栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【選手別レビュー】栃木SCの2022シーズンを振り返る(上)

1 GK 川田 修平

35試合/3150分/35失点

■初のフルシーズンで見えた収穫と課題

 在籍7年目にしてついにポジションを掴んだ最古参選手。これまでは一度レギュラーから外れると、そこから戻れずにシーズンを終えることが多かったが、今季は自身最多の35試合に出場。初めてシーズンを通してゴールマウスを守ることとなった。

 これまで様々なコーチングスタッフや選手たちとGKチームを組んできただけあって、どんなプレーも卒なくこなせるオールラウンダーなGKに成長。至近距離のシュートストップはお手の物で、得点力不足に苦しむチームにおいて非常に頼りになる活躍だった。記録した13回のクリーンシートはリーグ3位の好成績である。

 一方で、得点も失点も少ないチームスタイルなだけに、失点に繋がるミスが目立ってしまったのも事実。バックパスを手で捕球してしまったり、ハイボール処理で後逸してしまったりと精細を欠いた試合もなかにはあった。

 それでも最終的にレギュラーに帰ってくるのはチームから信頼されていた証。毎年入れ替わりの多い最終ライン勢のなかで、変わらずゴールマウスに立ちはだかる存在として来季も奮起してほしい。

 

 

2 DF 面矢 行斗

3試合/119分/0得点/0アシスト

■スケールアップするには

 背番号を26から2に改め、巻き返しを誓ったシーズンだったが、思うように出場機会を伸ばすことができなかった。

 今季初出場は6節の千葉戦(〇2-1)。福森の負傷により途中から出番を掴むと、同点で迎えた後半アディショナルタイム。面矢の入れたロングスローからグティエレスが押し込み、土壇場での決勝点を演出した。

 今思えばこれを弾みにしたいところだったが、定位置を掴むには守備の安定感が少々物足りなかった。体の向きやアジリティ、周りとの守備連携など、起用時はどうしても面矢のサイドを突かれてしまい、9節新潟戦(●0-2)のハーフタイムを最後に出番が訪れることはなかった。ワイドのポジションが一つしかなく、実力者の福森のほか、一列後ろにコンバートされた森の牙城を崩せなかった影響も大きいだろう。

 5/25に相模原への期限付き移籍が決まってからは出たり出なかったりの繰り返し。守備面が改善し昨季序盤に見せた攻撃センスを取り戻せれば、上のカテゴリーでも十分通用すると思うのだが。

 

 

3 DF 黒﨑 隼人

35試合/3000分/3得点/3アシスト

■今年も右サイドを席巻

 大分からの期限付き移籍から完全移籍に移行し、正真正銘栃木に帰ってきた下部組織出身者。「責任と覚悟を持ってプレーするという思い」から背番号を3に変更し、副キャプテンにも就任した。

 今年も栃木の右サイドは黒﨑が席巻したと言っても過言ではないだろう。シーズン序盤こそこれまでとの違いに苦しんだものの、4月以降はほぼ全ての試合で先発入り。抜群のスプリントと落ちないスタミナは言わずもがな、状況に応じた立ち位置の取り方は秀逸になったように思う。とりわけ右CB鈴木との関係性は良好で、内側と外側を使い分けてのサイド攻撃は今季の武器の一つとなった。

 数字を残せるサイドプレーヤーとしても価値を高めたシーズンだった。ターニングポイントとなったのは24節山形戦(〇2-0)。「ちょっとここ数試合の中で、シュートを打てるところでパスをしてしまったり、プレーの選択が違ったんじゃないかという後悔のある試合があったので、そこは意識を変えていました。」と語ったように、課題を乗り越えるべく振り抜いたミドルシュートがこの日の決勝点に。26節千葉戦(〇1-0)、28節山口戦(〇2-1)とアシストが続いたのは良い意味で振り切れた証だろう。

 41節水戸戦(●2-3)の左足シュートはこれまでにない進化した黒﨑を感じさせたシーン。目に見える成長曲線を描いてきた黒﨑がこれからどのような選手になっていくのか期待の高まるシーズンとなった。

 

 

4 MF 佐藤 祥

30試合/2069分/0得点/0アシスト

■栃木の強度を示すシンボル

 昨季現役を引退した高杉から背番号4を引き継いだ中盤のボールハンター。シーズン序盤は前体制で鉄板となった西谷とのダブルボランチで出場を重ねたが、谷内田のボランチ起用や神戸の台頭により中盤戦以降は徐々に出番を減らしていった。

