栃木SCのことをより考えるブログ

主に栃木SCの試合分析(レビュー)をします。

【積み上げが成したゴールショー】J2 第13節 栃木SC vs ツエーゲン金沢

スターティングメンバー

栃木SC [3-4-2-1] 19位

 前節はアウェイで清水エスパルスに0-2で敗戦。秋葉監督体制で調子を上げる強敵に対して前半は為す術なく失点を重ねたが、後半見せた反転攻勢は堂々たるものだった。

 中3日で迎える今節はスタメンを1人変更。神戸に代えてキャプテン佐藤が2試合ぶりに先発となった。佐藤も含めてある程度メンバーを固定化しているあたりは、チームの狙いとする戦いができている証拠だろう。ベンチには吉田が今季初めてメンバー入りを果たした。

 

ツエーゲン金沢 [4-2-3-1] 13位

 前節は藤枝と対戦し1-1のドロー。終盤には逆転ゴールが取り消される不運もあったが、追いかける展開から今季初めてドローに持ち込んだ。

 栃木より短い中2日で迎える今節はスタメンを大幅に入れ替え。CB庄司を除く10人を変更し、前回の連戦同様フレッシュな選手を多くピッチに送り込んできた。これまでベンチスタートやメンバー外の続いていた豊田は今季2度目の先発起用となった。

 

 

前への姿勢を強く貫く

 栃木の先制点までの流れは前回ホームゲームと似たようなものだった。立ち上がりのロングボールを蹴り合う展開から根本が巧みなポストプレーでファールを呼び込み、高い位置に選手をセットする。矢野の競ったロングボールが福森へ渡ると、福森は対面の相手を剥がしてクロスを供給。ニアに走り込んだ根本が潰れ、最後は中央に詰めた山田が押し込んだ。山田はプロ初ゴールとなった。

 

 ホームゲームでは3試合連続で開始10分以内に試合を動かした栃木。先制後も課題とする追加点を目指して、チームの前へのベクトルは強かった。とりわけ効いていたのが矢野を起点とした右サイドからのハイプレスだった。

 この日の栃木は矢野が根本とほぼ横並びでセットし、自らスイッチを入れて相手CBへ寄せることが多かった。また、そのプレスもサイドの選手としてサイドから中央に追い込んでいくというよりは、より直線的に向かうもので、ここ最近ではあまり見ない寄せ方だった。この日は不在だったが、金沢のキーマンである藤村を意識したボランチを消すようなコース取りだったと言えるだろう。

 その分空きがちになるSB長峰には、森が早めに縦スライドし、福島がその背後をカバーする。わりとはっきりとした右肩上がりだったため、ピッチを俯瞰したときに[4-4-2]に見えることが多かった。

 これだけはっきりと右肩上がりにできたのも最終ラインの安定感が大きかったからだろう。平松は空中戦で豊田相手に何もさせず、サイドに流れての対応も機動力を生かして卒なく対応。豊田とのマッチアップで優位に立つことができたため、福島は持ち場を離れて強気にスライドすることができた。

 長峰が豊田を避けて2列目やボランチに差し込んでくれば西谷や福島が出足良く対応。矢野のプレスから始まる全体の連動がバチッとハマったため、金沢の左サイドは全くと言っていいほど機能しなかった。

 そして、良い位置でボールを回収すれば素早く縦へ長いボールをつけていく。矢野は長峰の背後を取りながらボールを引き出し、根本はボールの落下地点を先取りすることで対面のCB黒木に対してはほぼ完勝だった。これだけ前線がボールを収めてくれると後ろの選手もボールを預けやすい。全体として矢印を前向きに維持することができた。

 そのなかで印象的だったのが17分のシーンだ。金沢の攻撃を抑えてマイボールにした展開だが、西谷がキレのあるターンで相手の寄せをかわし根本へ縦パスを送ると、根本は周りを見渡す前に早めに後方の福島へリリースしてしまった。ボールロストした訳ではなく、なんてことないプレーにも思えるが、プレーが切れたタイミングで時崎監督が根本へ前を向くよう指示する姿が映像に抜かれていた。チームとして前へのベクトルをとにかく強く意識していることが窺えるワンシーンだった。

 前への強い意識で攻守を連動させる栃木は、金沢の攻撃を早めに抑えては、次々とショートカウンターを繰り出していく。佐藤・西谷のセカンドボールへの反応の早さはいつも以上で、ボールを左右に振り分けながら福島や大森の参加するサイドの崩しからゴールに迫る機会を量産することができた。スペースを見つければ3列目からは西谷がゴール前まで飛び出していく。多彩な攻撃からクロスとシュートを浴びせていく栃木に対して、金沢は全てが後手に回っていた印象だった。

 

 一方金沢は、保持では栃木のハイプレスをひっくり返すような展開を狙っていたが、ほとんど上手くいかなかった。左サイドでは奥田や嶋田を中心に細かい崩しからズレを作り出し、右サイドでは縦の速さを生かして背後を取りにいくプランだっただろう。右サイドにおける縦の速さは前節栃木が清水に苦しめられたパターンである。

