栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【選手別レビュー vol.1】栃木SCの2023シーズンを振り返る

1 GK 川田 修平

10試合/900分/14失点

■最古参の守護神にとって苦しいシーズンに

 今季の出場はリーグ戦10試合と天皇杯の2試合のみ。年間を通してゴールマウスを守った昨季とは一転、藤田が台頭した今季は出場機会を大きく減らすこととなった。

 今季初めて出番を得たのは、チームが二度目の連敗を喫した直後の第8節山口戦(△1-1)。ここからしばらくは持ち前のシュートストップと堅実なプレーでチームに落ち着きをもたらしたが、第14節秋田戦(●1-2)でミスから失点を招くと、その後は定位置を失うこととなった。

 藤田が代表で離脱した終盤には連続して3試合に出場したが、チームの不調の煽りを受けて少し損な役回りになった印象もある。もちろん前へ飛び出す判断などにミスがなかったとはいえないが、GKにとってノーチャンスのシーンも多かった。

 昨季終了時に2年契約を締結しており、来季の残留は濃厚。栃木のJ3時代を知る唯一の選手として来季もチームを最後方から支えてほしい。

 

 

2 DF 面矢 行斗

0試合/0分/0得点/0アシスト

■再びの武者修行

 相模原からレンタルバックし、再起を誓ったシーズンだったが、今季も出場機会を得ることはできなかった。主戦場とする左CBや左WBにはライバルが多く、昨季と同じ顔ぶれのなかでは序列を変えられなかった。今季の出場は天皇杯秋田戦(○2-1)の終盤の7分間のみに留まった。

 夏には出場機会を求めてJFLのレイラック滋賀へレンタル移籍。リーグ戦全11試合に先発出場し1ゴールを記録するなど、チームの主軸として活躍したが、目標とするJ3昇格にはあと一歩届かなかった。

 移籍時のコメントから予想していたが、今季で栃木との契約が満了。定位置を掴んだ滋賀に留まるか、それとも他のチームに活躍の場を移すか。去就は不透明だが、少なくとも彼のキャラクターであればサポーターに受け入れられ、チームに溶け込むのに時間はかからないだろう。

滋賀でのゴールシーンは動画の1:10ごろ

 

 

3 DF 黒﨑 隼人

21試合/1339分/1得点/2アシスト

■ここぞの勝負強さ

 今季も栃木の右サイドの槍となった黒﨑だが、実は栃木に加入してから今季が最も短い出場時間だった。大卒1年目(1920分)や半年間プレーした2021年(1779分)よりも短く、森や石田にポジションを譲ることが多かった今季は黒﨑にとって不完全燃焼になったといえるだろう。

 押し込まれた状況から繰り出すカウンターの力強さやプレス強度など縦へのベクトルの強さは健在。その一方でボールコントロールやクロス精度に波があり、縦を切られるとできるプレーの幅が小さかった点はどうしても否めないかった。キレのある相手ドリブラーに対して苦しんだ印象も強かった。

 ただ、出場機会が限られた分、ここぞという時の勝負強さが光るシーズンだったともいえるだろう。今季初めて先発落ちした第7節群馬戦(●1-2)では途中出場からアシストを記録。ベンチ外が続いていたなか、15試合ぶりに先発した第25節仙台戦(△2-2)では得点をマークした。仙台戦の得点は複数人がダイレクトに関わり、最後に黒﨑が仕上げる見事なゴールだった。

 他の多くの選手と同様、複数年契約を結んでいるため来季の残留は濃厚。来季は巻き返しのシーズンにしたい。

 

 

4 MF 佐藤 祥

40試合/2919分/1得点/0アシスト

チームの中心としてフル稼働

 加入4年目の今シーズンはキャプテンに就任。相棒西谷優希から腕章を譲り受け、チーム最多の40試合に出場した。欠場したのは出場停止の試合のみで、名実ともにチームの中心としてフル稼働の1年だった。

 今季もボランチとして出場を重ねると、どの試合でも代名詞のボールハンターぶりを披露。相方が西谷になっても神戸になってもパフォーマンスに一切の波がなく、闘えるボランチとして常に全力でハードワークした。第11節金沢戦(〇4-0)では、相手に顔面を蹴られながら身体で押し込む「らしい」ゴールでチームの大勝劇に花を添えた。

 その一方で、ボールを握る局面では課題を残すシーズンとなった。攻撃時は1アンカーとしてピッチ中央でプレーする機会が多かったが、トラップ際を相手に狙われたり、外回りの繋ぎにアクセントを付けられなかったりと、攻撃面で停滞する場面も少なくなかった。

 ただ、それが目立ったのも監督の求めるスタイルに適応しようと愚直にプレーし続けたからだろう。もがきながらも出場時間を重ねたのは、それを補って余りある守備面の貢献があったから。新監督のもとでもそうしたプレーを見せてくれるに違いない。

