栃木SCのことをより考えるブログ

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【小さな手応え】J2 第8節 栃木SC vs レノファ山口FC

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 20位

 前節群馬戦は退場者を出した直後に先制したものの、ラスト15分間で逆転を許し敗れた栃木。ショッキングな形でダービーマッチを落とした。

 今節はスタメンを6人変更。悪い流れを払拭しようと大幅に変更したというよりは、怪我人が続出し起用できる選手が限られているのだろう。これまで藤田が起用されてきたGKには川田が入り、出場停止の神戸に代わりボランチには佐藤祥が入った。シャドーは高萩と初先発の山田がタッグを組み、小堀は今季初のメンバー入りとなった。

 

レノファ山口FC [4-2-3-1] 9位

 3連敗で迎えた前節は秋田のホームに乗り込みウノゼロ勝利。ここまで無敗と好調をキープする難敵相手に粘り強く戦い4試合ぶりに勝利を手にした。

 前節の良いイメージを継続すべくスタメン、サブの変更はなし。前節と全く同じ18人で開幕戦以来のホーム戦勝利を目指す。吉満が古巣栃木戦に出場するのはグリスタ開催でスクランブル投入された2021年9月以来となる。

 

 

保持で流れを取り戻す

 この日シャドーに起用されたのは高萩と山田。前節の大島と植田に比べれば、よりボールに関与することで良さの出るタイプの2人である。これまで攻撃の舵取りをしてきた神戸を出場停止で欠き、また拙攻に終始した前節群馬戦の反省を踏まえ、繋ぎの精度を意識した先発起用をしたといえるだろう。

 彼らが中盤でビルドアップに関われるような仕組みは立ち上がりから垣間見えた。いつもと比べて高い位置を取ろうとしていたのが黒﨑と福森の両WB。彼らがサイドから山口の最終ラインを押し下げることで、シャドーにプレーエリアを与える。序盤は最終ラインからシンプルに相手のサイドの背後へ長いボールを供給し、シャドーがセカンドボールを拾う形を作れていた。

 栃木の保持に対して山口は守備時は[4-4-2]と[5-4-1]を使い分けるハイブリッド式で対応。トップ下の河野は皆川と一列目を形成する前者をベースとしながらも、大森がボールを持ったときは厳しく前進を妨げるタスクも兼務。河野が右サイドの守備に重きを置くため、それに伴い右SH吉岡は最終ラインに下がって福森を監視する。5バック化でズレをなくし、栃木の左サイドからの作りに対応するような守備配置を取っていた。

 立ち上がりのロングボールとハイプレスのやり合いが落ち着くと、山口がボールを握る時間が増えていく。

 山口の保持の特徴は、守備時に大外を担っていた沼田・吉岡が保持においてもそのまま大外を担っていたことだ。最前線の皆川の後ろには左から沼田・小林・河野・吉岡が2列目を構成する。沼田は本職SBとあってバランスを取るような立ち位置を取ることもあったが、それにより栃木は黒﨑が引き出されるとその裏を小林に斜めに使われるシーンが何度か見られた。

 それだけだったらサイドのスライドも間に合うのだが、山口はそこに河野や矢島を絡ませるのが巧みだった。人を基準に守る栃木としては同サイドに人数を集められるとどうしても見切れない選手が出てくる。上図は21分のシーンだが、黒﨑の背後に流れる小林に対して福島は河野を、西谷は矢島を見ているため寄せることができない。その結果、小林にフリーでクロスを上げさせてしまった。

 局面に人数をかけて細かく繋ぐのは足元の技術に優れた選手を多く揃える山口の特徴である。用意してきた可変に加えて、山口が元来持っている武器が合わさったことで、栃木は右サイドの守備に苦戦。前半の半ばくらいまでは難しい時間を過ごすこととなったが、CB岡崎を中心に課題のクロス対応は手堅く行えていた。

 

 押し込まれる展開から潮目が変わったのは30分辺りから。この時間帯から展開を落ち着かせようとビルドアップを丁寧に行ったことが流れを取り戻すきっかけとなった。

 山口が前からプレスをかけてくれば西谷や佐藤が岡崎の脇に下りてきて山口の勢いを牽制する。後ろでのボール保持が安定したことでWBも高い位置を取りやすくなり、彼らが高い位置を取れるようになったことでシャドーの2人もボールに関われる機会が増えていった。左右へのボールの振り分けもスムーズになり、とりわけ最終ラインの一つ前のポジションから長いボールを対角に入れる高萩の存在は山口にとって厄介だっただろう。