 本来対極にあるものではないが、ボールハンターとしての能力とパスを捌く司令塔としての能力を比べたときに、佐藤は今季のボランチ勢のなかで最も前者に偏っていたように思う。自陣からのビルドアップにもこだわる時崎栃木においては、最終ラインと中盤の組み立てでのミスは極限まで減らしたいところ。強固な最終ラインを擁していることを踏まえれば、中盤には繋ぎのスキルを優先して求めたかったのだろう。その結果佐藤の出番が減少していったと考える。

 風向きが変わったのは37節大宮戦(●1-3)のあと。残留を手繰り寄せるのに負けられない試合だったが、チーム全体が強度不足なプレーに終始し3失点の大敗。このときベンチ入りしたフィールドプレーヤーのなかでは唯一出場機会のなかった佐藤だったが、中2日の33節長崎戦(△1-1)で2ヶ月ぶりに先発を飾ると持てる能力をいかんなく発揮。持ち前の守備でチームに強度を蘇らせ、敵地で勝ち点1をもぎ取ることに成功した。

 十分にやれることを示した終盤戦を思えばもちろん来季も残ってほしいところ。ただ、年齢もベテランに差し掛かり、チームスタイルの変化により出場機会を減らしたことを踏まえれば、自ずと去就が気になる選手の一人である。

 

 

7 MF 西谷 優希

32試合/1747分/2得点/1アシスト

■小さな体で大きな存在感

 愛着ある背番号14を手放し、闘将たちの背負ってきた背番号7を身につけることとなった今シーズン。キャプテンに就任したことでメディアに映る機会が増えたが、その度に「J1昇格」を目標として明言し、精神的支柱としてチームを牽引した。

 今季も佐藤とのボランチコンビはさすがの堅守を誇ったが、佐藤の項でも書いたとおり中盤戦以降は谷内田と神戸の台頭により出場機会が減少。終盤戦に差しかかるまでのおよそ4ヶ月間で先発は4試合のみとファーストチョイスから外れる機会が増えた。それでもほぼ全ての試合で途中から登場すると、中盤のフィルターとして試合終盤の守備強度を担保。若い谷内田や神戸がこれだけ伸び伸びプレーできたのも頼れるキャプテンの存在があったからだろう。

 ゴール前に顔を出す機会が増えたのも今季の大きな変化。24節山形戦(〇2-0)ではゴール前を横切るクロスに詰めていくと最後はバウンドが膝に当たってゴールイン。29節徳島戦(△1-1)では全体のベクトルが前に向くや一目散にポケットに走り込むと、ラストパスから宮崎のゴールをお膳立て。守備だけに留まらず攻撃面での活躍も光った。

 終盤戦こそ現実路線も取り入れた采配から先発に返り咲いたが、来季のポジションが約束されているかはまた別の話。キャプテンには当然長くピッチに立っていてほしいので、レギュラー争いを高める存在として来季の活躍にも期待したい。

 

 

8 MF 高萩 洋次郎

15試合/754分/1得点/1アシスト

■新たな8番像を植え付けたマエストロ

 この夏、FC東京から加入した天才。栃木にとって特別な番号の一つである背番号8を身につけると知ったときは驚いたが、説得力あるプレーですぐさま疑念を一蹴。栃木に新たな8番像を植え付けた。

 今さら言うまでもないが、攻撃センスは抜群だった。チームが攻め急いでいると見るや、ボランチの高さまで下りてきてビルドアップに関与し、ゲームスピードをコントロール。展開を落ち着かせたと思えば、意表を突くスルーパスを通すなど味方にとっても想像を越えるプレーが多かった。38節琉球戦(△0-0)で宮崎に送った浮き球スルーパスは誰もが唸るチョイスだった。

 プレー以外にも高萩には印象的なシーンがいくつかあった。33節長崎戦(△1-1)では自身のアシストから生まれた植田の得点に全力のガッツポーズで喜んだり、スタジアムウエディングでは自ら進んで記念写真に加わっていったり、勝利後のサポーターへの挨拶ではタオルマフラーを振り回して喜びを表現した。一方で、41節水戸戦(●2-3)では混乱する主審を尻目に冷静にベンチへの状況の伝達と負傷者の治療を指示した。

