栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【選手別レビュー】栃木SCの2022シーズンを振り返る(下)

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29 FW 矢野 貴章

36試合/2365分/7得点/1アシスト

■衰えを知らない鉄人

 チーム最年長の大ベテランは今年もフル稼働でピッチに立ち続けた。7得点はチームトップ。J1時代のキャリアハイに迫る結果を残し、得点力不足に悩むチームの貴重な得点源として奮起した。

 とはいえ今年は栃木に来て初めて控えの立場から迎えたシーズンだった。序盤戦で前線に入ったのは補強の目玉であった瀬沼や監督秘蔵っ子のトカチ、若手有望株の小堀や谷内田であり、しばらくは途中出場がメイン。しかし、連戦で迎えた7節水戸戦(〇1-0)で初先発を飾ると、超劣勢の展開のなかセットプレーから決勝点をマーク。大事なダービーマッチを勝利に導くと、以降は瀬沼の離脱も相まって最前線のレギュラーに返り咲くこととなった。

 今季の矢野を語る上で欠かせないのはインパクトあるゴールシーンだろう。その一つが17節の徳島戦(〇1-0)。右からのクロスに対してファーサイドで構えると、ボールの落ち際を右足ボレーで一閃。堅守を誇る相手を仕留め10試合ぶりの勝利を飾った。32節秋田戦(〇3-0)では圧巻のオーバーヘッドを披露。SNSでは他チームの選手からも絶賛の声が飛ぶほどのゴラッソだった。得点力不足にも象徴されるように今季の栃木の攻撃に関するスタッツは軒並み低い数字だったが、それを吹き飛ばすように高い決定力を見せつけた。

 もちろん守備でも大きく貢献。ただやみくもに走るだけでなく、相手ボランチを消しながらCBへ寄せる上手さはチーム一。若い宮崎や根本にとってこれだけ模範になるお手本はなかっただろう。

 田坂監督時代と変わって全てが矢野の高さ頼みという攻撃ではなくなったが、やはり今季も負荷の高まった夏場に調子をやや落とした。来季は39歳となるシーズンを迎えるだけに、コンディション最優先に長く現役を続けてほしいものだ。

 

 

30 DF 福森 健太

31試合/2276分/0得点/0アシスト

■3人目のボランチのよう

 大分からレンタルで加入したJ2をよく知るサイドプレーヤー。これまで右も左も満遍なく経験してきたが、栃木では右利きの左WBとして戦術の核となった。

 今季の栃木の攻撃をざっくり言うと、黒﨑・鈴木で組んだ右サイドは彼らの突破力を生かして縦に速く攻めるものだったが、逆に左サイドは人数をかけてじっくり前進していくものだった。その中心にいたのが福森であり、左CB大森との関係性から繰り出される可変システムは時崎栃木を象徴する一つのパターンとなった。カットインを多用する右利きだからこそ攻撃力のある左利きの大森を生かすことができた。

 左WBは森とシェアする格好だったが、可変のトリガーとなり中央に入って攻撃のタクトを振る役割は福森に一日の長があった。もちろん求められる役割が異なるのでなんとも言えないが、ピッチで起きている現象を理解し判断するプレースタイルはさながらボランチのようだった。それでいて25節東京V戦(●0-1)でインドネシア代表のアルハンに対してJ2の厳しさを教えるようにハードディフェンスを行う熱さを見せた点は印象的だった。

 今季の栃木がスタイルチェンジを図っていくなかで福森の存在は大きかった。大分との契約次第にはなるが、栃木への残留が叶えば、間違いなく来季もチームの中心人物となるだろう。

 

 

32 FW 宮崎 鴻

26試合/743分/3得点/1アシスト

■悔しい思いをバネにしたFWらしいFW

 駒澤大学から加入したパワー系FW。すでに加入が内定していた五十嵐とは前橋育英高校時代に選手権を制覇したときの同期であり、高校サッカーウォッチャーにとっては胸が高鳴るタッグの再結成となった。