 そうして押し込む時間帯のなか迎えた40分、栃木が先制点を奪う。山田が左サイドで粘って高萩へ預けると、高萩は1タッチで背後へ走り出す福森へ絶妙なロブパスを供給。これを福森がダイレクトで折り返し、最後はファーサイドに詰めた福島が押し込んだ。WBが深い位置を取って、シャドーが手前のエリアでボールに関わり、最後は逆サイドから最終ラインの選手がゴール前まで飛び込んでくる。多くの選手が絡む、まさにチーム全体で奪った得点だった。

 

 

栃木らしい二つの顔

 後半は栃木ペースでスタート。根本や高い位置に進出するWBにロングボールを集め、そのセカンドボールを回収することで敵陣でのプレータイムを増やしていく。

 47分には、ロングボールを起点に押し込んだ展開から西谷が斜めに差し込んだパスを高萩が意表を突いたスルーで後方の根本へ。ボールを受けた根本は相手を抑え込み反転してシュート。58分には、左サイドでハイプレスを機能させて相手のミスを誘うと、細かいパスワークから根本のポストプレーを経由して右サイドの黒崎へ展開。孤立しない展開を作れれば根本の存在感は大きく、全体的にポストプレーも効いていた印象だった。

 それだけにゴール前にシンプルに入れるプレーが少なかったのは残念なところ。上記した58分も黒﨑が中途半端な横パスをエリア内に入れたことでチャンスを生かせず。68分にもセカンドボール争いを制した西谷が黒﨑へ預けるも、クロスを上げるでもなくオーバーラップする福島を利用するでもなく、攻撃をやり切らずに後ろに下げてしまった。

 左サイドも同様。山田・福森・大森に加えて逆サイドから高萩も絡み細かくパスを繋ぐことはできるのだが、クロスを上げ切るシーンは少なかった。1点先行したことで悪い意味で慎重になってしまった印象である。2点目を奪いにいくには迫力が物足りなかった。

 

 そうした時間が続くと徐々に流れは悪くなっていくもの。65分を過ぎたあたりから山口のバックパスに対してスイッチを入れる大島や植田のプレスに根本が連動できなくなっていく。あれだけ前線で身体を張り、疲労の蓄積する時間であることを考えれば当然なのだが、ここから山口に一気にペースを持っていかれてしまった。最前線のプレスが機能しないと相手の2列目にスパスパと縦パスを通されてしまい重心を上げられないのは群馬戦と同様だった。

 それでもこの日は何とか凌ぎ切りそうな雰囲気は十分あった。ボールは完全に支配されたものの、メリハリの効いた守備でペナルティエリアに入られたシーンは数える程度。左右CBはサイドをカバーするスライドをかかさず、ボランチはセカンドボールに身体を投げ出し、シャドーはプレスバックを繰り返す。栃木がウノゼロで勝ち切るときはこういう試合ばかりだったように思う。苦しみながらも試合終了までの筋道ははっきり見えていた。

 しかし、最後の最後で守り切れないのも栃木のもう一つの顔であり、昨季からの課題である。後半アディショナルタイム4分、池上のCKを外側から回り込んできた沼田に合わせられると、唯一ゴール前で動きを止めなかった梅木に押し込まれた。

 終了間際の失点で同点に追い付かれた栃木はこれで3試合勝ちなし。試合のほとんどの時間をリードした状態で過ごしただけに悔しい引き分けとなった。

 

 

最後に

 丁寧にビルドアップを行うことで山口の圧力を跳ね返し、先制点まで辿り着くことができた前半の試合運びは悪くなかったように思う。WBを高い位置に進出させることでシャドーと段差をつけたサイドのユニットは山口の脅威になっていたし、安定したボール保持がその基盤になっているのであればもっとそれを押し出す取組をしても良いのではないかと思う。

 高萩・山田の両シャドーはそうした精度をもたらす選手としてこの試合で見せた存在感は大きかった。ボールハントに重きを置いた佐藤・西谷の両ボランチとの共演もまずまずであり、これまでの試合のなかで最も機能した中盤の組み合わせと言えるだろう。

 どうしても最後の失点が重くのしかかる結果となったが、そのなかでも見つけた小さな手応えを大事にしていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 レノファ山口FC

得点 40分 福島隼斗(栃木)

   90+4分 梅木翼(山口)

主審 御厨貴文

観客 2831人

会場 維新みらいふスタジアム