栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【前途多難な幕開け】J2 第1節 栃木SC vs ファジアーノ岡山

スターティングメンバー

栃木SC [3-5-2] 昨季19位

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 田中誠新監督の初陣をアウェイで迎える栃木。昨季までの3-4-2-1から今季は3-5-2にマイナーチェンジし、新加入の南野と奥田がさっそく2トップを張ることとなった。イスマイラは怪我明けということでベンチスタート。揚石はトップチームに昇格して初戦でベンチ入りを果たした。

 

ファジアーノ岡山 [3-4-2-1] 昨季10位

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 木山監督体制3年目のシーズンを迎える岡山。このオフは外国籍選手を中心に戦力を強化し、本格的にJ1昇格を目指す陣容を揃えることに成功した。補強の目玉であるガブリエル・シャビエルは不在となったが、新戦力7人が先発入り。古巣対戦の柳育崇はベンチスタートとなった。

 

 

マッチレビュー

■守備基準を乱され受け身に陥る

 待ちに待った2024年J2リーグの開幕戦。今季から初めてJリーグの指揮を執る田中監督の対戦相手は、これまで6クラブを率い、指揮歴13年目の木山監督率いる岡山である。

 プレシーズンは守備の再構築に時間を割いてきた栃木。前線は南野が相手CB中央の田上、奥田はボールサイドのボランチをケアする縦関係となり、左右CBに対しては小堀と大島が中盤から出ていくといった仕組みだった。立ち上がりからプレスをかけるべく多くの選手が敵陣に入っていく光景は新生栃木の所信表明のようだった。

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 対する岡山は長いボールで栃木のプレスを回避。繋ぎに固執せず、シンプルに前線のグレイソンにボールを入れていく。グレイソンは裏抜けよりもDFラインと空中戦に臨むことが多く、代わってシャドーの岩渕や木村が空中戦に対応する平松の背後や左右CB脇のスペースに走り込むことが多かった。2分には右サイドに抜け出した木村がGK丹野の処理ミスを誘う決定機を演出した。

 このシーンにも見られたように、栃木はグレイソンを中心としたロングボールに苦戦。セカンドボールの落下点は次の攻守の開始位置になるが、終始大きく弾き返すことができないため試合を通して自陣でのプレーを強いられることとなった。前からのプレスで中盤を押し出していたのもセカンドボール回収で後手に回る一因になっていただろう。

 ロングボールから効果的に敵陣へ入っていく岡山だが、20分過ぎには自陣からの繋ぎ出しを修正。2ボランチの片方がサイドに流れることで奥田の守備基準を乱していく。ボールサイドのボランチを見る奥田にとってはマークすべき対象の見定めが難しくなり、栃木はここから前線プレスがハマらなくなっていった。22分には痺れを切らした佐藤祥が田部井に寄せているが、ライン間に広大なスペースが生じ、岩渕が楔のパスを受けるシーンがあった。

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 長短の前進を抑えられない栃木はここから圧倒的劣勢に陥っていく。藤田と阿部が攻撃参加する右サイドから押し込まれるようになると、次第にリアクションでの対応を余儀なくされるように。岡山の主体的な仕掛けに対して簡単に入れ替わられてしまう選手個人のミスと、ルーズボールに対するお見合いやポジトラ時に受け手が準備できていない組織のエラーによって、自陣を脱出できない時間が増えていった。

 そして36分には岡山に先制点が生まれる。一度は相手の攻撃を防いだものの再びボールを失うと、スペースで受けた木村がカットインから左隅に流し込んだ。守備対応の人数は足りていただけに足を振らせてしまったことは悔やまれるが、それまでの劣勢を考えれば失点は時間の問題だった。

 ここまで良いところのない栃木だが、唯一奥田が絡んだ場面では今季の攻撃の色が見えたように思う。奥田は相手のライン間やボランチ脇でボールを引き出すフリーロール的な役割で、彼がピックアップして前を向くとIHやWBが縦へのランニングを開始する。左右CBも控えめだったが駆け上がる様子を見せた。デザインされたCKから大森がシュートしたシーンもCK獲得の起点は奥田が絡んだ流動的なパスワークからだった。

 

■長身選手を並べてようやく試合に

 岩渕のロングシュートがバーを直撃する後半の幕開けとなったが、入り自体はそれほど悪くなかった。ハーフタイムに共有したのはおそらく岡山の背後のスペースを狙うこと。後ろのビルドアップの形を特に変えなかったことから繋ぎでどうにかしようというよりは、相手に寄せられる分その背後は空くよね、という算段だっただろう。

 47分には大島と小堀が連続してスペースに顔を出しCKを獲得。ストライカーに専念する南野以外の前線3人は即興的に攻撃に絡むことが期待されているだろう。この流れで得たCKは小堀のニアフリックからチャンスを演出。一進一退の展開ながらネジを巻き直して「さあ、これから!」という展開だったが、次の得点はホームチームに生まれた。

