栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【底は脱し、目線は前へ】J2 第39節 栃木SC vs 大分トリニータ

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節はアウェイで山形に敗れ、今季ワーストとなる4連敗を喫した栃木。ここ3試合は複数失点と堅守が鳴りを潜めており、特に失点後の試合運びが課題となっている。降格圏の足音が迫るなか、正念場となる終盤戦を迎える。

 前節からのスタメンの変更は4人。アジア大会を戦ったGK藤田は千葉戦以来4試合ぶりの復帰。イスマイラが2試合ぶりに先発に戻り、黒﨑、大谷はそれぞれ2ヵ月ぶり、3ヵ月ぶりの先発となった。福森はレンタル元との対戦のため出場不可。

 

大分トリニータ [4-1-2-3] 11位

 大宮、東京Vにともに0-1で敗れ、現在2連敗中の大分。後半戦に入ってからは思うように勝ち点を積めておらず、逆転でのプレーオフ圏進出に向けて後がない状況である。

 今節はペレイラが出場停止。代わってCBには安藤が入り、デルランと2CBを形成した。ここまで得点とアシストでチームトップの成績を残している野村は3試合連続の欠場。引き続き攻撃面で不安を残す状況となっている。

 

 

栃木対策に翻弄される

 先週はリーグ戦が休みだったことで2週間ぶりの公式戦となった両チーム。互いに先週末はトレーニングマッチを戦い、勝利でここ最近の悪い流れを止めるきっかけを掴むことができた。特に栃木は大学生が相手だったとはいえ、攻守に歯車が噛み合わなかった状態から大量得点と無失点を達成できた点は大きな価値のある勝利と言えるだろう。良い感触の再現といきたい一戦となる。

 ただ、そうした期待感とは裏腹に、実際の試合は立ち上がりから厳しい時間を過ごすこととなった。アグレッシブな姿勢を見せようとする栃木に対して、大分は栃木の特徴をしっかり分析し、対策を十分に落とし込んでいた印象だった。

 その一つがアンカーの羽田を守備時に最終ラインまで落としていたこと。栃木のロングボールに対して羽田がカバー役に回ることで最終ラインの枚数を増やし、デルランと安藤の2CBが前向きにチャレンジしやすい状況を作り出す。後ろの安定を軸に彼らの高さと強さを前面に押し出し迎撃する構えだった。

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 栃木はロングボールを前線に当てて、彼らの競ったボールを大島が背後で受けたり、セカンドボールを回収することでゴールに向かっていきたいのだが、こうした大分の前向きの守備により、ほとんど前で起点を作ることができなかった。イスマイラはCBとの競り合いに苦戦し、ルーズボールへの出足も一歩後手に。栃木はメインウェポンを封じられたことで、早いうちから自陣を脱出できない苦しい展開を強いられることとなった。

 

 それでも自陣での守備を機能させられれば、前半を無失点で折り返すという90分での試合運びを考えた上では、それほど問題ではなかっただろう。前節山形戦も失点するまでは自陣での守備がしっかり機能し、そこからカウンターを何度か打つことができた。山形同様にボール保持に長ける大分相手にも粘り強く対抗することで流れを引き寄せたいところだったが、実際はそう上手くいかなかった。

 前節と違ってこの日の栃木は追い込んだ先のサイドでの守備対応で苦戦することが多かった。山形戦は中央を封鎖することで、相手がサイドにボールを動かしたところを狙い撃ちすることができていたが、大分はサイドの選手が栃木の守備の動きを見ながら個人で、チームで突破する上手さがあった。

 とりわけ大分の左サイドは栃木にとって脅威となった。黒﨑や大谷は大分の左WG藤本とのマッチアップに翻弄され、ここからシュートやクロスに持ち込まれるシーンが頻発。大外の藤本に気を取られると、今度は弓場や逆サイドから流れてくる渡邉に内側から背後を狙われる。内側からの動き出しには大谷が対応せざるを得ず、芋づる式にサイドのマークが定まると、左SB香川の攻撃参加を抑えるため宮崎が低い位置を取ることが増えていった。

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 それでも対応に慣れてきた20分頃には何度かカウンターを発動することができていた。25分にはCKから吉田が左足で上手く合わせたが、GKテイシェイラがビッグセーブ。絶好機を防がれると、これを最後に以降の時間は全く攻められなくなった。

 [5-4-1]で構える栃木は大分の後方の出し手を規制することができず、ボールを支配されると、何度もやり直しを許した。序盤はイスマイラが相手のCB間でコースを切りながらサイドを限定することもあったが、全体が後ろに重くなるとそれも減少。大分の4バック+アンカーに常に顔を上げてボールを持たれてしまい、リアクションによる守備対応を余儀なくされた。

