栃木SCのことをより考えるブログ

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【現体制を象徴する惜敗】J2 第41節 栃木SC vs 東京ヴェルディ

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 18位

 前節はアウェイで岡山と対戦。強度のある守備で主導権を握ると、後半立ち上がりにイスマイラの得点で先制。しかしその後は岡山に流れを持っていかれ、厳しいPK判定から同点に追い付かれた。

 前節からのスタメンの変更は1人。出場停止のイスマイラに代わって前線には矢野が入った。矢野の先発は第36節熊本戦ぶり。ベンチの森は第28節甲府戦以来のメンバー入りとなった。

 

東京ヴェルディ [4-2-3-1] 4位

 熾烈な昇格争いを繰り広げているヴェルディ。前節は勝ち点で並ぶ3位磐田と対戦し、1-1のドローに終わった。その磐田と2位清水は前日に勝利を収めており、自動昇格に望みを繋ぐには勝利しか残されていない状況である。

 前節からは先発を2人変更。ここまで39試合に出場している森田が今季初めてメンバーを外れ、綱島が17試合ぶりに先発。齋藤が左SHからトップ下に、加藤が左SBから左SHにポジションを移し、左SBには深澤が入った。

 

 

展開のシーソーゲーム

 前日に大宮が清水に敗れたことで試合前の時点で残留が確定した栃木。思うように勝ち点を積めず神経をすり減らす終盤戦となったが、ようやく胸を撫で下ろすことができるようになった。

 とはいえ、現実に目を向ければ目下6試合連続で勝利から離れており、厳しい相手が続くなかでも意地を見せたいところ。近隣アウェイということで多くの栃木サポーターがスタジアムに駆けつけるなか、試合は幕を開けた。

 

 この日の栃木のテーマは大分戦の後半、岡山戦の前半に見せた攻守における一体感を再現することだっただろう。守備では全体が連動してプレスとブロックを使い分け、攻撃に転じてからは長いボールに頼らずに地上戦による前進も視野に入れる。その意味で立ち上がりは上位ヴェルディを相手にしっかりと狙いを押し出すことができていた。

 栃木のプレスはトップの矢野が相手の中盤をケアし、シャドーがジャンプアップしてCBに寄せていく形。前節同様に西谷がシャドーに入ったことで右サイドからスイッチが入ることが多く、サイドを限定して狭いエリアに追い込めたシーンも少なくなかった。

 ヴェルディはそうした栃木の出方を確認すると自分たちの左サイドの奥、栃木の右サイドの背後に長いボールを入れることが多かった。サイドの奥に構えるのはSH加藤。SBでもプレー可能でヘディングの強い加藤をこの位置に配置しているのは栃木の事情も踏まえてのことだろう。石田は自身の周辺での空中戦が多く、高嶋も頻繁にスライドを要する状況だったが、何度か右サイドでコンビを組んでいたことから連携は良好だった。

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 ポゼッションに移行したフェーズで中心となったのはボランチの高萩。10分を過ぎたあたりからチームとしてボールを握る意思を見せると、身振り手振りで味方に指示を出して保持を安定させる。スムーズに左右へ揺さぶると、中央を経由する時間を使って左右CBがWBを追い越す形も見られるようになった。特に左サイドでは大森の上がりにSH中原が着いていくため、その手前を福森がカットインする形は何度か見られた。

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 悪くない入りを見せた栃木だったが、25分を過ぎたあたりから流れが一転。立ち位置を調整し、ボール支配を強めたヴェルディに対して後手を踏むようになっていく。

 この試合におけるヴェルディのトピックは中盤の核となる森田の不在だった。ここ最近は前線に染野と河村を並べる2トップを採用していたが、この日は中盤の機能性を確保するべく染野の相方に齋藤を起用。トップ下として中盤に関わることで数的優位を作り出す狙いだったが、敵陣でのプレーテンポがなかなか上がらず。ブロックを外回りする保持に終始し、栃木の守備の間を割るような鋭い攻撃は見せられなかった。

 そこで25分ごろに齋藤とボランチ綱島のポジションをチェンジ。よりボールに柔軟に関われる齋藤を低い位置に置き、綱島をポスト役として前線にセット。それに加えて右SH中原が積極的に中央でボールに関わることで、栃木の中盤を引き出すような組み立てを行うようになった。

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 ヴェルディは手厚くした中盤に軸足を置きつつも、適宜サイドを活用しながら前進するため、栃木はシャドーが自陣に引かざるを得ない状況になっていた。序盤は勢いのままに寄せて長いボールを蹴らせることができたが、中盤で落ち着く術を得た相手に対して無理に寄せてしまうと、今度はより危険なスペースを与えてしまう。[5-4-1]での守備の時間が増えたことで後ろに重くなり、自陣で苦しい時間を過ごすこととなった。

 

 それでも粘り強い守備で何とか凌ぐと、41分には石田のプレスからヴェルディの左SB深澤のファールを誘発。CBからのパスを受けた深澤に対して石田が強プレスでかっさらうと、入れ替わったところで倒され、深澤にイエローカードが提示された。栃木は石田のこの思い切ったプレーをきっかけに再びギアが入るようになった。

 43分にはルーズボールを収めた西谷が右サイドを突破。対面の深澤をギリギリまで引き付けて大外の石田に預けると、ダイレクトで合わせた石田のシュートはGKマテウスがセーブ。

 続く45+1分に試合は大きく動く。相手CB間のパスミスを突いた西谷がそのまま独力でゴール前まで持ち上がると、長い距離を戻ってきた深澤が堪らずファール。これが再び警告の対象となり、深澤は前半のうちにピッチを後にすることとなった。栃木としてはヴェルディの左サイドに生まれた隙を突き続けたことで誘発した退場劇だった。

