スターティングメンバー
栃木SC [3-4-2-1] 16位
前節は勝ち点で並ぶ山口とのシックスポインターを制した栃木。今節の相手徳島も試合消化数に差はあるが勝ち点で並んでおり、順位をひっくり返すチャンスである。スタメンの変更は1人。大森に代わって出場停止明けの鈴木が右CBに入り、大谷は左CBへスライド。森・西谷優希はともに3試合ぶりのベンチ入りとなった。
徳島ヴォルティス [4-3-3] 14位
リーグ最小失点の堅い守備を記録しながらも勝ち切れない試合が続いている徳島。ここまで16回のドローはリーグトップであり、追加点を取り切れるかが上位進出への鍵となっている。この夏福岡から復帰した杉本は加入後初先発。古巣対戦の浜下は右WGでスタメン、西谷和希はベンチスタートとなった。
至るところに見えた駆け引き
ハイプレスの勢いそのままに2ゴールを重ねた前節とは対照的に非常に慎重な入りを見せた栃木。堅守を誇る徳島が相手とあって、ハイプレスで相手を飲み込んで先行逃げ切りを図る勝利パターンを封印してでも早い時間の失点は避けたい、といった立ち上がりとなった。
あまり前から強く寄せないスタンスの栃木だが、それほど後ろに重く感じなかったのは3CBが前向きに対応できていたからのように思う。一美に背中から張り付くグティエレスはもちろん、鈴木や大谷もマークが決まれば最終ラインから離れてアプローチにいく。背後を狙うWGに対しても5バック化したWBがマンマークで監視するため、中央のCBは前を意識することができた。おそらく徳島としてはサイドから最終ラインを押し下げることでライン間に一美やIHのプレーするスペースを作る狙いがあったのだと思う。
ゴール前を堅く閉じる一方で、徳島の後方の選手によるボール保持はそれなりに許容。蒸し暑い気候のなか、ビルドアップに長けた徳島にプレスをかけ続けることは得策ではないという判断なのだろう。ただ、WBの縦スライドを抑えたことで前線は少ない人数でやり繰りしなければならず、ここの難しさは見えた。
例えば、根本がアンカー白井をケアすればCBから精度の高い縦パスが入ってくるし、それを抑えようとシャドーがCBへ寄せればフリーになったSBが前進の起点になる。マークの薄い選手を見つけてボールを逃がす繋ぎはまさに徳島が強みとする部分である。栃木としては後ろで抑えられればよいという感覚だったと思うが、肝心のカウンターへ移行できたシーンは数える程度だった。
圧倒的にボールを支配されながらもピンチを招くことはなかったが、それでも徳島の右サイドからの前進はボディーブローのようにジワジワ効いてくる感覚があった。絶妙だったのが右IH玄のポジショニング。あまり前に行き過ぎずにCB大谷から離れつつ、谷内田と高萩の間に頻繁に顔を出してボールに関わっていく。IHのボール保持までは許容したくない栃木は中央に収縮してボールを奪いにいくが、これにより空いたサイドへ逃がされてSB新井から前進を許す場面が目立った。
新井に二度ミドルシュートを放たれるなど、自分たちの左サイドを起点に攻撃を繰り出される栃木は飲水タイムにシステムを変更。高萩をトップ下、福森を左SHに移し、大谷を左SBにスライドさせる[4-2-3-1]へ変更し、守備の補強にかかる。
狙いはシンプルに徳島のシステムとの噛み合わせをよくすること。徳島の [4-3-3]に対して[4-2-3-1]は中盤の三角形の構成がマッチアップする。それまで対応がボヤけていた新井に対しても対面の福森が素早く寄せられるように。徳島の前進の起点を抑えられるようになったことから、前半終盤は栃木がカウンターからチャンスを演出する機会が増えていった。
前半最大の決定機は45分。相手のパスをカットした根本が高萩へ預けると、高萩はそのままゴール前へドリブル。矢野が相手を引き付けながら中央に入ることでフリーになった黒﨑へ絶妙なスルーパスを供給。黒﨑は1対1の状況だったがGKスアレスにすんでのところで阻まれた。
5バックで構えるよりも最終ラインを一枚減らした4バックの方が守備が安定するというのは面白い現象であるが、まさに効果てきめんだった。攻撃面ではその分前に人を割いた効果が表れ、先制点までたどり着ければ理想的な展開だった。両チーム最後の局面で踏ん張り、スコアレスでハーフタイムを迎えた。
一つリスクをかけること
再び[3-4-2-1]に戻した栃木は、後半頭から積極的にプレスを敢行。前線からの出足がよく、ある意味奇襲のようなプレスをかけていったのはタイムマネジメントとして準備していたものだっただろう。ただ、奪ったボールの繋ぎ出しで徳島のプレスに引っかかることが多く、立ち上がりはカウンターを量産された。
49分、鈴木がボールを奪われカウンターを許すと、杉森のミドルシュートをGK川田がセーブ。至近距離から押し込む一美のシュートも川田が立て続けに反応。50分には、カウンターから右サイドを抜け出した一美の鋭いクロス、51分にはバイタルエリアから一美のミドルシュート。いずれのシーンもGK川田の好セーブがなければ危うい場面だった。