 失点シーンはこうした後ろに重い状況にしびれを切らした宮崎のプレスが単発になったところから。CBに寄せる宮崎に続く選手がおらず、右サイドに出来た穴から前進されると、最後はクロスのこぼれを弓場に押し込まれた。苦しいなりにこのまま耐えてハーフタイムを迎えたかったが、失点も時間の問題だった。

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交代選手が潮目を変える

 後半栃木はシステムを[5-3-2]に変更。相手の最終ラインに制限がかからない前半の反省を踏まえ、前線を2トップにして大分の2CBとの対応関係を明確にする。サイドは3センターの横スライドが間に合わなければWBが前に出ていく強気の姿勢だった。

 サイドの守備者が減ったことで序盤は大分のサイド攻撃に苦しめられた。47分には手薄になった右サイドの背後を抜け出されると、マイナスのパスに合わせた渡邉のシュートはGK藤田が横っ飛びでセーブ。53分には同じく右サイドを崩されると、ハーフスペースで前を向いた弓場から内側を斜めに動き出した渡邉へスルーパス。最後はフリーの香川に余裕を持ってクロスを上げられたが、DFが何とか対応した。

 中盤を助けるために2トップが縦関係になって、宮崎がアンカーの羽田をケアするようになると、今度はフリーになったCBから前進された。59分、CB安藤が運んでから供給したロングボールに対して大谷が相手と入れ替わてしまうと、堪らず手を使って裏抜けを阻止。レッドカードが提示されてもおかしくなかったが、イエローカードに命拾いしたシーンだった。

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 2トップにしてからの栃木は前半と比べれば攻撃をよりダイレクトに行っていた印象だった。ロングボールのこぼれ球に対して2ボランチに大島を加えた3人が目を光らせ、密集での局面バトルから強引に前にボールを持ち出したり、シュートに持ち込んでいく。サイドでの守備対応からのピンチもそれなりにあったため全体的には大分が主導権を握っていたが、前半とは違う姿を見せることができていた。

 

 試合の潮目になったのは、途中投入されたCB高嶋が69分に見せた2つのプレーだったように思う。一つは高嶋のロングボールに反応して背後に抜け出した大島がペナルティエリア付近で相手ともつれて倒されたシーン。もう一つは右サイドでの組み立てから高嶋自身が駆け上がって背後を取り、深い位置からクロスを入れたシーン。いずれもここまで見られなかった形であり、そうしたプレーが1点を追うチームの反撃ののろしとなった。

 栃木が盛り返すことになるこの時間帯において、両チームの間にあった大きな差は交代選手の存在感だった。栃木は上記した高嶋のプレーをはじめ、高萩がIHの位置で積極的にボールに触り、石田は鋭い突破を繰り返すことでチームのテンポを引き上げていく。

 一方の大分は、負傷した伊佐に代わって入った長沢が伊佐ほと守備へのハードワークや長いボールを収められなかったことで、交代選手によるブーストがかからなかった。徐々に流れが栃木に傾いていった。

 

 そうして迎えた85分、栃木が同点弾を挙げる。きっかけとなったのはこちらも途中投入されたCBのラファエルの楔のパスから。右のハーフスペースに駆け込む佐藤祥に当てて、自身も前に上がっていくと、石田の落としをダイレクトでペナルティエリアの中へ供給。これに大島が頭で合わせ、栃木が終盤で同点に追い付くことに成功した。

 

 その後は両チーム目立ったチャンスを作ることはできず。栃木は矢野貴章が右シャドーの比重を高めたことで最低限の勝ち点を死守するスタンスにシフト。大分も前半のように攻め込むほどのパワー感は残されていなかった。試合は1-1で終了し、勝ち点1を分け合う結果となった。

 

 

最後に

 前半の戦い方に課題があるのは明白だが、これだけ攻守に歯車が噛み合わないとなると、前半のうちに修正を施すのは難しかったように思う。その意味で勝ち点をもたらしたハーフタイムの修正策は功を奏したといえるし、その一方で悪いなりに無失点で抑えきれなかった前半には現在この順位に沈んでいる理由を感じる。

 それでもまずは連敗を止められたことをポジティブに捉えたい。大宮との勝ち点差を考えれば勝ち点1の持つ意味は非常に大きいし、後半の戦い方からはここ最近チームに漂っていた閉塞感を多少は払拭できていたように見える。大きく逸れてしまったが、再び目線を前へ向ける体制は整った。残すはプレーオフ圏、自動昇格圏を狙うチームが相手となるが、この日得た良い感覚を生かしていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-1 大分トリニータ

得点 39分 弓場将輝(大分)

   85分 大島康樹(栃木)

主審 田中玲匡

観客 10119人

会場 カンセキスタジアムとちぎ