栃木SCのことをより考えるブログ

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【総力戦で難敵を退ける】J2 第9節 栃木SC vs モンテディオ山形

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節山口戦は終了間際の失点で追い付かれ悔し涙を呑んだ栃木。時間帯によって内容の善し悪しに波があり、押し込まれた展開でいかに盛り返すことができるかが課題となっている。

 スタメンの変更は2人。右WBには黒﨑に代わって森、負傷交代した高萩はメンバーを外れ安田が開幕戦以来の出場となった。ベンチには出場停止明けの神戸が復帰した。

 

モンテディオ山形 [4-2-1-3] 20位

 開幕2連勝から一転、目下6連敗と絶不調に陥っている山形。5連敗したタイミングで指揮権を譲り受けた渡邉晋監督は渦中のチームに浮上のきっかけをもたらすため、なんとしてでも連敗ストップしたい状況である。

 スタメンの変更は4人。前節試合中に負傷した藤本とチアゴアウベスはメンバー外。代わって前線にはデラトーレと加藤が入り、右WGの國分も含め3トップは総入れ替えとなった。

 

 

前向きの守備を貫く

 立ち上がりから主導権を握ったのはホームチーム。前線のハイプレスを機能させ、山形のビルドアップに襲いかかり奪ったボールを攻撃に繋げていく。攻勢が実ったのは早くも9分のことだった。

 山形の中央での崩しに西谷、佐藤が寄せていき、CB岡崎がボールを回収。その岡崎から縦パスを受けた山田が相手の股を抜き前を向いたその瞬間、最終ラインの背後を突く絶妙なスルーパスを根本へ通した。相手GKとDFを出し抜き冷静に沈めた根本は待望の今季初ゴール。ここまでノーゴールで苦しんだストライカーにようやく得点が生まれた。

 

 これだけ立ち上がりから山形のビルドアップを制圧できたのも可変のキーになっていた右サイド、栃木から見て左サイドの攻防で優位に立てたからだろう。

 山形はボールを保持すると右SH國分が内側に立ち位置を取り、大外レーンはSBの川井が担当。國分が中央に入りトップ下の田中とともに栃木のボランチ脇を主戦場とすることで、人数をかけた中央突破を狙っていた。栃木のボランチがプレスに出にくいよう牽制しつつ、前がかりになれば縦パスを引き取る役割だった。

 よって右幅を取るのは川井の役割になるのだが、栃木は守備から攻撃に切り替わったタイミングでその裏を突くことを徹底していた。序盤だけでも山田が裏抜けしたシーンは何度もあり、福森のオーバーラップやそれに追随する大森を含めて左サイドの機能性は高かった。先制点に繋がった山田の個人技も川井をひっくり返したことでその背後から差し込んだものだった。

 プレス強襲で相手のビルドアップを怯ませ先制点を奪い切る理想的な試合の入りをした栃木。その後もハイプレスを機能させて山形陣内で試合を進めていく。前線3トップがボランチを背中で隠しながら寄せることで相手に横パスを選択させ、そこに全体が連動する。WBの縦スライドや、ボランチが相手ボランチを捕まえる前がかりな寄せも効いており、初先発の安田も問題なく順応していた。

 

 対する山形もビルドアップが全て上手くいかなかったという訳ではない。右肩上がりのバランスを取って左SB小野やボランチ小西が最終ラインに加わることで栃木の出方を窺い、浮いた選手から前進する巧みさがあった。前がかりになる栃木ボランチの背後に立ち位置を取る田中や國分にボールが渡れば、裏抜けするデラトーレを含めて中央突破からチャンス化できていた。

 そうして栃木は徐々にプレスがハマらなくなってくると、20分過ぎからプレス位置を下げて中盤でのブロック守備にシフト。リードしていることで無理せず構えた格好だが、この時間帯から山形の攻撃に苦戦することとなった。

 ミドルプレスの難しい点は相手の素早いパス回しに対しては後手を踏みやすいことである。ハイプレスと比べればミドルプレスはワンテンポ相手への寄せが遅くなってしまう。山形の中盤の選手はそれを悠々と越えてしまうスキルの高さがあった。

 それに加えて、山形は安定してボールを持てるようになったことから大外から栃木の最終ラインを押し込めるようになり、その手前のエリアを活用するシーンが増えた。栃木としては左サイドでいえば、福森が國分に寄せればその裏を川井に抜け出されてしまい、ボランチ2枚が無理にスライドすれば中央で田中をフリーにしてしまう構造になっていた。