 登録身長は184cmだが、それ以上の迫力を感じたのは競り合いでの圧倒的な強さがあったからだろう。屈強なDFと競り合っても体の軸をズラされることはほとんどなく、ひょっとすると空中戦勝率は矢野よりも高かったかもしれない。困ったら宮崎にロングボールを送るという選択肢を持てるほどビルドアップの出口として存在感を見せた。

 宮崎にとってターニングポイントとなったのが天皇杯の京都戦(●1-2)。福森からのクロスに打点の高いヘディングで合わせると、GKの手をかすめてネットを揺らした。早期に出番を掴みながらも結果を残せなかった宮崎にとってようやく生まれた待望のプロ初得点だった。その後の活躍は周知のとおり、29節徳島戦(△1-1)の起死回生の同点弾や32節秋田戦(〇3-0)の2ゴール。一つの得点がトリガーとなって連発態勢に入るのはいかにもFWらしいFWである。

 14節山形戦(●1-2)では、89分から登場するもスクランブルで代役GKを急遽務め、終了間際に失点を喫するという苦い経験をした。あのとき流した悔し涙をサポーターとして鮮明に記憶しているからこそ彼のプロ初得点やリーグ戦での得点を人一倍喜び、祝福することができた。チームではムードメーカーであるように、来季は喜ぶ瞬間をより多く見たいものである。

 

 

33 MF 磯村 亮太

9試合/280分/0得点/0アシスト

■鉄板コンビと若手の間を割れず

 長崎から加入した代表招集経験もあるベテランボランチ。名古屋時代のユースとトップで先輩にあたる山口慶強化部長に加え、高杉亮太強化担当や矢野貴章などこれまでともに戦ってきた選手が多数在籍するチームで再起を誓ったが、思うように出場機会を確保できず。先発出場は2試合のみ。西谷佐藤の鉄板コンビのほか、若い谷内田や神戸の間を割って入ることができなかった。

 磯村の今季のハイライトは天皇杯マリノス戦(〇2-0)だろう。マリノスの強烈なハイプレスに対して簡単にボールを失わず、左右にパスを振り分けるいぶし銀なプレーを披露。チームに落ち着きとやれるという感覚を植え付けるには十分だった。なお、この試合では後半終盤に相手との接触で頭部を負傷。試合後の集合写真に写った大きなたんこぶは言わば勲章のようなものだろう。

 すでに今季限りの契約満了が発表。31歳という年齢はまだまだベテランというには早いし、ボランチとしてこれから円熟味が増してくる頃合いであるが去就やいかに。

 

 

35 DF 鈴木 海音

34試合/3015分/0得点/0アシスト

■二足のわらじを履きこなした

 昨季は天皇杯に出場するのみでリーグ戦の出場はなし。より多くの出場機会を求めて磐田からレンタル移籍で加入したが、最終ラインの絶対的主力として披露したプレーは期待以上だった。年間を通してリーグ戦に絡み、世代別代表にも招集され続け、まさに二足のわらじを履きこなしたシーズンだった。

 もともと代表常連のエリートではあったが、今季最初の選出は追加招集によるものだった。しかし、そこからチームでの安定したプレーが評価されると代表に招集され続けるだけでなく主軸に定着。パリ五輪を狙う競争の真っ只中ではあるが、いまや守備陣のレギュラーの第一候補に躍り出たと言っても過言ではないだろう。

 クラブでは代表活動のタイミングを除き、ほぼ全ての試合で先発としてプレー。右CBのポジションを確立し、リーグ3位の堅守に大きく貢献した。出足の良い迎撃守備で相手アタッカーを潰すのはお手の物。それゆえイエローカードも少々稼いでしまったが、そこから繰り出されるショートカウンターは栃木の大きな武器になった。グティエレス、大谷不在時は3バックの中央としてリーダーシップも発揮。これだけ堂々たるプレー見せながらまだ20歳というのは今後が末恐ろしい逸材である。

