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【有効な打ち手も勝利には届かず】J2 第26節 栃木SC vs 大宮アルディージャ

スターティングメンバー

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栃木SC [3-5-2] 20位

 直近のリーグ戦では仙台に二度のリードを追い付かれた栃木。悔しいドローとなったが、最後までゴールへ向かう姿勢を見せ、天皇杯広島戦ではそれを金星に成就させることができた。この勢いをリーグ戦にも生かしたいところだ。

 仙台戦からのスタメンの変更はなし。天皇杯からは黒﨑が継続となり、長い時間出場していた西谷もスタメンとなった。名古屋から加入した石田はさっそくベンチに名を連ねた。

 

大宮アルディージャ [3-4-2-1] 22位

 前々節は千葉に競り勝ち16試合ぶりの白星を挙げたが、前節は群馬に0-2で敗戦。浮上のきっかけを逃さないためにも、残留ラインとなる20位栃木との直接対決への士気は高いだろう。

 直近のリーグ戦からのスタメンの変更は3人。天皇杯セレッソ大阪戦に出場したユース所属の市原がリーグ戦デビューを飾り、前線には前回対戦で得点を挙げたアンジェロッティが入った。

 

 

保持の課題と計算できる打開策

 ともにミッドウィークの天皇杯から中3日で迎えたリーグ戦。5連戦の最終戦ではあるが、天皇杯では出場機会の限られていた選手を起用していたことから、この日のメンバーの多くは一週間のインターバルを経ての公式戦となる。フレッシュな選手が互いの意地をぶつけ合うインテンシティの高い試合となった。

 試合が始まってまず気になったのが大宮の撤退守備である。ここ数試合守備に重きを置いていることは聞いていたが、ここまでとは思わなかったのが正直なところだった。[5-4-1]で徹底してスペースを消してくる大宮に対して、ブロック崩しに挑む栃木という構図で試合は進んでいった。

 大宮の出方によりボールを保持する立場となった栃木。ビルドアップで用意していたのは3バックの前に佐藤祥をアンカーとして立たせる形。後方4枚で保持を安定させつつ、彼らが中央と左右を使い分ける出し手となり、チーム全体で重心を上げて押し込む狙いだっただろう。

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 しかし、このビルドアップは不発。大宮の撤退守備に手を焼いたというよりは、自分たちの遅攻の拙さばかりが見えてしまった。

 とりわけ目立ったのが左右CBの持ち運びの希薄さ。ノープレッシャーでボールを持つことができた最終ラインだが、裏を返せば前の選手には相手のマークがピタリと張り付いている。前線に時間とスペースを与えるためには、後ろの選手は相手守備者を引き付ける動きが不可欠なのだが、左右CBはリスクを負わずにリリースすることが多かった。

 撤退守備の大宮のなかでも柴山は割と早めに大谷を牽制しようしており、岡庭の福森への寄せも早かった。よって、栃木のビルドアップは右サイド偏重に。自ずとボールに触れる機会が増えた岡崎だが、アンジェロッティを引き付けるにも栗本を引き付けるにも不十分だった。黒﨑や西谷は時限爆弾のようなパスを貰った格好で、そこから繋ぎ出すのは難しい状況だった。

 左サイドも大谷、福森が牽制されるのであれば、中盤のサポートをもう少し手厚くしても良かったように思う。例えば佐藤祥が平松と大谷の間に下りることで、柴山と2vs1を作った上で前進していく。この日のボランチと3バックはこうした柔軟性に長けたラインナップではなかったにしても、福森が苦し紛れに蹴り出さないような工夫が欲しかった。

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 保持の停滞感が目立った前半は窮屈な繋ぎからボールを失い、カウンターを招く場面が頻発。中盤に一人残る佐藤祥の脇にはスペースが空いており、ここで前を向かれると一気に最終ラインがさらされる状態に。ゴール前では必死のディフェンスでシュートコースを制限し、GK藤田の好セーブもあって凌いでいたものの、大宮の目論見どおりに試合が進んでいった印象だった。

 飲水タイムを経てからは保持の課題に着手。長いボールや縦パスを早めに前線に当てることで、ポストプレーとそこからのサイド展開を軸に前進を図っていく。遅攻を改善したというよりは、前向きのベクトルを強めて遅攻の機会を減らしたと言っていいだろう。