 


5 DF 大谷 尚輝

21試合/1390分/2得点/0アシスト

■困ったときの大谷さん

 今季は背番号を15から5に変更。入れ替わりの多かった最終ラインのなかで残留した数少ない選手の一人としてコンスタントに出場機会を重ねた。

 昨季に引き続き、今季も3バックのどこでもこなせる器用さを見せた。先発17試合の内訳は左CBが12試合、CB中央が1試合、右CBが4試合。左右CBにはSBタイプの選手が起用されることが多かったが、守備面に不安があるときは決まって大谷が起用されていた印象である。堅実なプレースタイルは監督にとって計算を立てやすく、単なるバックアッパーを越えた存在だった。

 細かい負傷が多く、出場時間を伸ばせなかった点は来季に向けての課題。昨季もコンディションを開幕に合わせることができず、また負傷でひと足先にシーズンを終えた。この辺りのフィットネスが整えば、シーズン通してレギュラーを張れる実力・経験はあると思う。

 


6 MF 大森 渚生

36試合/2835分/1得点/1アシスト

■攻守においてひと回り大きく成長

 大卒2年目の今季も3バックの左CBとして最終ラインでは最多の36試合に出場。本来はボールを握った局面で力を発揮する攻撃的なプレーヤーだが、いまや最終ラインで攻守に奮闘する姿はすっかり見慣れた景色となった。

 今季は待望のプロ初得点を記録。第11節金沢戦(○4-0)で決めた直接FKは相手GKとの駆け引きに完全に勝利したもので、チームの大量得点を勢いづけるものだった。果敢な攻撃参加から供給したクロスなど、左足から繰り出された鋭く高精度のキックは今季もチームの武器となった。

 攻撃面の貢献はさることながら、守備面でも3バックの一角として遜色ないパフォーマンスを見せた。相手アタッカーと1vs1に持ち込まれても粘り強い守備でサイドに追い込み、相手とボールの間に身体を入れてシャットアウトするシーンも見られるように。第10節いわき戦(○1-0)で見せた、体格差のある相手を抑え込んだ直後のガッツポーズは印象的だった。

 2シーズンまるまる試合に出続けたことで出場数はすでに70試合に到達。若手ながら経験を重ね、精度の高い左足を持ち、マルチロールな選手はJリーグ全体を見渡しても貴重なタイプだろう。昨オフに複数年契約を結んでいるが、ステップアップを果たしても不思議ではない。

 


7 MF 西谷 優希

40試合/2897分/0得点/0アシスト

■チームを成り立たせた屋台骨

 今季はキャプテンの座を佐藤祥に譲ったが、豊富な運動量で攻守に駆け回る西谷の貢献度はチーム随一だった。先発37試合はチーム最多。佐藤祥とともに今季も栃木の屋台骨となった。

 今季の栃木は西谷ありきのスタイルだったと言っても過言ではないだろう。[3-4-2-1]または[3-5-2]の中盤として、構造上空きがちなボランチ脇のスペースの守備を一手に引き受けた。西谷の前にはセンターFWタイプの選手が入ることが多く、西谷の広い守備範囲は彼らの守備負担を減らす助けになった。

 ボールを握る展開になれば、ボランチから一つ列を上げてシャドーとしてプレー。ライン間に入り込んでボールを引き出し、逆サイドとの繋ぎ役になることで、黒﨑や石田の攻撃参加を促した。スタートからシャドーで起用された第41節東京V戦(●0-1)では相手の退場を誘うショートカウンターを発動。天皇杯広島戦(○2-0)では中盤から飛び出して勝ち上がりを決定付ける得点を挙げた。

 他の多くの選手とは異なり、単年契約を結んでいるため現時点で去就は未定。栃木の象徴とて来季も黄色のシャツに腕を通してほしいが、去就やいかに。

 


8 MF 高萩 洋次郎

36試合/1000分/1得点/0アシスト

■唯一無二の存在感

 先発は9試合に留まったが、出場数で見ればチーム4位の36試合というのが栃木での高萩の立ち位置を如実に表していたように思う。絶対的な先発ではないにしても、ほとんどの試合で彼の非凡なセンスはチームの助けになった。

 栃木の選手のなかでは唯一無二の存在だった。意表を突くスルーパスやロブパス、攻撃に緩急をつける配球など、ピッチにいるといないとでは攻撃の機能性がまるで違かった。時には味方に対して身振り手振りで指示を出し、さながらピッチ上の監督のようだった。

 ただ、栃木らしくないと言えばそういうわけではなかった。守備の時間が長いチームにおいて、読みを効かせて先回りしてルーズボールに反応する守備は、武闘派の佐藤祥や西谷優希とは違った良さを見せていた。第5節大宮戦(○2-1)では逆転となる決勝点を記録。相手のバックパスを諦めずに最後まで追った結果、気持ちで押し込んだゴールだった。

