栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【選手別レビュー vol.3】栃木SCの2023シーズンを振り返る

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vol.1(背番号1~13)はこちら

vol.2(背番号15~30)はこちら

 

 

31 MF 石田 凌太郎

16試合/896分/0得点/0アシスト

負けん気の強さの裏表

 夏に名古屋から期限付き移籍で加入した若武者。加入してしばらくは途中出場が続いたが、次第にプレータイムを伸ばしていくと最終的には右WBのレギュラーに定着した。

 21歳という年齢が示すとおり若さを押し出したアグレッシブなプレースタイルが石田の持ち味。馬力のあるパワフルな突破が黒﨑の売りだとすれば、槍のように鋭く素早いのが石田、という感じだった。初先発の第32節水戸戦(△2-2)では敗色濃厚の最終盤に自らの仕掛けからPKを獲得。感情を表に出し、会場を煽る強いメンタリティを持った選手は近年の栃木にはいない選手だった。

 ただ、それは時にリスクになることもあった。第41節東京V戦(●0-1)、終了間際に相手選手と小競り合いを起こすと2枚目の警告を受け退場。負けん気の強さが仇となり、ひと足先にシーズンを終えることとなってしまった。

 能力の高さは半年間で証明済み。あとはそれをフルシーズン維持することとメンタル面の波を減らすことが今後の目標となる。

 

 

32 FW 宮崎 鴻

29試合/1100分/2得点/0アシスト

■波に乗り切れず

 駒澤大学から加入2年目のストライカーにとって今季は難しい時間を過ごすことが多かったように思う。

 シーズン序盤はベンチから出場機会を窺う立場からスタート。途中出場を中心にコンスタントに試合に絡んだが、競り合いでファールを取られてしまうことが多く、本来の持ち味をなかなか発揮できなかった。主審によって笛の基準が微妙に異なるのも苦戦した要因の一つのだろう。

 ターニングポイントとなったのは第21節町田戦(△1-1)。今季二度目の先発を飾ると、堅守を誇る首位相手に力強いヘディングシュートで今季初得点を記録。続けて先発した第23節金沢戦(○1-0)では残留争いのライバルを相手に決勝点をマークした。我慢の時を経て軌道に乗ってきたところだっただけに、第24節いわき戦(●0-1)での負傷による離脱は非常に悔しいものだった。

 復帰してからはイスマイラが最前線に定着していたことから主に右シャドーとしてプレー。不慣れなポジションでのプレーを余儀なくされ、チーム状況の悪さも相まって攻撃で存在感を示すことはできなかった。

 思うようにプレーできなかった今季だったが、それでも途中出場を中心に29試合に出場したことはきっと今後に繋がるはず。来季は結果が求められる勝負の3年目となる。

 


33 DF ラファエル

5試合/122分/0得点/1アシスト

■本格稼働のための準備

 夏にブラジルのアナポリスFCから完全移籍で加入。初めのうちは日本のサッカーのスピード感に苦戦したが、徐々にアジャストしていくと第38節山形戦(●0-2)でJデビュー。そこから途中出場を中心に計5試合に出場した。

 まだまだ出場時間が短いため特徴を把握し切れていないが、身体の大きさの割に機動力やビルドアップ能力に秀でていた印象である。斜めのパスコースを作りやすい3バックでは右CBに入り、ボールの持ち運びやライン間に刺すパスなど現代型CBとしての一面を披露。第39節大分戦(△1-1)では自ら攻撃の起点となり、最後は美しい軌道のクロスを味方に合わせた。

 プレータイムを限定し、かつ終盤の時間帯に投入していたことから、チームとしてもまずは日本でのキャリアを積むための準備期間として今季を位置づけていただろう。来季は本格稼働の期待がかかる。

 


36 MF 山田 雄士

25試合/1859分/2得点/4アシスト

■栃木で活躍し、J1へ羽ばたく

 栃木での武者修行をきっかけにプレーの幅を広げた選手の一人と言えるだろう。開幕期こそコンディションの問題で出遅れたが、第8節山口戦(△1-1)で初先発を飾ると、そこからは途中出場1試合を除く全ての試合に先発した。

 柏の下部組織出身とあって技術面の高さは申し分なく、高さや強さを押し出す栃木においては貴重な技巧派プレーヤーだった。ギャップでのボールの引き出しや前線へのスルーパスで攻撃にアクセントをもたらしたほか、福森、大森と組んだ左サイドのユニットは栃木の武器となった。第9節山形戦(○2-1)では鋭いスルーパスから根本の得点をアシスト。第26節大宮戦(△0-0)では華麗なダブルタッチから相手DFを欺くドリブル突破など、技術の高さを示したシーンは非常に多かった。

 そうした部分でチームに貢献したことはもちろん、それ以上に印象的だったのが泥臭いプレーも厭わないハードワーカーだったことである。攻撃面ではクロスに対して飛び込む意識が高く、オブザボールのランニングも欠かさない。第27節清水戦(△1-1)では相手CB間が開いたところを見逃さずに飛び込み、貴重な同点弾をマークした。守備面ではプレスの牽引役になったほか、シーズン半ばには可変的にトップ下とIHをこなす一人二役の守備でチームに不可欠な選手となった。