 レンタル元の磐田の状況を考えれば、退団は既定路線だろうか。ある意味残留がノルマとなる磐田のチーム事情を鑑みれば同じJ2のチームに貸し出すということは考えにくい。オリンピック候補選手として上位カテゴリーでのプレーを見たいのが正直なところではあるが。

 

 

37 FW 根本 凌

20試合/1026分/5得点/0アシスト

■ハーフシーズンで抜群の得点感覚を披露

 シーズン途中に湘南から育成型期限付き移籍で加入。ハーフシーズンでチーム2位となる5得点を叩き出し、得点力不足にあえぐチームの貴重な得点源となった。

 なんと言っても根本の魅力はゴールへの野心や闘争心、直接的なプレー選択だろう。加入3日後の22節大分戦(△1-1)では途中からピッチに入ると、後半アディショナルタイムに35メートルはあろうかという距離から右足一閃。挨拶代わりの衝撃的なデビュー弾で土壇場で勝ち点1をもたらした。それだけに留まらず、続く23節岩手戦(△1-1)でも一人少ない苦しい状況を打破する長距離シュートからゴールを奪取。パワフルでインパクトあるプレースタイルは外国人ストライカーのようだった。

 それ以降はさすがに警戒されてかミドルシュートを打つ場面は減ったが、難しいシチュエーションからの得点で決定力を披露。残留を確定させる決定打も根本によるものだし、37節大宮戦(●1-3)のヘディングは見事な得点感覚だった。ファーストディフェンダーとしての精度は発展途上だが、それを補って余りある攻撃面での貢献だった。

 もちろん強化部はレンタル期間の延長に向けて交渉を行っているだろう。チームとしての攻撃の仕込みも含め、プレシーズンからしっかり準備できれば二桁得点は目標ではなく、現実的で達成可能なノルマになるはずだ。

 

 

38 FW 小堀 空

13試合/529分/0得点/1アシスト

■来季こそ殻を破るきっかけを掴みたい

 2種登録された2020年、プロ1年目の2021年はともに1試合ずつの出場に留まったが、今季は開幕スタメンを含む13試合に出場。トレーニングキャンプとはいえ世代別代表にも初めて招集されるなど、大きく飛躍を遂げた一年となった。

 しかし、それと同時に大きな壁に直面したシーズンだったとも言えるだろう。代表でしのぎを削るライバルはJ1やJ2でレギュラーを張り、得点を量産している選手たち。これまで代表に縁がなく、試合にようやく絡めるようになってきた立ち位置からすれば、彼らとのトレーニングで感じたものは大きかったはずである。

 その意味で代表活動を通して得たものをリーグ戦に生かしたいところだったが、なかなか上手くいかなかった。序盤戦はトップやシャドーで継続的に起用されたが、ファーストディフェンダーとしてのタスクに重きを置きすぎしまい、攻撃面での良さが薄れてしまった。根本の加入、宮崎の台頭以降はベンチ入りも難しい立場になってしまった。

 天皇杯やエリートリーグでは前線だけではなくCBやWBでプレー。ポジションに拘らずに出場機会を増やしていく姿勢は、自身の憧れの選手にも挙げるユース卒の先輩 明本考浩の浦和での現在に通ずるものがある。できればFWとしてゴールでと思ってしまうが、どこかで殻を破るきっかけを掴みたいところだ。

 

 

40 DF 井出 敬大

1試合/73分/0得点/0アシスト

■守備強度を引き上げたい

 負傷により全休した昨季からの挽回を誓ったが、今季も思うように出場機会を得ることはできなかった。

 今季初めてまとまったプレータイムを得られたのは控え組中心で挑んだ天皇杯マリノス戦(〇2-0)。強力攻撃陣を抑えて見事なアップセットを成し遂げたのは記憶に新しいが、井出自身は65分過ぎに脚を攣ってしまい途中交代。ベンチメンバーの人選的にあまり交代ありきの起用ではなかっただけに本人にとっては無念だったと思う。

