栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【強敵に力及ばず、8季ぶりのJ3降格決定】J2 第36節 栃木SC vs 清水エスパルス

スターティングメンバー

栃木SC 3-4-2-1 18位

f:id:y_tochi19:20241027181339j:image

 前節群馬戦はスコアレスドローに終わった栃木。前半の2つの決定機を決めきれず、勝ち点1を積むに留まった。これで3試合連続ドロー。今節の結果次第ではJ3降格が決まる可能性があり、勝って望みを繋ぎたいところだ。

 前節からのスタメンの変更はなし。ベンチには負傷していた選手が相次いで復帰し、開幕前に離脱した福森が今季初のメンバー入り。鹿児島戦で負傷した山本もベンチに帰ってきた。

 

 

清水エスパルス 3-4-2-1 2位

f:id:y_tochi19:20241027181342j:image

 悲願のJ1復帰まであと1勝に迫る清水。ただ、ここ3試合は足踏み状態が続いており、前節山形戦ではホーム初黒星かつ初の逆転負けを喫した。昨季の苦い記憶も払拭するためにも勝利で決めたいところだろう。

 前節からのスタメンの変更は4人。今週のトレーニングで負傷者が複数発生したとのことで、ここまでフルタイム出場を続けていたGK権田がメンバー外。代わって沖が2年ぶりのリーグ戦出場となった。

 

 

マッチレビュー

■超攻撃的守備スタンス

 栃木はJ2残留、清水はJ1昇格がかかった大一番。スタジアムには栃木のホーム戦過去最多を記録する16476人の大観衆が集結し、試合前から応援の声が会場内に反響する、いつも以上に良い雰囲気のなかで試合は始まった。

 立ち上がりから主導権を握ったのはホームの栃木。3分、佐藤祥が積極的に放ったミドルシュートからCKを獲得すると、このCKのクリアボールに石田がいち早く反応。ミドルシュートを豪快に突き刺し、幸先よく先制───、と思われたが矢野がGKのブラインドになったとしてオフサイドの判定。ゴールは取り消され、幻の先制点となってしまった。

 一連の流れで虚をつかれた格好となってしまったが、緊張感を振り払うには十分なファーストプレーになったと言えるだろう。ここから栃木はアグレッシブなハイプレスを敢行。前線がスイッチを入れ、チーム全体が連動することで次々と高強度のプレスを浴びせることができていた。

 特に立ち上がりは何度も前で引っ掛けてショートカウンターを発動することができていた。7分、8分には後方からのパスを佐藤祥が連続インターセプト。9分には大島がCBからボールを奪い取り、矢野からのリターンを自らコントロールシュート。13分には矢野がGKまでチェイスし足に当てるなど、この試合に懸ける想いが強く表れたハイプレッシャーだった。

 対戦相手の清水は3-4-2-1を採用し、栃木とミラーゲームになる構図を敷いてきたが、清水が3バックであっても4バックであっても栃木のスタンスはそれほど変わらなかっただろう。ミラーゲームなど関係なくこの日の栃木は前から枚数を合わせていく傾向がいつも以上に強かった。

 とりわけ左サイドはそれが顕著だった。清水の右サイドは北爪が高い位置を取り、ルーカスブラガが中盤に下りることが多かったが、栃木は川名の守備位置が北爪に引っ張られることなく、前めの立ち位置からCB原にアプローチするシーンが多かった。

f:id:y_tochi19:20241101204318p:image

 ミラーゲームの状態から立ち位置でズレを作ろうとする清水に対して対面の相手(北爪)を意識し過ぎてしまえば自ずと川名は後ろに重くなってしまう。これでは前からの勢いは保てない。ならばゾーンディフェンスの立ち位置から前向きにアクションを起こしてしまおう、というのが栃木のスタンスだった。

 川名は対面の相手を飛び越えてプレスをかけるため、その背後を狙われることも多かったが、大谷も高嶋もそれを理解して素早くスライドすることができていた。これがハマっているときの栃木は強い。清水は栃木のアグレッシブな姿勢に明らかに手を焼いている様子だった。

 

 

■ミドルプレスも機能

 しかし、20分を経過したあたりから清水がプレスに慣れてくると、栃木が高い位置で引っ掛ける回数は徐々に減少。乾やボランチ勢が立ち位置を下げながらビルドアップに関わることで、少しずつプレスの的を絞れなくなっていく。