 アバウトな方法でも栃木にとってはこちらの方が攻撃を構築しやすい。根本にかかる負担は大きくなるが、ここで一つ踏ん張ることができれば、後ろの選手の前向きに追い越していく動きを活用することができる。34分の山田のフィニッシュに繋がったシーンは縦への意識を有効活用できた代表例。攻撃がシンプルになってからは、福森の外側を上がっていく大谷の攻撃参加もようやく見られるようになった。

 攻撃の停滞感が徐々に改善していった一方で、セカンドボールを回収されたときのアンカー脇の問題はより顕在化。序盤と比べればオープンな展開になったことで両チームともゴール前の機会が増えたが、ネットを揺らすことはできず。前半終了間際に訪れたCKからの平松のヘディングが最もゴールに迫ったシーンだった。

 

 

微調整により主導権を握るも

 後半開始とともに栃木はシステムを微調整。佐藤祥の脇からカウンターを量産された前半の反省を踏まえて、中盤を1アンカーから2ボランチに変更。あらかじめスペースに人を配置することでカウンターの起点を封鎖。これに伴い山田はトップ下へスライドし、中盤はそれまでの逆三角形から正三角形へと変わった。

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 中盤の枚数では前半同様に栃木3枚に対して大宮2枚であるが、守備が安定してからはようやくこの枚数差を生かせるように。大宮のボランチ2枚ではマークし切れない選手が必ず一人現れることとなり、栃木はその役割を山田が担うことで攻撃が活性化。山田は2トップの後ろを主戦場としながらも前線の至るところでボールに関わり、後ろと前を繋ぐ存在となった。

 圧巻だったのは60分のプレー。大宮のハイプレスを受けた岡崎が何とか相手を剥がすと、その岡崎からパスを受けた山田が寄せてくる相手を華麗なダブルタッチで翻弄。見事にかわしてそのまま中央を持ち運ぶと、最後は根本へラストパスを送った。

 このシーンのほかにも後半の序盤は山田の巧みさが際立つ場面が数多くあった。山田はボールを受ければほぼ全てのシーンで前を向いてプレーし、前線の動き出しに合わせてスルーパスを供給。栃木としてはこの連続した好機を得点に結び付けられなかったのは痛かった。根本のポストプレーありき、といった組み立てでもなかったので根本や小堀にはフィニッシュワークの精度をもう一つ求めたかったところである。

 後半の大宮はロングボールから何とか起点を作ろうとしていたが、前述の守備のテコ入れによりセカンドボール争いでは栃木に軍配。仕掛けることのできる泉澤を途中起用すれば、栃木も右サイドに福島と大島を投入して手を打っていくなど、大宮の攻撃を未然に防いでいく。アンジェロッティや柴山がゴール前で足を滑らせることが多かったのも、栃木にとっては追い風になった。

 後半の飲水タイムが明けてからは神戸と吉田、残り10分を切ってからは新加入の石田をピッチに送り出し、フレッシュな選手で1点を狙いに行く。石田は周囲との連携はもちろんまだまだではあったが、右サイドの奥を取って上げた鋭いクロスは可能性を感じさせた。

 そのほかハイライトには取り上げられなかったが、神戸と吉田の関わった91分の崩しも十分チャンスになりかけたシーンだった。押し込んだ展開から大谷が大島に縦パスを当てると、大島はその落としを左サイドに流れた神戸へ。神戸は裏に抜け出した吉田へすぐさまパスを送り、吉田はマイナスに折り返すも、横パスは相手DFに引っかかってしまった。

 自分たちで立ち位置を動かしながら作ったギャップによって、ゴール前から大宮のCBを動かすことができたが、得点に結び付けるには精度があと一歩足りなかった。

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 両チームとも10本以上シュートを放ったが、試合はスコアレスのまま終了。勝ち点1ずつを分け合う互いにとって消化不良の結果となった。

 

 

最後に

 立ち上がりの振る舞いを見れば、この日の栃木は持たされるシチュエーションも十分想定した上で試合に臨んだように思う。しかし、開始からピッチに立ったのはそれほど繋ぎに長けているとは言えない選手たち。狙いと人選がややミスマッチだった印象である。

 それでも早い時間に攻め筋を修正し、守備でも手を打ったことで段階的に内容が向上していったことは試合運びの観点からは収穫と言えるだろう。降格圏との勝ち点差がなくなったことでチームを取り巻く雰囲気は明るくないが、勝利の可能性を高めるためにもそうした手応えは大事にしていきたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-0 大宮アルディージャ

得点 なし

主審 大坪博和

観客 6355人

会場 NACK5スタジアム大宮