 プレー以外にもサポーターの心を掴む振る舞いが多いからこそ高萩にはクラブを越えたファンが多いのだろう。若手が多いチームにおいて様々な面で模範になる選手であることには間違いない。移籍元のFC東京ではアルベル監督の続投が決定しているだけに、来季も栃木で見たい選手である。

 

 

9 FW 瀬沼 優司

15試合/944分/1得点/0アシスト

■試行錯誤の復帰1年目

 2014シーズン以来、8年ぶりの復帰に期待の高まるシーズンとなったが、出場時間でも成績面でも消化不良のシーズンとなった。

 チームとしても瀬沼をどう生かせばよいか試行錯誤したシーズンだった。シーズン序盤は1トップ2シャドーの頂点として小堀、トカチらとトライアングルを組んだが、ロングボールのターゲットになるには心許なく、次第にその役割は矢野に取って代わるように。時を同じくして負傷によりチームを離脱したことでアピールの機会を得ることができなかった。

 復帰後のリーグ中盤戦、ちょうど折り返しの時期は瀬沼にとって勝負の時期だっただろう。チームとして[3-4-2-1]の形は維持しつつも、右シャドーで起用された瀬沼がストライカーとしての役割に専念できるようなアシンメトリーな仕組みになっていた。実質[3-5-2]のような形で矢野と最前線で併用されたわけだが、ここでも目に見える結果は残せなかった。天皇杯でも挽回することができず、根本の加入、宮崎の台頭により徐々にベンチ入りすらままならなくなっていった。

 これまで活躍してきたクラブを見れば2トップの一角として起用される方がベターなのだろう。すでに来季の契約更新に合意しているが、[3-4-2-1]の採用にこだわってきた時崎監督のもとでどう自身の立場を好転させられるか注目である。

 

 

10 MF 森 俊貴

29試合/1754分/0得点/2アシスト

■新しいポジションへの挑戦

 森の今シーズンを評価するにあたって考慮しなければならないのは、今季のシステムにおいて自身の本職とするポジションが存在しなかったことである。田坂栃木では[4-4-2]の左SHとして定位置を確保し、2年連続で5ゴールを記録。さらなる飛躍も期待されたが、今季はポジションを一つ下げたWBが主戦場となったことで目に見える結果を残すことはできなかった。

 それでも与えられた条件下で十分な働きをしてくれたといえるだろう。右は黒﨑、左は福森が基本的にはレギュラーを張ったが、途中出場や彼らの欠場による穴をカバーすることで両サイドともクオリティを落とさずにローテーションすることができた。加えて、森がWBに入った際は、懐深くにボールを置いてグイグイ運んでいく持ち前の推進力を発揮。黒﨑らとは異なる武器で存在感を示した。

 スタートポジションがゴールから遠ざかったという事情はあるが、もう少しペナルティエリア内に入る回数を増やしたかったのは正直なところ。特に左サイドで起用された際は、左CB大森との関係性からワイドのポジションに留まる必要性は低く、もう少しゴール前に入り込むチャンスはあったように思う。可変した流れから左ポケットに進入して右足シュート、もしくはゴール前に入り右クロスに合わせるというような形を実現できれば、より相手に脅威を与えられるワイドプレーヤーになれるだろう。

 

 

11 MF ジュニーニョ

11試合/263分/0得点/2アシスト

■短い時間で仕事をこなしたスーパーサブ

 昨季は30試合に出場、うち23試合で先発を飾るなど主に2トップの一角としてレギュラーを張ったが、今年の先発は2試合のみ。途中出場も少なく年間を通して試合に絡むことはできなかった。

 なかなか出場時間を伸ばせないなかでも、アシストを2つ記録したのは立派な成績。7節水戸戦(〇1-0)では自身のCKから矢野のヘディング弾を演出、39節甲府戦(〇1-0)では前線での細かいパスワークから根本のゴールをお膳立てした。記録した2つのアシストがともに決勝点になったという意味では、非常に価値のある仕事をこなしたと言えるだろう。さらには、天皇杯3回戦の横浜F・マリノス戦(〇2-0)では終盤の出場から決定的な追加点を記録。巨大戦力を擁する強豪を撃破する立役者の一人となった。

 スーパーサブとしての活躍が目立ったが、これだけ出場機会が限られてしまえば去就は気になるもの。スタートから出場する機会を増やせれば持ち前の献身性を生かせる場面も増えると思うがどうなるか。