 リーグ戦で出番が回ってきたのはコロナによる離脱者が多発した39節甲府戦(〇1-0)。ベンチから戦況を窺うなか、3バックの右CBとしてこれまたスクランブル起用された福森が早々に負傷すると、アップもままならない状態から緊急登板。それでも終始押し込まれる展開を何とか耐え凌ぎ、残留を決める大きな勝利を呼び込んだ。

 屈強なディフェンダーが優先された田坂監督時代はまだしも、ビルドアップ能力を求められた時崎監督のもとでも出場機会を得られなかったのはやはり守備強度の部分で物足りなさがあったからなのだろうか。左利き特有の独特な配球は大きな武器なので、それを生かせる新天地を選んでほしい。

 

 

41 GK 藤田 和輝

7試合/629分/4失点

■安定感という観点で定位置確保とはならず

 加入時は「あのキーパーだ!」と思ったサポーターも多かっただろう。2020年の対戦時にシュートをことごとくスーパーセーブされた苦い記憶が刻まれている栃木にとって、ある意味勝手知ったる選手の加入となった。

 それでも蓋を開けてみれば出場は7試合。実力不足というよりは、安定感という観点で川田の牙城を崩せなかったという印象が強い。14節山形戦(●1-2)では相手の背後へのロングボールに対する判断を誤り、ゴールマウスから飛び出しての対応が危険なプレーと判断されて一発退場に。天皇杯京都戦(●1-2)でも退場とはならなかったが、ゴールマウスを空けたにも関わらず対応し切れないプレーがあった。その一方で、天皇杯マリノス戦(〇2-0)では藤田の活躍なくして勝利はあり得なかったと言い切れるほどのビッグセーブを連発し、大金星の立役者となった。

 今季見せた藤田の最大出力は川田を超える瞬間も多かったように思う。しかし、得点力不足にあえぐチームにおいては安定感を最優先にせざるを得なかったともいえる。川田が調子を落とした時はすぐさま藤田に出番が回ってきたことが逆説的にそれを証明している。ポテンシャルは間違いないだけに、出場機会を重ねて判断力を磨いていけば、持てる実力を十分に発揮できるはずだ。

 

 

44 MF 揚石 琉生(2種登録)

0試合/0得点/0アシスト

■栃木の未来を背負う選手

 U-18チームに所属する左利きのボランチ。16歳ながら179cm、68kgと体は出来上がっており、8月のエリートリーグ水戸戦ではシャドーのポジションでトップチーム選手に負けず劣らずのプレーを見せた。10月に行われた国体では栃木県少年男子チームの背番号10として出場し、2得点を記録。栃木の未来を背負う一人として、数年後にトップチームで名前を聞くことを期待したい選手である。

 

 

45 DF 平松 航(特別指定)

2試合/180分/0得点/0アシスト

■即戦力の現代型CB

 立正大学からの来季加入が内定しているCB。立正大学では神戸康輔の一つ後輩、育成年代を過ごしたジュビロ磐田ユースでは鈴木海音の先輩にあたる。

 8月に特別指定選手として登録されると、33節長崎戦(△1-1)と38節琉球戦(△0-0)の2試合に先発。どちらも最終ラインに離脱者が続出していた時期だったが、出番が急遽回ってきたことを感じさせない落ち着いたプレーぶりだった。現代型のCBらしくボールを持ち運ぶ能力や左右に振り分けるフィードは魅力。関東大学2部ベストイレブンにも選出されたように即戦力として十分期待できる選手である。

 すでにエリートリーグでも出場を重ねており、時崎監督の戦術を理解しているという点でもポジティブ。まずは能力を発揮しやすい3バックの右CBとしてレギュラーを掴みたいところだ。

 

 

以上!来季も時崎栃木を熱く応援しましょう!