押し込まれることで重心を上げられない栃木は、60分に森と大島をシャドーに投入し、守備強度と前への推進力を補強していく。直後の61分には精度の高さにコメンタリーが唸るほどの素晴らしいクロスを黒﨑が入れた場面があったが、黒﨑をフリーにする大島のオフザボールの動きやゴール前に飛び込んでいく森など、交代選手を中心に盛り返す雰囲気は漂っていた。
しかし、先制したのは同じく交代選手が攻撃を牽引したアウェイチーム。左WGに西谷和希を投入してからの徳島は、対角のロングボールを多用しながら黒﨑との1vs1を意図的に作り、サイドから着実に栃木を押し込んでいく。そのうちの一つが73分の得点シーンであり、ペナルティエリア内に強引に入り込む仕掛けがグティエレスのオウンゴールを誘発した。
2022明治安田生命J2リーグ第29節#栃木SC 1-1 #徳島ヴォルティス
— 徳島ヴォルティス 公式🔜8/6新潟戦(A) (@vortis_pr) 2022年7月30日
73分 オウンゴール⚽️#vortis pic.twitter.com/wmd69un9ap
おそらく西谷和希に対して縦は黒﨑、利き足方向へのカットインには鈴木が対応することになっていたのだろう。鈴木のポジショニングは黒﨑のカバーリングにはなれない立ち位置であり、サイド対応としては多少の違和感があった。黒﨑がかわされた時点でゴールとの間にはグティエレスしかおらず、ドリブルを警戒しての策だったのだとすれば「してやられた」失点となってしまった。
終盤に差しかかる時間帯での失点であり、堅守徳島が相手であることを考えれば厳しい展開になってしまった栃木。ただ、直後に敢行した3人替えにより再び息を吹き返していく。
前線で圧倒的な存在感を見せたのが途中出場の宮崎。ロングボールの落下地点に先に入ってしまえば競り合いには高い確率で勝利。徳島DFからしたら、矢野や根本とこれだけ競り合ってきてなお宮崎が出てくるのは相当やりづらいはずである。宮崎のポストプレーを軸に全体的に重心を上げていくと、最終盤に栃木が試合を振り出しに戻した。
87分、ライン間で黒﨑からのパスを受けた大島が自身の脇を抜けていく西谷優希へスルーパスを供給。GKスアレスの飛び出しを確認した西谷が冷静にゴール前にパスを送ると、タイミングよく相手の前に入った宮崎が右足でプッシュ。宮崎のリーグ戦初ゴールで栃木が同点に追い付くことに成功した。
【7/30徳島戦】
— 栃木SC|Tochigi SC (@tochigisc) 2022年7月31日
7月30日にホームで行われました徳島戦のハイライト動画を公式YouTubeチャンネルにアップしました。
▼こちらからhttps://t.co/GFuCeMAJPN
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PICK UP🎥
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87分 #宮崎鴻 のゴールシーン⚽️🔥
📱LIVE中継・見逃し配信は #DAZN で!https://t.co/Zv2KmUkpsR#栃木SC #全員戦力 pic.twitter.com/ZpnBMcXd5F
声援に突き動かされるようにアディショナルタイムに入ってからもゴールに迫る栃木。92分には大島と磯村、96分には大谷にシュートチャンスが訪れるも決死のディフェンスで凌ぐ徳島のゴールを破ることはできず。このまま試合は終了し、勝ち点1を分け合う結果となった。
最後に
システムによる駆け引きがフォーカスされた前半と比べれば、後半はプレー精度や途中出場選手による勢いなどチーム力が試される展開になったといえるだろう。栃木としては7月上旬に対戦したヴェルディ戦で似たような展開から敗れているだけに、勝利には届かなかったが一歩前進した姿を見せることができた。力のある相手から1ポイントをもぎ取れたことは自信になるに違いない。
西谷兄弟の出身地、益子町民デーとして銘打たれた試合でともにゴールに絡む活躍を見せた西谷優希と西谷和希。現状レギュラーから外れることの多い2人であるが、中位から下位に沈むチームにおいてもう一つ上へ浮上するためには何が必要か、プレーで体現していたように思う。途中出場選手としてメンタル面で思い切れた面はあると思うが、勝ちきれず、追加点を取り切れない苦しい状況のなかでは、そのような強い気持ちが必要であることを示してくれた。チームを飛躍させる彼らの活躍を今後も期待したいと思わせる試合だった。
試合結果・ハイライト
得点 73分 オウンゴール(徳島)
87分 宮崎鴻(栃木)
主審 榎本一慶
観客 4614人
会場 カンセキスタジアムとちぎ