栃木SCのことをより考えるブログ

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【時崎栃木の集大成】J2 第42節 栃木SC vs ジュビロ磐田

スターティングメンバー

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栃木SC [3-4-2-1] 18位

 前節はアウェイで東京ヴェルディと対戦。前半のうちに相手に退場者が出たため試合を優位に進められたが、終盤に与えたFK一発に沈んだ。残留を決めているとはいえ屈辱的な敗戦となった。

 前節からはスタメンを2人入れ替え。出場停止明けのイスマイラがトップに入り、矢野はベンチスタートに。前節退場の石田に代わって、右WBには福森、左WBには吉田が入った。

 

ジュビロ磐田 [4-2-3-1] 3位

 自動昇格圏と1ポイント差の3位で最終節を迎えた磐田。逆転昇格は他会場の結果次第となるが、まずは目の前の試合に勝利し、吉報を待ちたいところである。

 前節からは1人変更。累積により出場停止の伊藤槙人に代わって最終ラインには鈴木海音が入った。鈴木海音は昨季所属したチームを相手に非常な重要な一戦に臨むこととなった。

 

 

悔やむべきは先制後の試合運び

 ホーム最終戦に迎えるのは自動昇格に向けて是が非でも勝利がほしい磐田。栃木にとっては前節のヴェルディと同様のシチュエーションの相手であり、勝たなくてはいけない相手の隙を突きたいところ。しかし、立ち上がりから主導権を握ったのは磐田だった。アウェイに駆けつけた大応援団に背中を押されるように、迫力ある攻撃を次々と繰り出していった。

 磐田の攻撃は前線4人が中央に密集し、近い距離感でのコンビネーションからゴールに向かうものだった。トップ下の山田は前線の至るところに顔を出し、後ろから引き取ったボールを前へ繋げるリンクマンの役割。磐田はその山田に預けるか、山田の動きに釣られた栃木のボランチの脇に現れたSHに前を向かせる狙いだった。

 最前線では後藤が長いボールのターゲットとして背後への動き出しを繰り返すことで最後ラインを押し下げ、ライン間にスペースを作り出す。SBが攻撃に絡むのは敵陣に進出してからで、あくまで中央からの前進にこだわることで、栃木にサイドを限定させない意図が窺えた。

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 前線からの守備でサイドに追い込めない栃木は、自ずとWBが自陣での守備を強いられるように。よって、サイドではシャドーが二度追いを要する場面が頻発した。前からプレスをかけても左右に振られるうちに中央へのコースが開いてしまい、ボランチも自分たちの脇を気にして潰しに出ることができなかった。こうして序盤は磐田にボールを支配され、[5-4-1]で低く構える時間が続いた。

 

 時間の経過とともに栃木がボールを握れるようになってからも流れはそれほど変わらず。最終ライン3枚とアンカーの佐藤祥による3-1の関係性に高萩が適宜加わるのが組み立ての基本形だが、あまり上手く前進できなかった。

 ピッチの中央に立つ佐藤祥は繋ぎの不得手さを露呈し、受け手となる西谷も磐田の早い寄せに苦戦。1アンカーゆえにその脇にはスペースが広がっており、手薄な中盤からカウンターを許したシーンが何度もあった。磐田が中央突破を軸にするのに対して栃木は中盤が手薄になるため、その点でも相性はあまり良くなかった。

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 いま一つ試合の流れを掴めない栃木だったが、均衡を破ったのはその栃木だった。ボールを左右に動かして右サイドの福森がフリーになると、すぐさまアーリークロスを供給。これに大島が反応し、胸トラップから右足ボレーでネットに突き刺した。大島はこれでチームトップとなる今季7点目。自身の好調を示すように、一連の流れに無駄のない見事なゴールだった。

 

 隙を突くことができた栃木だったが、この試合で最も悔やまれるのは得点後の試合運びだっただろう。時崎監督はインタビューで得点後に相手を畳み掛けることができないことをよく口にするが、この試合も同様だった。

 印象的だったのが30分のカウンターシーン。磐田が前がかりになったことで中盤が間延びすると、そこを突くように吉田がライン間の大島へ鋭いパスを供給。このとき大島の目の前には右に西谷、左にイスマイラという状況だったが、前の選択肢を取ることができず、サイドに預けたことで時間がかかってしまった。最終的には高嶋がクロスを上げたが、味方が合わせることはできず。その他のシーンでもゴール前で積極的に足を振れた場面はほとんどなかった。

 ビハインドになってギアを上げてきた磐田に気圧された影響も大きいだろう。磐田はショートパスを駆使して栃木のブロックをこじ開けると、積極果敢にミドルシュートを放ってくる。磐田の攻撃はまず初めの選択肢としてシュートが非常に強調されていた。栃木も決死のブロックやGK藤田のセーブで何とか凌いだが、先制する前よりも攻め込まれる機会は増えていった印象である。

