栃木SCのことをより考えるブログ

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【掴みかけている自信】J2 第12節 栃木SC vs 清水エスパルス

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 16位

 前節はいわきに1-0で勝利。開始早々にセットプレーから福島がゴールを決めると、その後も攻めの姿勢を貫き今季最多のシュート17本を記録した。ホーム連勝を達成し、今節は初のリーグ戦連勝を狙う。

 スタメンの変更は1人。佐藤祥に代わってボランチに神戸が入った。前線目元を抑えて交代した矢野は先発起用となり、負傷の心配はなさそうだ。ベンチには安田が2試合ぶりのメンバー入りを果たした。

 

清水エスパルス [4-2-3-1] 10位

 秋葉監督体制になってから復調の兆しを見せている清水。特にここ2試合は山口に6-0、大宮に3-0と相手を圧倒する試合を見せており、多くの選手が得点に絡むなど好調を維持している。

 スタメンの変更は2人。累積警告により出場停止の岸本に代わって右SBには北爪、最終ラインの井林に代わって高橋がスタメンを飾った。

 

 

際の勝負をものにされる

 GW初戦は清水エスパルスとの対戦。リーグ戦で対戦するのはこれが初めてで、公式戦では当時JFLに所属していた栃木がJ1清水に挑んだ2006年の天皇杯以来、17年ぶりのこととなる。ちなみに当時の自分は栃木SCのことをまだ知らなかったので、内容や結果を見聞きして、この激闘がJリーグ入りへの一つの機運醸成に大きく繋がったのかなと感じている。アイスタでの清水戦はそういう意味で栃木にとっては特別な試合と言えるかもしれない。

 

 さて、試合に話を戻すと、圧倒的な戦力を有する清水に対して栃木がどれだけ粘り強く対抗できるか、を焦点にして試合は進んでいく。受けて立ってしまえば、清水の攻撃をゼロに抑えるのは容易ではない。前への姿勢が試された試合だった。

 その意味で立ち上がりは何度か良い守備から良い攻撃に繋げることはできていた。4分、大森が出足の良い守備でボールを奪うと、相手ボランチ脇で受けた山田が前方の矢野へパスを供給。サイドに流れた矢野が後ろに戻すと、森の鋭いクロスに最後は山田が飛び込んだ。山田はボールに触れることはできなかったが、いわき戦に続きニアへの意識の高さを感じさせるものだった。6分にも乾を囲んで回収し、神戸のロングボールに根本が反応できればという場面があった。

 試合の入りは悪くなかった栃木だが、この攻勢を最後に、前半は清水にほぼほぼ支配された。唯一根本の抜け出しがオフサイドになったシーンがあったが、これも左SB吉田にラインを見切られていた。清水のワンサイドゲームだった。

 栃木にとって誤算だったのはセカンドボール争いや球際バトルでことごとく勝てなかったことだ。圧倒的なフィジカルを有するサンタナはある程度仕方ないにしても、その他の選手にも五分五分のボールを持っていかれてしまうとさすがに難しい。清水の選手は相手とボールの間に体を入れるのが巧みで、寄せ切ったと思ってもボールを逃がされてしまうことが多かった。

 39分の1失点目はハイプレスで奪いにいくなか、大森が清水の右SH中山に迎撃するも取り切れず、スペースに抜け出すホナウドへパスを許したところから始まっている。ホナウドへ寄せた平松も入れ替わられてしまい、最後はファーでフリーになったら乾にボレーを叩き込まれた。

 栃木のハイプレスはサイドの選手をどんどん前に押し出すことでパスコースを限定し、ボランチや左右CBのところで奪い切る仕組みになっている。背後を取られれば近くの選手がスライドし、中央CBが釣り出されたなら早めにボールを切る。相手選手の足を止めている間に守備陣形を整える。そのどれもが上手くいかず、最終ラインのスライドが一つずつズレたため、ファーがガラ空きになってしまった。

 

 直接的な球際勝負はなかったが、サイドの裏を使われたという意味では2失点目も同じような構造から喫したものである。

 このシーン、映像では見切れているが、栃木はミドルゾーンにセットし、差し込まれたボールに反応できるよう清水の2列目の選手を迎撃できるようなポジションを取っている。左サイドでは福森と大森がマーク対象をスイッチし、大森は北爪を見ていたが、外側から入り込む動き出しの速さに敗れた格好だった。

 清水の攻撃は素晴らしかったが、栃木側にも守備のエラーがいくつかあった。一つは大森周辺の守備状況である。全体的に意識が前を向くなかで、北爪に対応する大森をカバーする選手は誰一人いなかった。平松はほぼ横並びでサンタナを見ており、福森は中山を、ボランチ勢も最終ラインをサポートできる距離にはなく、大森が抜かれれば即GKとの1vs1という状況だった。最低でも失点1でハーフタイムを迎えるためのリスク管理が欠けていた。