 第30節徳島戦(△2-2)で根本の得点をアシストすると、それを置き土産に柏への復帰が決定。栃木にとってはもちろん手痛い離脱となったが、その後の柏での活躍を見る限り、やはりJ2には収まらない選手だろう。今後のJ1での飛躍を期待したい。

 


37 FW 根本 凌

31試合/2131分/6得点/2アシスト

■得点だけでは計れない貢献度

 昨季夏に育成型期限付き移籍で加入すると、今季はレンタル期間を延長。チームの主軸となり、リーグ戦と天皇杯合わせて計9ゴールを挙げる活躍を見せた。

 残留争いを戦ったチームにおいてこの数字は見事と言うほかないだろう。栃木の前線は守備にかかる負担が非常に大きく、攻撃に転じても前線に一人孤立する機会が多い。独力でボールを収め、チャンスに繋げなければならず、ゴール前にのみ集中できるわけではない。そうした環境を踏まえれば、得点数だけでは計れない大きな貢献があったと言っても過言ではないだろう。

 得点パターンも豊富だった。一瞬の抜け出しやワンタッチで合わせるストライカーらしい得点もあれば、ゴール前で切り返して相手の逆を突く冷静さも見せた。夏場には大島とのアベック体制が確立され、イスマイラも加入し、得点力不足解消に向けてエンジンがかかった────────かに思えたが、靭帯系の負傷でシーズン残り3分の1を欠場することに。栃木での最後は悔しい幕引きとなった。

 湘南へのレンタルバックが決定し、今シーズンは復帰に向けてリハビリに専念することとなる。しっかり傷を癒して再びピッチの上に立ち、持ち前のダイナミックなプレーで躍動する姿を見せてほしい。

 


38 FW 小堀 空

20試合/949分/0得点/1アシスト

■あと一歩が遠かった

 トップチームに昇格して3年目の今季はこれまでで最多の20試合に出場。シーズン半ばには先発に定着するなど存在感を示したが、初ゴールを記録できなかった悔しさが色濃く残るシーズンとなった。

 上背の高さに加えて、スピードとプレス強度を兼ね備えるという点では、矢野に重なる部分は多かった。ここ数年と比べて稼働率を減らしたベテランとシェアするように出場機会を増やしていくと、根本や宮崎に集まったマークの隙を突いてセカンドストライカーとしてプレー。思い切りの良いミドルシュートも多く、一時期は最も得点の匂いがする選手だったと言っても過言ではなかった。

 しかし、第23節金沢戦(○1-0)でポストを二度叩いたように、とにかくゴールが遠かった。この試合では宮崎の決勝点をアシストしたが、ストライカーはやはり得点である。出場を重ねた時期はちょうど夏加入選手が登録される直前であり、ここで決めきれなかったことが後半戦の出番を減らす一つの要因となった。

 来季はユースの後輩である揚石のトップチーム昇格が決定している。まずは先輩として、ストライカーとして来季こそは栃木での初ゴールを手にしたい。

 

 

39 FW レアンドロ ペレイラ

3試合/32分/1得点/0アシスト

鳴り物入りで加入したが…

 夏の補強の目玉としてイランのペルセポリスから加入。ビッグネームの加入はJ2界隈を大きく賑わせる話題の一つとなったが、残念ながらこれを越えるインパクトを残すことはできなかった。

 先発なしの出場3試合、得点はPKによる1ゴールのみでは期待に応えられたと言えないだろう。クラブとして初めてクラウドファンディングに踏み切り、その支援を元に招いた実績十分のFWに対してはおそらく過去最高水準の俸給を用意していたはずである。それがベンチを温めたまま出番が回らないことはおろか、終盤戦にはベンチ外である。これには選手側の問題はもちろん、フロントの目利きにも疑念を抱かざるを得ない。

 半年間の契約を満了し、退団が決定。ピッチ外のハードワークも含めて、栃木にとっては乗りこなすのが難しい高級外車のような存在だった。

 


40 DF 高嶋 修也

5試合/298分/0得点/1アシスト

■終盤戦で爪痕を残す

 法政大学から加入した大卒ルーキー。天皇杯ではまずまずのプレーを見せながらリーグ戦では出番に恵まれずにいたが、終盤戦は連続して先発起用された。

 ターニングポイントとなったのは4連敗で迎えた第39節大分戦(△1-1)。途中出場から3バックの右CBに入ると、高精度のロングフィードと機を見たオーバーラップで攻撃に貢献。ビハインドのチームに流れを引き寄せ、最終盤に同点に追い付くきっかけをもたらした。

 そうした活躍が認められ続く第40節岡山戦(△1-1)では初先発を飾ったが、この試合では不運なPK献上に見舞われた。VARがあればノーファールが支持されるような事象だっただろう。試合直後の涙を見れば、先制点をアシストしたこと以上に悔しさが鮮明に刻まれたことは想像にかたくない。

 高嶋が出場を重ねた終盤戦はチームの不調も相まって勝利を収めることはできなかった。契約更新した来季こそ勝利を多く掴んでほしい。

 