 しかし、高い位置でボールが奪えなくなったからといって、それがただちに主導権を譲ることにはなっていない印象だった。5-4-1で構えることで中央を封鎖し、中に差し込むボールに対しては受け手に時間を与えず、最大限のアラートさを持って対応できていた。どちらかといえば乾をブロックの外側に追いやることができていたイメージだった。

 攻撃のキーマンとボールをブロックの外側に追いやることができれば、今度はじわじわとボールホルダーへプレッシャーをかけていく。少しずつ重心を上げていき、プレッシングを機能させていく守備は小林体制になってから積み上げていったミドルプレスだった。ハイプレスに留まらない守備対応でも清水にほとんどチャンスを与えなかった。

 清水が攻撃の糸口にしていたのは、栃木がミドルプレスに移行してからの川名・大谷の背後のスペース。前述したハイプレスの際にも狙っていたスペースである。カルリーニョスジュニオがこのスペースに流れたり、北爪が積極的なサイド突破からクロスを入れるなど、アタッキングサイドはかなり偏っていた。

 ただ、エリア内でも守備は堅調。それなりに予測のもと守れていたたためピンチは少なかった。時間の経過とともにショートカウンターが減っていったため栃木の攻撃の圧力は目減りした印象だったが、守備は終始安定。前半はどちらかと言えば栃木のプラン通りに進んでいった印象だった。

 

 

■ささいなミスから失点

 ただ、後半立ち上がりにこれまで見せなかった守備の緩みが生じてしまった。開始からギアを入れ直した清水に対して、最終ラインからの迎撃を剥がされる場面が相次いで発生。ここからCKを与えると、押し返す間もなく先制点を許すことなった。

 50分、左からのCKをニアで中村にそらされると、中央で反応したのは住吉。中村は栃木のゾーンの手前で先に触れ、住吉は川名のマークを剥がして押し込んだ。

 栃木のCKの守備はゾーンとマンツーマンの併用。長身選手からゾーンを埋めていき、小柄な選手には長身ターゲットの動きを制限して十分に競らせない役割が与えられているが、このシーンでは川名がボールに気を取られ住吉のマークを外してしまった。ささいなミスだが、これが失点に繋がってしまった。

 1点を追う栃木は交代カードを次々と切っていく。52分には山本、宮崎、森の3枚替え、60分にはラファエル、65分には福森を投入。交代を切った直後には次の交代選手がベンチでスタッフ陣から指示を受けているというまさに矢継ぎ早な采配だった。

 しかし、そうしたベンチの状況は焦りとしてピッチにもたらされた印象だった。後ろからの繋ぎはどうも落ち着かず、ボランチ勢で時間を作ることができないため、無理に縦パスを入れた先で清水の守備に捕まってしまう。困ったときのロングボールも相手を裏返せず、宮崎の上から弾き返される場面が目立った。

 その意味で、高嶋→ラファエルの交代策は後ろからの配球のレパートリーを狭めてしまった印象だった。高嶋は交代直前にも良い縦パスを差し込んでおり、いざというときのロングスローにも期待できたが、CBどうしの入れ替えで交代に。ラファエルには最終盤のパワープレーを見込めるとはいえ、なかなかそれ以外で攻撃にプラスをもたらすことができず、また守備面でドウグラス タンキにつけるわけでもなかったため、ますます早い時間での交代策に意図を見つけることができなかった。

 一方で、約8ヶ月ぶりの実戦復帰となった福森はさっそく違いをもたらせていた。左サイドから内側に差し込むボールで組み立ての起点になると、左→右に前進していく攻撃ルートが開通。右サイドで高い位置を取る森に連動するように福島が合流し、そこに南野も関わることで押し込む時間を作ることができていた。

f:id:y_tochi19:20241101204325p:image

 後半も折り返しを過ぎた頃になると、リードを守れば昇格が決まる清水は独特な緊張感と栃木の反撃によって、それほど効果的な攻撃は繰り出せていなかった。そうしたなかで83分にキャプテン北川が一発退場、後半ATにはロングボールに対してGKとDFが交錯してボールをこぼすなど、栃木にも付け入る隙は十分あった。しかし、数的優位のアドバンテージを最後まで生かすことができなかった。

 試合はこのまま0-1で終了。1点を守りきった清水は悲願のJ1復帰を達成。一方栃木は5試合ぶりの黒星となり、他会場の結果を受け、今シーズンの18位以下が確定。8季ぶり2度目のJ3降格が決定した。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
失点シーンは身体の重心とは逆方向にボールが来たため反応し切れなかった。