 そうして迎えた41分に磐田が同点に追い付く。同点弾のきっかけは中央密集からバイタルエリアに潜り込んだ上原がファールを受けたところから。ここで得たFKは壁に当たり、ルーズボールを回収してのシュートも栃木が再三のシュートブロックで凌いだが、その後のCKからドゥドゥにミドルシュートを突き刺された。ギアを上げた磐田の勢いに栃木が呑み込まれたといえるシーンだった。

 

 

際立った両者の差

 前半の反省を踏まえ、後半栃木は前からボールを奪いに行く姿勢を見せるが、主導権は依然磐田のもとにあった。磐田は瞬間的にフリーになる選手を見つけて前進するのが巧みで、栃木はプレスを掻い潜られると自陣に引かざるを得ず。攻撃に転じてもイスマイラが孤立する現象は前半と同じだった。

 後ろに重い栃木は次第にロングボールのセカンドボール争いでも後手を踏むように。球際で上回られてしまうと、重心はさらに後ろに傾いてしまう。逆転を目指す磐田は攻勢を一層強め、CBのリカルドグラッサまでもが栃木陣内での崩しに参加するほどだった。

 そして61分に磐田に逆転弾を許すこととなる。右サイドにできたわずかなスペースを突かれると、松原のクロスに頭で合わせたのは松本。出し手に対する高嶋の寄せ、高萩との守備連携、受け手に対する吉田の寄せ、これら全ての対応が遅れてしまい、一瞬の綻びを突かれてしまった。ゴールを挙げた松本は前半戦に続いて栃木戦での得点となった。

 

 栃木は失点後の66分に森、74分に矢野を投入し、システムを[3-5-2]に変更。同点に向けて前に軸足を置くべく切った策だったが、やはり攻守におけるチグハグ感は否めなかった。

 攻撃面では前半にも見られたように、3バックと1アンカーによる組み立てが上手くいかず。最終ラインがボールを持ててもライン間のIHに預けるには距離が遠く、WBがボールを受けに行くと縦を切られて押し返されてしまう場面が頻発した。

 高萩がアンカーに移ってからは、前との繋がりのなさを見かねて高萩自身が最終ラインに下りてCBの上がりを促す場面もあったが、前線との距離感の悪さが改善することはなかった。交代直前にイスマイラが大森の楔のパスを受けたシーンがその代表例。こうした現象はこの試合だけでなく、前節も高萩が前線に対してボールを受けに来るよう要求するシーンとして表れていた。

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 守備面ではビハインドを跳ね返すためプレス強度を引き上げるも、かえって磐田の個々の技術の高さと組織力が際立つ格好となった。

 栃木が片方のサイドに追い込んだように見えた場面でも、磐田の選手はそれぞれがスペースを作る動きと使う動きを連動させ、狭いエリアを難なく打開していく。栃木がオープンな展開に持ち込もうとしても、冷静に保持して抑え込んでいた印象だった。

 栃木は終盤に植田、宮崎、ラファエルの3人を同時投入。宮崎と矢野を最前線に並べて長いボールを次々と放り込んでいったが、これといったチャンスを作れず、植田とラファエルも少ないプレータイムでは見せ場を作れなかった。後半AT、ゴール前で得たFKのチャンスは植田が壁に当ててしまい、これが最後のシュートとなった。

 試合はこのまま1-2で終了。同時刻に行われた清水が水戸と引き分けたため、勝ち点で上回った磐田が最後の最後で2位に滑り込み。逆境を乗り越えた磐田が見事1年でのJ1復帰を成し遂げた。一方栃木は時崎監督のラストマッチを飾れず、最後は8試合勝ちなしで19位フィニッシュとなった。

 

 

最後に

 磐田は強かった。個々の能力の高い選手たちが持てる力を存分に発揮し、それが重なり合って高いチーム力をピッチ上に示した。栃木としてはそうした相手に意地を見せたいところだったが、全てで上回られてしまった印象だった。率直な感想として、こういうチームが昇格するんだなと思った。

 ただ、決して何も出来なかった訳ではない。ゴールまでの一連の流れは理想的なものだったし、若手の台頭著しい最終ラインはそれ以上の失点を許さなかった。最後まで磐田を苦しめたのは事実であり、そこは大きく胸を張っていい部分だろう。それもこれも時崎監督が信念を曲げずに2年間を戦った成果だと思うし、不器用ながら集大成は示せたように思う。

 ここからチームは新たなステップを踏み出すこととなる。すでに来季の契約に関していくつかリリースされているが、おそらく選手も多く入れ替わるだろう。大事なのは今年得た課題と収穫をしっかり整理して、それを来季に繋げること。チームの顔触れが変わっても、そうした土台がしっかりしているクラブは崩れることはない。奮わなかった今季のリベンジを果たすべく、来季も前へ力強く歩みを進めていく姿に期待したい。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 1-2 ジュビロ磐田

得点 24分 大島康樹(栃木)

   41分 ドゥドゥ(磐田)

   61分 松本昌也(磐田)

主審 福島孝一郎

観客 10741人

会場 カンセキスタジアムとちぎ