 ここで得たFKは下に貼り付けた動画のとおり。福森が右足で狙いすましたキックは右ポストを叩き、跳ね返ったボールは今度は左ポストへ。絶好のチャンスを惜しくも生かせず、スコアレスでハーフタイムを迎えた。

 

 

数的優位を生かす術を欠く

 両チームとも交代なく前半と同じメンバーで始まった後半。退場者を出したヴェルディも人の配置を整えることで、まずは前半から出場している選手をそのまま起用。守備時は[4-4-1]、攻撃に転じれば左SHに移った齋藤が内側に絞り、SB加藤が左サイドを1人で受け持つ格好だった。

 後方ではGKマテウスが最終ラインに加わることで後ろの人数を確保。よってヴェルディがボールを握り、栃木がカウンターを狙う構図自体は変わらなかった。

 後半はまるまる数的優位の状況で戦える栃木だったが、ある意味それがプレーを焦らせ、攻撃の精度を落とす要因になっていたように思う。ヴェルディが前線1枚になったことでボール握る機会は増えたが、後方で落ち着かせることができず、自陣からロングボールを蹴らされることもしばしば。数的優位の旨みを生かすことができず、痺れを切らした高萩がサイドに流れてボールを引き出し、前線の選手にボールを受けるよう要求していた姿は印象的だった。

 それでもセカンドボールを回収したり、対面の相手を剥がしてひとたび押し込むことができれば、ヴェルディを自陣ゴール前に張り付けることはできていた。押し込んだ展開で自分たちのターンを継続させ、波状攻撃を繰り出せた点はやはり数的優位の影響を感じさせた。

 

 自動昇格の可能性を残すには勝つしかないヴェルディが攻撃の比重を高めたのは70分頃。左サイドの2人を下げてSBに平、そして前線に山田を投入し[4-3-2]にシフトすると、かえって人数の薄くなったサイドから栃木が猛攻を仕掛ける場面が増えていった。

 とりわけ目立ったのは栃木の右サイドからの攻撃。WB石田に加えて、少し前から途中出場していた福島が最終ラインから攻撃参加を繰り返すことでクロスを量産していく。ペナルティエリア内には矢野に加えて同じく途中出場の宮崎が構えることで迫力を増していたが、ヴェルディの守備も硬く、先に触れてもゴールマウスを捉えることができなかった。

 この劣勢を受けてトップの山田がサイドの守備に回るなど、栃木の右サイドからの攻撃に手を焼いていたのは明らかだった。それだけに、この展開で矢野に代えて森の起用した交代策は少々悪手だったように思う。石田と福島の2人である程度クロスまでたどり着けていたし、ペナルティエリア内の迫力を確保するためにも矢野は最後まで残してほしかったのが正直なところ。久しぶりの出場となる森はなかなか効果的にボールに絡むことができなかった。

 

 圧倒的に栃木が押し込むなかで、79分、ヴェルディ綱島に変えて河村を投入。中原を2ボランチの一角に据えることでシステムを[4-2-3]に変更し、玉砕覚悟で得点を狙いにいく姿勢を見せる。

 そして、それが実ったのが直後の82分だった。河村が福森→西谷のパスをインターセプトすると、中原の仕掛けに対して高萩がファール。直接狙うには少し遠いかに思えた位置からのフリーキックだったが、中原の左足キックは美しい軌道を描いてゴールマウスに吸い込まれた。ヴェルディにとっては一人少ないなかで得たワンチャンスを生かした値千金の先制点だった。

 

 ビハインドを背負った栃木は直後に福森に代えて吉田、大島に代えて前線にラファエルを投入。ラファエルは前線でのポストプレーを期待されての起用だったが、不慣れな役割に苦戦。今思えばここで小堀やレアンドロペレイラを起用できればまだよかったが、帯同メンバーの人選ミスなのか、それともメンバー入りできないほどのコンディションなのか。イスマイラの不在によって、攻撃的なベンチメンバーが宮崎のみになってしまうのは心細いところである。

 

 試合はこのまま終了。3度ポストに嫌われ、最後まで得点を奪うことができなかった栃木に対して、数少ないチャンスを一発で仕留めたヴェルディが1-0で勝利を飾ることとなった。

 

 

最後に

 ヴェルディの数的不利を跳ね返す戦い方はさすがだった。選手の強みとできることを両立させる絶妙なバランスで試合を進め、選手交代でグラデーションをつけながら徐々に攻撃に振っていく。ワンチャンスをものにする勝ち方や会場の様子を見れば、最終節に何か起こしてもおかしくない雰囲気を漂わせているように見えた。

 対する栃木。今季は色々と紆余曲折したが、最終的には昨季残した課題に回帰した、というのがこの試合を見た率直な感想だ。

 アグレッシブな守備は大前提に、アバウトだけにならない攻撃精度の向上というメインテーマに向き合い、最終盤に来て西谷・高萩・高嶋の起用で上手く軌道に乗せた。もちろん精度は物足りなかったが、ただそれは昨季辿り着いた課題である。指揮1年目ならともかく2年目で最後に残ったものが同じというところに、積み上げがあるかと胸を張って言えるか疑問符が残るのが正直なところである。

 時崎監督の今季限りでの退任が発表された。このメンバーでこのサッカーをやるのも次が最後となる。強豪との対戦になるが、時崎栃木の集大成を示せるような試合にしたい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 0-1 東京ヴェルディ

得点 82分 中原輝(東京V)

主審 上村篤史

観客 13383人

会場 味の素スタジアム