DF 5 大谷 尚輝
前がかりに寄せる川名に連動して積極的に迎撃しにいった。背後を狙われることも多かったが、切り替えての帰陣は速かった。

DF 23 福島 隼斗
状況を見ながらサイドを駆け上がったが、持ち前の中央に差し込む楔のパスが少なかった。対面の乾が自由にポジションを動いていたため、福島のサイドから崩されることはなかった。

DF 40 高嶋 修也
前半は相手FWの背後への動き出しやクロス対応が非常に安定していたが、後半立ち上がりにいくつか迎撃で後手を踏んだ。

MF 4 佐藤 祥
こぼれ球やセカンドボールには必ずと言っていいほど身体を投げ出し、強度の高い守備と豊富な運動量でフルタイムを戦った。

MF 7 石田 凌太郎
オフサイドによって取り消されたが、開始早々のミドルシュートは豪快だった。交代するまで終始気持ちの強さが表れたプレーだった。

MF 16 玄 理吾
いつもと比べて高い位置を取ることはそれほど多くなかったが、巧みなボディフェイントなどで中盤でアクセントをつけた。

MF 18 川名 連介
仕掛けの局面ではマッチアップする相手に対して自分の間合いで勝負できていた。失点シーンでは住吉のマークを外してしまった。

FW 19 大島 康樹
相手の配球を制限するのではなく、そのまま奪い取ってしまう守備強度の高さがあった。自ら引っ掛けてシュートに持ち込んだ9分のシーンは枠に持っていきたかった。

FW 29 矢野 貴章
あらかじめ早い時間で交代するプランだったのだろうが、自らスイッチを入れ、二度追いも辞さない献身的なプレスでチームを牽引した。

FW 42 南野 遥海
矢野に続くように立ち上がりから献身的にプレスを敢行し、最後は足をつりながらも最後までやり切った。

FW 45 山本 桜大
ギャップに顔を出したり、背後へのランニングだったり動き出しの数で違いを作ろうとしていた。

FW 32 宮崎 鴻
強引に前に持ち出す場面もあったが、それほど空中戦で優位に立つことはできなかった。

MF 10 森 俊貴
初めに投入された左サイドでは周りと繋がれず、右サイドに移ってからも石田が見せたほどの推進力は発揮できなかった。

DF 33 ラファエル
何とかしたいという焦りがプレーに現れ、もったいないミスがいくつか続いた。後半ATの決定機は決め切りたかった。

MF 30 福森 健太
長いリハビリ期間を終えてようやく復帰。オープンな展開でのプレーとなったが、宮崎への楔のパスや剥がすドリブルでアクセントをつけた。

 

 

最後に

 この試合単体で見れば僅差で振り切られた好ゲームだったように思う。強豪相手にも真っ向勝負を挑み、自分たちの時間帯を作ることができていた。シーズン序盤や半ばにこういった試合が見られれば今後に期待が持てる内容だったといえただろう。

 しかし、現実は大詰めも大詰めの第36節。水戸戦で衝撃の逆転負けを喫し、その次の試合、鹿児島戦で佐藤祥の復帰とともにチームは息を吹き返したが、この状態に到達するまでに要した時間があまりに長過ぎた。年間を通して見たときにJ2を戦う力が明らかに不足していた。これは現場で戦う選手・監督だけでなく、フロント含めたクラブ全体に共通するものだと思う。

 2019年には奇跡の残留を成し遂げ、2021年には4チーム降格という過酷なレギュレーションを乗り切った。しかし、加速度的に競争が激化するJ2において、なんとか繋いできた首の皮一枚も、今年はついに途切れてしまった。再び戦うことになるJ3ではJ2を戦うに相応しいチームになれるよう、再建に踏み切ることが必須だろう。

 降格は決まったが、シーズンはまだ終わったわけではない。リーグ戦はあと2試合ある。こうした状況になったからこそ、心身ともにしっかりとリカバリーし、目の前の試合を必死に戦う選手たちの姿を再び目に焼き付けたい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.10.27 14:00K.O.
栃木SC 0-1 清水エスパルス
得点 50分 住吉 ジェラニレショーン(清水)
主審 岡部 拓人
観客 16476人
会場 カンセキスタジアムとちぎ