栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【苦しい現状に求められること】J2 第2節 栃木SC vs モンテディオ山形

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] 19位

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 開幕戦はアウェイで岡山に完敗。ホームに戻って迎える今節は多くのサポーターの前で仕切り直しを図りたい一戦となる。前節からは南野⇒矢野の1枚のみを変更し、ベンチにはイスマイラと揚石に代わって宮崎と新加入の土肥が今季初めて名を連ねた。

 

モンテディオ山形 [4-2-1-3] 3位

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 開幕戦は昇格候補と目される千葉に3-2で逆転勝ち。幸先良い滑り出しを切り、2年連続の開幕連勝を狙う。前節からのスタメンの変更は1人。藤本に代わって前節2ゴールの高橋が最前線に入った。甲府から加入し古巣対戦となる松本凪生はメンバーから外れた。

 

 

マッチレビュー

■プランを破壊され、脆さを露呈

 前節岡山戦の課題はファーストDFが決まらないことだった。田中監督もここの重要性はよく口にしているが、1人目が決まらないと周りは連動できず、チームとしてボールの取りどころを定めることができない。芋づる式に全体の距離感が悪くなり、著しく一体感を欠いたのが前節の敗因だった。

 そうした反省を踏まえて迎えた今節だったが、再び3失点を喫したことはもちろん頂けない。ただ、少なくとも準備してきた守備をある程度表現できていた点はプラスに捉えられるだろう。

 この日の栃木で目を引いたのは非保持の陣形。山形がボールを握るとそれに合わせて中盤をダイヤモンド型の4-4-2へ変化させていく。佐藤祥の両脇には小堀と大森が入り、大島はトップ下へ移動。岡山戦で再三狙われたアンカー脇をあらかじめ埋め、3バックではなく4バックにすることで最終ラインに穴を作らない狙いだった。

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 2トップと大島の3人は中央封鎖に専念。大島はボールサイドのボランチを切り、FWを前に押し出すことでファーストDFを成立させる役割だった。サイドに渡ればIHとSBが寄せていき、チーム全体がボールサイドに圧縮する。立ち上がりはこれがハマり、次々とボール奪取に成功。先制点に繋がるCK獲得もここからのショートカウンターだった。

 しかし、山形が立ち位置を調整した15分頃から風向きが変わっていく。中盤を高江をアンカーとする逆三角形にし、左WG氣田をインサイド化、左SB吉田を幅取り役へシフト。これにより吉田を基準としていた小堀の立ち位置が下がると、南にフリーでボールを持たれるように。加えて佐藤祥が後藤に釣られることで中央へのパスコースが開通し、氣田、高橋の落としからボランチ勢に前を向かれる回数が増えていった。

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 中央を消すプランで臨んだ栃木にとってこれは明らかにイレギュラーな状況である。そしてここへの手当がなされないまま過ごせば、失点は時間の問題になってしまう。

 中盤で前を向ける山形は対角のイサカゼインへの大きな展開で局面を打開していく。イサカは相手を剥がす俊敏さとクロス精度が高く、福島がここまで手を焼くのは珍しい光景だった。大森を最終ラインに下ろさない守備プランもサイド対応で後手を踏んだ理由の一つだっただろう。

 そして、ここから失点を重ねることとなる。1失点目のオウンゴールは事故的なもののため仕方ないにしても、それ以外の失点シーンの守備対応は非常に緩かったと言わざるを得ない。球際で寄せ切れず、ボールをピッチ外に切れず、クロス・シュートのコースに身体を入れることができていない。前節のレビューでは戦術で引き上げられる強度について言及したが、この試合で見られたのは戦術以前の問題であった。

 1失点目の直後に得たPKを外したことは確かに痛かったが、よくよく考えればもはや試合の大勢にはあまり影響しなかったように思える。3失点目以降はさらに重心が低くなったことで山形に自由を与えてしまい、反撃の狼煙を上げる間もなくハーフタイムに辿り着くのが精一杯だった。

 

■ハイプレスから流れを引き戻す

 後半栃木はプレスの開始位置を修正。前半はミドルゾーンをベースにサイドに誘導して閉じ込めるプランだったが、徐々にボールホルダーに自由を与えてしまった反省からハイプレスにシフト。精力的に高い位置から圧力をかけていく。

 負傷した佐藤祥に代わって入った神戸もこれに難なく対応できていた。全体の陣形は前半同様に中盤ダイヤモンド型の4-4-2だったが、神戸もアンカーの位置からプレスを敢行。大島がボールサイドのボランチを消せない時に大きく前に出ていくなど、前へのベクトルを体現することができていた。

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 ショートパス主体の山形はボールの出しどころに苦戦。前半は中盤を中心に立ち位置を調整して出し手を確保したが、栃木の強い圧力により2ボランチの形を維持せざるを得ないように。神戸の背中でフリーになる加藤にも有効なボールを届けることはできなかった。