 

 

13 MF 松岡 瑠夢

5試合/194分/0得点/0アシスト

■レギュラー争いで直面した高い壁

 春過ぎに一時出場機会を得たが、それ以降は最終節金沢戦(△0-0)の後半ATに出場したのみでほぼほぼメンバーに入ることはできなかった。

 前線の選手を多く擁した今季の編成を見る限り、推進力があり守備で計算できるサイドアタッカーはWBとしての起用が見込まれていただろう。その筆頭が森であり、最終節やエリートリーグでの起用法を見れば松岡も同じカテゴリーに含まれていたように思う。8/28のエリートリーグ水戸戦ではWBのポジションから2得点を記録。ピッチ全体を広く使うチーム戦術と大外に待つ松岡の攻撃参加が上手くハマった試合だったが、これこそが大外にアタッカーを置く醍醐味のような采配だったように思う。

 それでもアピールが功を奏しなかったのは左WBには実力者が多数いたからだろう。福森をはじめ、松岡と同タイプの森、CBを主戦場とした大森も起用可能で、そこに夏には吉田も加わった。

 来季に向けて現時点でそれぞれの去就は未確定。ただ、時崎監督の続投がすでに決まっているだけにポジションを掴むには相当な高い壁を乗り越える必要があるだろう。

 

 

14 MF 谷内田 哲平

39試合/2840分/1得点/6アシスト

■逞しさを身につけた天才

 京都からの期限付き移籍を延長した今季は、チーム最多の39試合に出場。アシストもチーム最多の6つを記録し、名実ともに栃木の中心選手としてチームを牽引した。

 なんと言っても成長を感じさせたのはタイトな守備でハードワークできるようになった点だ。加入時はSHとしての守備すら心許ない印象だったが、今やボランチを任せられるレベルに成長。普段から西谷や佐藤とレギュラーを争い、途中出場からボランチでの実戦経験を積んでいったことで、中盤戦以降はボランチの一番手として絶対的な存在感を発揮した。

 従来から持っていた天才肌な側面も健在。6節千葉戦(〇2-1)では立ち上がり早々に芸術的なループシュートから先制点を記録しているが、あの場面であのプレーを選択肢として持っていることがプレービジョンの豊富さを物語っている。神戸と組んだボランチではパサーとして味方を生かすと同時に、自身も生かされる立場として3列目からゴール前に侵入していくなど、対戦相手からすれば掴みにくい厄介な存在として評価されていただろう。

 チームMVPに推す呼び声も高いが、強いて課題をあげるとすればもう少しアタッキングサードでのプレー精度をあげたいところ。狭いところを強引に仕掛けてロストする場面は少なくなく、また積極的に放ったミドルシュートもなかなか枠を捕えなかった。ここのクオリティが上がってくれば間違いなくJ1でもレギュラーを張れる選手になるはずだ。

 

 

15 DF 大谷 尚輝

18試合/1619分/0得点/0アシスト

■バックアッパーに留まらない存在感

 町田から加入したJ2をよく知るCB。シーズン序盤はコンディション不良に苦しみ、今季初出場を13節山口戦(●1-2)まで待たなければならなかったが、その後は一気にレギュラーに定着した。

 3CBのどこでも卒なくこなす万能性は見事だった。代表活動で鈴木海音が離脱すれば右CBに、グティエレスが出場停止や調子を落とした時期には中央のCBに、大森ではなくより守備強度を求めたいときは左CBに入り、単なるバックアッパー以上の存在感で出場を重ねた。右CBで3試合、中央のCBで4試合、左CBで11試合というのはあまり見ない内訳である。

 これだけCBの各ポジションで出場を重ねられたのも試合ごとにパフォーマンスのムラがなく、自分のできることを無理なくこなす安定感があったからだろう。今季のレギュラーCBはいずれもJでの経験値は浅く、とりわけJ2という環境は未知数な選手ばかりだった。それゆえ時崎監督としても理想を追い求めながらも困ったときには大谷がいるという安心感は大きかっただろう。

 35節横浜FC戦(△0-0)で右腓骨疲労骨折を負うと、シーズン終盤戦を欠場。夏の移籍市場でCBを2人放出していたため選手層という点でヒヤリとしたが、それだけ大谷の安定感を頼りにしていたということだろう。全快して迎える来季はシーズン初めからその安定感を見せてほしい。