41 GK 藤田 和輝

32試合/2880分/33失点/1アシスト

栃木の藤田から世界のFUJITAへ

 新潟からのレンタル期間を延長した今季は開幕スタメンをゲット。その後は先発落ちも経験したが、シーズン中盤に返り咲くと、そこからは脅威のパフォーマンスでゴールマウスを守り続けた。

 昨季は飛び出す判断が怪しかったりと不安定な部分もあったが、今季は大幅に改善。勝ち点を手繰り寄せるビッグセーブも目立ったりと、守護神として安定感が抜群に高まった。現代サッカーのトレンドである足元の技術も申し分なく、さばけるGKとして最後方からCBのようにプレー。第18節岡山戦(○2-1)で根本の得点をアシストしたロングキックは藤田の技術の高さが現れた場面だった。

 そうした活躍が評価されて9月にはアジア大会を戦うU-22日本代表に招集。惜しくも準優勝に終わったが、大会を通じて好パフォーマンスを発揮し続け、一躍名を馳せた存在となった。J2リーグ終了後に行われたアルゼンチン代表との強化試合にも継続して招集され、まさに栃木での武者修行が世界に繋がったと言えるものだった。

 もはや栃木には収まらない選手にまで成長したため今オフの去就は覚悟していたが、まさかまさかの千葉へのレンタル移籍が決定。複雑な気持ちを拭えないのが正直なところだが、少なくとも千葉で活躍し、パリ行きの切符を掴むことが栃木サポーターの望みであることには違いない。

↑藤田のロングキックから根本が抜け出しゴール

 


44 MF 揚石 琉生

0試合/0分/0得点/0アシスト

結果を残し、トップ昇格を掴む

 栃木の育成組織が生んだ左利きのファンタジスタ。今季はシーズン初めから2種登録されると、天皇杯秋田戦(○2-1)で記念すべきトップチームデビュー。根本の決勝点の起点になるなど、プロに混じっても印象的なプレーを見せた。

 本業のユースではチームのプリンスリーグ関東2部優勝に貢献。最終節では自らのPKで勝利を手繰り寄せる勝負強さも見せた。攻守にハードワークでき、得点ランキングでも上位につけるなど大車輪の活躍だった。

 2年連続で2種登録されていることからチームとしても手塩にかけて育ててきたのは明らか。小堀以来3年振りとなるトップチーム昇格選手にかかる期待は否が応にも高くなるが、ユース時代にも見せた逸材ぶりを発揮してほしい。

↑プレスバックで最終ラインにボールを返したのが揚石

 


45 MF 安田 虎士朗

13試合/415分/0得点/1アシスト

■能力を発揮し切れず

 開幕戦でベンチ入りを果たすと、途中出場から終了間際に同点弾をアシスト。FC東京から武者修行をし、早々に数字を残す最高の船出を飾ったかに思えたが、その後がなかなか続かなかった。

 FC東京の下部組織出身とあって技術面は確かなものがあった。前線に入れば狭いスペースでボールを引き出し、ボランチに入れば積極的にボールに関わって前線への出し手となる。安田の特徴的にチームが求めていたのは昨季谷内田が担っていたようなアクセントをもたらすプレーだっただろう。

 しかし、全体としてJ2のプレーのスピード感やフィジカル面を含めた強度の高さについていけなかった印象が強い。おそらくJ1よりもJ2の方がよりダイレクト的な要素は多いだろう。スポット的に起用されたが、相手の守備に抑え込まれる場面が多く、そのギャップを埋めることに苦労したように見えた。

 加入時は典型的な天才肌だった谷内田は1年半の在籍を経て、守備でも計算できるハードワーカーに成長した。若い選手を積極起用する栃木での再挑戦を選ぶかどうか、去就やいかに。

 


99 FW イスマイラ

15試合/1012分/4得点/1アシスト

■残留争いの救世主

 夏に京都からレンタルで加入した初のアフリカ人プレーヤー。福島時代に時崎監督のもとでプレーしたため待望論は常々あったが、残留争いの渦中でようやく現実のものとなった。

 守備面での貢献は根本や宮崎と比べると若干目減りした印象はあったが、それを補って余りある攻撃面での存在感があった。デビューから2試合目の第28節甲府戦(○3-0)ではさっそく得点を記録。長い脚で浮いたボールをコントロールして豪快にボレーを叩き込み、その後はお馴染みの前方宙返りのセレブレーションを披露した。

 圧巻だったのは第33節藤枝戦(○2-0)でのパフォーマンス。残留争いのなか、順位の近い相手に対して個の力で2ゴールを奪ってみせた。特に2ゴール目は相手DFをなぎ払う強引な中央突破を見せたかと思えば、GKとの1vs1は冷静に沈める、相手にとっては為すすべないようなゴールシーンだった。藤枝戦の前に根本が負傷し、依然ペレイラの調子が上がらない終盤戦において、イスマイラの存在はなくてはならないものだった。

 京都での契約満了のリリースが先行していたため去就は読めない状況だったが、後に完全移籍加入がリリース。2024年も攻撃の軸となる頼もしい助っ人が正真正銘の仲間入りとなった。