栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【失点をきっかけに顔を覗かせる脆さ】J2 第38節 栃木SC vs モンテディオ山形

スターティングメンバー

f:id:y_tochi19:20231008150914p:image

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節はホームで秋田に逆転負け。大島の得点でリードするも後半立て続けに失点を許し、痛恨の3連敗となってしまった。残留を確実するためにも敵地とはいえ勝利を飾りたい一戦となる。

 前節からのスタメンの変更は5人。今夏加入のラファエルはこの試合が栃木デビュー戦、吉田は14試合ぶり、植田は4月以来31試合ぶりの先発となった。頂点には宮崎が入り、イスマイラはベンチスタートとなった。

 

モンテディオ山形 [4-2-1-3] 11位

 前節は徳島に0-1で敗れた山形。ここ最近は下位相手に取りこぼしが目立っており、プレーオフ圏内に浮上するためにもこれ以上落とせないホームゲームとなる。

 今節はイサカゼインが出場停止となり、ここまでチームトップ12得点のチアゴアウベスもメンバー外。レギュラーを張ってきた両翼が不在のなか、代わって横山、宮城が先発に名を連ねた。

 

 

一本の縦パスで崩れ去ったプラン

 この日のプランは大枠として前半を無失点で折り返し、後半に勝負をかけるというものだっただろう。まず優先すべきは失点しないこと。失点によって大きくペースを乱している現状において、悪い流れを覆すには無失点の時間をいかに長くできるかが重要である。

 よって、この日は中盤に神戸に代えて佐藤祥を起用することで守備力を担保。ラファエルはぶっつけ本番の起用となったが、普段福島らが担うような攻撃参加は行わず純粋なCBとしての仕事に集中していた印象だった。まずは前半を手堅くやり過ごし、勝負どころでイスマイラらを投入する。後半にギアを上げる狙いは明らかだった。

 そうしたプランを踏まえれば、失点するまでの守備はそれなりに上手くいっていたように思う。試合をライブで見ていた際は前でボールを奪えず、消極的な姿勢が気になることも少なくなかったが、改めて映像を見返すと、ボールを握られながらも要所をきっちり押さえることはできていた。

 具体的には、山形の中盤を消すブロック守備がよく機能していた。ボールを握る山形に対して[5-2-3]でブロックを組み、前の5人で作った五角形で山形のダブルボランチを囲い込む。その中に入ってくるボールに対しては厳しく寄せることで山形の中盤を試合から消す狙いだった。

f:id:y_tochi19:20231012070654p:image

 山形が中盤を避けてボランチを落としたり、トップ下の後藤が前線に留まるようになれば、中盤を通過されるリスクは減る。サイドにボールを動かせばチーム全体がスライドし、サイドの背後を狙う長いボールに対しては左右CBとWBが協力して対応する。

 準備してきた守備がピタリとハマっていたため、ピッチ上の選手たちはそれほどストレスなく守れていたのではないだろうか。どの試合もこの守備の仕方はベースにあると思うが、この日はいつも以上に中央を消す狙いが色濃く見えた。

 

 一方攻撃はロングボールを軸としながらも、地上戦も織り交ぜて攻撃しようという意図が窺えた。山形はどちらかといえば積極的にプレスをかけてくる好戦的なチームである。栃木の3バックに対して3トップをそのまま当て、アンカーの佐藤祥にはトップ下の後藤を当てる攻撃的な守備を見せてきたため、自ずと中盤にスペースが空く機会は多かった。

 それを有効活用できたのが11分のシーン。大森の持ち上がりを起点に植田がライン間で縦パスを引き出すと、その落としを受けた佐藤から西谷を経由して右サイドの石田へ展開。石田がクロス精度を欠いたためフィニッシュに繋げられなかったが、スペースを見つけて上手く前進できたシーンだった。

f:id:y_tochi19:20231012070704p:image

 また栃木がこの形からビルドアップを行うと、西谷が右寄りに立ち位置を取る分、左右非対称的に右サイドに人数をかけやすくなる。そうした立ち位置の妙を生かすように、石田に寄せる山形の左SBの背後を狙うといった形は前半だけで何度も見ることができた。前節は左右CBからWBへの外→外の繋ぎの次が課題となっていたが、宮崎や大島が石田から斜めにパスを引き出すなど、西谷の裏抜けとパッケージでの工夫を見ることができた。

f:id:y_tochi19:20231012070714p:image

 