 失点シーン、ペナルティエリア内で相手ストライカーをフリーにするのは御法度だが、それ以上にビルドアップの拙さが目に付いてしまった。失点の大きな原因は後方の選手の距離感が悪いこと。岡山からすれば栃木の保持のクオリティならば、自分のマークを捨てて一つ前の相手に寄せてもリスクは少ないと踏んだのだろう。木村、田部井の強気のプレスからボールを奪われ、グレイソンに来日初ゴールを許してしまった。

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 2失点してからは特に全体の間延び感が加速。プレスが機能せずFW-MF間から左右に散らされるとサイドを抉られる回数が増加。石田の好守が目立ったのもピンチの裏返しである。途中出場のイスマイラが最初に存在感を示したのは被CKをグレイソンに合わせられたゴールカバーだった。

 森と矢野を投入してからの時間は、ロングボール⇒セカンドボール回収の流れからいくらかサイドを前進できるように。広いサイドに広げることで石田や森が敵陣に入ってクロスを上げる形を何度か作ることができた。2トップに長身選手を置いてようやく試合になった印象だが、それでも集中した守備でゴール前を固める岡山に対して怖さを見せるには至らなかった。

 最後は守備固めに入った柳育崇に栃木時代を彷彿とさせるAT弾を献上し試合終了。栃木にとってはダメージの残る開幕戦となった。

 

 

選手寸評

GK 27 丹野 研太
1stプレーがミスになりあわや失点になりかけたが、その後は1vs1を何度か防いだ。中継で抜かれた際はほとんどの場面で味方にコーチングしていた。

DF 2 平松 航
前半はグレイソンに苦戦したが、後半は先に飛ぶことで空中戦を改善。DFリーダーとして勇気を持って最終ラインを押し上げたい。

DF 17 藤谷 匠
触れ込みどおり機動力の高さには目を引いた。裏を取られた石田の背後や、29分にはゴールカバーに入った。自分が空けたスペースに戻るスピードも速かった。

DF 23 福島 隼斗
昨季とは異なる左CBのため、持ち前の攻撃参加は少なかった。大森とのコンビネーションはまだまだ。

MF 4 佐藤 祥
守備における負荷が大きく、球際勝負に持ち込む前に逃げられる場面が多かった。ビルドアップ時のアンカーとしては視野の取り方に危うさがある。

MF 6 大森 渚生
25分のデザインされたCKからのシュートは枠に飛ばしたかった。対面の柳貴博との体格差に苦戦した。

MF 7 石田 凌太郎
前半は豊富な運動量がゆえにポジションを開けてしまい背後を取られることがあったが、後半は改善。末吉とのマッチアップを完封した。

MF 19 大島 康樹
チームとしてまともに前進できず、最も得意とするクロスに合わせる機会すらなかった。

MF 38 小堀 空
1失点目は小堀が囲まれ、ボールをかっさらわれたところから。彼だけの責任ではないが、状況を考えれば大きくクリアしても良かった。

FW 15 奥田 晃也
プレーに派手さはないが一つ一つの精度が高く、奥田が絡むと攻撃に流動性が増していた。チーム状況的に2列目の方が良さは出そう。

FW 42 南野 遥海
ロングボールでしかボールが回ってこない展開では能力は発揮できず。ただ、苦しいなりにシュートを打ち切るなど才能の片鱗は見せた。

MF 10 森 俊貴
左サイドを独走し思い切りよくミドルシュートを放った。福森がおらず、攻撃が未整備な現状では推進力のある森の出番は増えそうだが。

FW 9 イスマイラ
ロングボールの受け手としてはやはりイスマイラである。コンディションが上がってくればもっと理不尽さを発揮できる。

FW 29 矢野 貴章
五分五分の状態からボールと相手の間に身体を入れ、巧みにファールを誘う技術は流石だった。

 

 

最後に

 球際の強度や意識の高さが栃木の生命線なのは言うまでもないが、それは戦術以前の問題であると同時に、戦術によって引き上げることができる部分だと個人的には思っている。前者が個々の強度そのもので、後者がそのエネルギーを向けるべき指針を示すものだとすれば、この日の栃木は間違いなくその両方で岡山に劣っていた。これでは余程幸運でない限り勝ち点を得るのは難しい。相手を上回るなんてもってのほか。昨季までは少なくとも個々の強度は備わっていた。問題は山積みだが、この両輪を最低限回せるくらいには再びトレーニングから仕切り直してほしい。

 

 

試合結果・ハイライト

2024.2.25 13:00K.O.
栃木SC 0-3 ファジアーノ岡山
得点 36分 木村 太哉(岡山)
   54分 グレイソン(岡山)
   90+7分 柳 育崇(岡山)
主審 須谷 雄三
観客 11431人
会場 シティライトスタジアム