 栃木とはここで契約満了となったが、怪我なくシーズンをやり通せたことを踏まれえば、同規模級のクラブからは引く手あまただろう。地元クラブであるいわきや若手時代に研鑽を積んだ愛媛が同じカテゴリーにはいる。いずれにせよ、彼の非凡なセンスは見る人を唸らせてくれるに違いない。

 

 

9 FW 瀬沼 優司

0試合/0分/0得点/0アシスト

■相模原ではチームの快進撃の中心に

 昨季は根本の加入と宮崎の台頭により徐々に出場機会を減らしたが、陣容を据え置いた今季はついに出番が訪れることはなかった。1トップとしては競り合いの部分で物足りず、シャドーとしては機動力で矢野や小堀の牙城をひっくり返すことができなかった。

 夏には地元クラブである相模原へレンタル移籍。若い選手やJ実績の少ない選手の多いチームにおいてベテランとして最前線からチームを牽引した。得点こそ2ゴールに留まったものの、後半戦の相模原の快進撃の中心となった。

 栃木との契約を1年残しているため復帰は濃厚。時崎監督のもとでは思うようにはいかなかったが、田中新監督と金沢時代の恩師、柳下ヘッドコーチのもとで再び栃木で輝く姿を見せることになるか。

 


10 MF 森 俊貴

25試合/1570分/2得点/0アシスト

■WBでは力を発揮し切れなかった
 ノーゴールに終わった昨季のリベンジを果たすように、今季は開幕節熊本戦(△1-1)で幸先良く得点を記録。続く第4節大宮戦(○2-1)でも目の覚めるミドルシュートを突き刺したが、その後が続かなかった。

 今季も主戦場は一列後ろのWBだった。前半戦は黒﨑と定位置を争い、シャドーと併用しながら出場を重ねたが、石田の加入により競争が激化した後半戦はメンバー入りもままならなくなった。それでも出場すればボールをグイグイ前へ運んでいく持ち前の推進力を発揮し、チームの重心の押し上げに貢献した。

 ただ、やはり本職のSHで見たかったのが正直なところ。そもそも[3-4-2-1]にはSHがなく、サイドのポジション自体が一つしかないため、森にとっては難しい状況だった。守備の計算が立つことからWB起用だったと思うが、ベースにあるのはサイドアタッカーである。そこにオプションで守備ができるのが売りの選手であり、守勢に回る時間が多いチームのWBでは攻撃面で存在感を出すのは難しかった。

 SNSなどを通じて印象的だったのは、チームが苦しいときに最も期待する声が多かったのは森だったということ。不在のときほど森を待望する声は多かったように思う。来季の去就は未定だが、栃木を高みに押し上げる存在としてアカデミー出身の背番号10が躍動する姿を見せてほしい。

 


11 MF ジュニーニョ

1試合/58分/0得点/0アシスト

■持ち味を発揮できず

 今季初出場は第3節大分戦(●0-1)。その後もコンスタントにベンチ入りを果たしたが、4月に右膝半月板の大怪我を負うと、そのままシーズンアウトとなった。

 唯一の出場となった大分戦では左シャドーとしてプレー。持ち前の献身的な守備でここまで未勝利のチームに勢いをもたらそうと奮闘したが、味方と連動できないシーンばかりが目立ってしまった。本来ならば後ろの選手が手綱を握るようにコーチングをする必要があるのだが、当時は未勝利でチーム状況も悪く、機能しないままピッチを退くこととなった。その後は出番が訪れないまま、負傷によりシーズンを終えた。

 3年間所属した栃木とはここで契約満了。おそらく傷も癒えてきた頃だと思うので、来季は別のシャツを着て攻守に走る姿を楽しみにしたい。

 


13 MF 植田 啓太

12試合/361分/0得点/0アシスト

■プロの壁を目の当たりに

 マリノスからの期限付き移籍を再び延長し、栃木3年目を迎えた今シーズン。序盤はシャドーとして前線のローテーションに組み込まれたが、山田の台頭と時期を同じくして、出場機会を減らしていった。

 マリノスユースから栃木に加入し、順風満帆に試合経験を重ねてきたが、今季は初めてプロの壁にぶち当たったといえるだろう。武器とするミドルレンジからのシュートも今季は力んでしまい、精度を伴わわせることができなかった。久々に出番を得た天皇杯広島戦(○2-0)では前半のうちに脳震盪の疑いで負傷交代。大金星を挙げたチームとは裏腹、一人悔しい想いをしていただろう。

 監督が代わり、長期間の期限付き移籍という状況を踏まえれば、来季も栃木に留まる可能性は低いだろう。分厚い選手層を擁するマリノスで出番を窺うか、出場機会を求めて新天地に活躍の場を移すか。植田にとって非常に大事なオフになる。