 しかし実際のところ、前者は福島や西谷の前向きのチェックにボールを握らせてもらえず、後者もプレスを受けたボールホルダーからは精度を欠いたボールしか供給されなかった。SB櫻井が福森の後ろに立ってボールを引き出そうとしていたが、これも回数はそう多くはなかった。単なる競走では大石もスピードで優位を取るのは難しく、金沢はどう攻めようにも栃木に抑え込まれる状態になっていた。

 

 

流れを譲らない試合運び

 金沢はハーフタイムに最終ラインを2人交代。普段試合に出ている選手たちで最終ラインからペースを取り戻そうとするが、試合に馴染む前に栃木が2点を追加して一気に試合を決めてみせた。

 大森のFKはお見事のひと言である。相手GKとの駆け引きに完全に勝利した。待ちに待ったプロ初ゴールは、1点差のまま進むと重くなりそうな雰囲気を払拭する大きな得点だった。FK獲得となるファールを誘った西谷の3列目からの攻撃参加もハーフタイムを経て実った格好だった。立て続けにあげた矢野貴章の3点目もボールに直接・間接的に関わった選手のいずれもパーフェクトだった。

 

 後半の金沢の狙いは、前半取り組んだ形をより丁寧に行うことだっただろう。左サイドでは奥田と嶋田が低い位置まで下りてボールに関わることでビルドアップのテンポを上げていく。その分ボランチから小野原が前線に飛び出していくことで前への勢いを確保。54分に見せたダイレクトに縦に進んでいく攻撃は金沢がやりたかった形だっただろう。

 右サイドでは途中出場のSB毛利がオーバーラップを繰り返し、大石と近い距離感でプレー。ボランチの力安が後方から彼らを操ることで前半よりもサイドからの縦突破に厚みが増していた。その勢いを加速するように金沢は60分前後に大谷とジェフェルソン バイアーノを途中投入。前半よりも主体的にボールを握ることができていただけに、1点返せば分からない雰囲気ではあった。

 

 ただ、栃木もそう簡単には金沢に流れを譲らない。3点をリードしたとはいえ残った時間が長かったため、あまりリードを気にせずに普段通りの試合運びをしていた印象だった。

 金沢のプレスに対して平松が一つ持ち運んで楔のパスを送ったり、左右CBがサイド攻撃で高い位置に進出するなどしてあくまで前への勢いは継続。ロングボールと繋ぎを的確に使い分けながら、クロスやミドルシュートなどで攻撃をやり切ることで金沢に流れを持っていかせない。

 そうした一進一退の展開のなかで迎えた82分に栃木がとどめの4点目をあげる。大森がふわりと上げたフリーキックを宮崎が折り返し、ゴール前で高萩が反応するとボールはポストに当たって佐藤の目の前に。相手に顔面を蹴られながら体で押し込んだゴールは、泥臭い栃木らしさを象徴したような得点だった。

 

 なお、4点目に至るフリーキック獲得までの過程にも今季の栃木らしさは詰まっていた。相手の縦パスを大森が出足よく迎撃すると、途中出場の安田がセカンドボールを回収。プレスに遭いながらもそのボールを失わずに丁寧にマイボールにして落ち着かせると、前がかりになる相手の背後へのスルーパスに山田が反応。最後はスペースを仕掛けた山田が倒されて得たフリーキックだった。

 

 4点ビハインドのまま追われない金沢が猛攻を仕掛けてきた終盤はさすがに守勢に回ったものの、GK川田の奮闘もありシャットアウトに成功。大量得点&クリーンシートというこれ以上ない結果でホーム3連勝を飾った。

 

 

最後に

 今季ここまで、いやここ数年単位で見てもここまで会心のゲームはなかなかないだろう。金沢が大幅にターンオーバーを敷いてきたことは考慮しなければならないが、それを差し引いてもピッチ上で選手が表現したものは素晴らしかった。

 ここ数試合のシュート数に現れていたように、少しずつ噛み合ってきた攻撃面が大爆発した試合だった。縦への速さを軸にロングボールと繋ぎを使い分け、クロスにはニアと中央の段差をつけて飛び込む。そこに個人の技術や献身性を上乗せしつつ、保持も非保持も主体的に戦い、交代選手がその勢いをさらに増幅させた。これまで積み上げてきたものを遺憾無く発揮できた試合だったと言えるだろう。

 GW唯一のホームゲームに訪れた多くのサポーターや子どもたちにとって忘れられないベストゲームとなったに違いない。

 

 

試合結果・ハイライト

栃木SC 4-0 ツエーゲン金沢

得点   5分 山田雄士(栃木)

   47分 大森渚生(栃木)

   49分 矢野貴章(栃木)

   82分 佐藤祥(栃木)

主審 高崎航地

観客 6775人

会場 カンセキスタジアムとちぎ