 栃木は早い時間に2トップを入れ替えてハイプレスの強度を維持。途中出場の宮崎はポストプレーで味方の上がりを促すことで、特に右からの攻撃が活性化すると、石田の鋭いクロスや奥田との連携からチャンスを演出。対する山形もイサカをスペースに走らせるボールから少しずつ流れを引き戻していく。

 70分には大島がゴール前で放ったシュートが枠の上を外れたが、個人的にはこのプレーが試合の潮目になったように思う。ここまでに試合を動かせなかったことで栃木は焦りからプレー精度が落ち、一方山形は試合をコントロールする方向に舵を切り替えた印象だった。

 終盤山形は長いボールを増やして栃木のプレスを回避。あえてセカンドボール勝負に持ち込み五分五分の展開を受け入れたことで、かえってリスクを減らすことができていた。試合を終わらせにかかる山形に対して、栃木もCKからゴールに迫ったが目立ったチャンスは作れなかった。

 追加タイムの3分もセーフティーにやり切った山形が開幕連勝を達成。一方栃木は2試合連続で3失点を喫する厳しいスタートとなった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 健太
失点シーンの反応は決してどれも悪くなかったが、流れを引き寄せるような好セーブは見られなかった。

DF 2 平松 航
2失点目と3失点目は相手FW高橋を抑えられず振り切られてしまった。後半はハーフラインを跨ぐアグレッシブな守備で厳しく対応した。

DF 17 藤谷 匠
チームの今季初得点をアシスト。アンカー脇を埋める出足が速く、序盤の主導権掌握に貢献したが、目の前に氣田に立たれてからは良さが見えにくくなった。

DF 23 福島 隼斗
イサカゼインの対応に翻弄された。左CBと左SBのハイブリット役を担ったが、利き足も含めて彼が適任かどうかはまだ分からない。

MF 4 佐藤 祥
アンカー脇を埋める守備体形を施してもなおカバーエリアが広いように思う。7分に左膝を痛め、前半は粘ったがハーフタイムに交代した。

MF 6 大森 渚生
守備時に与えられた特殊な役割を絶妙なバランスでこなした。前節に続きキックの精度は高く、CKから先制点を演出した。

MF 7 石田 凌太郎
チームの低調とともに前半は沈黙。一転後半はアグレッシブな上下動と鋭いクロスで存在感を示した。

MF 19 大島 康樹
ゴール前で合わせた70分のシュートは枠に収めたたかった。昨季終盤の大島の姿はまだ見えない。

MF 38 小堀 空
山形に立ち位置を工夫されてからはプレスに行けなくなった。後半も前向きの矢印を押し出すチームの波に乗れなかった。

FW 15 奥田 晃也
チームの今季初ゴール&移籍初ゴールを決めた。守備に走らせるのはもったいなく、なるべく前でプレーさせたいが、中盤にも必要な選手。

FW 29 矢野 貴章
矢野がいるとやはり収まるし、前へのベクトルが生まれる。苦しいながらプレスのスイッチを入れようと何度もスプリントした。

MF 24 神戸 康輔
後半から登場し、思い切りの良いプレスから後半のペースを掌握する立役者になった。アンカーとしてのボールへの関わり方も適切だった。

FW 32 宮崎 鴻
ターゲット役として安定感は抜群だった。ゴール前では怖さは見せられなかったが、作りの局面で彼のポストプレーは重要だった。

FW 42 南野 遥海
相手の守備に当たり負けする場面が何度か。常にゴールを意識しているギラギラ感は近年の栃木にはいなかったタイプである。

MF 10 森 俊貴
前節はWBだったが今節はトップ下で出場。セカンドボール争いの混戦からゴリゴリと持ち出したシーンは森の真骨頂が見られたシーン。

DF 33 ラファエル
ファーストプレーで処理ミスから相手にCKを与えるなど試合勘はまだまだな印象。

 

 

最後に

 現状栃木は後ろで構えて守り切れるチームではない。立ち上がりのようにミドルゾーンから徐々に自由を奪うプランが確立しているなら別だが、そうでないなら後半のようにハイプレスをかけ続けなければならない。開幕2試合を見ての率直な感想である。

 機動力に優れた守備陣を多く擁していることからも、後ろに残して構える守備が得策とは言えないだろう。守備を十分機能させるにはできるだけゴールから遠い位置でボールにアプローチする必要があるし、90分を通して厳しく要求し合わないといけない。これは選手に限った話ではなく、また日々のトレーニングにも通ずるものである。

 当たり前のことだが、そうしたことを身をもって再確認できた点は数少ない収穫として前向きに捉えたい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.3.3 14:00K.O.
栃木SC 1-3 モンテディオ山形
得点 6分 奥田 晃也(栃木)
   21分 オウンゴール(山形)
   31分 イサカ ゼイン(山形)
   36分 高橋 潤哉(山形)
主審 大坪 博和
観客 8592人
会場 カンセキスタジアムとちぎ