 それだけに栃木が狙いをもった攻守を展開していたなかでワンチャンスから失点を許してしまったことは痛恨だった。

 前述のとおり栃木の守備は前の五角形がベースとなっているが、失点シーンは一本のパスでその五角形を突破されてしまった。栃木にとって中盤を割られて侵入を許したのはこのシーンが始めてだったが、肝心のライン間に潜り込まれてからの守備が緩かった。縦パスを受けた藤本や横山のドリブルに対するアプローチが鈍く、簡単にクロスを上げられてしまい、最後は藤本に決定力の高さを見せつけられた。藤本の動き出しは見事と言うほかないが、失点に至るまでの対応はあまりに淡白だった。

f:id:y_tochi19:20231012070723p:image

 ここまで機能していた守備をあっさり破られたことに気落ちしたかのようにハーフタイムを迎えるまでの十数分はプレスをかけるのか、それとも後ろに引くのか、チーム全体がバラバラだった。この短い時間の中でGKとの1vs1に持ち込まれたシーンが2回、バックパスを相手に奪われてカウンターを許したシーンが1回。それまでの堅固な守備を考えれば、失点後に見せた守備はあまりに脆く、勝てていないチームの悪いところが顔を覗かせていたと言えるだろう。嫌な雰囲気を抱えたまま1点ビハインドでハーフタイムを迎えた。

 

 

時間とともにアンバランスさが加速

 後半立ち上がりのプレーぶりを見れば、ハーフタイムで守備のエラーを修正し、ビハインドを跳ね返すべく前から強気に守備を行おうという狙いは窺えたものの、次の得点はホームチームに生まれることとなった。

 失点のきっかけは宮崎-大島間を山形のCB野田に簡単に持ち運ばれてしまったこと。相手のバックパスに合わせて前線を押し上げるまでは良かったが、その逆を突くように野田に持ち運ばれると、牽制すべく西谷が前に出たことで中盤のフィルターが効かなくなってしまった。

f:id:y_tochi19:20231012070734p:image

 その後は引っ掛けたボールが相手のもとに転がってしまう不運があったとはいえ、全体をコンパクトに保ち、最後の局面でも厳しく寄せられれば、なんて事なかったシーンのように思う。さあこれからというところで喫した失点により栃木はさらに苦しくなった。

 

 2点を追いかける栃木はここからハイプレスの機会を増やさざるを得ない状況に。当初のプランを考えれば、もう少し深い時間帯を勝負どころにしたいところだったが、こうなっては背に腹はかえられない。

 後がなくなった栃木は全体が強引に寄せることで、長いボールを蹴らせて回収したり、ビルドアップのミスを誘発すること場面は増えた。ただ、そこに攻撃精度を伴わせることができなかった。

 一人中盤の底に残る佐藤祥は配球が不安定で、攻撃陣もゴール前でGKまで脅かすようなシュートを打てたシーンは数える程度。交代で入ったイスマイラや福森にはボールが多く集まったが、これといった存在感を示すことはできなかった。時間の経過とともにオープンな展開になると、次第に中盤のスペースやサイドチェンジ、ライン間での仕掛けから後手を踏む機会も増えていった。

 

 72分に3枚替えを敢行すると、システムを[3-5-2]に変更。前線を明確に2トップにし、中盤には保持でクオリティを生み出せる高萩と安田を投入することで、攻撃的な布陣にシフトする。

 しかし、それによってバランス感を失った代償も大きかった。全体の間延び感がさらに悪化し、ひとたびボールを失い山形の攻撃に移行すると、簡単に自分たちのゴール前まで運ばれてしまう。あまりのコンパクトさの欠如に時崎監督から平松に対してしきりに最終ラインを上げるよう指示が飛んでいたのは中継でも聞き取れるほどであった。

 最後まで全体の間延び感が改善されることはなく、時間の経過とともにプレスも個々人の判断によるように。個の勝負となると栃木は分が悪い。目立ったチャンスを作ることができず、行ったり来たりの繰り返しの末、そのまま試合終了のホイッスルを迎えることとなった。

 

 

最後に

 失点をきっかけにこれだけチームが様変わりしてしまうのは残念と言うほかない。こうした現象はこの試合で始まったことではなく、現状の最大の課題としてチーム内で共有されているはずなのだが、一向に改善されないところにチームとしての力のなさを感じる。試合を経るごとに結果に内容が引っ張られている印象であり、降格圏からの追い上げもいよいよ無視できない状況になってきた。

 次節は試合間隔が2週間空くことから、チームは水曜日までオフだったようだ。代表活動で離脱していた藤田もチームに帰ってくる。不穏な空気はここで取り去って、ラスト4試合は来季に繋がる戦いを見せてほしい。仮に望んだ結果が得られなかったとしてもチームとして闘う姿が見たい。サポーターが求めているのはチームのためにがむしゃらに走り、試合終了とともにピッチに突っ伏すくらいのハードワークとちょっとのことでは崩れない強固な一体感である。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-2 モンテディオ山形

得点 31分 藤本佳希(山形)

   53分 宮城天(山形)

主審 大坪博和

観客 7462人

会場 NDソフトスタジアム山形