 次に前線のプレスである。82分間出場した根本はここ最近の好調を示すように全体的に守備でよく動けていた。しかし、このシーンでは清水のCB鈴木に圧力が一切かからず、鈴木は余裕を持って北爪の動き出しに合わせることができた。

 矢野が寄せても良かった場面だが、前半の栃木は左サイドに比べて右サイドのプレスが後ろに重かった。清水の左サイドのカルリーニョスや中間ポジションに顔を出す乾を警戒し、極力無理することは避けたのだろうか。清水の右CB高橋には山田のフォローもありよく寄せられていたが、鈴木に対しては根本次第の格好になっていたのも失点の要因の一つだった。

 間々に顔を出す乾に手を焼きながらも何とか対応できていただけに、球際勝負やポジショニングのエラーで前半のうちに大きなビハインドを負ってしまうのはもったいなかった。逆にそういった際の勝負をものにできるのが今の清水の強さなのだろう。

 

 

テンポを落とさない戦い

 厳しい戦いを強いられた前半から一転、後半は前へのベクトルを押し出すことで流れを取り戻していく栃木。2点リードした清水が無理をしなくなったというよりは単純に栃木の出来が良かったように思う。アウェイで6ゴールをあげるチームを早い時間帯に5バックにさせたのはそれなりに評価していい部分だろう。

 後半栃木が良かったのは、根本や矢野の背後を取る動き出しから高い位置にしっかりと起点を作れたことである。特にこれを立ち上がりに繰り返し行ったことで、早いうちに清水の重心を押し下げることができた。山田の間受けに加えて、神戸と西谷もボールに触れる機会が増えたように、重心を押し下げたことで清水の最終ラインの表も裏も使えるようになった。

 ボールを失えば、前への勢いを守備へ素早く切り替える。乾のジェスチャーにも見て取れたが、テンポを落としたい清水に対して次々とプレスの矢を突きつけることでハイテンションな展開を強いることができていた。清水の攻撃が単発化していったのも栃木のハイテンポなサッカーによる技術的なミスだった。

 66分はその代表的なシーンだ。ピッチを広く使ってボールを回す清水に対して、根気強くプレスをかけ続けると、最後はサイドに追い込みロングボールを蹴らせてマイボールにすることができた。そのロングボールもサンタナを目掛けてというよりは、サイド奥のスペースに蹴り出したもので、結果的に手前のタッチラインを割ってしまう苦し紛れのものだった。このプレーには時崎監督も拍手で応えていた姿が中継で抜かれている。

 一方で、攻撃精度まではなかなか引き上げることはできず。攻撃のギアを入れたかった右サイドでは高萩、黒﨑のボールロストが目立ちブレーキになってしまった。福島が深い位置からサイドをえぐるようなシーンもあったが、どれだけ清水守備陣を脅かす場面があったかと言われると口をつぐまざるを得ない。

 攻撃が課題となるなかでも安田のボランチ起用は明るい材料と言えるだろうか。[3-4-2-1]にシステムを変えてマッチアップした状態からプレスをかけてきた清水に対して、ボールを受ける位置を頻繁に取り直すことで前でも後ろでもプラス1になれていたのは印象的だった。守備強度の面で、現状の先発起用は難しいかもしれないが、追いかける終盤に切るカードとしては面白い手札になりそうだ。

 87分には波状攻撃から最大のチャンスを迎えるもゴールネットを揺らすには至らず。宮崎も限られたプレータイムでは存在感を発揮することはできなかった。試合はこのまま0-2で終了。最後まで権田の牙城をこじ開けることはできなかった。

 

 

最後に

 あれよあれよと喫した2失点に試合の印象が引っ張られがちだが、少なくとも後半は堂々たる試合運びだったように思う。立ち上がりの勢いで清水を押し込み、それからも中だるみすることなく、攻守両面で前への意識を強く感じさせるものだった。試合中に講じた策が劣勢を吹き飛ばす原動力になっているのはポジティブな要素だ。

 ゴール前に持っていく回数がこれだけ増えてくると、やはり気になるのはフィニッシュの精度。今節は12本のシュートを浴びせたが権田を慌てさせたシーンはほぼなく、前節も17本のシュートで1点しか奪えなかった。攻撃は水物とはよく言うが、どの相手にも迫力ある攻撃をそれなりに発揮できている。掴みかけている自信を確かなものにするために、まずは好調のホームゲームで金沢にぶつけていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 清水エスパルス

得点 39分 乾貴士(清水)

   44分 北爪健吾(清水)

主審 高山啓義

観客 12305人

会場 IAIスタジアム日本平