 それでも大外手前でズレを生み出す選手をフリーのままにしてしまうことがなかったのは良かった点。ボールホルダーに圧力をかけ続け、外されても後ろの選手が素早くカバーする前向きの守備が多く見られた。相手のシュートシーンは少なくなかったが、チーム全体で身体を張り、最後の局面でやらせなかった。GK川田のセービングも非常に安定していた。

 

 

チーム全体でワンチャンスをものにする

 後半も引き続き山形ペース。テクニカルな中盤によるボール前進を止められず、47分にはCKからゴールラインを割られかけたが、ここは根本が間一髪かき出して失点を回避。そのほか、田中のミドルシュートやサイドを抉られてのクロスなどピンチを量産されたが何とか凌ぐと、攻撃に転じたワンチャンスを決めたのはまたしても根本だった。

 このシーンを遡ってみると、味方の上がりを促して押し込む展開を作るきっかけとなったのは山田だった。マイボールにした展開で縦に急がず、自分たちのテンポでボールを握ることができたのはこのシーンが後半初めて。チームに落ち着きと精度をもたらす試合を読んだ好プレーだったといえるだろう。

 針の穴を通すスルーパスを通した福島とオフサイドぎりぎりで反応した根本の関係性が素晴らしいのはもちろんだが、左右に揺さぶるなかで高い位置を取り続けた右WB森の存在も見逃せない。森の立ち位置で山形の左SH加藤を押し込めたことから、空いたスペースを福島は持ち運ぶことができた。チーム全体で取ったゴールだった。

 

 この得点後に山形は3枚替え。フレッシュな選手をサイドに多く投入してきた山形に対して、ここから栃木は苦しい時間を過ごすこととなる。初めのうちは前がかりになった背後へカウンターを繰り出す場面もあったが、CKを連続された65分以降はとにかく苦しくなった。

 それに追い討ちをかけたのが岡崎の負傷である。これまでフルタイムで栃木の背骨を担ってきた岡崎がピッチを去った影響は大きかった。73分、小西→南→田中と細かいパスで中央を崩されると、迎撃はおろか最終ラインがズルズルと下がってしまい、いとも簡単にミドルシュートを仕留められてしまった。絶対に見せてはいけない守備の光景だった。

 

 左足首を痛めた森が交代してからは、栃木の5バックは左から大島、大森、福島、平松、黒﨑。今季は前線起用されている大島はWBを出来ない訳ではないがもちろん本職ではなく、福島もCBの中央というイメージはない。平松は今季初出場だし、大森もCBに馴染んでいるがよくよく思い起こせば元はサイドアタッカーである。

 相当苦しいスクランブルな状況を踏まえれば最終ラインを押し上げてコンパクトに保ち続けるのは至難の業である。案の定、最終ラインはゴール前に張り付き、押し上げられないことでライン間をことごとく攻略された。マイナスのクロスから田中にミドルシュートを打たれたときは失点を覚悟したが、わずかに枠を外れた。決定的なピンチを量産され、とにかく時間の経過を待つばかりだった。

 終了間際に勝ち点を逃してきたここ2試合を踏まえれば試される終盤戦だったが、少しでも時計の針を進めようという選手の気概は大いに伝わってきた。黒﨑や安田は簡単に蹴り返さずに一つ持ち出すことで間を作ってからロングボールを供給し、小堀はポストプレーに奮闘する。ライン際でボールを隠しながら運ぶ山田のドリブルや果敢に飛び出したGK川田のハイボール処理はチームを勇気づけるものだった。

 長い長いアディショナルタイム6分を耐えきった栃木は4試合ぶりの勝ち点3を獲得。一方敗れた山形は連敗を7に伸ばすこととなった。

 

 

最後に

 プレッシングを最大出力にして試合に入った前半立ち上がりと劣勢を落ち着かせて流れを取り戻した後半立ち上がり、この日挙げた2得点はどちらもチームの狙いとする形から生まれたものだった。とりわけ2点目はボールを握り相手を左右に揺さぶったところから挙げたものであり、同様の過程は群馬戦や山口戦の得点にも見られた形であった。得点力不足が課題のチームにおいて、こうしたチームとして構築してきた形が実を結んでいるのはポジティブな要素である。

 一方で、なんと言っても気がかりなのは怪我人の多さだ。クラブからのリリースはないが、ここ最近メンバーに絡めていない主力選手が多数いるのは明らかであり、この試合では岡崎と森が負傷交代によりピッチを去った。苦しい台所事情だが、この試合でやり遂げた全員戦力を体現し、勝ち点を拾いながら負傷者の復帰を待ちたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 2-1 モンテディオ山形

得点   9分 根本凌(栃木)

   54分 根本凌(栃木)

   73分 田中渉(山形)

主審 今村義朗

観客 2901人

会場 カンセキスタジアムとちぎ